友達探しの舞台裏
騎士団では最近、ちょっとした光景が目につくようになった。
白い翼の生えた黒い子猫、普通よりもかなり大きめの白いオオカミ、
そして小さな猫耳としっぽをふりふりしながら動き回る、白い子猫獣人の幼女、
三匹はお行儀よく、時にはやんちゃに蒼黒の騎士団長の部屋で過ごしている。
……かに見えたのだが。
「ユリア、どこに行った!?」
騎士団で初めての子連れ出勤を果たした未婚のシングルファーザー(自称)
アデルバード・ルーデンブルグ・ラグエルホルンの養女となったユリア。
子猫サイズのユリアが、騎士団に子連れ出勤するようになり、早3か月、
最初は何かにつけて物怖じしていたかに見えた子も、時間がたてばなんのその、
保護者たちの目を盗んでは脱走にひたすら励み、そこかしこで騒ぎを起こしたりするから、
事情を知る上官達は頭の痛い事になっていた。
「あ、今日も始まったか、アデルバード団長とユリアちゃんの追いかけっこ」
「かくれんぼじゃないのか?」
「どっちでもいいよ、それにしてもユリアちゃんも物怖じしないよな。
ここは強面の野郎どもの巣窟って言ってもいい程なんだけど」
「小さいのに、やたら悟っているようなお子様だよな。
俺が上司に怒られていじけていたら、頷きながらポンポン手を叩いて慰めてくれたよ。
それも手に飴をくれたんだよ。飴だぞ? ちびっこに慰められている俺って一体」
「それはほら、あれだよ。“おませさん”ってやつだよ」
あの子は子猫獣人とあって、珍獣レベルのレア種族。
見目も愛らしいことから、闇ブローカーや変質者にでも見つかったら、
きっととても恐ろしい目に遭うかもしれないと言うのに、
なぜか彼女の姿を見た者は、人間に捨てられた人形の怨念が彷徨っている。
……などと本気で勘違いされ、彼女の正体を知らないものは当然ながら、
ユリアの現れる所で、屈強な大の男でも泣き出す程だった。
だから、あの小さな女の子には、
「えっとね? 大きなお兄さんまで泣かしたら駄目だよ?」
なんて、おかしな方向で叱ったりすることもある。
普通は逆じゃないのか、冒険者やゴロツキを泣かせる幼女とは一体……。
「ユリア、本当に諜報員に欲しい位だな。子どもだから流石に無理だけど」
アデルバードが必死に探している傍ら、友達兼同僚のラミルスはそんな事を呟く。
例え物陰に隠れてみたり、カーテンによじ登って諜報員の真似事をしていても、
ユリアはまだお子様なのだ。それでもあのガッツは目を見張るものがあり、
一部の騎士団からは、諜報部員として育ててはどうかという話まで出ている。
けれど保護者のアデルバードがそれを許す訳もなく、
騎士団とお屋敷の中で大事に育てられている。
そして今日も、アデルバードは日常となりつつある娘の育児に振り回されていた。
やはりお子様、そう遠くは行っていないはず……と思いたい。
「そういえばユリアが手紙を残していた。手がかりがあるかもしれない」
ぽつりと言ったアデルバードの言葉に、すぐさま食いついたのは、
一緒に探すのを手伝わされているラミルスだった。
「お前、それを早く言えよっ!」
「ようやく覚えられた字で、俺宛てに書いてくれた初めての手紙だぞ!?
“おとうさん、いつもありがとう”とか、“おとうさん、だいすき”とか、
そんないい感じのものを、この俺に書いてくれているかもしれないじゃないか」
「それは絶対に幻想だから安心して諦めろ、そしてさっさと見せろ!」
「なぜだ……やはり俺が母親じゃないから駄目なのか。
こんなに俺はユリアの事を可愛がっているのに」
「いいから、ほら」
アデル様はユリアの置いていったものを、
後で大事に読もうとしたらしいのです。
当然ながら、お前はアホかと友達のラミルスに言われてしまいましたが。
さてさて、ユリアが覚えたての字で、アデル宛てに書置きを残したものには、
クレヨンを使い、つたない字でこう書かれておりました。
「えーと? なになに……ヒト、カリニ、イッテキ……マス」
……人を狩りに?
脳内でその言葉を何度も反復したラミルスは、ぷるぷると震えだす。
「あの……アデルバード?
ここにユリアは人を狩りに行くって書いてあるが!?」
「ふむ、そういえば前に、護身用にとユリアには小型の短剣を持たせていたな。
やはり幼心にも狩猟本能が芽生えてきているのか。狩りはまだ早いと思っていたが」
「感心している場合か! あんなちっこい子になんつうもん持たせるんだよ!!
危ないだろうが! もしもそれで万一大怪我でもしたらどうするんだっ!
いや、その前に保護者のお前がぶっそうな事教えるなよ!!」
なんという事でしょう、ユリアはお友達を欲するあまりに、
力ずくでお友達を作ろうとでも思ったのでしょうか。
「幼女は変質者に狙われやすいと部下から聞いたのでな。念のために持たせた。
ユリアは人懐こく、見目も愛らしいから愛玩用に狙われたら大変だろう?
鳥かごに入れられて天井から吊るされたら、ユリアには逃げられないからな」
「防犯用のものなら、他にいくらでもあるだろうがっ!」
しかし、肝心のユリアはその用途を理解していないようだったと、
アデル様は思い出します。
「あれを使いこなして、3時のおやつを作ろうとしていた事があったな。
だがユリアに護身用の物をあげていたのは俺だけじゃない」
聞けばユリアが先日仲良くなった双子姉妹は、
ユリアを妹分として、とても可愛がってくれていましたが、
あんまりにユリアがお人形のように小さくて、さらにとても愛嬌のよい子なので、
ユリアを見た人にさらわれてしまうのではないかと心配し、
護身用のアイテムをいろいろと渡していたりするのでした。
「ローディナとリーディナも防犯用のからしスプレーとか、どす黒クッキーとか、
いろいろと渡していたから、俺だけのせいじゃないだろう」
「……ああ、こないだ騎士団にも来た子達か」
ユリアがお友達として騎士団に連れてきた女の子達を思い、こめかみに指先を添える。
一般人を簡単に入れるなよと思ったが、相手はユリアである。誰も怒れない。
アデルバードも彼女達が来る時は、ユリアが「おもてなし」で大人しくなる為、
むしろ彼女達の来訪は大歓迎だった気がする。
ラミルスはアデルバードからこの話を聞いて、こう思いました。
(ユリアがらみだと、みんな頭のネジがおかしくなっているな)
……と。
「リファがユリアを見守っているだろうから、大丈夫だろうけど……。
その辺の冒険者相手にだって、リファは引けを取らないだろうし」
保護者のアデルバードがあんな幼子に振り回されているのは見ものだが、
気づけばラミルスですら巻き込まれ、部下達もそれに倣う形だ。
そう、騎士団の中で幼女に振り回されるのは恒例となっていた。
そんな訳で、今回のように騎士団総出のユリア捜索隊が結成される事もしばしばで。
騎士団ってもしかして暇なのか……なんて事は思っても絶対に言ってはいけない。
ユリアは何度も言うが、あれでレア種族、
しかも近頃はルディ殿下とも実は懇意にしているらしいのだ。
万一の事などあってはいけない。保護を任されているという事は、
ユリアの安全も暗黙の了解で守らなければいけないのだ。
「お?」
アデルバードと手分けして捜索に当たる事、数十分後、
ふと、ラミルスは何か違和感に気づく。こういう時は龍の本能の方が正確に働く事があり、
嗅覚では引っかからなかったが、周辺の気配に僅かな違和感があった。
前方数メートル先、じっと集中して目を凝らしてみれば、
小さな箱がずりっ、ずりっと、何やら不穏な様子で動いているではないか。
「クウン……」
その傍には、箱をじっと上から見守る白い天白狼、リファの姿が。
怖がりの者が見たら怪奇現象と怯えたかもしれないが、ラミルスは違った。
「……そこかああっ!」
一気に駆け寄って箱を抑え、勢いよく持ち上げてみれば、
びっくりした顔のユリアがこっちを見つめていた。
「ふっふっふ~ユリア、探したぞ、さ、おいで帰るぞ」
「みいい~っ!!(や~っ!!)」
じたばたと抵抗するユリアの襟首をむんずとつかみ、とりあえず捕獲完了。
「あっ、ラミルス副団長、ユリアちゃん見つかりましたか?」
「おう、この通りだ。アデルバードに見つけたと報告してくれるか」
そう言いながら、ぷらんぷらんと揺れながらユリアを持ち上げていた。
おおおっと数名の部下たちが、その様子を見てぱちぱちと拍手を送る。
「了解しました」
「いやー、今回はラミルス副団長でしたか」
「ちえっ、賭けが外れたよ」
「お前ら賭けんな」
「「はーい」」
部下達は意気揚々と、ラミルスからの伝言をアデルバードに伝えに行った。
「みい」
その間、捕まったユリアは「はなして~」といいながら、
肉球付きの手でぺちぺちと叩いてくるが、それを無視して真っ先にラミルスは、
ユリアが不審な物を持っていないか確認した。
「はいはい、良い子だから大人しくする。怪我したら大変だからな」
人を狩りに行くなんて尋常じゃない。そんな事を思っていたら、
どうやら狩りに行くのではなく、連れてくるの間違いだったらしい。
刃物を見せて無理やり連れてくると言う意味でもなかったようだ。
意味をどう間違えて覚えていたのか、
こんな所はまだまだお子様だなと内心ほっとする。
(でも……ユリアへの教育はあいつだけで大丈夫だろうか)
ついつい、余計な心配でもしてしまうラミルス。
(あいつが保護者をやると、おかしな知識までつけてしまう気がする)
両脇に手を添えて持ち直して見てみると、
ユリアは封筒の束をしっかと腕に抱えていた。
もしかして……誰かにお手紙でも出したかったのだろうか?
しかしここで、可愛い事をするなとは思ってはいけない。
「ユリア、それを誰に出すつもりだったんだ? 渡しなさい」
「みっ!」
ぎゅっと手紙を抱えたまま、ぷるぷると首を左右に振るユリアに問答無用に奪い取る。
後ろ襟首を片手でぷらーんと掴みあげ、ラミルスはユリアから手紙を奪うことにした。
「みいい~っ!」
一部誤字や意味の違うものも多々あったのだが、
要約してみると、そのお手紙にはこう書かれてあるらしい。
“いつも、おいしいお菓子をありがとうございます。
先日頂いたお菓子のお礼に、ささやかですが街で評判のお菓子をご用意いたしました。
お気に召していただければ幸いです。今後ともどうぞアデル様をよろしくお願いします。
お暇な時にでもぜひ当お屋敷に遊びに来て下さいね。
使用人一同、ご来訪をお待ちしております。 ユリア“
……最早、幼女が書くような内容じゃないことは確かだ。
(い、一体どこでこんな教養を)
あれか? ティアルと一緒に城でも遊びに行って、
機嫌を取る貴族にでも遭遇して覚えてしまったのだろうか。
「……でもユリア、ここの綴りが間違っているぞ、あとここは単語が違う」
「みっ!?(なんですとっ!?)」
「習いたての字で、お礼状をしたためているってお子様がやる事かよ」
「かえして~わたしのおてがみ~」
「はあ……ユリアはずいぶんと、まあ……ませたお子様になってきたなあ」
「お子しゃまじゃないもん~」
あくまで「アデル様のメイドなの」と言い張るユリア。
こんな小さなメイドが居るものかと思ったが、
ユリアはここに居るじゃないですか、と言わんばかりに胸を張っていた。
実を言うと、ユリアは普段から周りに可愛がられているので、
よくお菓子を貰ったりしている。
騎士団だけでなく、屋敷の使用人、知り合った女子供、城お抱えの料理人達にもだ。
最初は異様な目で見られていたユリアだったが、何度も顔を合わせれば人も慣れる。
にこにこしてお菓子をあげる者達が居る姿を、そこかしこで見かけていた。
そして、ユリアと関わった者達には不思議な事が起こるのである。
「俺……ユリアちゃんの言っている言葉が、
最近になって、なんとなく分かるようになったんだよ」
「お前もか? 俺もだよ」
「俺も俺も」
最初は何を言っているか分からない猫獣人の言葉。
それが普通の人間でも、しばらく彼女と過ごしているうちに、
何をユリアが言っている事が分かるというもの。
これはユリアの能力かもしれないと、アデルバードは密かに思っていたようだった。
さて、もらい物を幼い子がしたなら、ありがとうと相手に言えればよし……と、
それで普通は終わりなのだが、ユリアは違った。
貰った品と、その金額の相場、
それに見合うお返しをどこからか調べ上げ、リストとして作りあげていき、
こうして暇を見ては、つたない手紙を添えてお礼の物を用意して来たようだ。
何枚用意しているのかと思うと、手には10束も封筒を抱えていた。
「みいみい、みい(たしか、お礼返しは相場の半分なんですよ)」
「本当に一体どこからそんな知識を……。
手紙だけでなくお礼返しなんて、子どもが気を遣わなくていいんだぞ?」
今からユリアはお礼のお菓子を買いに行き、配達を頼む予定だったらしい。
ユリアのポケットを探れば、アデルバードからもらったという銀貨が入っている。
使用人同様に屋敷でも、お手伝いをせっせとしているユリアを見て、
アデルバードが律儀にも給金兼、おこづかいとして渡したものなのだろう。
(ちびっこに銀貨なんて渡すなよって前にも言っただろうが、
金銭感覚が本当にないな、後であいつに注意しておこう)
こんな幼子におこづかいも何もないだろうと、ツッコミを入れてはいけない。
アデルバードは野生育ちの龍、人間の世界の常識は勿論、子育てには疎いのだ。
(本当にどこで覚えてきたんだか)
幼子が礼状とお返しを用意するなんて聞いたことない。
それも世話になっている養父の交友関係を気遣ってやっているなんて。
(一抹の不安を感じるのは俺だけか?)
何せ人間嫌いの蒼黒龍、人の輪に入ろうとしないアデルバードを、
ユリアは幼子ながらにとてもとても心配しているようだ。
本当にどちらが保護者か分からないではないか。
だからユリアは、今日も今日とて王都の中心でお友達探しの為に叫んだ。
「(だれかーアデル様のお友達になってあげてえええっ!)」
……っと、ラミルスの腕から傍の窓に飛び移り、外に向かって叫ぶユリア。
話しているのは猫語だから通用するのは、獣人ぐらいなものだろうが。
「わわっ、ユリア危ないから止めろって」
「みいいい、みいいいい~!(アデル様がぼっちなうで、ひきこもりになっちゃう~!)」
「ほらほら、良い子にしてなさい。アデルバードが来てくれるから」
(ユリアがこんなに必死なのは、親元から引き離されているせいかな……?)
そういう子供は、子供らしからぬ行動をすることがあると聞くし、
ユリアがこうなってしまったのは、境遇もあるのかもしれない。
未だ本当の親は見つからず、もしかしたら乱獲されてしまい故郷はなくなっているのかも。
救いなのは、ユリアがその幼さゆえに怖い思いをした事を忘れている事だろう。
そう、ラミルスもそして周りの誰もが、ユリアはまだ幼女だと信じていた。
実際は中身が18歳の人間の少女だったというのはユリア自身も隠している。
いや、ユリアが主張した所できっと誰も信じてはくれないのだろうが。
……本人もちょくちょく、その事を忘れているのも原因ではあるけれども。
「ユリア、部屋で大人しく遊んだらどうだ?」
ユリアのような獣人にとって、外は外敵だらけだ。
それも人間という天敵の中で生活している以上、危険な事も多い、
ユリアにはどうか怖い思いをせず、無事に過ごして欲しいと思っているのだが。
「みい、みいみい(だめなのです。アデル様のお友達を作りに行ってあげないと)」
だが、ユリアはアデル様のお友達作りにがぜんやる気だった。
ぼっちなう反対。それというのも理由がある。
(みんな、お友達になってくれるって言っていたのに、ウソつきなんだもん)
そう、ユリアはこれまで、何度かお友達になってくれそうな人達には会っている。
お屋敷にも優しそうな人を見つけては招いていた。
騎士団のお兄さん達も一度は、お友達になってあげると言ってくれたのだけれど、
それが「アデルの」となると、皆は顔を青ざめて断られてしまうのだ。
みんなはユリアの友達として勘違いしていたので、「騎士団長の友」と知ると、
「自分なんかじゃ、とてもとても……」と全力で断られてしまうのだった。
(何がいけないのかな……?)
「アデルバードの友達だったら俺がなってやっているだろ?」
「みい、だめなの、だめなの」
確かにラミルスはアデルバードの数少ない友の一人だ。
その話を知った時にはユリアも「ありがとうございます」と目に涙を浮かべて、
彼の指を両手できゅっと握りしめ、お礼を言っていたのだが……。
「(ラミスさんは龍族のお友達なんだもの、人間のお友達が欲しいの~)」
そう、結理亜としての記憶が蘇った時に思い出したのだ。
彼が紅炎龍という、龍のお兄さんだという事を。
ユリアが欲しがっているのは人間のお友達、更に欲を言えば女の子がいい。
黒い噂が付き物の彼に、普通の女の子が仲良く接してくれたら、
きっときっと彼を悪く言う人も少なくなるんじゃないかとか、
野生育ちなのに、半ひきこもり状態になってしまうアデル様に、
お外へ連れ出して、ここでの暮らしの楽しみを教えてくれたりするんじゃないかとか、
そんなささやかな願いを持っていたのである。
「みにゃああん、みいみいなああん。
(シャイでデリケートなアデル様の為に、人間のお友達を作ってあげたいのです)」
「シャ、シャイなのかあいつは……鋼鉄の心臓を持っていると思うんだが。
でもなあ、本人は余り気にしてないようだぞ。ユリア、
……と、噂をすればだ。ほら、保護者が迎えに来てくれたぞ?」
「み?」
「ユリア!」
ユリアが振り返ると、こちらへ駆け寄ってくるアデルの姿がある。
あ、まずい見つかった!と慌てたユリアは、じたばたとラミルスから逃れようとするが、
かのラミルスによって、ぽいっとすぐさまアデルバードの腕の中にと投げられてしまう。
そのまま、ぽすんとアデルバードに受け止められてしまった。
「みにゃああんっ!」
「はあ、よかった……怪我はないな?」
なでなで、すりすり、くんくんと匂いまで嗅がれて娘の無事を確認する保護者。
傍から見れば溺愛を通り越して、変態のレベルの域かも知れないが、
彼はいたって真面目に子供の安全を確認しているのである。
「みぎゃああ!?」
腕の中でユリアが悲鳴を上げているが、ここは黙って静観しておこうと、
ラミルスと部下数名は判断し、数歩下がった所で見守っていた。
騎士団長の親ばかっぷりに、少々ドン引きしていたのはここだけの話しだ。
「ああ、探したぞユリア、怪我がなくて本当に良かった。
頼むからもう俺の傍から離れないでくれ、ユリアは人懐こい性格だが、
怖い目に遭う可能性もあるんだからな。君が辛い目に遭ったら俺は辛い」
「みい~……」
「それにユリア、無理に友人を作ろうとしてくれなくていい。
俺はユリアのお陰で、今はずいぶんと賑やかだからな」
「み?」
ぼっちなうではなく、私が居るから寂しくないと、
そう言ってくれるアデル様に、ユリアはようやく大人しくなった。
恩返しをしたいと言う願いが消えた訳じゃないけれども、
とりあえず今日は、大人しくしておこうと考えたユリアだった。
「世話を掛けたなラミルス、他の者にも労ってやってくれ」
「ほいほいっと、今度何かおごれよな」
「ああ」
執務室へと帰る道すがら、ユリアは考えました。
腕の中にある封筒の束、もしも自分が人間の女の子の姿でこの世界に来たのなら、
もっとアデル様の為に役立てたのではないか、周りの反応も違ったのではないかと。
ううん、むしろアデル様の傍でお仕えするだけでも、
イメージアップには繋がったのではないかと。
(なんで私は、この姿でここに居るんだろう?)
ふと思い出した以前の自分、結理亜という名の人間の女の子であった頃の記憶。
生まれ変わったという訳ではないのは確かなのに、この原因が分からない。
けれど、それでも助けてくれたご主人様の為に何かしてあげたいと思うのだ。
やがて、アデル様に頭をなでられて、その事をすっかり忘れてしまい、
元の日常へと戻っていくユリアの姿があった。
……そして気づけば手紙の束は、保護者によって取り上げられていたのだった。




