友との再会、
魔境グランデの都に着いたミウ一行は、混乱もなく魔導師ギルド議長フレイと無事会談を済ませていた。
翌日ルーケに誘われ。遊びに出たアルトは、合流したムーンと。振り回され。二人と友人関係を築いてゆく。
居並ぶ。魔境グランデ・魔導師ギルドの重鎮。議員達は驚きのざわめきを上げていた。
「フレイ議長、どうなさいますか?」
不安を圧し殺して。召喚魔導師議員ガドス、氷の魔導師議員パルケの二人が問うていた。
「……ひとまず使者と会うことにする」 苦渋の決断である。なんの準備が出来ない状況での会談は、フレイにとって予期せぬこと。ゆえに最悪の出来事まで予想出来た。
「パルケ殿……、使者は何人の供を連れている?」
「守備隊からの伝令では、四人と」
「少ないな……」
「1人少年を連れていると言いますから。恐らくは弟子を同伴してるのではないかな」
今度はガドス議員が口を開く。よっぽどの自信家か、馬鹿の可能性まで考えたが、地方魔法ギルド長の人柄を考えると。そんな人選をするとは思えない。短期間で、危険な真夏の燃える川を渡った人物である。よっぽど力がある者として考えるべきだ。「二人に了承してもらいたいことがある━━」
フレイは二人の弟子で、今は人形師として修行するそれぞれの弟子を。使者の世話役にしたい胸を伝えた。
「なるほど。あの二人なら悪くないな」 パルケが深い叡知を宿す。青い目を細めた。
「此方も承知した。最悪な事態になったら」
ガドスは言葉を止めて、居並ぶ議員達を平眼してにらみつける。元冒険者だった経歴があるから。眼差しは鋭い。
「ガドスそうならぬよう。フレイ議長は、あの二人を付けるのであろう?」
パルケにたしなめられ。そうだったなと肩を竦めたが、鋭い目はフレイに向けられた。
「ガドス、準備は万端にな」
期待通りの返事が聞けて、にやり不敵に笑う、このやり取りにパルケが吐息を吐いていた。
城の地下、牢屋のあるすえた匂いに辟易しながら。真っ赤な髪を耳元で揃えた少女と。金髪の穏やかな顔立ちの少年は、師リターシャ様に呼ばれて、教室に向かっていた。
「まったくギルドの仕事ですって?、リターシャ様に話が回るの可笑しく無いかしら」
イライラした口振りから。どうせ二人の古巣が関係あると察してのことだ。
「まあ~仕方ないさ。場合によってはリターシャ様に、泥を被せるつもりなのさ」
二人の師事する。赤髪の美しい女性もそんなこと承知してるに違いない。だけどわざわざ二人を教室まで呼んだ理由が気になっていた。「まあね~師匠ってば、いい加減議員になってくれたら。面倒な仕事押し付けられないのに」
そこも不満なのだ。ルーケの言い分も分かるが、グランデは召喚魔法、元素魔法使いの力が強い。議長のフレイ様を含め。他の系統魔法使いが、議長になったのは初めて、どんな仕事にしろ二人に仕事が回って来た理由は、恐らく情報源として、期待してのことだ。そう結論すると憂鬱になり足取りも重くなる。「二人ともよく来たね」
強気な面立ちに。労る優しい笑みが浮かんでいた。
「時間もないことだし。先に話を済ませてしまおうか」
リターシャが弟子にした者達の中でも。ルーケ、ムーンの二人は素質があった。しかしそれぞれ派閥に属していたこともあって、今回のような時には、便利に使われることも懸念していた。しかしフレイから聞いた内容から。使者について心当たりがあった。 「恐らく使者は、私の友人で間違いないだろう」
リターシャは淡い笑みを浮かべ。大切な友人の話をしていた。話を聞き終わったルーケ、ムーンは、教室に降りてきた時とはうって変わり。目をキラキラさせて、
「もしかして先生」 ルーケも女の子である。そうした話は大好きだ。
「まっまあ~な、初恋の相手だっ……、ばっ馬鹿何を言わせるか!」
真っ赤になって怒鳴ったが、リターシャ先生の可愛らしい一面を見て、二人は目を丸くしていた。 「そのな……、もしも相手がミウなら、私が会いたがっていたと。伝えてほしい」
頬を赤くしながらのお願いに、弟子としては叶えてあげたいとつい思った、しかしその出会いが、後に重要な意味を持つのだが、それに気付くのはかなり先の話である。
二人の足取りも軽く。教室を後にして、改めて古巣に立ち寄り。使者の同行を探り。逐一知らせるようにとの命令だった。
地方魔法ギルドの使者が、ギルドに到着したのは、それから間もなくである。
ギルドの建物は、都のほぼ中央にあって、城を守るように造られてるため。小さな城塞のような堅牢な作りであった、一階は魔法道具の販売、仕事の受け付けなどがあるため、一部カフェテリアになっていて。入った瞬間魔法の力か、ひんやりとした冷気を感じて驚き、
「うわぁ~お城みたいですね」
広々とした内側を見て、興味津々に、ギルドの中を見ているアルト。リョクトも素直に頷く。流石は大国のギルドである。霊峰のギルドと見比べても規模が違っていた。ミウがギルドカウンターに赴くと。妙齢の女性がにこやかに笑い。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」
「僕の名はミウ・ローセン、地方魔法ギルドの議員だ。フレイ議長と謁見の約束がある。伝えてくれるかな」
既に話を聞いていた受け付けは、表情を固くしながら。
「しょ、少々お待ち下さい……」
慌てて奥の扉まで行くと。中に居る誰かを呼んでいた。恐らくグランデ側が用意した世話役兼の見張り役であろう。ラセルに視線を送る。 一つ頷き、頃合いを見極める毎になった。
直ぐに少年少女がやって来て、ミウに頭を下げていた。
「ようこそいらっしゃいました。僕はムーン、隣がルーケ、リターシャ教室の生徒です」あえて何処所属とは言わず個人名を口にしていた。一瞬驚いた顔をしたが。柔和なイメージのある青年議員は、
「そうかなるほどね~。色々と大変そうだね」
笑い含む口調に。相手に正しく伝わったとルーケ、ムーンは安堵した。
「使者様お疲れと思います。謁見の前に休まれてはどうですか?」
まずは人となりを調べるための言葉に。ミウはにこやかに見える笑みを浮かべ。 「議長にこう伝えてくれるかな?。地方魔法ギルドとしては、早急に天空騎士団について調べるため。ラークのことを調べに来たと。それから僕の身の上は話して構わない、議長にはこう伝えてくれ。『そちらの儀式について調べるためではないとね』それで今日会うと言われるだろうから、そこのカフェテリアにいるよ」
二人は狐に摘ままれたような顔をしたが、ムーンと名乗った少年が、知らせに向かい。ルーケと名乗った気の強い顔立ちの少女が残った。
「君も良かったらどうかな?」
甘い軽食をルーケの分まで注文していた、
「頂きます」
憮然としていたが、興味津々な眼差しは隠せない。
「リターシャに『何時でもって』答えといて」
一瞬何を言われたか解らなかったけど。直ぐに先生の言葉を知らせる前に。返事を貰えた毎に気が付いた。
「驚いたかい?」
「はっ、はい」
そうだろうな~ラセルは訳知り顔で頷いていた。そうこうするうちに。甘味とお茶が運ばれ。しばらく堪能していた。
━━その頃。フレイはムーンから、ミウ・ローセンの素性と。言付けを聞いて、苦々しい顔をしていた。
(厄介だな……、もしも使者を害せば、我が国は秘密兵器を失うと言われたような物だ。)
しかも地方魔法ギルドには知られていない秘密を。使者は知っていて、話すつもりはないと言付けに含んでいた。
(これは━━。下手な行為は厳禁だな。地方魔法ギルドがほしい情報を与え。帰って貰うべきだ)
素早く考えを纏め。所在無さげにしているムーンに、視線を投げて、
「使者は言ったのだな?、私が直ぐに会うと」
「はい、確かにそう言ってました」
その言葉で確信した。相手はリターシャ以上の実力者だと。しかもその名前は聞き覚えがあった。地方の力ある豪族でもあることを。これは普通の使者として扱えば、外交問題に発展する相手、丁重に相手しなければならないと肝に命じた。 「直ちに会うと、使者殿にお伝えするよう」
「直ちにお伝えします」
急に対応が変わった議長に。不審を抱いたが、素直に従うため場を辞した。
「ミウ様、この焼き菓子に掛かってる密。日持ちしそうですから。みんなのお土産。これがいいんじゃないですか」
いきなりアルトがそんなこと言うから、沈黙が崩れ。みんなの視線を集めた。
「多分それは蜂蜜だよね。えーと」
「ルーケですミウ様」
クスリ微笑むと。年相応のあどけなさが浮かんでいた。
「確かに煮詰めた蜂蜜は、保存によく。この辺りでは果物を煮て、蜂蜜漬けにした物が名産ですよ」 話題が出来ると。ルーケは水を得た魚のように。色々なことを教えてくれた。
「カフェテリアで出されてる焼き菓子は、最後に煮詰めた蜂蜜を塗って、光沢と保存性を上げてます」
とても話好きなようだ。思わず面白がるミウを驚かせたのが、
「あっでしたら奥様に最適ですね♪」
「アルトそれはどうしてだい?」
気になってアルトに問うと。にっこり笑って、
「だってミウ様言ってました。西の集落で、新しい果物が出来たと。だから奥様にお土産にしたら。面白いこと考えて下さる筈だからです」 これには意表を突かれたと同時に。色々な鱗が目から落ちていた。まずは固定観念。今まで人に任せることも。自分たちである程度下準備をしていたが、お土産でアイデアを促す発想はなかった。次にアルトの機転が、ミウの想像を越えたことによる嬉しいと感じる喜び。これはリョクト、リサと旅をする間に得た仲間に対する物とは違う。ラセルを伺うと。ウンウン自慢気に頷いてる姿を見て、アルトの成長を喜んでることが分かる。
「そうだね♪。ルーケ君、謁見が終わったら。蜂蜜が買えるお店に案内を頼みたい」
「あっでしたら。ケヤキ通りにある。ミッチェが良いですよ~、彼処にはロイヤルゼリーを使った化粧品とかもあるから。奥様に……、ええー!。ミウ様結婚してるんですか」
いきなり驚きの声を上げたルーケ。ちょうどそこにムーンが戻ってきて、
「何を騒いでるルーケ、はしたないだろ」
呆れた口調である。 「だっ、だって驚いたんだもん……」
バツが悪そうに赤くなるルーケは、尻窄みに小声になっていた。周りの視線に気付いたからだ。
「ミウ様、フレイ議長がお会いになるそうです」
「そうかありがとう、ラセルお前はルーケに案内してもらいアルトと。ミッチェに行ってなさい。リョクト、ジロはここで待つように」
既に話は決まっていたので。揃って頷いていた。
「ではムーン君。済まないが案内を頼む」
「あっはい。此方に━━」
戸惑いながら、ムーンが先に立って、ミウを案内して行く。 「あっルーケさん、お店の案内お願いしますね」
アルトに言われて、まあしょうがないか。軽い気持ちで案内を引き受けていた。ラセル、ミウの間ではある取り決めがなされていた。地方魔法ギルドの人間が、使者であるミウだけだと思わせること。いざと言うときにはラセルとアルトだけで脱出することを決めていた。その為の目眩ましが、ルーケに過ぎない。アルトはその事を知らない筈だが、きちんと自分の役割をこなしていた。
フレイは秘密を知られつることをガトス、パルケには内密に。彼が地方魔法ギルドの議員でありながら。有力な豪族だと知らせた。しかも……、
「よりにもよって、マスタークラスの人形師かよ」
唸り声を噛み締めて喘ぐ。
「リターシャの友人でもある。彼に手は出せない。必要な情報を与えて、帰って貰うべきだな」
パルケの冷静な物言いに。荒事好きなガトスにとって、面白くない事態である。
「だったら仕方がない。今回は見逃してやるか」忌々しそうに呟く。了承を得られたようだ。これで当面の問題は解決した。後は無事地方に帰すだけとなる。
ミウを案内したムーンに。一つだけ質問をしていた。
「リターシャは君たちに。いい先生をしてるかな?」
「はい、先生は僕達に希望をくれました」
派閥争いをする召喚魔法使い、元素魔法使い、ルーケとムーンはいわゆる幼なじみである。まさか違う派閥に押し込められるとは思いもよらず。気苦労をしていた。しかし二人は中立の派閥リターシャ教室の生徒になったことで、昔のように話せる喜びは、いくら感謝しても足りないほどだ。
「彼女は寂しがりで、素直じゃ無いところがあるから。苦労を掛けると思うが、よろしく頼むな」
一つ肩を叩き、ミウはフレイ様の待つ執務室に入っていった。
「ようこそミウ議員」
表面上にこやかに笑って、手を差し出してきた。どうやら無事話は済んだようだ。薄く笑みを浮かべながら。固く握手を交わしていた。
ミッチェで買い物をしていたアルト達の元に。リョクト、ジロも合流していた頃。
ギルド同士の話し合いが終わって、肩の荷を下ろしたフレイ、ミウは、内密の話をしてから。おいとまを告げた。
(あれはとんでもない男だ。リターシャがいなければ、我が国の敵になっていた可能性があったか……)
苦々しい吐息をはいて、先ほどのやり取りを思いだし。深々と椅子にもたれていた。『いや~きちんと理解して貰えて助かりました』
優しく見える笑みを浮かべていた。
『そうかね……』 あまりにも御しやすそうな顔をしていたから。試すつもりで、
『もしも我々が君を廃するつもりだったら、どうするつもりだね?』そのとたん首にかかったペンダントを出して、
『この城に配置してる10万のクリーチャーを繰り出し。全て破壊して出るだけです』
薄く笑う姿を。フレイは心底恐ろしいと感じた。フレイ達は大きな勘違いをしていたことに気付く。相手は地方魔法ギルドの議席を与えられた豪族ではなく……。大国の軍備を揃えた。国王を相手にしていた。しかも悪いことに、一流の為政者だったのだ。最初から最大限に敬意を抱く相手。準備不足では、フレイの完敗である。
ミウがフレイの執務室を出ると。ムーンが待っていた。
「ミウ様終わったようですね。護衛のお二人は先ほどミッチェに行かれましたよ」
珍しいことを言われて、思わず立ち止まる。成る程そういうことか、納得していた。
「そろそろ本当の姿を見せたらどうだ、リターシャ?」
ムーンは驚いた顔を一瞬してから、
「やっぱり気付かれたか」
おどけたように、肩をすくめていた、 「どうして気付いたのミー君?」
「ジロはともかく、リョクトは僕自身の命令しか聞かない。でも出かけたと聞いたら。君のガーディアンの特殊能力を思い出した」
クレイ教授の助手であるミウ、リターシャ、ラナリアはそれぞれ特別なプレゼントをされていた、普通では考えられないほど強大な力を秘めた。三種の神器とも言える代物。今やクレイ教授の遺品となってしまった品々。 リターシャの左腕にあるブレスレット。変わった特性の能力を持ったガーディアンが配置されていた。
「ふ~んなるほどね」
軽く左腕を擦る仕草をするや。少年は瞬く間に消えて。気の強そうな女性の姿に変わっていた。
「それはそうと……、結婚ってどういうことよ?」
非常に不機嫌な顔を浮かべていた。これは参った。ミウは首を竦めていた。
その頃なにも知らない。ラセル達は、ルーケ、ムーンに案内されて、ギルドで借り受けた宿に着いていた。
「へえ~うちのお偉いさん方は、使者様達を歓待してるようね」
裏表なくギルドの内情をばらしたのは、二人にとっても状況が変わったことと。同じく人形師の弟子であるアルトの存在に。起因があった。すっかりアルトを気に入ったルーケは、まるで弟に接する感じで、色々なこと教えてくれた。
「これ面白いわ~」 アルトが初めて作ったクリーチャーを見て、華やかな声を上げていた。
「確かに、人形を可愛くとか、かっこよくすることで、クリーチャーのテンションが変わるっての面白いね~」
ムーンもそこは感心していた。そんな二人に対して、ちょっと恥ずかしそうに。はにかみながら。
「本当言うと、ぼく見たまま加工出来なくて、どうしても可愛くなってしまい。ミウ様に相談したんです」
本当のこと言うと。『あ~あるある』としみじみ呟いていた。
「わたしはさ~ちょっとぽっちゃりしちゃう人形になるし」 「僕なんて逆にガリガリで、よわっちく見えるのになるから、何故か回数制限低いのしか作れなかったの」
『見た目だったのな』ね』
二人同時に同じ結論に至り。まるで兄弟のようなタイミングのユニゾンに。傍らにいたリョクト、ラセルはにこやかな優しい笑みを浮かべていた。ジロさんは1人で、武器の研師の店に出かけていたので、この場にいない。二人は世話役と言うことなので、数日の滞在中。同じ宿に泊まることになっていた。
「そうだわ私たちのクリーチャー持ってくるから。試しに加工してよアルト」
「そいつはいいな~、それでステータスや、回数制限が上がったら。それこそモンスターも見た目を気にすることが分かるしどうかな?」
「ええーとぼくは構いませんが」
もう1人の師であるラセルを伺うと。構わないとの了承を得た。
「じゃ私たち一度荷物持って来るわね」 そう言い残し。風のように出て行ってしまう。
「良かったなアルト。新しい友達が出来たんじゃないか?」リョクトさんに言われて、アルトも気づいた。
「だと……嬉しいです」
恥ずかしそうに俯くアルトに。ラセルまで優しい笑みを向けていた。
「ところでアルト、君から見てハノンは魔法に興味あると思いますか?」
一つ咳払いしながら聞いていた。
「どちらかと言えば。セノーラさんの方が、興味持ってました」
意外な言葉に。ちょっと考えてみた。確かに弟子は男と考えるのは早計だな~とか、気になる言葉を聞いた気がした。
二人が宿に戻った頃。主から近くに大きな書店があるときいたラセルさんが、出かけて行き、代わりにジロさんが帰宅して、夕飯を食べたがミウ様はまだ戻らず。伝言だけが届いた。
『悪い。リターシャに絡まれてる。今夜は戻れない』
手紙を持って来たのは。都でも有名な料理屋さんの見習いで、その話を聞いた二人は、
「じゃあ~長いよね」
「長いよな~」
しみじみ実感のある呟きに、アルトが興味を抱き聞くと。
「リターシャ様悪い人じゃ無いんだけど。酒はね」
「酒癖が悪いんだよ」
そう前置きして、弟子達がみんな被害を被った話や。酒豪と知られてる二人の議員を蹴散らした話など。盛大な失敗談に。思わずクスクス笑っているうちに。二人が持ってきたクリーチャーの加工を済ませていた。
ルーケのクリーチャーは、ウインドホース呼ばれる。ペガサスの亜種で、大きさはポニーくらいしかない。代わりに風の攻撃魔法を使える。強力なモンスターである。それがぽっちゃりしていたのが、可愛いらしいオメメパチリ。愛らしい表情。お腹のハートマークのカラーリングが、キュートさをアップしていた。
「いや~んなにこれ可愛い」
目をハートに鼻に掛かる甘い声を出したルーケ、思わず宝物のように抱きしめていた。
「こちらがムーンさんのでしたね」
ルーケのクリーチャーにすっかり釘付けだったムーンは、
「あっありがとう」 自分の手元にあるクリーチャーを見て、アングリと呆けていた。
ムーンが持ち込んだクリーチャーは、ボーンヘッドと呼ばれる固い頭に鋭い角。牛の二倍近い大きさから、暴れ牛の名前で呼ばれるモンスターである。最初持って来た時は、貧相な痩せた牛にしか見えなかったのが、顔立ちがキリリとしていて、不敵な笑みを浮かべるなんともコミカルな体型のクリーチャーに大変身。 「何だか強そうってより。ふてぶてしくなったな」
妙な感心をしながら。アルトに言われた通り。クリーチャーを鏡の前にしばらく置いてから、自分達の人形の家にセットして、クリーチャーのステータスを確認して驚いた。
「うわ~ステータスがかなり上がった上に、使用回数が三回に増えてるよ」
「わっわたしのも。これは大発見かも」二人が自分が手直ししたクリーチャーで、喜んでくれて、アルトは素直に嬉しく思った。
「ラセルさんみたく。完璧な人形が作れたら。もっと凄いクリーチャーがつくれるかも!。ですね」
この発言に。ルーケが首を傾げていたが、ムーンが直ぐに気が付いて、ハッと息を飲んでいた。ようやく重大なことに気づいたのだ。ミウ様の弟子は1人ではなかった。自分たちと同じ境遇の魔導師が、傍らにいる可能性に……、その事は、後程フレイ議長にだけ知らせようと。固く決めていた。
結局ミウが解放されたのが明け方、散々愚痴を聞かされ。泣かれ、しまいには酔い潰れたリターシャを。宿に連れ帰り。自分のベッドを提供していた。代わりにアルトの部屋に潜り込み。隣で眠りに付いたのが、間もなくである。
翌朝人の温もりに心地よい気持ちで目覚めたアルトは、隣で眠るミウ様に驚いていた。しかし疲れた顔を見て、起こすのを躊躇う内に。そのまま再び寝てしまっていた。
次に目覚めるとミウ様は、部屋にはおらず。あれは夢だったのかな?。首を傾げながら。早速着替えて、裏の井戸で、下着を洗い。それから部屋に干してから。今日はルーケ達がよく遊びに行く。広場に向かうことになっていた。
食堂に降りると。赤髪の綺麗な女の人が、青い顔をして踞っていた。側にミウ様がいて、
「だいたい君は昔から。酒癖が悪いんだよ~」
「ああ~聞こえ、っぷ気持ち悪い~」
耳を押さえて、ミウ様の説教にそっぽを向いていた。
「アルトおはよう~、昨日はよく寝れた?」
立ちすくむアルトに気付いたルーケが、パタパタ手を振るう、ムーンはまだのようだ。
「おはようございますルーケさん。よく寝れました」
「そう良かったわ」 「ところでムーンさんは?」
「ん、朝は一緒だったんだけど、議長に呼ばれて遅くなるそうよ」
「そうなんですか…」
「ああ~アルトってば、わたしよりもムーンと仲良くするつもりじゃ無いでしょうね?」
急に声音を変えて、詰問するように変貌したルーケさんに。
「そっそんなことないですってば、ぼくルーケさんのこと大切な友達だと思ってます」
慌てて断言するとようやく。
「ならいいわ♪」 満更でもなさそうに笑ってくれた。
「あらあらいいわよね~ルーケ、彼氏が出来たの?」
いつの間に来たのか、女の人が意味ありげな顔で立っていた。
「あっあれ~、どっどうしてお師匠様がここに……」
みるみる顔を真っ赤にしたルーケとは、対照的に。ニヤニヤが増大してゆくリターシャ。二人の成り行きを見ていたアルトは、
「もしかして、ミウ様の大切なお友達さんですか?」
この場で、最も適切な表現であった。一瞬キョトンと素の表情をしたかと思えば、後ろのミウ様を見ると。うろたえる姿を見た途端。スッゴく嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「あらあらそうなの~、ええと君は?」
「初めましてリターシャ様、ぼくはミウ様の弟子で、アルト・ソーニアスです」
「へえ~、ずいぶんと頭の回る子のようね~」
感心した口振りで、悪い雰囲気でもない。
「ありがとうございます。まだ弟子にしていただいて、一月程度の若輩ですが、そうなれたらと思ってます」
「ほへぇ~、君まだ一月なの?」
「はい、弟子にしていだだく前から。お屋敷でお世話になってますが」
少し興が沸いて、アルトのこと聞いてく内に。リターシャの顔色が変わっていた。
「そう……だったの」
押しだまっていたかと思ったら。急に涙を流し始めた。
「アルトそろそろ出かけるのだろ?」
ミウ様が助け船を出していた、
「はい、ルーケさん、そろそろ行こうよ」
何か訳があるのだと理解したが、あえて聞くつもりはなかった。自然な対応の弟子に感謝しつつ。
「大丈夫だリターシャ。例えアルトが気づいても、あの子なら君を許す」
「……そんな子要るわけないわ」
「おいでリターシャ、君にはぜひアルトの話を聞いて貰いたいから……」
彼女には時間が必要だと感じた。だからアルトの父と。自分たちとの出会い。アルトが死を前に。生きるため。夢を叶えるため。彼がどんな答えを出したかを語る。
「そんな……、そんな子がいるなんて」
「僕が知る限り、アルトだけさ。彼は母を殺した村人を許し。ただ皆が幸せになる方法として、魔法を学ぶことに決めた」
とても信じられない話だった。リターシャは師を殺した、バッツアー国に復讐するため。グランデに身を置いた。結果三年の月日をかけて、地方に干ばつを引き起こしたギルドの片棒を担いだ。今さら罪の意識を抱いても。
(泣く権利は無いでしょうね。でも……、)
自分たちが引き起こした罪を前に。罰されないことの辛さを。初めて痛感していた。
アルトに連れ出されたルーケは。お師匠様の変化が気になっていた。
「大丈夫だよルーケさん。ミウ様が一緒にいるから」
気にしていたことを悟られていたようで、年下なのに……。ちょっと複雑な気持ちになって、アルトの手を掴んでいた。 「あっあのルーケさん……」
声が上ずり。赤くなるアルトの横顔を見てると。少しだけ元気になれた。
「ほら早く行くわよ」
自然と引っ張って走り出していた。
アルトが出かけるその少し前……。フレイ議長の元。ムーンが報告に来ていた。一通り話を聞いて、 「ムーン君。わかっていると思うが」
「はい……ガトス様には話しません」
厳しい顔を隠さない。こんなこと強硬派のガトスが聞けば、
「こちらの動き、全てが読まれていたか…」
改めて思う、敵にしてはならない相手である。
「それでもう一人の弟子である。アルトとはどのような少年なのかね?」
当たり障りなく聞くつもりが、真新しいクリーチャーの技術を開発中と聞いて、さすがに驚いていた。
「それで彼に修正してもらったクリーチャーは、どのように変化したのかね?」 デフォルメ、カラーリングと呼ばれる技術を用いて、ムーン君が持参したクリーチャーのステータス、使用回数が増えたこと。
「まだリターシャ様が作った人形には叶いませんが、あの技術を僕は、研究すべき新しいものだと感じました」
「ほほ~う。そのような弟子を育ててるか、ますますミウ殿とは懇意にする必要がありそうだね」
まだ先になるだろうが、ミウ殿とは国交を開いとくべきだと。国王に話すつもりになっていた。
「明日には、地方魔法ギルドに送る書類が出来上がる。使者殿が帰られるまで、二人には気をつけるように」
「はい、フレイ議長」
深く一礼していた。
ムーンが出た後。地方魔法ギルドと国交正常化を目指す一方で、ミウ殿とは交流を持つべきだと感じていた。
大国の魔法ギルド長に、認められてるミウだったが、公衆の面前で、リターシャに抱き付かれたまま泣かれるという状況に。困惑していた。
アルトとルーケは。まるで幼い恋人とデートしてるように。周りから見えていて、広場を歩いてると。おばちゃん達に冷やかされ。それにテレながらもルーケは楽しみ。終始ご機嫌で、サーカスを見終わった頃。ムーンと合流していた。
「ムーン遅いよ~ちょっと大変だったんだから」
とりあえず照れ隠しに。大変だったアピールをしておく。
「あれ?、そうだったんだ~」
気のない返事が、ルーケにはお気に召さないようで、剥れた顔をしていた。今日1日話しただけだが、アルトには女心が複雑に感じられた。
ムーンが合流したので、お昼を軽く食べてから。今度はルーケの買い物に付き合うことになった。この時二人は。女の子の買い物が、どんな物か知らないので、気楽に構えていた。しかし……。男の誰もが一度は彼女に付き合って、後悔した経験あることだろう。女の子の買い物は基本。気に入った洋服はどのブランド、小物はどのお店か、靴は……、まずは新作を見る。でも買わないが試着はするし。だいたい三軒は最低回る。しかも同じ店に戻り。どちらが似合うかなとか聞いてきた時点で決まっていて……、
「右の花柄が似合ってるよ」
「アルトはどうかな?」
心なしか左の水玉がやや上に上げていた。
(多分ルーケさんは決めてるんだけど、わざと似合ってると言って欲しいんだろうな)
「やっぱり左の水玉が、似合うと思うよ」
アルトの答えに満足して、
「ムーンは、もう少し女の子の気持ち考えないと。シリカとかマイカにモテないわよ」幼なじみを鋭く注意する。
「ゲッどうして、ルーケが二人を知って……」
「ムーンわたし達。同じクラスの女の子なんだよ?、筒抜けなんだから♪」
悪戯ぽく笑っていたが、ルーケが話した内容に。ムーンに凄まじい衝撃を与えていた。
「くっ、身内に敵がいるとは」
「クフフバカね~、誰彼構わず。声をかけるから。二人は疑念抱いてたんだからね~、幼なじみとして、一応ホローしといたわよ」
(そんな訳ないけど 。ムーンにはいい薬よね)
「あっこれ可愛いですね。値段も手頃だし」
ルーケの思惑とは関係無いところで、アルトは、生地の端切れで作ったとは思えない。可愛らしい小物を手にしていた。「奥様、リターラさん、パトラさん、セノーラにぼくからのプレゼントにしようかな~」
ハッとした顔をして、
「おっ俺も買う」
二人にプレゼント攻撃をと考えたのだ。ルーケがチッと舌打ちして、アルトを睨んだが、既にレジで支払を済ませてるところであった。
(なかなかやるわね、年下のくせに。侮れないわ)
妙な対抗心を抱いた。
ムーンも小物を購入して、お店から出ると随分日が落ちていた。
「おっ、今日は遅いから、そろそろ宿に帰ろうぜ」
予定よりも時間を喰ったのが、他ならぬルーケのせいだから。文句も言えず。渋々了承していた。
三人が宿に着いた頃、街並みは日に沈み。夕暮れの風景は村とは違う。何だが不思議な気持ちで、感嘆を感じていた。ムーンが入ったところで、ルーケの腕をひいてアルトが、立ち止まるよう促す。
「どうしたのアルト?」
驚いたルーケは、心配そうにアルトの顔を覗く。
「今日は楽しかった、ありがとうルーケさん。これ大した物じゃないけど」
そっと手に握らせたのは、ルーケのお気に入りの小物屋さんで売られていた。ピン止めであった。 「あっ、ありがとうアルト」
男の子から初めてのプレゼントは、ルーケを驚かせるサプライズを仕掛けてきた。年下だけど。然り気無い気遣いが出来ることは、ルーケから見てもポイントが高かった。
「おお~いルーケ、早くこいよ」鈍感な幼なじみとは大違いである。
「ルーケさん行こうよ」
「うん」
ほんの少し胸が温かくなったルーケでした。
アルトが新しい友達と。交流している頃━━。ミウ様にちょとした仕事を頼まれたリサは。水神で巫女の修行を重ねるカナンの様子を見に行くため。商隊キャラバンに同行していた━━、
━━間もなく水神の国境近く。
「リサ様、間もなく国境に差し掛かりますな」
商隊を任せられてる商人に一つ頷き、眼光鋭く辺りを見ていたリサ。この辺りには最近。野盗に扮した山賊が出没すると情報を得ていた。キャラバンが山道に向かいゆっくり進む様子に合わせて、この先にある地形を思いだし。さらに注意していた。すると……鈍い殺気を感じて、
「野盗がこの先に隠れてるわ!。商隊はこの場で待機。護衛兵は周りに注意なさい」
敵を察してからの行動が早く、また的確に命令を下した才覚に。副官の男は驚いたものの素直に従っていた。
奇襲を察知された野盗ほど。脆いものはない。その場で引き上げれる頭のある者が率いていなかったのか、20人の山賊らしい格好した男達が現れた。
「リサさん。後方にもいます!」
「こっちはわたし1人で、何とかするから。後ろをお願いするわ」
一瞬戸惑いを浮かべたが、素早く切り替えて副官は頷き、後方の指揮に向かった。
「アルト、使わせて貰うわね」優しい少年の面差しを思いだし呟く。本当は御守りとして持っていた精霊石を握り直し。素早く矢をつがえ。迫る野盗の三人を射倒す。
「ゆっ弓兵だ!、弓兵がいるぞ」
「おい相手は一人だ、殺っちまえ!」
人数に勝る野盗の1人が叫ぶ。シュッ。 そいつの喉を貫いて倒し、ドタドタ走り来る山賊を次々と射る。
それでも8人しか倒せず。リサに野盗が殺到する。捕まれる直前。精霊石を投げつけ、素早く後方に待避した瞬間。閃光が走り。ついでつんざく爆発音を響かせ。爆風に顔を背けた。
再び身構え。警戒して山賊達を睨むが、爆心地から逃げ切れず。ほとんどの山賊を巻き込み倒していた。驚き棒立ちになった敵を。素早く打ち倒し。瞬く間に全滅させていた。普段兄の背に隠れて。気弱な印象が強いリサだが、いざ戦闘になると冷徹なスナイパーに変身する。
「うっ、これは……」後方の敵をどうにか捕まえた副官は、いきなり爆炎が現れたので、リサを心配して見に来たのだが、顔面蒼白にして、結果を見ていた。ゴクリ唾を飲んで、領主様の愛人と密かに呼ばれていた側近が、名ばかりでは無いのだと、畏怖を持って接すると誓ったのは内緒である。
「みんなに怪我は?」
「軽症1人だけでした」
「そう良かったわ。さあ~先を急ぎましょう」
優しい笑みのリサに背筋を伸ばして、敬礼していた。
水神国境付近に、守備兵がいたので、野盗の生き残りを引き渡し。襲われたことと相手を打ち倒したことを報告していた。
「リサ様ですね、女王ヒミカ様から聞いております!、再び会えて光栄です」
中年の弓兵隊長は、以前リサの指揮下にいたと告げていた。
「まあ~あの時の……、確か足を怪我なされてたのではなかったですか?」
顔を思いだし。当時の記憶ら訪ね聞くと。顔を赤くしながら。
「はい。ミウ様がお連れ下さった薬医のお陰で。無事歩けるようになりました」
「そうでしたか、ご健勝で何よりです」
「はい、ありがとうございます!」
感激した様子を見て、商隊を率いた商人、護衛兵の副官も思い出していた。
━━当時の水神は、川道、火炎、塩山三国の包囲の策と呼ばれる。連環の計略にはまり。国の守護神水神を国境に配備して。大きな隙をつくってしまう、そこを塩山の大船団が、御所の目とはなの先に迫る。危機的状況下。しかも前女王ミヨ様が倒れてしまう最悪な状況である。
しかしミウ様がたった1人で、くリーチャーの力を見せつけ。大船団を瞬く間に沈めていた。
その頃……。秘密利に別動隊が動きだしていて、水神領内に入り込んでいた。その数500。
それを知ったリョクト、リサ、ゲント率いる手勢20と。水神守備兵40で、これを向かい討った。無事本陣がたどり着いた時。無傷だったのはリサ様だけで、当時姫巫女のヒミカ様、倒れたミヨ女王の寝室の前に陣取り。敵兵の死体の山を築いたと言う逸話は、有名である。
「わたしの他、あの時。生き残った者は、リサ様の武勇忘れません……」
「私達だって、あの日ヒミカちゃん守れたこと。誇りにしてますわ」
艶やかに、それでいて誇らし気に微笑む姿が。美しく先ほどのことが、嘘のように思えた。
「ヒミカ様も。リサ様が来られると聞いて、朝からそわそわしてると聞いてますぞ」
「まあ~、そうなの?、しょうがないんだから、クスクス♪」
満更でも無さそうに、可愛らしく笑っていた。
「どうぞ。お通り下さいませ」積もる話もあるが、またいずれ話す機会もある。リサは守備隊長に別れを告げて、先を急いだ。
商隊一行が、程なく水神の都に入ると。驚くほど民は、ミウ様配下の商人、護衛兵に至るまで。対応は優しく。感謝の念を感じる物だった。特にリサ様を知る兵や、民がいると。瞬く間に人だかりができて、感謝の言葉を賜ることしばしば、そうなると先に進めなくなるので、都を警らするサムライの計らいで、リサ様の安全を考えて、皇宮に案内されて行った。
緩やかに歩く、牛車にゆられながら、きらびやかな皇宮御所を守る。サムライ達に守られてると、まるで自分が、姫巫女になったような扱いに。居たたまれなくなっていた、しかしヒミカの性格を考えると。半分諦めに近い胸中を抱く頃━━、
湖の畔に建てられた。美しい御所に着いていた。あれから三年━━、
リサも少女から。今では女らしい姿になっていた。
「リサさーん!」
牛車から降りた。リサを見つけた。清楚な出で立ちの美しい女性が、元気いっぱいに手を振りながら。走ってきた。
「あっ……、ヒミカちゃん?」すっかり女らしい顔立ちと、身体を投げ出すように。リサに抱き着く。
「姫様!」
頑迷な御女中ルルカが、眼尻を上げて誰何する。ビクリと首を竦めたヒミカは、恐々振り返りアチャ~って顔をしていた。
「まったく。いつまでたっても子供なんですから!」
「いっいやそのね」
「御黙りなさい!、いくらお友達のリサ様がこられたとしても。貴女様は我が国の女王なのですよ」
「ひゃ、ひゃい」
ぴしゃり言われてしまうと。頭が上がらない。何せ前女王ミヨ様ですら。御女中ルルカさんには頭が上がらない。それを知るだけに笑いを堪えるのが大変である。
「ああ~リサちゃん笑ってる~」
も~うと膨れっ面をしていた。「聞いてますかヒミカ様!」
再び雷が落ちて、思わずリサまで背筋を伸ばした。そして説教が一段落したところで、ルルカさんは一つ咳払いしてから。
「ゴホン、最近ヒミカ様も頑張っておられますから。7日だけお休みを差し上げます。ですからリサ様と積もる話でも」
一転優しく労る眼差しをして、告げると。
「ほっ本当!」「はい、ルルカは嘘を言いません」
「ありがとうルルカ!」今度はルルカさんに抱き着いた。これには驚いたようだが、優しく抱き止めヒミカの頭を撫でていた。
「あらあらヒミカ様は、まだまだ甘えたい年頃なのですか?」急にそんな口調で言われたヒミカは、パッと慌ててルルカから離れて、
「そっそそそんなこと無いからねルルカ!」
すっかりルルカさんに手綱を握られてるようだ。思わず笑っていた。
ヒミカからお休みの間。水神にいてほしいとお願いされてしまい。迷ったが頼まれた仕事もある。後事を副官に頼み。しばらく逗留すること決めた。
その日━━二人は、三年の間に起きた。それぞれのこと話していた。
「それでね。お母さんが、退位してから。巫女を纏める長に、ホウズキが着いたんだけど……」
水神には、国を守る水神と呼ばれる。ゴーレムを操る巫女達がいる。しかし魔法とは根本的概念から違う、詞と五行火、水、木、金、土の術式と呼ばれる。水神独自の札術は、五行の鍛練によって初めて可能になる神技である。そこから地方では……、神降りる地。聖地と呼ばれていて、古い国、霊峰、線武では、水神を特別視していた。ホウズキとは先代ミヨ様から見出だされた。優秀な巫女である。リサとも面識があって、生真面目な女性とイメージがあった。
「古い考えのおばあ様達が、全然言うこと聞いてくれなくて、本当に困ってるのよ……」
最近古株の巫女達が、先代のミヨ様が、静養で都を離れた途端。派閥争いを始めてしまってること。さらにヒョウケラと呼ばれるモンスターに、巫女達が狙われる事件が、問題になってると……。
詳しく話を聞く内に━━。ミウ様が、どうしてカナンの様子を見てくるよう言われたか、理解していた。
「━━ねえヒミカちゃん、ヒョウケラってモンスターのこと。詳しく聞かせてくれないかな?」
━━白い毛並みの大ヒヒ。人語を解し、植物を媒体にした。魔法を操る。厄介なモンスター。しかも武器を扱い。特に弓矢を用いた攻撃を得意にしてると聞いて眉を潜めた。
「ショウケラと交戦したサムライ達が言うには、攻撃を受けると直ぐに逃げてしまうので」
大変困ってることまで、洗いざらい話してくれた。どうもショウケラとは、水神の姫巫女が、封じたことのあるモンスターらしく。誰か封印を破った後を見つけたと聞いて、リサの顔も曇る。
「リサさん、言いにくいのですが……、どうもカナンが、狙われてるらしいの……」
「ヒミカちゃん。それはどういうこと」初めて聞く話に。リサの顔にも困惑が浮かぶ。
(思ってたよりも。差し迫ってた事態なのかも……)
事の始まりは、カナンが巫女見習いとなり数日が過ぎた日に起こった。気位も高く。個の強いカナンは、なかなか巫女として、集団生活にも慣れない日々を過ごしていた。少し周りから浮いていたので、ヒミカも不安を抱えていた。しかしそんなカナンを変えた人物がいた。同部屋のキサラと言う名の見習い巫女で、どちらかと言えば内気なキサラだが、この時だけはもうアタックして、カナンと友達になっていた。やがて直ぐに打ち解けあった二人は、友人関係を築きつつあった。
そんなある日━━事件が起こる。
キサラは見習い巫女の中でも、符力が高く、ショウケラは彼女を狙ったという。
「その時カナンさんは、キサラを守るため。ショウケラをぶん殴ったらしいです」
「それはまたらしいって言えば、らしいな」
屋敷で働いでいたカナンは、同じ働く少年達と。殴りあいをするほど気が強かったのを思い出した。
「それからと言うもの、5日に一度のペースでショウケラが、都に現れて来ては、ちょっとした騒動に……」ふっと眉をひそめす顔は、気弱なミヨ様に似ていた。
「不安で、つい……お父様にお知らせしてしまい……」
恥ずかしそうにはにかむ。その気持ちはよく分かる。リサだってミウ様に会うまでは━━、兄が言った言葉を思い出して、ゲントがレンと残ると言い出した理由━━。
「ヒミカちゃん。ちょっと待っててくれる?」そう断ると、障子をあけて廊下に出ていた、
「リサさん?」何時も持ち歩いてる犬笛を取り出して、鳴らしていた。
しばらくすると
アォオオオオオオー!?。
都中処か、皇居にまで遠吠えが響いた。それに驚いたサムライ達、部屋にいたヒミカまで廊下に出てきて、辺りを警戒していいた。
「呼んだか?」ひょっこり屋根から顔を出した青年に、ヒミカは目を丸くして、あんぐり惚け長髪のワイルドな顔立ちの青年を見上げていた。
「いつの間に……」
いつからそこにひそんでいたのか?。そんな顔をしたヒミカに、リサが慌てて指を唇の前に立てた。
『彼は私達の仲間のレンよ。貴女の護衛に着いていたようね』「……えっ……」
目を丸くして、驚きを浮かべたヒミカを他所に。
「レン、兄弟達も一緒よね?」
「ああ~ミウ様の命令だ、どうして分かった?」
「レン~私だって、ミウ様の側近なのよ」
剥れた顔で、リサが嘯くと。レンは不敵に笑ってくれた。
「リサさん誰か来ます」
「レン、ここはいいからカナンの側にいて、あの子が狙われてるの」
一瞬迷いを見せたレンだが、
「分かった。任せろ」
それだけ告げて、音もなく消え去っていた。
レンが居なくなると直ぐに、サムライ達が、照光機を手に見回りをしていた。
「ヒミカ様、御無事ですか?」
「はい大丈夫ですわ!?」
「そうですか、先ほどの遠吠えは、野犬が入り込んだか?、では失礼しました」サムライ達が去った後。ヒミカは何故かクスクス笑い始めた。
「何だか秘密を共有するのって、わくわくしますね♪」
図太い神経をしてるヒミカに、半分呆れたが、流石はゲントの娘だと。ようやく納得していた。
水神の国土は、豊富な水源である湖と。街道まで広がる広大な森林である。都は森と湖の境目に作られ。村が2つ所領にあった。都から南西にある小高い山に。今は廃棄された。古い荒れ寺があって、周囲は竹林に囲まれていた。ここから都まで目とはなの先、獰猛に笑う顔は、先日出会った巫女の見習いを思い。股間を堅くする。ショウケラと呼ばれるモンスターは、白い毛並みの大きなヒヒである。彼は力ある人間を奪ってきて、犯して子を成して、産ませることで個体を増やす。呪われたモンスターである。ショウケラに犯された人間は、自我を失い。子を生むとき内側から喰われ発狂死する運命にある。
「アノメスツヨイ。チカラアル、カナラズヨメニスル」
嫌らしい笑みを浮かべ、ショウケラは。女を求め動き出した。
モンスターが都に入り込んだ時は、見張りが半鐘を鳴らして、サムライに知らせる手順である。連日ショウケラの襲撃に、神経を尖らせていた水神のサムライ大将ブゼンは、太刀を手に。走り出した。今宵は野犬の遠吠えによって、見回りの兵は、警戒していたのが項をそうしたようだ。「ブゼン様!」きらびやかな衣装のサムライが、数名弓を手に走りよってきた。
「どうしたお前達」
「はい姫様から。皇居にはリサ様がいるので、巫女を頼むと、援軍を下さりました」
「おお~リサ殿が来ておられたか、なら姫様のこと大丈夫であろう」
大業に頷いていた。
サムライ達が、ショウケラを追って、都を駆け巡てる頃。皇居の敷地無いにある。巫女の暮らす五所の寝所と呼ばれる場所がある。巫女の使う術は、魔法とは系統が違う。火、水、木、金、土の五行を。神道と呼ばれる。術に合わせた修行した巫女達が使う術である。
「匂う、嫌な匂いが近付いて来た」
長髪をまるで、狼の尻尾のように振り乱し。鼻に皺を寄せていた。クウ~ン、末っ子のフウが兄レンに身体を刷り寄せる。 「大丈夫、俺たちは強い群れ」力強く頷いていた。
都の中を縦横無尽に駆け巡り。サムライに襲われたら逃げながら、無限に生える。白木の矢を使って、怪我で動けなくしてゆく。狡猾で嫌らしい攻撃。人間は多い。ばか正直に正面からしか攻撃出来ない人間など。ものの数ではない。
「イマイク、ワガツマヨ、クックク」
間もなく皇居。女の力などショウケラの前では無力。泣き叫び、ションベン漏らしながら命乞いをする。そんな情けない女を犯し子を産ませる。また女なが我が子を狂いながら、喰われる様は最高の娯楽である。相手の女は美しく。強ければ強いほど良いのだ。
皇居の壁を飛び越えて、池の側に降り立つと。
「キャア!」
女の悲鳴が聞こえ。にやり嫌らしく笑っていた。
「ミツケタ」
気の強そうな顔を恐怖に歪ませ。水行の修行の後か、着物が濡れていた。
「サア~ワガハナヨメヨ。ワレラのシンキョニ、イコウデハナイカ」
「いっ嫌よ!、私は巫女になって、ミウ様から必要な女になってみせるんだから!。お前みたいな化け物の物になるわけない!」
素早く印を結び。札を放つや。ショウケラの身体に張り付き。パンと音がして、吹き飛ばしていた。衝破と呼ばれる。基本符術である。手練れが扱えば、重鎧ですら凹ませ、装備者の肋骨を粉砕すると言われていた。
「グッ、ソンナチカラキカヌ!」「カナン!」「キサラ、ホウズキ様を……」
「カナン危ない!」
幼い顔立ちのキサラが、悲鳴を上げていた。 シュパ、ザスザスザス。
身に矢を受け、ショウケラは驚いていた。
「よく言ったカナン」
聞き覚えのある声に。カナンの顔に驚きと涙が浮かぶ。
「リサさん」
「下がりなさい。ここは私達に任せて」
カナンと同じくミウ様をお慕いしていた女の子。この時初めて、自分と同じ苦しみを抱えながら。それでもミウ様の側にいることを選んだ女性。
「私だって戦えます!」それでもミウ様の側にいることを選んだ女性だった。
「……私だって戦えます!」
強い対抗心から、沸き上がる恐怖を無理矢理押さえ付け。奮い立った姿に。
「あらそう?、だったらどちらがあれを倒すか、競争ね」
悪戯ぽいウインク残して、再び矢を放つ。
「……オノレ……、オンナノ、クセニ」
ザラリとした怒りを浮かべ。顔が真っ赤になると。醜悪差が増していた。
「皆のもの!。ショウケラじゃ、援護に回れ」騒ぎを聞きつけ五所の寝所から。巫女達が駆けつける。
「グッ。ソンナモノキカヌ!?」
ショウケラは素早く腰簑から。葉っぱを掴みました投げつけた、葉っぱは無数の刃と化して、巫女達を攻撃する。
「火行・燃焼!」
素早く数名の巫女達は、炎の壁を作り出して、攻撃を回避していた。さらに後方の巫女達が、ショウケラに向かって、様々な術を単発的に当てたのだが、
分厚い毛皮と。皮下脂肪に守られているため、与えるダメージは低い。
「ニンゲンゴトキガ!」
肩に刺さる矢を。無造作に引き抜いて、折って捨てていた。
アォオオオオオ!
遠吠えが聞こえた瞬間。リサは不敵な笑みを浮かべていた。
「……残念だけど、あなたが危険な獣の巣に入り込んで要るのに。最後まで気付かなかったわ」
「………?」
意味が理解出来ないショウケラ、しかし自分を見てる鋭い視線を感じていた。アォオオオオオオー!、
アォオオオオオオ、
アォオオオオオオ、
アォオオオオオオ、アォオオオオオオー!。
丸で御所を取り囲むように。四方から遠吠えが響き渡るや。ショウケラの動きが止まっていた。いつの間に現れたか……、ショウケラの周囲に、五匹の獣が立っていた。
「……オオカミ?」
ショウケラとて自然の摂理の産物である。
「あれはレンさん?」
カナンの問いに。リサは力強く頷き。
「ええ、ミウ様が、貴女を心配して、護衛に着けていたのよ」
ハッとした。驚きの色が浮かぶが、ほんのり頬が赤らみ。リサと視線が絡み付く。
「カナン、貴女がしたことは、決して誉められたことではないわ、でもね……。忘れないでミウ様は、貴女をとても心配していたわ」
「……ミウ様…」
感情が高まり。堰を切ったようにポタリ、ポタリ涙が溢れていた。
「レン、気を付けて!、ショウケラは植物を使って、魔法を使うわ」
群れの中にいる青年は、静かに頷いた。
「マッ、マテ、オレハアキラメル、ダッ、ダカラ」
恐怖に震え上がるショウケラ、しかし相手が悪かった。レンがミウに命じられたことは、ショウケラを倒すことのみ。優れた暗殺者だったレンは……、ただリーダーの命に従うため。
「ルウ。セン。ロウガ。フウ。狩りの始まりだ!」
号令をかけると。一斉に襲い掛かる。
本来のショウケラは、狡猾で、魔法も使える嫌なモンスターだ、しかし狼の怒涛の攻撃に。身がすくみ。動けなくなっていた。「ヤッ、ヤメロ、ヤメテクレ、オレハマダ……」
レンの手に付けられた。鉤爪がショウケラの喉笛を切り裂いていた。
……ガヒュー、顔を歪めさせ。命乞いをしようと土下座する。だが狼達は、無慈悲な狩人。淡々と獲物を攻撃して、やがて動かなくなり。死ぬまで攻撃は終わらなかった。
騒ぎを聞き付けたサムライ達が、ようやく御所に到着した頃には、全てが終わった瞬間だった。
サムライ大将ブゼンは、忙しなく皇居に入り込み。ショウケラの死体を見つけ。立ち尽くしていた。
「あっ、あれは……いったい」
アォオオオオオオー!、
勝利の遠吠えをする青年に合わせて、四匹の大きな白狼まで、遠吠えをしていた。
「ブゼン。安心してください。彼等は味方ですよ」
いつの間にやって来たか、夜着の上から、厚手の着物を羽織るヒミカが立っていた。
「これは姫様!?」
慌てて皆臣下の礼を取るなか、ヒミカは巫女達を見て、眉を潜めていた。
「ブゼンご苦労様でした。彼はミウ様が密かに護衛として、私に付けて下さってくれていたレンさん。それと兄弟達です」
「なんと!、ミウ様の後家来でしたか」
感嘆の声を上げていた、ブゼンもミウと家臣達の噂を聞いていたので、素直に納得していた。
「レン、こっちに来て」
リサに手招きされて、素直に従うレン。残った狼達はその場に大人しく座っていた。
「彼は、兄弟達のリーダーのレン。ミウ様の側近の1人です。ヒミカ様とは、一度会ってますね?」
「はい、レンさん父ゲントが、お世話になっております」
丁寧に頭を下げていた。
「そうか、お前ゲントの娘か、匂い。似ているとルウ言ってた」
一際大きな狼が、此方を見ていた。
「まあ~そうでしたの。ルウさんよく分かりましたね」
何気ない動作で、ルウに声を掛けていた。まるで人間相手に話すようにである。
グルル♪、柔らかく喉を鳴らす。返事をしていた。
「お前面白い。ルウが気に入った言ってる」
たどたどしいながら、兄弟の言葉を伝えていた。
「あらありがとうございます。ルウさんって可愛らしい顔立ちしてるから。女の子ですよね?」まっすぐルウを見て訪ねると。ゆっくり立ち上がると、サムライ達が身構えようとした。
「大事ない。あの狼からは攻撃する気配がない」
「はっはあ~……」
分かっていても身がすくむ。それが人間である。ちらりブゼンを見たルウは、一つ頭を下げていた。これには驚きの声が上がる。白狼は周りの巫女やサムライを驚かさないように。ゆっくり近付いてから、ヒミカの出す手に鼻をチョンチョン付けていた。
「おお~珍しいぞ!。ルウ言った触っていいよ~て。これ言うのアルトいらい」
「えっ!、触って良いの?」
手を近付けると。頭を擦り付けてくれたルウ。ニンマリ嬉しそうに笑うヒミカは。ルウの体を撫でながら。
「皆を助けてくださり。ありがとうございました」
グルル♪、小さく返事を返していた。
一夜明けて、レンが帰ると言うのだが、どうしても狼達と触れあいたい。駄々をこねたヒミカにごり押しされて、仕方なく休みの間。リサ共々滞在することになったレン達は……、
「フウ、ルウちゃん、水浴び行きましょ♪」
ヒミカに促され。縁側で横になっていた。二匹の狼が立ち上がる。そもそも狼には、お風呂に入るという習慣はないが、比較的水浴びを好み。水行を行う滝に連れていくと。喜んでくれるのだ。二匹はヒミカの言葉に素直に従い。部屋からついて出ていった。レン、セン、ロウガは、変わらずヒミカの部屋で昼寝をしていて、リサとカナンは呆れた顔で、ヒミカ達を見送っていた。
「リサ様、その私……」
「しょうが無いわ、皆がヒミカのごり押しに従ってるんだから。諦めて貴女も楽しみなさい」「はっ、はあ~」
昨日まで見習い巫女だったカナンだったが、ショウケラを相手に。一歩も引かず戦っていたのを、皆が見ていた。ミウ様の紹介であること。色々考慮されて、姫付きのお側役を仰せつかっていた。
「……失礼します」
ルルカさんの威厳ある声に。寝ていた筈のレン、セン、ロウガが起きていた。チラリ一同を認めてから。真っ直ぐレンの前に向かい。睨むように見下ろし立つと。
「レン様!。少々お話がございます。よろしいですか?」
「なっ、なんだ」レン達もルルカが苦手なのか、警戒した眼差しで、ヒミカのお目付け役を見ていた。
「どうでしょうか……。レン様このままヒミカ様に。お仕え下さいませんか?」
真剣な眼差し。リサとカナンは顔を見合わせていた。
「フン、あんたも同じ話か……」
鼻白むレンは、ため息混じりに呟いていた。
(今のはどういうことかしら?。まさかレンをスカウトしようとした者が、ルルカさん以外にもいると?。)疑問が浮かぶ、「俺達は、頭のミウ様だけに仕えている。そいつは聞けない話だ」
バッサリ切った言葉に。ルルカとレンはお互いを睨むように見ていたが、先に視線を外したのは、なんとルルカの方で……、
「……ミウ様は、家臣に恵まれてます。姫様にも善き味方を付けて差し上げたかったのですが……、はあ~仕方ありませんね」
直ぐに引いたところを見ると。叶わぬ話と思ってたのだろう。「お前何を言うのだ?、あの女には良い配下が、少なくとも二人はいたぞ」
レンは生真面目な顔をして、カナンのことを見ていた。
「えっ、わっわたし」
驚いたカナンに一言。
「そいつはまだまだだ。でも俺を誘ったあの男。リョクトと遜色ない使い手」その言葉で、レンをスカウトしようとした者が誰か気付く、実直な性格のサムライ大将ブゼンだったのだろう。
「あんたもわかってる筈だ。今姫さんが、巫女達をなんとかするしかない」ワイルドな風貌。狼に育てられた青年。それを踏まえて色眼鏡で見ていた。リサは大変驚いていた。
「俺には難しいことは分からない。犯人はずっと見ていた」
(犯人?)
戸惑うリサに構わず。レンが水神に入ってから。ショウケラが封じられていた祠に赴き。犯人を探し回っていたこと。御所の近くにいたのは、犯人の匂いを追いかけてたらたまたま近くにいたこと。リサも知らない話を聞かされていた。
「やはり犯人は……」
厳しい顔をしたルルカ。レンはゆっくり縁側に戻り。兄弟達の背を撫でながら。まるでルルカを労るような声音で呟く。
「群れの頭になる大変。姫さんはまだ頭になれていない」
意外とまともな言葉を受けて、ルルカはハッと息を飲んで、押し黙る。
「……そうでしたね……。今姫様に必要なのは……」
「一つ言えるのは、敵を倒すのは頭を潰す。これ喧嘩に勝つ方法」
「けっ喧嘩ですか………」
人間には無いシンプルな結論に。かなり驚いたようだが、プッと噴き出して、コロコロ笑い出していた。珍しい物を見たと。カナン、リサが目を丸くしていると。晴れ晴れした顔のルルカは、笑みすら浮かべていた。
「確かに。レン様の言われた通りですわ。考えたらもう決まってましたね。ありがとうございました」
深く頭を下げていた。レンは鼻を鳴らしてから、再び縁側にゴロンと横になっていた。
三年前━━。御所にまで、敵兵が迫り。危うく皇居が落とされる間際になっても。御老衆は動かなかった。
水神の巫女には、五行の長と呼ばれる。巫女を束ねるもの達が、女王の下にいた。彼女達は強い権限を持つため女王とて、おいそれと口出せぬ聖域である。
しかし国が危険な状況で動かなかった事実は消えない。それどころか巫女達をも危険にさらした事実は重い。「リサ様、急用が出来ました。失礼します」
にこやかに一礼すると。ルルカは足早に出ていった。
━━後日都を襲ったモンスターが、御所を襲ったと。正式に発表していた。その事実を含め。ショウケラの封印を解いた事実から。全ての責任を皇室を守るはずだった。御老衆を捕らえ。重い刑罰が与えられた。
御老衆を解体した皇室は、水神に蔓延っていた。古い因襲を捨て去ったことも重ねて発表していた。
新しく五行巫女の長に選ばれたのは、まだ十代のホウズキ。実力。人格申し分なしと。若い巫女から絶大な信頼を受けてる彼女に決まった。
4日後━━。
短い休みが終わったヒミカは、楽しい一時を惜しみがら。新たな一歩を踏み出した。お側役のカナン、お目付け役のルルカと別れの挨拶を交わして。リサとレンは都を後にしていた。
ミウが、昔の友人リターシャに絡まれてる頃。リサはカナンの様子を見に。水神に向かっていた。友人のヒミカとの再会。巫女として修行中だったカナン。変わり始めていた━━。また同じ物語か別の物語で、背徳の魔王でした。