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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
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 02 -合宿-


 02 -合宿-


 スラセラート学園内で寮の改装が始まった頃

 葉瑠はドイツへ向かう飛行機の中にいた。

 飛行機は海上都市とドイツとを結ぶ直通便で、大きさはそれほど大きくない。

 私でもジャンプすれば天井に頭がついてしまうくらいの小型便だ。

 何故この小型便に乗っているのかというと、リヴィオくんにキルヒアイゼンに招待されたからだ。

 ドルトムントにあるキルヒアイゼン実験施設には最新鋭の訓練設備が揃っており、それらをほぼ貸し切りで使えると聞き、葉瑠や他の訓練生がその話に飛びついたというわけである。

 いわゆる合宿である。

 現在機内にいるのは葉瑠、結賀、リヴィオ、そしてクローデルにドナイトにアハト、そして教官代理としてイリエ教官が同伴してくれている。

 本当はスーニャやアルフレッド教官にも来てもらいたかったのだが、スーニャは半ば強引に実家に帰させられ、アルフレッド教官も祖国の情勢が気になってか、今回の合宿には参加できないと言われてしまった。

 乗客はその7名だけで、それぞれが周りを気にすることなく談話していた。

「それにしても、あの時の連携は驚くほど上手くいったよな」

「あれは連携っつーかオレの作戦がうまくハマっただけだろ」

 リヴィオと結賀は骸骨のVFを倒した時のことを話しているようだった。

 直接見たわけではないが、うまく連携して鎖で機体を捕縛したらしい。

 格上の相手を捕獲したとなると、二人の連携はばっちりだったみたいだ。

「でも、まさかあれがカヤだったなんてな……」

「カヤ……名前を聞いただけでムカついてくる……」

 結賀はあまり多くを語りたくないようで、早々に話題を変える。

「……それより、向こうでどうするか今のうちに決めておこうぜ」

「そうだな。一分たりとも時間を無駄にはできないからな」

 ここで葉瑠も話に混ざる。

「設備が揃ってるとは聞いてるけど、実際どんなのがあるの?」

 リヴィオは目線を上に向ける。

「えーと……まずVF用のシューティングレンジがあるだろ。あと格闘テスト用のバトルエリアが3つに、走行試験や出力検査のためのトラックもあるし……あ、もちろんシミュレータも完備してるぞ」

「おお……」

 話だけ聞くとスラセラートより充実しているように思える。流石はキルヒアイゼン社だ。

「もちろん実戦訓練するんだよな? となると組み合わせも考えとかないとな」

 結賀の言葉に、葉瑠とリヴィオは背後の席を見る。

 背後には体の小さなアハトくんと筋骨隆々のドナイトくんと相変わらず携帯端末を弄っているクローデルくん、そして短髪の赤髪が目立つイリエ教官の姿があった。

 男子3人組は仲良く固まって座っていたが、イリエ教官だけが離れた場所で一人目を閉じてヘッドフォンを付けていた。

 結賀は勝手に4人を評価していく。

「……イリエ教官は良い訓練相手になるのは確定として、アハトとドナイトは結構ランキング高かったから葉瑠の相手にちょうどいいと思うけど……クローデルは微妙だよな」

「そうだね……」

 葉瑠も概ね結賀の意見に同意だった。クローデル君の操作技術は、一応スラセラートに入学できるレベルにはあるのだが、みんなと比べると低い。ランキング戦にもほとんど参加していないし、シミュレーションでも散弾銃以外の武器を使っているところを見たことがない。

「ん? どうかしたか?」

 こちらの視線に気付いたようで、クローデル君は席を立って近づいてきた。

「いや、練習のことで組み合わせを考えてたんだけれど、奇数だしどうしようかなって……」

 どう説明したらいいものか悩んでいた葉瑠だったが、向こうから意外な提案があった。

「それなら心配いらないぞ。俺は訓練には参加しないから」

「え?」

 きょとんとする葉瑠に、クローデルは言葉を続ける。

「お前らには言ってなかったかもしれないけれど、実は俺、オペレーターに鞍替えすることにしたんだ」

「オペレーターって……?」

「情報解析分析なんかが主な役目だな。代替戦争の時は全く要らない存在だったけど、本当の戦闘になれば必要になる。俺達の情報が勝敗のカギを握るって言っても過言じゃないぞ」

「じゃあ、ランナーは諦めたのか……」

「諦めるも何も、元から俺は対戦を観るのが好きだし、分析するのも得意だからな。我ながら良い決断をしたと思ってるんだよ」

 クローデルは「あ、そうだ」と手のひらを叩く。

「せっかくだし、お前らの癖から何から熟知してる俺がトレーニングメニューを組んでやろうか? 個人で考えるよりも効率的にトレーニングできると思うぞ」

 この提案に食いついたのはリヴィオだった。

「そりゃいいな。到着まで暇だし、飛んでる間に考えちまおうぜ」

「賛成ー」

 結賀も葉瑠もクローデルの提案に賛同した。

 その後の数時間、葉瑠達はクローデル主導の元トレーニングメニューを考えていた。



 空港に到着し、車で移動すること40分

 葉瑠達はリヴィオの実家に訪れていた。

 家の外観は豪華の一言に尽きる。敷地の入口には大きな門があり、そこから広い庭が玄関まで続いている。

 家自体は2階建てで、直方体と立方体を組み合わせたようなデザインだ。外壁は黒く、そこはかとなく高級感が漂っている。

 家から少し離れた場所にはガレージがあり、そこには車が何台も並んでいた。

 キルヒアイゼン家はお金持ちだとは聞いていたが、まさかここまでリヴィオがお坊ちゃんだったとは思っていなかった。

 ちなみに、家の場所はキルヒアイゼンの施設から1kmほど離れた場所だ。

 本社とは結構離れた場所にあり、リヴィオの両親はその本社で研究開発職に就いているということでほとんど家には帰らないらしい。

 これから1週間ほどこの家のお世話になる予定だ。

 葉瑠と結賀は2階奥のゲストルームで早速荷解きをしていた。

「思った以上に凄かったね、リヴィオくんの家」

「ああ、笑っちゃうくらいすげーな」

 ゲストルームはほとんど物がない。長らく誰も使っていなかったのだろうが、定期的に掃除はしているのか、汚れは全く無かった。

 荷解きをし終えた葉瑠は早速制服から普段着に着替え始める。

「訓練メニューも決まったことだし、これから一週間楽しみだね」

「だな。実機で訓練なんて滅茶苦茶金が掛かりそうなのに、よくできるよな」

「一応データ採取の手伝いってことで訓練するらしいから……テストランナーって感じかな」

「それじゃ、使う機体もキルヒアイゼン製のVFなのか?」

「勿論そうだと思う。キルヒアイゼンの量産機って言うと……アルブレンになるのかな……」

 喋りながら葉瑠はTシャツにジーンズというラフな格好に着替える。

 結賀は制服を脱いだ状態でカバンの中身をひっくり返し、ホットパンツとタンクトップを手に取ると、数秒ほどで着替え終えてしまった。

「じゃ、一階のリビングに行こっか?」

「おう」

 二人はお互いの身だしなみを軽くチェックした後、廊下に出る。

 と、ほぼ同じタイミングで隣の部屋からイリエも出てきた。

「イリエ教官……ジャージですか?」

 部屋から出てきたイリエは上下とも灰色のジャージに身を包んでいた。

 ジャージ自体はスポーツブランドの良品だったので違和感はなかったが、これからロードワークに出そうな雰囲気を醸し出していた。

 イリエ教官は短い赤髪を手櫛で撫で付け、不服そうに葉瑠に言い返す。

「ジャージじゃだめなんですか?」

「いえ、そういうわけじゃないですけれど……」

「今日はもう夕食を食べて寝るだけです。変に気を張ることもないでしょう」

「そうですね……」

 イリエ教官は自信たっぷりに告げると、先に階下へ行ってしまった。

「オレもジャージにしたほうが良かったかな……」

「駄目、それだけは駄目だよ結賀……」

 これが女子同士なら問題ないが、仮にも男子たちの目に触れるのだ。それなりの格好で過ごすのは礼儀というものだ。

 結賀の場合は露出が少し高めかもしれないが、似合っているので問題無いだろう。

「私達もいこっか」

「そうだな、腹減ってしかたねーよ」

 葉瑠たちもイリエに続き階下へ降りることにした。



「よう、やっと降りてきたか」

 リビングに降りると、既に男子四人が夕食を始めていた。

 リビングは木のフローリングが大半を占めており、中央の壁際には現代風の暖炉があった。

 奥側にはL字型のソファが鎮座しており、ソファに囲まれるようにガラス製のローテーブルが設置されていた。

 ローテブルの上にはファストフードがずらりと並び、男子たちは手づかみでピザやサンドイッチをむしゃむしゃと食べていた。

 夕食と聞いてコース料理的な物を想像していたが、親もお手伝いさんもいないこの状況で準備できる夕食といえば限られている。ファストフードでも仕方がない。

 イリエ教官は既にリビングに降りていたが、キッチンカウンターに座り、一人で水を飲んでいた。彼らに混じってジャンクフードを摂取するつもりはさらさら無いようだ。

「お、うまそー」

 結賀は特にそんなことを気にすることなく男子たちに混じり、ピザを一切れ取ってソファに腰を落とした。

 葉瑠はイリエと結賀の間で少し迷ったが、結局食欲に負けてしまい、結賀の隣に腰を下ろした。

 結賀と同じピザを手に取り、口へ運ぶ。

 チーズの濃厚な味が、香りが口いっぱいに広がる。

(おいしい……)

 やはり高カロリーなものは美味しい。体によくないと頭で分かっていてももっと食べたくなるから不思議だ。

「部屋は大丈夫そうだったか?」

 リヴィオに問われ、葉瑠は口元を隠しながら応じる。

「うん。長い間使ってないって言ってたけど綺麗だったよ。ベッドもホテル並みにふかふかだったし」

「そりゃ良かった。イリエ教官もあの部屋で大丈夫ですか?」

「はい、問題無いですよ」

 キッチンカウンターからの返事に、リヴィオは安堵の表情を浮かべた。

「はあ、俺たち男はこのソファで雑魚寝……差別だよなあ」

 クローデルの不満の声に、リヴィオはぶっきらぼうに応じる。

「何だよ、仕方ねーだろ。親の寝室に入れるわけにもいかねーし、俺の部屋はお前らが嫌だって言ったんだぞ」

「リヴィオの部屋は凄かったな……」

「うん、あれは無理……」

 ドナイトとアハトの物言いに、葉瑠は興味を持たざるを得なかった。

 何がすごくて何が無理なのか、興味がある。が、おいそれと質問できるものでもない。

 しかし、結賀は簡単に言ってのけた。

「リヴィオの部屋、どうなってんだ? 見に行ってもいいか?」

「駄目だ」

 きっぱり拒絶するリヴィオを見て、結賀はにやりと笑う。

「なんだ~? もしかしてエロ本が散乱してたり……」

 結賀の下品なセリフに、男子たちは口々に感想を述べながら首を左右に振る。

「そんなレベルじゃない」

「あれは僕でもドン引きだよ……」

「あれをどうやって室内に入れたのか……謎だな」

 謎は深まるばかりである。

 ……結局謎を残したまま夕食は終わり、女性陣は寝室に戻っていく。

「それじゃ、明日は午前九時に玄関前に集合ってことで。いいな?」

「おっけー」

「了解」

 結賀と葉瑠の返事を確認した後、リヴィオは視線をイリエに向ける。

「イリエ教官も、よろしくお願いします」

「九時ですね。わかりました」

 イリエ教官はグラスをぐいっと飲み干すと、椅子から離れて二階へと消えていった。

「それじゃおやすみ」

「お前ら、夜更かしすんなよ」

 葉瑠と結賀も最後にそう言い残し、二階へと移動した。

 ゲストルームに戻ると、葉瑠と結賀共にベッドに倒れ込んだ。

「どんな部屋なんだろうな……」

「そんなに気になる?」

「気になるだろ」

 まあ、あれだけ勿体ぶられて気にならない人間はいないだろう。が、やはりプライバシーというものがあるのだし、ここはそっとしておくのが吉だ。

 葉瑠はそう思っていたが、結賀はそうではない様子だった。

「この際だ。こっそり見に行ってやろうか……」

 しつこい結賀の態度に、葉瑠はふと思ったことを呟く。

「もしかして結賀、部屋よりリヴィオくんの方が気になってるんじゃ……」

「ちげーよ。勘違いしてんじゃねーぞ」

 即座に否定のセリフと軽い蹴りが飛んできた。何だか怪しい。

「そうなんだ……へー……」

「コイツ……誂ってんのか」

 結賀は追加で腰のあたりを優しく蹴り、溜息をつく。

「……ま、前より仲良くなったのは間違いないけどな。コンビネーションも上手くいったし、あいつはやっぱり強いよ」

「……」

 結賀が誰かのことを、しかも異性をここまで褒めるなんて珍しい。

 やはり気があるのだろうか。

 リヴィオくんはああ見えて結構イケメンだし、ヴィジュアル的に結賀とも十分釣り合う。ボーイフレンドにするには申し分ない。

 二人が懇意になってくれれば私としてもやりやすい。是非ともくっついて欲しいものだ。

 が、流石に本人を前にしてこんなことを言えるわけもなく、葉瑠は寝返りをうつ。

「なんか、お腹いっぱい食べたせいかな、急に眠たくなってきた……」

「オレも……」

 それ以降会話は途絶え、二人は中途半端な恰好なまま深い眠りに落ちた。



 翌朝、リヴィオ家を出た一行はキルヒアイゼンのドルトムント支部へ向かい、30分後には玄関前に到着していた。

 車から出て第一声を発したのは結賀だった。

「でけぇ……」

 ドルトムント支部の敷地はリヴィオ家が犬小屋に思えるほど広かった。

 この支部は大きく分けて2つの役割をになっている。

 まず第一が生産ラインだ。

 キルヒアイゼン製のVFやパーツはこのドルトムント工場で生産されている。セブンが代替戦争を始めてからはVFの循環器とも言える内装系部品の生産が主だが、全盛期はそれこそオリジナルVFから特殊パーツまで、幅広く取り扱っていたらしい。

 そして第二の役割が性能試験場だ。

 生産したパーツなどを実際に動作させ、基準に達しているかを試験するための場所だ。

 試験場の広さはスラセラートの演習場ほどだが、何もないスラセラートとは違って射撃場や衝突実験場、巨大な風洞などがある。もちろん、格闘を試すためのフラットなエリアもある。

 内装系が主な今は殆ど使われていない。そのため、今回はほぼ貸し切りで試験場で訓練ができるというわけだ。

「――遅かったじゃないか、リヴィオ」

 入り口でみんなして広大な敷地を眺めていると、高そうなスーツに身を包んだ中年の男が近づいてきた。

 リヴィオはいち早く彼に反応し、挨拶を返す。

「あ、お久しぶりです。今日はお世話になります」

 どうやら彼はリヴィオの知り合いで、ここの関係者らしい。

 短めの髪の下にはサングラスがあり、口元に細長いタバコを咥えていた。

 中年の男はスーツをはためかせながら大股で歩き、こちらに近づいてくる。スーツはシックな色の中に灰のラインが入ったデザインで、彼によく似合っていた。

 腕には高そうな腕時計が巻かれ、革靴もブランド品のようだ。

 とにかく、ナイスミドルな雰囲気の男性だった。

 気さくに話しかけてきた中年の男を見つつ、結賀はリヴィオに問う。

「誰だ?」

 リヴィオは中年の男に背を向け、背後の結賀に小声で告げる。

「ここの支部長のクリストフ・キルヒアイゼンさんだ。……ちゃんと挨拶しとけよ」

 その声は全員に伝わり、全員がその中年の男……クリストフを二度見した。

 支部長ということは、このドルトムント支部で一番偉い人ということになる。

 イメージではもっとお堅い感じの人かと思っていたのに、目の前にいるのはリゾート地でよく見かけるような遊び人風の中年男だ。

 声は彼にも届いたようで、クリストフはバシバシとリヴィオの肩を叩く。

「堅っ苦しいなあリヴィオ。私のことは伯父さんと呼んでくれて構わないといっているだろう?」

「はい……伯父さん」

「それでいい。いやあ、それにしてもちょっと見ない間に大きくなったな」

 会話から察するに、彼とリヴィオは親類関係にあるようだ。

 キルヒアイゼンの関係者だとは知っていたが、まさか支部長さんと知り合いだとは思いもしなかった。やはりリヴィオは本物のセレブなのだ。

 そもそも、シンギ教官に稽古をつけてもらっていた時点でセレブだし、こんな施設をタダで使わせてもらえる時点でセレブだ。

 リヴィオに対する認識を新たにしていると敷地内からワンボックスカーが現れた。

 ワンボックスカーはクリストフ支部長の背後に止まり、中から作業服に身を包んだ男が出てきた。

「スラセラートの学生さん達ですね? お待ちしていました。どうぞお乗り下さい」

 敷地内移動用の車のようだ。

 葉瑠達は作業員に言われるがままワンボックスカーの中へ入っていく。

 その様子を見て、クリストフ支部長は建物内へ戻っていく。

「リヴィオ、テストしてもらいたい項目についてはまた後で連絡する。今日は遠慮なく設備を使うといい」

「はい、ありがとうございます」

 クリストフ支部長は軽く手を振り、背を向けて行ってしまった。

 そのタイミングで車も動き出し、一行は性能試験場へ向かって移動し始めた。



 性能試験場へ移動し、準備を済ませた一行は早速VFに搭乗していた。

 コックピット内、キルヒアイゼンの銘の入ったランナースーツに身を包んだ葉瑠は、新品同然のコンソール類を触りながら機体名称を呟く。

「やっぱりアルブレンだったか……」

 キルヒアイゼン社製ハイエンドVF『アルブレン』

 世界がまだセブンの管理下になかった時代、民間軍事会社CE(カーディナル・エッジ)社と共同開発したVFだ。

 外観はスマートの一言に尽きる。

 メンテナンスのしやすさ、戦地までの空輸のしやすさ、拡張性の高さが売りで、このVFを遠隔操作して作戦に参加し、CE社は業界でナンバーワンの信頼を得た。

 CEが参加した戦闘の作戦成功率は異常に高かった。如何にアルブレンが名機だったかということがよく分かる。

 現在は内装系のチェックや武器動作の確認のためにしか使われていないが、これからの時代、需要が出てくるかもしれない。

「なにか言ったか? 葉瑠」

「なんでもない」

 通信機から聞こえてきた結賀の声に葉瑠は気を取り直し、アルブレンのメインカメラ越しに前を見る。

 場所はシューティングレンジ、前方には円形の的がずらりと並んでいた。

 今度は通信機からではなく、外からクローデルの声が響く。

「取り敢えず今日は全員の基礎スキルを再確認するぞ。射撃や近接武器の熟練度は戦闘能力に直結するからな」

 クローデルの声に、メンバーたちは「おう」や「わかった」などと口々に返事をする。

 現在シューティングレンジに横並びになっているのは左側からリヴィオ、結賀、葉瑠、そしてドナイトとアハトだ。

 クローデルとイリエは後方のバンカー内にいる。

 この二人で訓練を監督することになっている。

 イリエ教官も訓練に参加するかとおもいきや、監督するだけで十分らしい。ランナーとしてはVFを操縦したい欲望はあると思うのだが……彼女が不参加を表明した以上、強制することはできない。

 そんなこんなで射撃訓練が始まり、それぞれが思い思いのタイミングでトリガーを引き始めた。

 使用している銃器はもちろんキルヒアイゼン社製の汎用ライフルだ。

 ライフルの市場は七宮重工とハルヘル(HAL&HEL)が大半のシェアを占めているので、あまりお目にかかることのないライフルだ。と言うかカタログでしか見たことがない。実物を見るのは初めてだ。

 ライフルの形状は少し丸みを帯びたデザインだが、銃身の長さはそれなりにある。アルブレンのアームの形状と実にマッチしており、アルブレンに限って言えば取り回しの良さは抜群だろう。

 葉瑠はライフルとターゲットを交互に見ながらトリガーをタイミングよく引いていく。

 トリガーを絞る度に軽快な破裂音がし、ターゲットに丸い穴が開いていく。

 しばらく銃声が連続して響き、1マガジン打ち終えると再びクローデルの声が響いた。

「そこまで。すぐに命中率を出すからな」

 葉瑠は両隣のターゲットと自分のターゲットを見比べる。

 ……自分の方が穴の数が少ない気がする。

 その不安は的中した。

「流石だな、リヴィオと結賀は100%で集弾率もいい。ドナイトは92で、アハトは90だ。葉瑠は……」

 少し間を置いて、葉瑠の数値が告げられる。

「60%だ。ほとんど中心から逸れてるぞ。真面目にやってるのか?」

「まじめにやってるよ……」

 射撃管制AIも機能していない、手動補正で射撃を行えばこんなものである。むしろまともな射撃訓練も受けていないのに6割も命中したことを褒めて欲しいくらいだ。

「じゃ、2回目いくぞ」

 ターゲットが更新され、全員ライフルに新しいマガジンを装填していく。

 葉瑠もマガジンを新しいものに替え、ボルトを引いてチャンバーに弾丸を装填する。

「……」

 すぐに2回目の射撃が始まったが、葉瑠の気持ちは暗いままだった。

 ……射撃が終わった後も様々な基礎テストが行われたが、葉瑠の結果は散々たるものだった。武器もブレード以外はまともに扱えず、徒競走でもバランスが上手く取れず転倒。武器を使わない組み手でも全員に負けるという失態を晒した。

 全てのテストを終え、葉瑠はVFを降りて休憩室のベンチで溜息を吐いていた。

「はあ……」

 学園ランキング35位が聞いて呆れる結果だ。

 如何に自分がAIに操作を頼っていたかがよく理解できる。というか、みんな手動操作でよくあそこまで動かせるものだ。センスが良いのは当たり前として、やはりVFに乗って訓練してきた時間が桁違いなのだろう。

 自分がVFに乗り始めたのは1年とちょっと前。だが、リヴィオくんや結賀のVF操作歴は軽く10年を超える。

 敵うはずがない……と言ってしまえば楽だが、やはりちょっと悔しい。

 所詮私は小手先の技術や有利な武器でのし上がってきた、邪道的なランナーなのだろうか。

「はあ……」

「そんなに落ち込むなよ」

 2度目の溜息を吐いていると、休憩室内にリヴィオが入ってきた。

 リヴィオはスポーツドリンクをこちらに投げて渡す。

「ほら」

「ありが……うっ」

 葉瑠は上手くそれをキャッチできず、ジュース缶は額に命中してしまった。

 ごつん、と衝撃が頭部に走り、葉瑠は額を押さえてうずくまる。

 ……こんなものも上手く取れない。自分の運動神経を呪うばかりだ。

「悪い、痛かったか!?」

「痛いけど大丈夫。悪いのは取れなかった私の方だから……」

 額を押さえる葉瑠にリヴィオが駆け寄る。

 リヴィオは優しく葉瑠の手をのけ、額を見る。額には缶の痕が薄っすらと残っていた。

 大事ではないことを確認すると、リヴィオは落ちた缶を拾い上げて改めて葉瑠に手渡す。

 葉瑠は冷たい缶を受け取ると、早速額を冷やすべく頭にあてがった。

「今日は調子悪かったみたいだな」

 そう言いながらリヴィオは隣に座る。彼なりに私のことを心配してくれているみたいだ。

「調子悪いも何も、あれが元々の私の実力だよ……」

「でも、葉瑠がドナイトやアハトより強いのは間違いないんだ。基礎テストの結果くらいで落ち込むなよ、な?」

「うん……」

 ここまで慰めてくれているのだ。これ以上落ち込んでいるところを見せて心配を掛けるのは駄目だ。

 葉瑠は無理やり笑顔を作り、リヴィオに向ける。

「ありがと。まだ6日もあるんだし、悪いところは訓練で改善していけばいいよね」

「おう、その通りだ。クローデルのメニュー通りやればレベルアップ間違い無しだ」

「そうだね、ふふ……」

 何だか本当に元気が出てきた。やっぱりリヴィオくんはいい人だ。

 葉瑠はジュース缶を開け、中身を飲む。

「そういえば、みんなは?」

 リヴィオは銀の短髪を掻き上げ、呆れ顔で答える。

「あいつらはクリストフ支部長の案内で工場内を見学してる。……たかが見学がそんなに楽しいもんかねえ」

「リヴィオくんは小さい頃から見てるからそう思うだけで、私達からしてみれば大企業の工場はすごく珍しいよ」

 こんな施設が一般公開されているわけではないのだ。ランナーの彼らが興味を持たないわけがない。

 支部長の名前が出たことで、葉瑠は思っていたことを口にする。

「……それにしても支部長さん、よくこんな設備を使わせてくれたよね」

 葉瑠の何気ない一言に対し、リヴィオは頬を指先で掻く。

「その件だけど……クリストフさん、今回の訓練データを兵器開発に有効利用するつもりらしい。それに、明日からは訓練の合間に向こうからテスト項目がオーダーされることになってる。実はあっちにもかなりの得があるってわけだ」

「なるほど……」

 テストランナーを雇うにもお金がかかる。スラセラート学園の上位ランナー6名を1週間もデータを取れるのだ。場所を貸すくらいなんてことはないのだろう。

 葉瑠はドリンクを飲み干し、リヴィオに礼を言う。

「ジュースありがとうリヴィオくん」

「礼なんていらねーよ。それタダで配ってるやつだし」

「ううん、ありがとう。私のテスト結果散々だったから慰めに来てくれたんだよね」

「……」

 リヴィオは葉瑠から顔を背け、ベンチから立ち上がる。

「また、なんか困ったことがあったら言えよ。力になるから」

「うん」

「……じゃあな」

 その後、リヴィオは早足で休憩室を出て行ってしまった。

(頑張らないと……)

 強くなって宏人さんに認めてもらうのだ。

(宏人さん……)

 宏人さんがURの首謀者と知って複雑な心境だが、宏人さんは世界の平和を目指して活動している。その言葉を信じて今は操作技術の向上に精進しよう。

 改めてそう心に決めた葉瑠だった。

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