子猫注意(イラストあり)
「――ん? 子猫注意? なんだろう、この貼り紙」
とある少女が、王都にある蒼黒騎士団長、アデルバードの屋敷を訪ねると、
玄関の扉の前に、そんな貼り紙が張ってあった。
(……お屋敷から出ないよう、注意してほしいって事かな?)
不思議に思いつつも呼び鈴を鳴らすと、
彼女を出迎えたのは、白い大きな狼の頭の上に乗った。
子猫サイズの小さな小さな可愛らしい幼女だった。
最初、余りにも小さすぎて少女は女の子を見落としていたのである。
何せその幼女の体は子猫サイズ、少女の足元位しかなかったのだから。
そんな小さな女の子は、全身を覆う白い子猫の着ぐるみを着ていた。
「みみ? みいみ?(やや? アデル様じゃない。どちら様でしょう?)」
「こ、こんなに小さな女の子が居るなんて……それとも人形?
あ、ええと、あの……おうちの人っていないのかな? あなた達だけ?」
「みい、にいにい。み、みいい?
(あいにく、おじ様達は手が離せないんですよ。して、ご用件は?)」
何やら、みいみいと猫語で話しかけられている気がするが、
一体何を言われているのか分からずに反応に困る。
「!? み、みいみい?(はっ!? も、もしやお客様ですか?)」
「うん? 何を言っているのかなあ~?」
「みいみいみ、みにゃあん……っ!!
(アデル様のお屋敷に、ついに初めてのお客様が……っ!!)」
「……困ったなあ、また出直そうかな」
「みいみい、みいみい(シャイなあのアデル様にお友達、それも女の子とは)」
はっと何かに気付いた小さな女の子は、うるうると涙を目に浮かべ始めていた。
これには目の前の少女も焦るばかりである。
「あ、あの、私、別に怪しいものじゃないよ? もしかして怖がらせちゃったかな?
どうしよう、泣かないで? ええと確かハンカチが……」
ぷるぷると震えだした着ぐるみ姿の小さな小さな女の子に慌てて、
しゃがみこんであやそうとしたその手を、突然、目の前の小さな女の子は、
ぎゅっと握ってくる。
「ん?」
ぷにぷにっと触れた肉球はどう見ても本物。そして生暖かい……。
という事は、先ほどから揺れているあのしっぽも本物なのだろう。
ふりふり、ふりふりと揺れて存在を主張している。
子猫の獣人なんて、この王都では珍しいので気付かなかった。
「みいみ! みにゃあ(よくぞ参られました! お客様)」
「え、ええと?」
「みいみい。み、みみにゃん。にいにいに。
(申し送れました。私、みんなの街の小さなお手伝いさん、
肉球界のニューフェイス、ユリアと申します)」
「みいみい? み、みみみ。
(お気軽にユリアと呼んで下さいね? ちなみに、
ねこねこ獣人アニモーでございます)」
「み、みい、みいみい!(私、心を込めて、お客様のおもてなしをさせて頂きますね!)」
ぶんぶんとつかまれた手は、目の前の着ぐるみの女の子によって上下に振られる。
「みいみいにゃああん、 みいみい。みいみい!
(アデル様とお友達になって下さったとは、
ありがとうございます。ありがとうございます!)」
(何だか分からないけれど、とても喜ばれている気がする……なんだろう?)
「にゃあんにゃんにゃん?(これからも末永くアデル様をお願いしますね?)」
「みいみ、みにゃん。
(アデル様は近寄りがたい雰囲気ですが、実はとってもお優しいんですよ)」
――そうして少女は、ユリアにお友達だと勘違いされたまま歓迎され、
騎士団長アデルバードの屋敷への立ち入りが許された。
あれよあれよと屋敷の中へと案内され、茶を振舞われたりしたのだが。
少女は、”ユーディ”は言えなかった。
「どうしよう。私、ただ、就職の面接に来ただけなのに……」
彼女は出稼ぎの為にここへやって来た。メイド希望の少女だった。
そして数日後、イーアという少女も同じ方法でユリアにとっ捕まり、
何だかんだとするうちに、お屋敷のメイドに無事就職が決まる事となる。
うちの娘がご迷惑をお掛けしました……という意味も含まれているのかも知れない。
「(アデル様のお友達になって下さる方、居ませんかねえ。
できれば、人間の女の子のお友達が是非欲しいのですが)」
近寄りがたい噂のある騎士団長アデルバードは、
このユリアの保護者でもあり、ご主人様でもある。
この猫耳のある小さな女の子、ユリアが、
「アデル様のお友達100人出来たらいいな計画」を、
密かに計画して実行している事を、周りの者達は誰も知らない。