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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
 4 漆黒の双刃
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 19 -降下-


 19 -降下-


「状況は?」

「中華の無人戦闘機は16機が重力制御装置の異常により墜落、11機が撃墜されて残機は33機です」

「あっちの七之岱も満身創痍ってところかなー。24機いたけど、今は8機しか確認できないよ。まあ、それなりの仕事はしてくれたかなー」

 宏人、ジェイク、カヤの3名はスラセラート学園の様子を遠巻きに観察していた。

「開始20分でこの有様か……いやぁ、葉瑠ちゃんの発明には感服したよ」

 詳しい仕組みは分からないが、何をどうしたのかくらいは僕にも分かる。

 葉瑠ちゃんはラボに保管されていた擬似AGFの重力制御装置を使い、こちらの重力制御を混乱させるような装置を作り上げてしまったようだ。

「ちりも積もればなんとやら……。擬似AGFが使いものにならないと思い込んでいた僕の落ち度だね……」

 強力な兵器には強力な兵器で対応するのが常なこの世で、葉瑠ちゃんは相手の兵器を弱体化させる道を選んだ。

 重力異常を探知して、その箇所にだけ特殊な重力波を発生させる……

 同期制御するだけでも至難の技なのに、それを維持している彼女は間違いなく天才エンジニアだ。

「しかし、重力制御ができないのは向こうも同じ。こちらの操作技術が低下するわけではありません。普通にやれば問題なく勝てるはずです、主」

「だから、勝ち負けの問題じゃあないってばー……もっと大きな問題あるでしょ?」

 カヤに促され、宏人は直面している問題を述べる。 

「僕の白眉とカヤちゃんのウィクレルは飛行を重力制御に依存しているからね、これから先へは近づけそうにないんだ」

 この中で重力制御に依存しない推進装置を持っているのはジリアメイルだけである。

 近づく方法は一つしかなかった。

「ジェイク、僕とカヤを学園まで載せていってもらえるかい?」

「勿論です、主」

 ジェイクの了承を得たところで宏人はジリアメイルの脚部の出っ張りに脚を引っ掛ける。

 白眉の重厚な尾を巻きつけて体を固定し、5門の射撃ユニットも全て連結させて腰部にコネクトさせる。これで重力制御を失っても武器を落とすことは無いはずだ。

 カヤも宏人の真似をし、反対側の脚に乗りかかる。修理された大鎌は前より強度が上がっているようで、刃部分の湾曲が少なく、少し小振りになっていた。

 宏人は前方を指差し、行き先を告げる。

「取り敢えずこのまま演習場に向かうよ。で、まずは学園内を制圧しようか」

「了解しました」

 ジリアメイルは2機を載せた状態で前に動き出す。

 向かうは学園北側……イリエから警備が薄いと教えてもらった箇所だ。

 内部に入れば当然攻撃を受けるだろう。全て無視して先にラボに突入し、アビゲイルを破壊したい所だが……罠がないとも限らない。

 わざとラボに姿を見せ、こちらを誘っている可能性も否めないのだ。

 破壊するにしても探すにしても、学園を制圧して状況が落ち着いてからのほうが確実だ。

 やがて重力干渉エリアに突入したようで、HMDに無数のエラーが表示され始める。

 どれも影響は小さそうだが、戦闘を行うには大きな障害になりかねない。

 宏人は重力制御関連の機能をオフにする。ジェイクも同じ作業を行ったようで、背部のエンジンが大きく唸り始める。

「大丈夫かい?」

「主、ジリアメイルの推力を舐めてもらっては困ります」

 その言葉を証明するかのように、ジリアメイルは徐々に加速していく。

 そのまま進んでいくと、交戦域に突入した。中華の戦闘機と七之岱は互いのジェットエンジンの性能を競うかのように空を飛び回っている。

「結構持ちこたえてるけど……すぐに全滅できそうだねー」

「もって10分かそこらだろう」

 宏人は二人の意見に概ね同意だった。

 明らかに速度は戦闘機のほうが上だ。それに、人の形をした物が、鳥の形をした物に空で勝てるわけがないのだ。

 攻撃される覚悟で突っ込んだが、七之岱は戦闘機の対処で精一杯らしい。素通りで学園まで到達することができた。

 このままフロートユニットに着地できるかと思いきや、右下方から飛んできた弾幕がそれを許してくれなかった。

「気づかれたみたいだね……」

 宏人の視線の先、広い演習場にVFの姿を確認できた。

 機体は七宮重工のセブンクレスタ、両腕には巨大なチェーンガンを装備していた。

 ジリアメイルは弾を避けるべく高度を上げる。

 そして、すかさずロングレンジライフルで反撃を行った。

 しかし、ジリアメイルの放った弾丸は軌道を大きく逸れ、演習場の白い地面に亀裂を生じさせた。

「な……!?」

 的を外したことに驚いたのか、ジェイクは変な声を出した。

 宏人とカヤはこの結果を当然のように受け入れていた。

「そこまで驚くこともないだろうジェイク。ライフルの内部機構に重力制御を取り入れている以上、弾道が安定しないのは当然だよ」

「ここまでズレると、ショートレンジでしか使えないねー」

「……」

 当然、白眉の射撃ユニットも使いものにならない。

 ウィクレルは鎌しか持っていないし、ジリアメイルは一応ランスを装備しているが、一つしか無いそれを投げ飛ばすわけにはいかない。

 こちらの武器事情など知るわけもなくセブンクレスタは容赦なく弾を放ってくる。

 よく見ると、片方の砲門は別の方向……中華の戦闘機に向けられていた。全く逆の方向に同時に射撃を行っている……。

 そんなことができるランナーは一人しかいない。

(乗ってるの、アルフレッドかな……?)

 アルフレッドは人工眼球と外部カメラを直結することで広い視野を得られるCSDシステムを使える。

 射撃センスはともかく、広範囲に弾幕を張るのなら彼以上の適任者はいないだろう。

 相手がアルフレッドとなると、このまま避け続けるのは困難だ。

 そう判断した宏人は自ら対処することにした。

「あれは僕が何とかするよ」

 一方的に告げると、宏人は白眉の尾をジリアメイルから外し、空中に飛び出す。

 推進装置も何もない白眉は、当然のごとく自由落下し始める。

「ジェイクとカヤは先に行ってくれないかな」

 300mほどの距離をまっすぐ落下しながら、宏人は早口で指示を出す。

「多分、エネオラやリヴィオも学園を守ってるはずだから、順次彼らを行動不能にして欲しいんだ」

 地面が間近に迫っても、宏人の口調は穏やかなままだった。

「重力盾がなくてもスペック的にはこちらが有利だけれど……くれぐれも油断しないようにね」

 話し終えると、宏人は白眉の尾を地に向けてピンと伸ばす。その後すぐに地面に到達した。

 着地の瞬間、尾は地面に突きささり、板バネのように曲がって衝撃を吸収する。

 衝突音も軋む音もない。

 生じたのは、スカート状の装甲と腰回りの射撃ユニットが擦れる控えめな音だけだった。

 チェーンガンの砲門は空から地面に向けられ、弾丸が付近の地面を穿ち始める。

 宏人は即座に真横に移動して回避行動を取り、指示を続ける。

「危険だと思ったら撤退しても構わないからね。任せたよ」

「主……わかりました」

「そっちこそ、そんなのに負けないでねー」

 ジェイクとカヤは指示を素直に受け入れ、学園中央に向けて飛行を続ける。

 彼らを見送ると、改めて宏人は敵と向き合う。

(……5分かな)

 弾幕を回避しながら近づき、近接攻撃で一撃で仕留める。……イメージは完璧だ。

 今までランキング戦で散々戦ってきたこともあり、アルフレッドがどう対応するかも簡単に予測できる。

(じゃあ、そろそろ行こうかな)

 宏人は横方向への回避を止め、敵に向かってダッシュし始めた。



「主は大丈夫だろうか……」

「うるさい、いつまでグチグチ言ってるの」

 宏人を降ろした後、ジェイクとカヤは近辺を制圧するため学園中央に向けて飛行を続けていた。

 イリエの情報によれば南の船着場にエネオラが、東の居住エリアにはリヴィオとスーニャがいるらしい。

 効率的に制圧するには各々が南と東に別れて戦うのが良いのだろうが、重力制御ができない状態で孤立する事態は避けたい。

 そう考えたカヤは今後の方針をジェイクに告げる。

「ジェイク、先に南のエネオラを倒すよー」

「何を腑抜けたことを言っているんだ。分かれて戦うぞ」

 当然賛同してくれるかと思っていたが、早速反論されてしまった。

 カヤはあっけにとられながらも力説する。

「腑抜けなんて言ってる場合じゃないでしょー? 相手は旧式VFかもしれないけれど、どのランナーも侮れないし、確実性を優先させないと……」

「何を悠長な!!」

 ジェイクは話の途中で機体を左右に揺らし、強く告げる。

「こうやって呑気に飛んでいる間も主は危険に晒されているのだぞ!? 早く近辺を制圧して、主を助けに向かうのが我々の責務だろう!!」

「まーたはじまった……」

 ジェイクの欠点……宏人への過剰な忠誠心というか、信仰心だ。宏人の事になるとジェイクは冷静さを失い、判断力も鈍る。

 こういう時こそわたしが手綱を握らなければならないのだが、今のわたしはジェイクに乗っている騎手というより載せられている荷物だ。

「いい? ジェイク、わたしたちが動けなくなったら、それこそ主が困っちゃうでしょ?」

「うるさいぞ、さっさと敵を……」

 言い合いの最中、急にジェイクが黙った。

 通信機の故障かと思ったのも束の間、ジェイクはジリアメイルを急激に下降させ、機首を東に向けた。

「ちょっとー、いきなり……わっ!?」

 急激な方向転換にカヤは不平を言う……と同時に何かが超高速で頭上を通過した。

 重苦しい風切り音……それは砲弾が空気を押し退けて進む音であり、遅れて砲声が耳に届いた。

 カヤはジリアメイルの背中でバランスを取りつつ、音がした方向、東にメインカメラを向ける。

 居住エリア、海に近い公園内に2つのVFの影を確認できた。

 両機ともセブンクレスタ、1機は全身に丸みを帯びた装甲を、もう1機は巨大なライフルを構えていた。

 ……リヴィオとスーニャに間違いない。

 巨大なライフルの砲口はこちらに向けられていた。

(うわ、大きい……)

 巨大なライフルは形状からして電磁レールガンに間違いない。が、明らかに大きく、普段カヤが試合で使っているような競技用のものではなく、軍事用のものだった。

 重力盾がない状態であれを貰えば大破確定である。ジェイクもよくあれを回避できたものだ。

 ジェイクの対応を心の中で褒めつつ、カヤは告げる。

「仕方ないなあ……エネオラは後回しにして、先にあの2機を協力して……」

「近くで降ろす。あいつらの相手は任せたぞ、カヤ」

「え、ちょっと……」

 ジェイクは問答無用で居住エリアの公園へ低空飛行で接近していく。

 その間も電磁レールガンの砲撃を受けるも、弾は付近の建物に命中し、こちらに命中することはなかった。

 カヤは焦った声で半ば叫ぶようにしてジェイクに言う。

「あっち2機だよ? こっちも2機で戦うのが普通じゃない!?」

「相手はただの訓練生だろう。お前一人で問題ない。……私はエネオラを倒す」

 ……話にならない。これ以上の会話は無駄だ。

 選択を誤っているのは承知だが、訂正している暇はない。

 そう判断したカヤはジェイクの言い分に従うことにした。

「もう、わかったから……ここで降りるよ」

 建物を盾にすれば、まあ、何とかなるだろう。

 カヤはジリアメイルの脚から手を放し、宙へ飛び出す。

「さっさと片付けて、お前も主を助けに行くんだぞ」

 ジェイクはすぐに機首を南に向け、居住エリアから離脱していった。

 慣性を保ったままカヤの乗るウィクレルは暫く住宅エリアを飛ぶ。

 目下には背の低いアパートマンションが並び、網目状の道には街路樹が植えられていた。

 これら全てが職員用とOB・OG用のためのエリアだ。全てが綺麗に保たれており、どこかの高級住宅地を連想させる。

 ちなみに訓練生や学生が住んでいる寮は学園から近い場所になるのでとっくに通り過ぎたはずだ。

 やがて地面との距離が2m程になると、カヤは鎌を後方の地面に突き刺し、ブレーキングを行った。

 地面が抉れ、分厚い金属板が捲れ上げる。

 20mほど地面に真っ直ぐな線を描くと、カヤはすぐさま鎌を引き抜き、建物の影に隠れた。が、相手は問答無用で電磁レールガンで建物を射撃し、すぐ隣に大穴が空いた。

(わわ……)

 カヤは地面を這いずり、違う建物に身を隠した。

 また連続で狙ってくるかと思いきや、その射撃を最後に射撃は止んだ。

(ふう……)

 上空の目標なら気にせず撃てるが、地表にいる相手を狙う場合、他の建築物に当たりかねない。その辺を考慮して射撃を止めたのだろう。

(さて、どうやって倒そうかなー)

 カヤはウィクレルを四つん這いにさせ、建物の影を移動していく。

 まず狙うべきは電磁レールガンを持っている方だ。多分動きからするにあっちはスーニャだろう。慣れない銃器を扱えば、あれだけ狙いがそれるのも納得だ。

 建物のおかげで公園までは難なく近づける。が、それ以上は隠れるものがないので厄介だ。公園という開けた場所に陣を構えたのは正解だ。

 公園は職員のレクレーションの為にある場所で、地面には芝生が茂り、他にはフェンスと小さな木があるくらいだ。

 広さは約100m四方、ダッシュするにしても少し無理がある距離だ。

 ……となれば、奥の手を使うしか無い。

(成功率、五分五分なんだけどなー……)

 カヤは愚痴を愚痴を漏らしつつ、鎌の端を両手でしっかり握り、体の後ろに引く。

「……っと!!」

 そして、テニスのバックスイングのごとく鎌を勢い良く振り、手を放して投擲した。

 鎌は横方向に回転しながらスーニャのVF目掛けて飛翔していく。

 急に出現した鎌に驚いたのか、スーニャは電磁レールガンを鎌に向け、射撃する。が、そんな早撃ちが命中するわけもなく、鎌は何にも遮られることなくスーニャのVF、その胸部に命中した。

 刃は装甲を貫通し、凹む形で胸部を大きく変形させた。

 これで内部の操作系コンソールもめちゃくちゃに破壊されているはずだ。

 味気ない顛末だが、これでスーニャはまともに操作することができないだろう。

 後は完全に機能停止に追い込むだけだ。

 射撃の危険がなくなった所で、カヤは建物の影から飛び出し、猛然とダッシュで公園を駆け抜ける。

 途中、分厚いアーマーを着込んだリヴィオが進路妨害するべく飛び出してきたが、カヤは馬跳びの要領でそれを飛び越え、あっという間にスーニャの元に到達した。

 カヤは鎌を強引に引き抜くと、その勢いを利用して鎌の背で再度胸部に打撃を加える。するとコックピットユニットは背中から飛び抜け、海へ飛んでいった。

 これで一丁上がりである。

(あと1機……)

 カヤは振り返り、リヴィオの姿を再確認する。

 分厚いアーマーのせいで動きに制限があるようだが、クロスレンジでの戦闘は避けたほうが良いだろう。

 リヴィオはこちらの考えもお構いなしに突進してくる。

 足裏が着地する度に芝生が捲れ、茶色の土が背後に舞い上がる。あの装甲、かなり重量があるようだ。

 しかし、所詮はただの装甲。こちらの鎌にかかればどんな装甲も一刀両断である。

 カヤは鎌を再び背後に引いて構え、リヴィオの突進を待ち構える。

 やがて鎌の攻撃範囲内になり、カヤは迷うことなく鎌を水平方向に薙いだ。

 刃の軌跡は円となり、鈍い光の残像を残す。が、その軌跡は完全な円を描くことなく、途中で遮られてしまった。

 それは、攻撃がリヴィオ機に命中したことを意味していた。

 しかし、カヤはその光景に驚きを隠せなかった。

(……え?)

 命中したのは間違いない。が、刃が腕部の装甲表面でピタッと止まっていたのだ。

 あれだけの威力をどうやって防いだのか……その答えはすぐに分かった。

 装甲表面から殻の欠片のようなものがパラパラと落ち始める。透明な殻はすぐに補充され、改めて腕部をコーティングした。

 どうやら、装甲表面にもう一層特殊な装甲がコーティングされているようだ。

 それが割れることで、衝撃を上手く吸収していたのだろう。

 カヤは一旦鎌を引き、リヴィオ機とも距離を取る。

 狙うとするなら関節だろうが、近接格闘を得意とするリヴィオ相手にそこまで器用に鎌を操れるとも思えない。私の専門はライフルなのだ。鎌も一応はそれなりに使えるが、エキスパートではない。

(厄介な装甲ねー……)

 鎌の刃の部分を指先で叩きつつ、カヤはリヴィオを倒す算段を立てていた。

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