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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
 4 漆黒の双刃
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 20 -思慕の力-


 20 -思慕の力-


 所変わって学園内、1階に位置する医務室にて

 結賀はルーメと共に簡易ベッドの上で横になっていた。

 結賀に目立った外傷は無い。単に気持ちの問題だ。タオルケットを肩まで掛けてぼんやりとした目で天井を見つめている。

 結賀と対象的に、ルーメは体中包帯やら固定具だらけで、施術のため、ランナースーツも所々切り取られていた。

 特に両足はひどいようで、ガッチリとギプスで固定されていた。

 医務室には他にもリリメリアがいて、彼女はリクライニングチェアに座り、基本読書をしていた。また、定期的にルーメや結賀のバイタルをチェックしていた。

 3名ともこの十数時間何も喋らずにいたのだが、外から聞こえた大きな音をきっかけに会話し始める。

「戦闘、始まったみたいですね……」

 まず口火を切ったのはリリメリアだった。

 リリメリアは白衣をはためかせながら結賀のベッド脇まで移動し、肩を揺する。

「結賀さん、今からでも避難したほうがいいんじゃありません?」

 結賀も久方ぶりに声を出して言い返す。

「……リリ先生こそ避難しろよ」

「私は逃げません。怪我人が来る可能性がありますし」

「なんでだよ……」

 結賀はリリメリアを正面から見る。

 イエローのふわふわとした髪、質量のあるそれは肩口から流れてベッドまで到達している。綺麗に整った顔、表情は穏やかで自信に満ちている。鳶色の瞳からも恐怖の類の感情が全く読み取れなかった。

 この人は死ぬのが怖くないのだろうか。

 疑問は言葉となって結賀の口から漏れる。

「……なんで、VFも操作できない、武器もまともに使えないリリ先生が、どうして残れるんだよ。怖く、ないのかよ……」

「怖くないわけないじゃない」

 リリメリアは結賀の肩をつかむ。その手は少し震えていた。

「でも、これは私にしかできないことだから。だから、逃げるわけにはいかないの。私は、シンギさんが作り上げたこの場所を、守りたいから……」

 仲間を信じ、自分の役割を果たす……。並大抵の覚悟ではできないことだ。

 話を聞いていたルーメも混ざってきた。

「怖くて当たり前。怖い中でどれだけ踏ん張れたかで人の価値が分かるってものよ」

 肘をついて体を浮かせ、結賀に声を掛ける。

「……結賀、あなたにもできることがあるんじゃない?」

「……」

 心当たりがあり、結賀は息を詰まらせる。

 こんな所でうじうじしている暇があったら、みんなと同じく防衛でもしたほうが良いに決まっている。が、体が動かないのだ。

 体が重い。だるい。熱っぽい。ふらふらする。

 気合の問題かと言われればそうかもしれないが、これはれっきとした身体異常だ。

 戦闘中に目眩をおこして行動不能になる可能性もあるのに、戦えるわけがない。

 自分で言い訳をしている間にも、ルーメは言葉を連ねていく。

「こんな所で横になって、イジイジしている暇なんてないんじゃない?」

「ルーメ教官は、オレに今すぐ戦いに行けって言いたいんですか」

「まあ、そういうことかしらね」

 そんなことは重々承知だ。

 もどかしい気持ちは、荒立った言葉になり、結賀の口から飛び出す。

「簡単に言うけどよ、これ、マジモンの殺し合いなんだぞ? ランキング戦とも代替戦争とも違う、負けたらその時点で死んじまうんだぞ!? オレは絶対戦わないからな……」

 結賀の迫力のあるセリフに負けることなく、ルーメは鋭いツッコミをいれる。

「じゃあどうして避難しなかったの?」

「!!」

 痛いところを突かれ、結賀は押し黙ってしまう。

 しばらくの沈黙の後、部屋に静かな声が響き渡る。

「……結賀さん、私、あなたのことを見損なったかもしれません」

 意外なことに、リリメリアが口を挟んできた。

 リリメリアは先程とは打って変わって辛辣な言葉を結賀に告げる。

「この20時間、ずっとあなたを見てましたけれど……何も喋らずじっとしていただけ。じっとして物憂げにしていれば誰か手を差し伸べてくれるとでも思ったんですか? 中途半端もいい加減にしてください。ランキング13位が聞いて呆れます……」

「オレは……」

「姉を誘拐されて、心配で胸がはちきれそうで、ほとんど事情を知らなくて、状況を飲み込めず混乱していて、本物の戦闘を経験したことがなくて、死の危険に怯えて動けない……」

 リリメリアは結賀の心情を淡々と述べた後、皮肉っぽく笑う。

「そうね、普通の女の子なら泣きわめいて助けを求めているでしょうね。でも、何もしないでベッドで蹲ってるあなたは普通以下よ」

 ここまで言われて言い返さずにはいられない。

 しかも相手はランナーでも何でもないただの校医だ。

 ずっと学園内でのんびり仕事をしている彼女に、私の辛さが分かるわけがない。

 結賀は寝た状態で手を伸ばし、リリメリアの白衣の襟をぐわしと掴む。

「ああ、そうさ!! オレは死ぬのが怖い臆病者だ。それの何がいけないんだよ!!」

 結賀は襟を一旦離すとベッドから跳ね起き、よろめいているリリメリアの両腕を掴んで薬品棚に押し付けた。

 衝撃で棚の中の薬品瓶が少し倒れ、カチャカチャと音を立てる。

 結賀は彼女の柔らかい腕を強く握り、言葉を続ける。

「ぬくぬくと育てられた箱入りのお嬢様が、偉そうなこと言ってんじゃねーよ!!」

「……誰が箱入りですって?」

 結賀の言葉に、先程まで狼狽えていたリリメリアの目つきが変わる。

 ……彼女に似合わない、キリッとした精悍な顔つき。

 その珍しい表情に驚く間もなく、リリメリアは結賀の腕を掴み返すと外側へ回し、束縛から逃れた。

「えっ?」

 リリメリアはすかさず姿勢を低くすると、続いて両掌を結賀の腹部に押し当て、若干下から持ち上げるように突き出し、結賀を押し飛ばした。

「わっ!?」

 ろくに反撃もできないまま結賀は背後に押し飛ばされ、ベッドの上に仰向けに倒れてしまった。

「……」

 何が起きたか理解できず唖然としていると、リリメリアが襟元を正しながらベッドに近寄ってきた。

「今のは、シンギさんから教えてもらった護身術です。もし暴漢に襲われた時、すぐに逃げられるようにと……」

「暴漢って、今時そんな物騒な……」

 結賀の言葉を遮るように、リリメリアはベッドに腰掛ける。

 白衣から石鹸のいい香りが広がり、結賀は少しだけ落ち着くことができた。

 結賀が黙ると、リリメリアは静かに語り始める。

「私はロンドンのスラムで生まれて、そこで12歳まで過ごしました。毎日が生きるか死ぬかの生活。親はヤク漬け、食べるものも着るものもろくにない。喘息のせいで働くこともできない。薬も最低限しか使えない。あまりに苦しくて、盗みに加担したこともありました……」

 今の彼女からは想像もできない話だ。

 リリメリアは伏し目がちに続ける。

「でも、そんな生活からシンギが救ってくれたんです。シンギに出会っていなかったら、医学博士になんてなれなかったし、それどころかとうの昔に病気で死んでいました」

 リリメリアは一呼吸置き、決意を告げる。

「だから、私はシンギのためなら何が起ころうとも全力で立ち向かうつもり。死んでもこの場所からは離れない」

 それは確固たる決意だった。

 勝手に彼女のことをいい所のお嬢様かなにかと勘違いしていた自分が恥ずかしい。

 リリメリアに便乗する形でルーメも告げる。

「あなたも、URに捕まったお姉さんがいるんでしょう?」

「そうだけど……」

「危険な戦いをしろと言うつもりはないわ。でも、お姉さんのために、全力で立ち向かうべきじゃないの?」

「姉貴の……ため……」

 今学園内にはURのランナーが侵入している。彼らの内誰か一人でも倒せば、直接姉貴の居場所を聞き出せるかもしれない。

 誰かに任せている場合ではない。私が直接戦って、私が直接問い正せねばならない。

 そう思うと、途端に体の芯が熱くなってきた。

 その熱さは次第に腕や足にも伝わり、指先まで到達し、痺れ始める。

 私は愚かだった。姉貴を失うことに比べたら、この程度の事など取るに足らない事象だ。

 UR相手でも真っ向勝負できる自信があるし、生身でも立ち向かえる覚悟がある。

「いい目つきになってきたじゃない」

 ルーメに言われ、結賀は心を決めた。

「ルーメ教官、オレ……」

「わかってる。気をつけていってらっしゃい」

 ルーメは軽く微笑む。応じるように結賀はうなずいた。

 同時に結賀はベッドから跳ね起き、出口へ向かう。

「まずはラボに行きなさい!! 誰かがVFを用意してくれているはずだから!!」

「わかりました!!」

 ルーメのアドバイスを背後に聞きつつ、結賀は医務室を飛び出していった。

 静かになった医務室内、送り出したルーメはしみじみとした口調で呟く。

「若いっていいわね……」

「私達も十分若いわよ」

 苦笑し、リリメリアは不安げに出口を見つめる。

「でもあんなに焚きつけて大丈夫だったの? もしかしたら大怪我する可能性も……」

 ルーメは「かもね」と前置きし、窓の外に視線を向ける。

「でも、なんだか……応援せずにいられなかったのよ」

 ――後悔後先立たず

 やらぬ時にやらねば、一生後悔し続けることになるかもしれない。

 ルーメは結賀にそのような思いをさせたくなかったのかもしれない。

 ……怪我をして戻ってくることがないよう、祈る二人だった。



 スラセラート学園東、住居エリアの端にある芝生公園にて

 リヴィオは鎌を持つ骸骨のVF、ウィクレルと1対1で死闘を繰り広げていた。

(こいつ、やっぱり強い……!!)

 力量差はともかく、機体の性能がかなり違う。

 敵の鎌は上下左右、時には背後からもこちらの装甲にぶち当たり、不気味な音を響かせている。

 この強固な装甲、モルティングアーマーが無ければもう20回以上は破壊されているところだ。

 コックピット内、リヴィオの銀の短髪は汗でしっとり濡れ、蒼の双眸も充血していた。 攻撃なんてとんでもない、防御するだけで精一杯だ。

 ウィクレルは鎌を玩具のように軽く扱い、絶え間なく刃でリヴィオ機の装甲を着実に削っていく。

 リヴィオはその全ての動きを目で追えているのだが、機体の性能が低いこともあり、また、命のやり取りをしているという緊張感もあってか、上手く操作に集中できていなかった。

 鎌による攻撃は大振りだが、速度が半端無く速いので付け入るすきがない。せめて2機で攻めることができれば、勝機もあるのだが……唯一の頼りだったスーニャは早々にリタイアして今は海の上でプカプカ浮いている。

 助けもないこの状況で、ここからどう反撃していいのやら全く想像もできない。

 相手は刃だけでなく柄や石突も使い、こちらの体勢を崩すべく様々なアプローチをしてくる。

 それでもリヴィオは持ち前の操作センスで耐えていた。

(……っと!!)

 リヴィオは何度目かの鎌の攻撃を腕の装甲で上手にいなす。

 敵も攻めあぐねているようで、焦りや苛つきが鎌の動きでなんとなく察することができた。

 このまま守っていれば相手がミスをするかもしれない。そのミスに付け込めば、勝機が見えてくるかもしれない。

 そんな希望を胸に、暫く一方的な展開を続けていると、不意に敵が動きを止めた。

(何だ……?)

 骸骨のVFは鎌を地面に置き、電池の切れた人形のように地面に膝をついて動かなくなった。

 ……連続攻撃によるオーバーヒートだろうか。

 それもそうだ。あれだけ無茶苦茶に鎌を振っていればエネルギー供給が追いつかなくなって当然だ。

(よし……!!)

 リヴィオはこれをチャンスと捉え、攻撃に転じることしにた。

 リヴィオは拳を脇の下に溜め、地面を蹴って接近し、至近距離から頭部めがけて正拳突きを放つ。

 芝生が盛大に巻き上がり、拳は瞬時に髑髏に命中した……かに思えたが、命中の瞬間に敵は後ろにのけぞり、拳を回避した。

(動けるのかよ!?)

 ……罠だったようだ。

 後悔する間もなく、敵は地面に落ちていた鎌を脚で器用に跳ね上げ、手でキャッチする。そして、伸びきったリヴィオ機の腕を最小動作で切断した。

 鎌は装甲と装甲の隙間、関節部に見事に突き刺さり、抵抗を感じさせることなく肩から先を切断した。

 右アームはパンチの勢いのまま飛んでいき、芝生の上をゴロゴロと転がる。

 リヴィオはその腕を見て、慌てて背後にとんだ。

(ヤバすぎだろ……)

 試合ならともかく、こんな真剣勝負で機能停止したフリをするなんて……頭がイカれているとしか思えない。

 リヴィオは体勢を立て直すべくどんどん相手から距離を取る。しかし、敵機は休ませる暇も与えてくれず、続けて鎌を上方から地面に向けて刺し込んできた。

 リヴィオは流れるような足さばきで鎌を股の間に抜けさせ、事なきを得る。鎌は芝生に突き刺さり、鈍い光を放つ刃は一瞬だけその動きを止めた。

 今後こそ、と、リヴィオは敵機の左胴に向けて右脚を蹴り上げる。

 この攻撃は敵の細い腰に命中した。しかし、手を失ったことによってバランスが取れず、キックの威力は通常の半分にも満たなかった。

 メインカメラ目前、赤い髑髏がにやりと笑った気がした。

 敵機はこのキックを受け止めると上に弾き、こちらの股関節部分を露わにする。

 そして、地面に刺さっていた鎌を一気に上に振りぬいた。

 次の瞬間、ガキンともゴキンとも取れる嫌な音を立て、右脚が根本から切断されてしまった。

 これで、右腕と右脚を失ったことになる。

 ……絶体絶命である。

 敵機は鎌を振り上げた状態で動きを止め、勝利を確信しているようだった。

 もうこれは投降したほうが良いんじゃなかろうか。そんな甘い考えが脳裏をよぎる。

 しかしリヴィオは希望を捨てず、残された左脚で地面を蹴り、倒れこむように距離をとった。

 芝生が意外に滑り、リヴィオ機はズズッと海側へ流れる。

 赤い骸骨は鎌を天に構えたまま、芝生を一歩一歩踏みしめ、悠然とした歩みで近づいてくる。

 何か、何かできないだろうか。この窮地を脱する何かを思いつけないだろうか。

 焦りと緊張でパニックを起こしそうになりつつ、リヴィオは狭いコックピット内で必死に考える。

 だが、敵は思考の時間を与えてくれない。

 1歩1歩と着実に距離を詰めてくる。

 50mあった距離は30mに20mとなり、やがて鎌の攻撃範囲に入った。

 ……反撃の兆しが見えたのはそんな時だった。

「オラァァッ!!」

 急に怒声が公園内に響き渡る。

 その声を察知すると同時に視界の左から一機のVFが現れ、骸骨のVFにタックルをかました。

 敵機もこの攻撃には対応できなかったようで、鎌を上に構えたままVFと共に右側へ倒れこんでいった。

 急に現れたVFはマウントを取るべく敵機にしがみつくも、敵機のボディが細いこともあり、上手くポジショニングできないようだった。

 敵機は鎌を強引にVFの間に割り込ませ、タックルしてきたVFの腹部を蹴りあげる。

 VFは少ししか浮かばなかったが、敵にとってはその僅かな隙間でも離脱するには十分だったようだ。

 敵機は芝生を背に地面を器用に滑り、少し離れた位置で鎌を軸に回転しながら立ち上がった。

 敵と距離が離れ、ようやくランナーがこちらに声をかけてきた。

「大丈夫かリヴィオ!?」

 どうやら応援に来たのは結賀だったようだ。

 結賀はこちらと同じくセブンクレスタに乗っており、腕には例によって鎖が幾重にも巻かれていた。もっとマシな武器もあったろうに、やはり使い慣れた武器のほうが良いのだろう。

 結賀の問いかけにリヴィオは反応する。

「見りゃわかると思うが、ぜんぜん大丈夫じゃねえ。お前が敵う相手でもねえし、さっさと逃げろ」

「逃げるだって!?」

 結賀は鎖を解くと手首のスナップで回転させ、敵とは違う方向に投擲する。

 その先には先程大破したスーニャ機の残骸があった。鎖は生き物のように動き、その残骸の中の電磁レールガンに纏わり付いた。

 結賀が腕を引っ張ると電磁レールガンは釣られた魚のごとく宙を舞い、リヴィオ機の正面に落下した。

「それ、まだ使えるだろ? どうにかしてアイツをぶっ倒すぞ」

 リヴィオは反射的に電磁レールガンを手元に手繰り寄せ、何とかして片手で構える。狙いは不正確だが、撃てないことはない。

「お前が使えよ」

「コンビネーション練習」

「いきなりなんだ?」

「いつもはオレが後衛だったからな、たまには前衛やらせろよ」 

「今そんなこと……」

「……来るぞ!!」

 呑気に話している暇はない。

 敵機は鎌を真横に構え、電磁レールガンを持つこちら目掛けてダッシュしてくる。

 結賀はインターセプトに入り、鎖を敵に投げつけた。

 重量のある金属の鎖がじゃらじゃらと音を鳴らし、広い範囲をカバーする。

 しかし、敵機はスライディングでこれを回避し、難なくリヴィオ機まで到達する。

「くそッ!!」

 リヴォは半ばやけくそになりながら、電磁レールガンのトリガーを引く。

 弾は正常に吐き出され、敵機目掛けて飛翔する。が、狙いが甘かったせいか、弾は海の彼方へ消えていってしまった。

 赤い骸骨は姿勢を低くしたまま襲い掛かってくる。

 連射しようにも時間が足りない、回避しようにも片腕片足では動けない。

 敵機は鎌を背後に引き、ダッシュの勢いのまま前方を大きく薙いだ。

 とうとう終わりか、と思ったその時、急に体が左へ引っ張られた。

「こっち来い!!」

 いつの間にか胴には鎖が巻き付いており、その鎖の先には結賀機がいた。

 結賀は思い切り鎖を引っ張り、敵の攻撃からリヴィオ機を間一髪で回避させた。

「この役立たず!! 動けないと狙われるに決まってるだろ!!」

「動きたくても動けねーんだよ!! それくらい解れよ!!」

 敵機に追いかけられながら、二人は喧嘩腰に会話を続ける。

「それにしても情けねーなあ、オレが助けに来なかったら負けてたぞ? 礼の一言くらい言ったらどうなんだ?」

「今はそんなこと言ってる場合じゃないだろ、いいからさっさと鎖解けよ。これじゃ狙いが定まらないんだよ!!」

「お前の腕じゃどっちにしろ当たらねーよ!!」

 結賀は鎖を巻き上げるスピードを落とし、自ら敵機に向かって駆け出す。

「おいおいおい、何するつもりだ?」

 巻き上げのスピードが遅くなり、敵がぐんぐん近づいてくる。

 リヴィオが危機的状況に陥ったにもかかわらず、結賀の声は冷静だった。

「抱きつけ」

「は?」

「いいから、敵に抱きつけ!!」

 結賀の指示を耳にした瞬間には、既に目前に鎌を振る赤の骸骨が迫っていた。

 リヴィオに選択の余地は無かった。

「クソッ!!」

 リヴィオは後退を止め、残された片足で踏ん張り、敵機に向かって跳んだ。

 お互いに急ブレーキを掛けられるわけもなく、骸骨のVFとリヴィオ機は正面衝突事故を起こした。

 まず衝突したのはリヴィオ機の胸部装甲と鎌の柄だった。

 リヴィオ機はモルティングアーマーによってかなりの強度で守られているので無事だったが、ぶつかられた鎌の柄は無事では済まされなかった。

 ぐにゃりと曲がり、くの字に折れる。

 敵機は無理に踏ん張ることなく進行方向をずらし、衝突のダメージを最小限に抑え、斜め前方に跳んだ。

 ダメージは与えられなかった。が、動きを誘導することはできた。

 敵機の進んだ先、そこには結賀によって鎖の網が形成されていた。

「よしッ!!」

 鎖によって編み込まれた網は到底避けきれるものではなかった。

 重力制御ができれば真上に跳んで回避したり、鎖事態を弾き飛ばせただろうが、今はできない。

 骸骨のVFは慣性に従い鎖の網の中へ突っ込む。

 その瞬間、結賀機は更に鎖を追加して網の上から鎖を巻き、更に頑固に拘束していく。

 その間、骸骨のVFは鎌を振ったり脚をばたつかせたり抵抗していたが、結賀機の鎖が全てなくなるころには無抵抗になっていた。

 あっという間に公園内に一つのオブジェが出来上がった。

 それは鎖を巻きに巻いて不気味に膨れ上がった真っ赤な骸骨だった。

 これを見て戦闘が終わったことを悟り、リヴィオは溜息をつく。

「ふう……」

 まさかこの相手に勝てるとは思っていなかった。

 それより、ここまで結賀とコンビネーションが上手くできたのも意外だった。

 練習ではいつもお互い主張を譲らなかったので、失敗していたのだろう。次の訓練からは結賀の指示に大人しく従うことにしよう。

 落ち着くと、自分が異常に汗をかいていることに気がついた。髪もびしょ濡れ、喉はカラカラ、体の節々が痛くて少しふらふらする。

 試合と実戦でこれほど疲労度が違うとは思ってもいなかった。

 リヴィオはたまらずHMDを脱ぎ捨て、コックピットから出る。

 外に出ると風が体にあたり、体にまとわりついていた熱気を吹き飛ばしてくれた。

 リヴィオは深呼吸をし、改めて結賀機を見る。

 結賀はまだやることがあるようで、くの字に折れ曲がった鎌を海へ蹴り捨て、落ちていた電磁レールガンを拾い上げた。

 そして何を思ったか、鎖の隙間に銃口を突っ込んだ。

「出てこい。出でこねーと撃ち殺す」

「……」

 返事はない。

 結賀は銃口でコックピットハッチをガンガンとノックする。

「――マジで撃ち殺すぞ」

 この言葉にはリヴィオも鳥肌がたつほどの殺気がこもっていた。

 上手く殺気が伝わったのか、5秒もしない内にコックピットハッチが開き、中からランナーが出てきた。

 そのランナーの姿に、リヴィオは思わず疑問符を口にする。

「……子供?」

 子供、しかも女の子である。HMDをかぶっているので顔までは分からないが、スーニャと同じくらいの年齢の女の子に間違いなかった。

 女の子は両手を上に上げたまま鎖を降り、芝生に降り立つ。

「リヴィオ、そいつ拘束しといて」

「おう……」

 断る理由もない。

 リヴィオは少女に近づいていく。

(こいつがアレを動かしてたのか……)

 少女は結賀機を見上げ、堂々と立っていた。

 こうやってURの構成員を見るのは初めてだが、もしかして他のURのVFに乗っているのも少年少女だったりするのだろうか。

 色々と考えつつ、リヴィオは少女の元に到達する。

「じっとしてろよ」

「……」

 返答はない。

 リヴィオは少女の腕を掴み、背中側で組ませる。そのままコックピットから持ってきた工具ツールを取り出し、中に入っていたケーブル結束バンドを使って手首を固定した。

 その間、少女は抵抗する素振りを見せなかった。

 拘束が済むと、結賀もVFから降りてきた。

「こんなガキ一人に良いようにされてたとはな……」

 結賀は少女のヘルメットを小突いた後、脱がせるべく手をかける。

「さて、顔を拝ませてもらおうか」

 結賀は一気にヘルメットを上げ、投げ捨てる。

 まずヘルメットの中から出てきたのはウェーブの掛かったショートのブロンドだった。

 続いて見えたのはエメラルドグリーンの瞳、そしてこめかみには銀のヘアピン……。

 ふたりともこの少女の名前を知っていた。

「……カヤ!?」

 その少女は紛うことなくカヤ・クレメントだった。

 意外すぎるランナーの登場に、リヴィオも結賀も驚きを通り越して絶句していた。

 状況が全く理解できない。

 どうしてURのVFからカヤが出てきたのか。

 もしかしてカヤは……

「そうよ、わたし、URの一味だったの」

 こちらの考えなどお見通しなのか、カヤは微笑したまま話し続ける。

「この学園には工作員として在籍していたんだけれど、なかなか楽しかったわ。あーあ、どうせなら卒業までいたかったなあ……」

「黙れ……」

 結賀の忠告を無視し、カヤは脳天気に話し続ける。

「それにしても、さっきの連携攻撃、なかなか良かったねー。訓練でもアレくらいできればアルフレッドに注意されずに済むのにねー」

「黙れっつたんだよ!!」

 結賀は拳を作ったかと思うと、容赦なくカヤの頬を叩いた。

「うッ……」

 カヤはその勢いに負け、芝生の上に倒れこんでしまった。

 ……年下だろうがお構いなしである。

 カヤを殴り倒した結賀は、今度こそマウントポジションを取る。

「お前、URの仲間ってことは……姉貴の場所も知ってるんだよな」

「……」

 口の中が切れたのか、カヤは血の混じった唾を地面に吐いた。

「あれだけ喋っておいて、今更だんまりか?」

 結賀はカヤの頬をぐにっと掴み、後頭部を芝生に押し付ける。

 ブロンドの綺麗な髪は見る見るうちに土に汚れ、茶色に染まっていく。

 予想以上の結賀の暴力的な言動に、思わずリヴィオは止めに入る。

「それくらいにしとけよ結賀、取り敢えずカヤは拘束しといて、早くラボに向かったほうが……」

「駄目だ。姉貴の情報を吐くまでどこにも動かさねーよ」

 結賀の目には確固たる決意が宿っていた。

 こうなると梃子でも動かない。自分だけラボに行くこともできるが、二人きりにすると心配だ。

 取り敢えずは、URを一機倒しただけで良しとしよう。後は教官たちに任せて、余計なことはしないほうが良いかもしれない。

(待てよ……)

 ふとリヴィオの頭に嫌な予感が浮かぶ。

(URの探索に行ったカヤが敵側だったってことは……もしかしてあの人も……?)

 その不安が的中することを、リヴィオはまだ知らなかった。

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