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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
 4 漆黒の双刃
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 16 -赤毛の内通者-


 16 -赤毛の内通者-


 サンクトペテルブルク

 誰もいなくなった要塞島広場に3機の真紅のVFが静かに降り立った。

「あーあ、わたしの(サイス)、こんなになっちゃって……」

 開口一番愚痴をこぼしたのは骸骨のVF『ウィクレル』のランナー、カヤだった。

 広場の石畳には刃側面に大穴が空いた大鎌が放置されていた。

 これはルーメの槍の一撃で貫通させられた穴だが、まるで工作機械で開けたかのように綺麗に貫通している。

 カヤは鎌を拾い上げ、軽く横に振ってみる。が、強度に難があったようで、穴の部分を境目に先端部がはずれ、回転しながら飛翔し、建物の外壁に突き刺さった。

 もう使いものにならないだろう。

「……」

 カヤは鎌を捨て、改めて広場を観察する。広場には涼しい風が吹いているだけだった。

「人、誰もいないね」

「そうだな。隠れている気配もない。移動手段は無かったはず。市街地に身をひそめているに違いない」

 続いて発言したのは巨漢のVF『ジリアメイル』のランナー、ジェイクだった。

 ジェイクは着陸したばかりだというのに再び浮上し、市街地へ体を向ける。

「待つんだジェイク。不確定な情報で動くのは賢い選択とは言えないよ。まずは情報を集めよう。いいね?」

 ジェイクの行動を止めたのは純白のVF『白眉(ハクビ)』のランナー、宏人だった。

「ですが主、時間が経てば経つほど捜索範囲が広がり、発見できる可能性が低くなります。一刻も早く捜索に乗り出すべきでは?」

「早く探すことについては賛成だよ。でも、情報収集が先だ」

「そうだよジェイク、市街地にいる保証なんてどこにもないんだしー」

「……」

 宏人とカヤに引き止められ、ジェイクは動きを止めた。

「ならば、どうするおつもりですか、主」

 真剣に問われ、宏人は謝罪から入る。

「二人共ごめんね。あそこでルーメが来ることを察知できていれば、こんな面倒なことにはならなかったのに……」

 宏人が謝った途端、ジェイクの態度が一変した。

「な、な、何を仰りますか主!! このような状況を招いたのは全て私のミスです!! 主に責任は全くございません!! 主は完璧なお方です。71機の明神を全て破壊したこの偉業は人類史に残ることでしょう!!」

「うるさいなー」

 カヤはジリアメイルの頭を小突き、愚痴を続ける。

「ルーメが来たこと自体はそんなに問題じゃなかったよ。でも、アビゲイル以外殺すな、って縛りでルーメと相手するのは無理だったかなー……」

 宏人は白眉の手で髑髏を撫でる。

「ごめんねカヤちゃん、約束を守ってくれてありがとう」

 カヤはその手をはねのける。

「契約を守るのはプロとして当たり前、あと、いい加減お子様扱いやめてよねー」

「ごめんごめん」

 宏人は謝罪の意を込めて再び髑髏を撫でる。

「はー……」

 カヤは腕を上げかけるも、いろいろと諦めたようで頭撫でを受け入れた。

「しかし、あらゆる可能性を考慮するとなると、空路か陸路か海路か……探すのは大変ですね」

「だから、そのための情報収集だよ。とりあえず本部に連絡してみるよ」

 宏人は狭いコックピットの中、懐から携帯端末を取り出す。今まではセブンの監視網のせいで複雑な手順を踏んで暗号通信を行わなければならなかったが、セブンがいない今、傍受を気にせず通信し放題だ。

「本部というと人民軍ですか……?」

「違う違う。スラセラートだよ」

「!?」

 ジェイクとカヤの驚く顔が容易に想像できる。

「スラセラートって、思いっきり敵対勢力じゃない」

「いくら情報が欲しいからといって、敵に電話をかけるのは危険すぎます!!」

 二人のもっともな言葉に、宏人は軽く答える。

「セブンが消失した今、何をためらうことがあるんだい?」

 この言葉で我に返ったのか、カヤは状況を整理するように告げる。

「……あ、そっかー。わたしたちって“シンギ教官と一緒にURの捜索に行った”って設定だったねー」

 ジェイクがカヤの言葉を引き継ぐ。

「しかも、真実を知るセブンはもういない。何も問題はないということですね」

「そういうこと」

 二人が納得した所で、宏人は個人回線を経由してセルカ理事長と回線を繋ぐ。

 2コールもするとすぐにセルカ理事長から反応が来た。

「あれ……宏人君? 宏人くんなの!?」

 相変わらず透き通った綺麗な声だ。

「はいそうです。お久しぶりですセルカ理事長」

「シンギさんは無事なんですか!?」

「ええ、無事です。奇襲を受けたせいで人工眼球が壊れましたが、それ以外は全く怪我はありません」

「よかったあ……」

 声だけ聞けば子供だが、口調や言葉遣いは間違いなく大人のそれである。が、今は少し混乱気味なのか、幼さが声の端々に感じられた。

「理事長、現在僕達は状況が把握できず動けない状態にあります。今の状況を教えていただけませんか?」

 こちらの事を疑うこともなく、セルカ理事長は情報を吐き出していく。

「セブンが破壊されたらしいんです。各国の動きも気になりますし、スラセラートも曲がりなりに戦力を有している以上、下手に動けません。とにかく、時間がかかってもいいので、安全なルートでスラセラートに戻ってください」

 こんな状況でも僕の安全を心配してくれている。ありがたいことだ。

 ……流石の僕も少し心が痛む。

 早々に重要な情報を引き出しておこう。

「それで、アビゲイルは無事なのですか?」

「宏人くん、アビゲイルさんのことを……?」

「あ、はい。URの事を詳しく調べていく内に、彼女の正体を、そして彼女が狙われているという情報を手に入れたのです。……ひと足遅かったようですが」

「いえ、彼女はまだ破壊されていません。今、七宮重工のサポートを受けてスラセラートに戻っています」

「そうですか、それなら安心ですね」

「七宮重工の助けがあるからこちらは大丈夫です。そちらは安全を再優先に行動してください。いいですね?」

「はい、分かりました。それでは」

 宏人は通信を切り、顎に手を当てる。

「七宮重工が介入してきましたか……」

 予想はしていた。……が、対応が早過ぎる。

 セブンの撃墜は免れないと早々に結論付け、破壊されることを前提に早い段階から動いていたと考えていい。

 つまり、彼らはアビゲイルがバックアップ端末だということを把握しており、彼女を守る手段を何らかの形で講じていることになる。

 厄介な話だ。が、居場所と敵の情報を得られただけ良しとしよう。

 会話は二人にも聞こえていたようで、ジェイクは「当然ですね」と言って続ける。

「これまで彼らはセブンと太いパイプを持つことで首を繋いできた。セブンの消失は、彼らの最も恐れることでしょうから、守って当然です」

 スラセラートで守りを固めるという発想が気に喰わないのか、カヤは別案を呟く。

「でも馬鹿だよねー。そんなことしなくても、タイムアップまで海底に潜って逃げ隠れしてればよかったのに」

「確かに……主、彼らがスラセラートに戻らない可能性もあるのでは?」

 珍しく同意見らしい。

 宏人も概ね肯定だったが、七宮重工側の気持ちもわからないでもなかった。

「彼らは僕達URについて雀の涙程度の情報しか得ていない。つまり、僕達の索敵能力がどの程度の水準にあるのかも分からない。……逃げ切れる可能性は100%じゃない。それなら、スラセラート内に閉じこもって守りを固めたほうが確実だと判断したんだろうさ」

 スラセラートは防衛拠点としては良い部類に入る。地下には10年前まで使われていた武器や兵装が多く眠っていると聞くし、何より見晴らしがいい。そして、訓練校であるが故、VFを動かすランナーにも事欠かない。

「ま、いくら守りを固めても、情報が筒抜けな時点でわたしたちの勝ちは揺るがないけどねー。さっさと奇襲掛けてフロートユニットごと吹き飛ばしちゃおうよ」

 カヤは楽観的なセリフを吐いた。

 すぐに宏人は戒める。

「相手を舐めてはいけないよ。ルーメにやられたのも、そうやって油断していたからじゃないかい?」

「うっ……」

 カヤは反論すること無く、押し黙った。

「奇襲に関しては異論はないけれど、まずはセルカ理事長の情報が本当かどうか……アビゲイルがスラセラート校内にいるのか、確認する必要があるね」

「流石は主、兎一羽狩るのにも全力を尽くすわけですね」

「単に慎重なだけだよ……さて、じゃあ次はイリエに連絡してみようかな」

 入江香織……スラセラートで数学を教えている、学園ランキング戦5位の赤髪の幸薄い女性。

 彼女はまだ学園内にいる。内部の様子を調べさせるには持って来いの人材だ。

 彼女の名を出したは良かったが、カヤ、ジェイク共に反応が遅かった。

「……あ、完全に彼女の存在を忘れていました」

「イリエって……あの赤髪の数学の先生?」

 事情が把握できていないようで、カヤの乗るウィクレルは首を傾げてみせた。

「そう言えばカヤちゃんにはイリエのこと、知らせてなかったね」

「え、もしかしてイリエ教官もこっち側?」

「そういうことになるかな」

「じゃあ、どうして今回の作戦に参加してなかったのー?」

「彼女、VFランナーとしては申し分ないんだけれど、こういうハードな作戦には向いてないかなあと思ってさ……」

「主、イリエに対してだけ甘くはありませんか」

「彼女には僕の正体も教えてないから、なるべくならこのままフェードアウトしたいところだけど……無理だよね」

 彼女には、カヤやジェイクほど詳しく事情を話していない。

 手を切れば普通のVFランナーとしての人生を歩める程度の付き合いなのだ。

「あ……」

 カヤは思う所があったのか、声高に宏人を責める。

「イリエ教官にアビゲイルを殺させれば手っ取り早かったのに、どうしてやらせなかったの!?」

「あのねえカヤちゃん、学園内に武器のたぐいは持ち込めないんだよ。……もし持ち込めたとしても、AGFを基礎に造られたアビゲイルを、拳銃や手榴弾程度で破壊できると思うかい?」

「……」

 宏人は説教に近い口調で説明を続ける。

「アビゲイルは小型のVFだ。サイズダウンしているとは言え、出力は人のそれを軽く超えるし、骨格や皮膚の強度もVF並だ。反撃でもされたらイリエの方が死んでしまうよ。今回わざわざ練習試合を装って外に連れ出したのも、VFを使って確実に破壊するためだったのを忘れたのかい?」

「……いいよ、もー……」

 正論に次ぐ正論に負けてしまい、カヤは不貞腐れたように通信を切った。

(まだまだ子供だなあ……って、僕も大人気なかったね……)

 宏人は携帯端末を取り出し、とりあえずイリエにコールすることにした。

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