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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
 3 二重の鎖
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 23 -拉致-


 23 -拉致-


 ランキング戦が終わり、夜。

 葉瑠と結賀は女子寮の自室で余暇の時間を過ごしていた。

 両名とも既に風呂あがりで、ゆったりとした寝間着に着替えている。

 葉瑠はベッドの上に座り込んで読書にふけり、結賀は寝転がった状態で携帯端末で試合映像を見ていた。

 その映像は午前中に行われた葉瑠とロドニスの対戦映像だった。

「なるほど、これを作るために座学さぼってたわけか」

「うん、結構苦労したんだよ、それ」

 二人は視線を本と端末画面に向けたまま会話を続ける。

「お、首切った……これで葉瑠の勝ちか。意外とあっけなかったな」

「そうだね」

 葉瑠の素っ気ない反応に、結賀は不平を漏らす。

「“そうだね”って……感想それだけか? さっき祝ってやった時も反応薄かったし、どういうことだ?」

「ごめん結賀」

 葉瑠の適当な返事に、結賀は更に口調を強める。

「一体何考えてるんだよ。ようやく50位の壁を突破できたんだぞ? 嬉しくねーのか?」

「そりゃあ嬉しいけれど、今はちょっと明日のプランを考えてて……」

計画プラン?」

 結賀は携帯端末をベッドに上に置き、葉瑠のベッドに乗り移る。

 そして、問答無用で葉瑠の読んでいる本を取り上げた。

 いつもみたく文庫本ではなく、何かの雑誌のようだった。

「ちょっと、返して……」

 葉瑠の手を避けつつ、結賀はページの見出しを読み上げる。

「えーとなになに? 『大人ぶらずに甘えちゃえ、年上カレシ完全攻略デートコース特集』……?」

 ページ上ではポップでパステル調の文字が踊っていた。

 見慣れないワードに戸惑いつつ、続いて本自体のタイトルを読み上げる。

「『タイプ別デートスポット事典~ダグラス海上都市編~』……」

「……」

 葉瑠は頬を赤くして俯いていた。

 これらの符号が何を意味するのか、分からない結賀ではなかった。

「まさか葉瑠、おまえ……明日デートするのか!?」

「やめてよ結賀、声おおきい……」

 葉瑠は慌てて結賀の口を押さえる。

 口を塞がれたまま、結賀はもごもごと続ける。

「誰とだ? もしかしてリヴィオか?」

「違う違う。そんなわけないじゃない」

「そうだよな」

 強く否定されたリヴィオを不憫に思っていると、葉瑠は自らデート相手を告白した。

「実は、宏人さんとデートなの。ふふ……」

 言い終えると葉瑠は頬を更に赤く染め、恥ずかしさからか、それとも嬉しさからか、枕に顔を埋めてベッドをぽこぽこ叩く。

 相手が宏人だと知り、結賀は胸をなでおろしていた。

「なんだよ、デートなんて大袈裟に言うんじゃねーよ。兄貴とお出かけするだけじゃねーか」

「うん、まあ、そうなんだけど」

「どんだけブラコンなんだよ……」

 これだけ妹に好かれて宏人教官も幸せものである。

「あーあ、デートか……こっちの予定、狂っちまったなあ」

「そっちも予定あったんだ?」

 結賀もベッドに寝転がり、葉瑠に寄り添う。

「おう、明日また葉瑠と一緒にあのコーヒーショップに行こうと思ってたんだ」

「お姉さんに会うために?」

 図星だ。というか、それ以外の理由がない。

 結賀は小さく頷き、正直に告げる。

「色々話したいことがあるんだよ。たった一人の家族だからな」

「あれ? ネイドルフさんも家族じゃ……」

「あいつはただのジジイだ」

「答えになってないよ……」

 こちらの答えがおかしかったのか、葉瑠は小さく吹き出した。

 姉貴に会うには他の理由もある。

 ……この海上都市で何をやっているのか、本人の口からはっきりと聞きたい。

 シャノンとか言う調査員に怪しまれているみたいだし、そのことについても伝えておいた方がいい。

 ともかく、私だけ何も知らないこの状況がどうしても我慢ならないのだ。

 葉瑠をブラコン呼ばわりした結賀だったが、自分も立派なシスコンであることを彼女自身全く自覚できていなかった。



 翌朝。

 メインフロートユニットの商業エリア。

 入り組んだ裏道の先にひっそりと店を構えているコーヒーショップの前にて

 ロングコートに身を包んだ長身の男が独りで佇んでいた。

「……ここか」

 独り言を呟いたのはジェイクだった。

 朝の裏通りは静寂に支配されており、聞こえるのは自分の息遣いだけだった。

 規則正しい自分の息を聞きながら、ジェイクは自分の行動を省みていた。

(しかし、存外と時間が掛かってしまったな……)

 当初の予想通り、溜緒瑞月の捜索は難航し、突き止めるまで2週間も時間を要してしまった。

 もしあの時橘結賀が失言をしなければ、もっと時間が掛かっていたに違いない。

(運が良かったな、本当に)

 女子寮の玄関で橘結賀に溜緒瑞月のことを質問した時、彼女は“昨日……”と言いかけた。

 この言葉から昨日何らかの形でコンタクトを取ったとジェイクは推測し、調査員の権限を用いて結賀の移動履歴を調べたのだ。

 細かい場所までは分からないが、彼女は“川上葉瑠”なる訓練生とともに“商業エリア”にいた。

 つまり、川上葉瑠に休日の行動を聞き取り調査すれば、自ずと橘結賀の軌跡が、そして溜緒瑞月の居場所がわかるというわけだ。

 川上葉瑠はあっさりと私の質問に答えてくれた。

 その場所こそ、現在目前にあるコーヒーショップだというわけだ。

「……」

 入り口には木製の古めかしいドア。ドアには木の板がぶら下がっている。木の板にはOPENの4文字が彫られていた。

 ジェイクは入り口脇の小窓から店内の様子を窺う。

 店内には温かみのある灯りが灯っており、カウンターにいる女性を照らしていた。

 その女性……頬杖を付いてぼんやりしている彼女は溜緒瑞月に間違いなかった。

 目標を確認し、ジェイクは専用の通信端末で暗号通信を行う。

「主、目標の居場所を特定いたしました」

 通常の通信ではセブンに傍受される可能性がある。暗号化していても解読される危険はあるが、可能性はかなり低いので問題ない。そもそも、主との更新手段がこれ以外に無いのだから選択肢はない。

 少し間を置き、合成音声が返ってきた。

「――確保しろ」

 返ってきたのはねぎらいの言葉ではなく、短い指示だった。

「確保……と言いますと?」

「――言葉通りの意味だ。夕刻までに彼女を拉致、合流場所については後ほど連絡する。それまで適当に身を潜めていろ」

 随分と急な話だ。

 それだけ私の遅れが計画に悪影響を及ぼしているのだろう。

「了解いたしました……」

「――任せたぞ、ジェイク」

 その言葉を最後に主は通信を終了させた。

 ジェイクは通信端末を懐に仕舞い、代わりにダクトテープを取り出す。

 そして営業中の札を裏向きにし、店内に足を踏み入れた。


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