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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
 3 二重の鎖
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 22 -不可視の刃-

 

 22 -不可視の刃-


 クローデルにアイデアを貰ってから1週間。

 葉瑠はランキング戦の舞台に立っていた。

「調子はどう?」

「ばっちりです。エネオラ先輩」

 バトルフロートユニット内部の簡易ハンガー内。

 葉瑠は擬似AGFのコックピット内で最終調整作業を行っていた。

 現在VFは直立状態にありコックピットは地上から8メートルくらいの位置にある。

 エネオラはそのコックピットの縁にしがみつき、葉瑠と会話していた。

 エネオラは片手を伸ばし、葉瑠の目元に優しく触れる。

「ばっちりって……目の下にこんなに立派な隈を作っておいて、よくそんなに堂々と嘘が付けるね……」

 葉瑠の焦茶色の瞳は充血した白目に囲まれ、その上深い隈にも囲まれていた。

 葉瑠は苦笑いし、白状する。

「すみません。本当は体の節々が痛いです」

「素直でよろしい」

 エネオラはコックピットから飛び降り、VFの膝を経由して地面に降り立つ。

「でも凄いよね。たった1週間でアイデアを形にしちゃうなんて」

「凄くなんてないです。……元々VFBで使われてた武器ですから」

 葉瑠の搭乗しているVF、その両腕には特殊な形状のノズルが取り付けられていた。

 ノズルからは複数の細いホースが伸び、それらはVFの背部に……正確には背部に装備された装甲の内側に接続されていた。

(やっつけ仕事ですけれど……何とか間に合いました……)

 硬化性透過流動体を再現するのは難しくはなかった。文献は残っていたし、似たような兵装も製品として存続していたからだ。

 存続していたのは武器ではなくモルティングアーマーという装甲だったが、とにかくこの装甲を参考にしてスムーズに武器を開発することができた。

 これもロジオン教官とモモエさんのおかげだ。モモエさんには最近お世話になってばかりだ。近いうちにお礼をした方がいいだろう。

 エネオラは不安を煽るようにしゃべり続ける。

「この武器の情報、相手にも知られてると思うけれど、大丈夫かなあ……」

「相手が特性を知っていても対処の仕様がない……それがこの武器の最大の特徴なんです」

 葉瑠は自信満々に言い放つ。

 控えめな葉瑠が自画自賛するほど、この武器は素晴らしい性能を有していた。

 ……仕組みは単純だ。

 アウターユニットに組み込まれたタンクから硬化性透過流動体(CTL)が腕部ユニットに送り込まれ、腕部ユニットのノズルから流動体を噴出し、刃なり槍なり盾なり何でも成形するというわけだ。

 思い通りに成形するのは難しい。が、一旦できてしまえば形状を維持するのは簡単だ。

 基本的な武器の形状はインプットしてある。手動で形を制御するのは難しいので、試合ではプリセットを使って戦うことになるだろう。

 葉瑠はVFを操作し、昇降リフトへ乗る。

 マントが揺れ、柔らかい陰を床に落とした。

 このマントは特殊装甲布でできていて、強い衝撃をうける硬質化する性質を持つ。耐久性は低いがその性能は折り紙つきだ。

 また、マントは手元を隠すという役割も担っている。これだけやれば相手は絶対に武器の間合いを確認できない。

 最終調整も終わり、マントが揺れ動く様子を眺めていると、エネオラがいらぬアドバイスを送ってきた。

「葉瑠、武器成形のテストもしておいたほうがいいんじゃない?」

「先輩、流動体には容量があるんです。ここでテストしたら勿体無いですよ」

「本番で上手く成形できなかったら、それこそもったいないよ」

「昨日散々やったんです。問題無いですよ」

 やがて試合開始時刻になり、リフトが動き始めた。

 あとはこのまま屋上のバトルエリアまで一直線だ。

 葉瑠はHMDを頭に被り、コックピットハッチを閉じる。

 真っ暗闇に包まれたのも一瞬のことで、すぐにヘッドカメラが起動し、VF視点の映像が目前に映し出された。

 頑丈そうな骨組みが下へ流れていく。

 暫くするとバトルエリアに到達し、視界が一気にひらけた。

(もうこの景色にも慣れてきましたね……)

 海上にそびえ立つ六角のタワー、その平たい最上面は陽の光を受け、照り輝いていた。

 さんさんと日差しが振る中、葉瑠はリフトから降り、バトルエリアに足を踏み入れる。

 ヘキサゴンの反対側、葉瑠は対戦相手の姿を見る。

 相手はランキング戦49位のロドニス・アレスさんだ。

 直接お会いしたことはないが、対戦映像は何度も見た。

 彼は距離によって武器を3種使い分ける手練で、ミドルレンジでは拡張弾倉のハンドガンを、ショートレンジでは細身のブレードを、そしてクロスレンジでは小ぶりのハンドアックスを使っている。

 特に危険なのはクロスレンジのハンドアックスだ。

 ただの手斧だが、ロドニスの手にかかれば必殺必中の武器となる。彼の斧捌きは実に見事なのだ。映像でも8割近くハンドアックスでトドメを指している。

 葉瑠はマントを靡かせながら開始位置まで移動していく。

 途中、相手のロドニスから通信が来た。

「一年生、何やら新しい武器を使うつもりらしいな。……なんでも、透明な剣だとか?」

 意外と渋い声だ。あまり敵意は感じられなかった。

「はい、この日のために頑張って造りました。精一杯戦いますので、よろしくお願いします」

「いい挨拶だ。では、精一杯試合を楽しもう」

「はい」

 あっさりと会話を済ませ、ロドニスは開始位置で仁王立ちした。

 ここで葉瑠は相手の兵装を確認する。

 胸部のやや下に取り付けられたホルスターには2丁のハンドガンが収められ、腰部の鞘には一振りの細剣が、そして腰の後ろ側にはハンドアックスが装備されていた。

 防御はあまり考えていないようで、装甲は簡素なものしか装備されていなかった。

(……絶対勝ちます)

 勝てば宏人さんに願いを一つ聞いてもらえる。

 3ヶ月越しの夢を今日こそ叶えてみせる。

 一人で意気込んでいると、高い猫なで声がフィールドに響いた。

「やっほー、みんなのアイドルカヤちゃんだよー。今日も実況と試合進行を頑張るねー」

 例によってカヤが実況するようだ。

 カヤに続いて解説者も簡単に挨拶する。

「解説のアルフレッドだ。よろしく頼もう」

 早速カヤはアルフレッドに絡む。

「ねーねーアルフレッド、この試合どっちが勝つと思うー?」

「実力的にはロドニスだろう。彼は代替戦争にも何度も参加している、言わばベテランだ。初心者の葉瑠君がそう簡単に勝てる相手ではない」

 アルフレッドのコメントを聞いてか、ロドニスは軽く手を挙げて反応を示した。

 少しくらい応援してくれてもいいのに、薄情な人だ。

「……だが、葉瑠君も新しい武器を開発したと聞いている。その性能は未知数だ。この勝負、どちらが勝つか予想するのは難しいな」

「結局わからないのねー……じゃ、そろそろカウントダウンにはいるよー」

 カヤはここでコメントを切り上げ、カウントダウンに入る。

 モニターに数字が表示される。

 少なくなっていく数字を見つつ、葉瑠は初手の動きを再確認する。

 相手はこちらの武器を警戒してミドルレンジで様子見をするはずだ。

 そして幸いなことに、相手はこの武器を“単なる透明な剣”だと認識している。ここで長槍を成形し、不意を突けば一撃で勝てるかもしれない。

 長物や大きい物を成形するには大量の流動体が必要だが、一撃で決めてしまえば問題ない。

 やがて数字はゼロになり、試合開始のブザーが鳴り響いた。

「試合開始です!!」

 カヤの声を遠くに聞きつつ、葉瑠はコンソールに載せた手を素早く動かし、早速長槍を成形する。

 長槍は相手には見えない。

 もちろん私も直には見えない。だが、モニターには合成映像でしっかりと形が表示されていた。

 槍は歪ながらもしっかりと成形されていく。

 約3秒で15m超の長槍を成形した葉瑠は、直ぐ様相手の動きを確認する。

 相手は葉瑠の予想通り、ハンドガンを両手に持ち、銃口をこちらに向けていた。

 ここまでは予想通りだ。

 だが、葉瑠の予想は一つだけ外れていた。

(どうして、こんな……!!)

 外れていたのは相手との距離だった。

 ロドニス機はあっという間に至近距離まで接近していたのだ。

 距離にして5m。完全に長槍の内側に入っている。

 どうやらあちらも私の行動を予想していたようだ。つまり、裏をかかれたというわけである。

 間もなく2つの銃口から光が発せられ、銃弾がこちら目掛けて飛んできた。

 半身ほども離れていないこの距離で銃弾を回避できるわけもなく、葉瑠は胸部装甲にまともに銃弾を受けてしまった。

「くっ……」

 コックピットに衝撃が走る。

 葉瑠は長槍を正面に構えて盾代わりにし、距離を取るべく背後に飛ぶ。

 その間も銃弾は発射され続けていたが、その大半が透明の長槍によって弾かれた。

 何もない空間で弾が弾かれる光景に驚いたのか、ロドニスは警戒を強めて葉瑠を追撃することはなかった。

 葉瑠は体勢を立て直し、早速長槍を突き出して反撃する。

 しかし、前に付きだした瞬間槍は形状を保てなくなり、根本から折れて粉々になってしまった。

 葉瑠は崩れ去る槍を目にし、愕然とする。

(嘘、計算ではもっと強度があったのに……)

 相手の銃弾の衝撃力が強かったのか。まだまだ改良の余地がありそうだ。

 お互い重力盾の干渉エリア外に出たことで、流れが一度止まる。

「ロドニス、いきなり飛び込みましたねー」

「過去のデータによると彼は相手の出方を探りつつ徐々に距離を詰める戦法を取っていたようだが……」

「葉瑠ちゃんのこと、格下だと思ってるんじゃないかなー」

「いいや、警戒しているからこそ、セオリーを捨ててクロスレンジに飛び込んだのかもしれない」

「そうかなー?」

 カヤとアルフレッドのコメントを耳にしつつ、葉瑠は次の手を考えていた。

(どうしよう……)

 戦ってみて分かったが、この不可視の刃はランナーの技量が伴っていなければ全く使えない武器だ。

 特に、状況判断のスピードは最も重要だ。

 最大限に能力を活かすためには、状況に応じて的確な形状を素早く成形しなければならないからだ。

 そして、成形できる回数にも制限があるので、短期戦で決着を付けなければならない。

 長期戦に持っていかれると本当に勝ち目が無くなってしまう。

(あれをやるしかないですね……)

 不可視の刃のメリットは“見えない”ことだ。葉瑠はこれを効果的に利用する攻撃法を事前に考えていた。

 相手が攻め方を考えている今こそ、その攻撃法を試すチャンスだ。

 葉瑠は気合を入れ直し、相手にゆっくりと近付いていく。

「おっと、葉瑠ちゃんが動きました。意外ー」

「何か策があるようだな」

 葉瑠機はやがて重力盾の干渉エリア内に入る。

 これでお互いの攻撃は重力盾に阻まれることはなくなった。

 葉瑠はエリア内に入った瞬間地面を強く蹴り、前傾姿勢でダッシュし始める。

 コックピット内にGがかかり、葉瑠の体がシートに沈み込む。

 ロドニス機は葉瑠の急加速に即座に対応し、ハンドガンを構えて射撃を再開する。

 葉瑠はそれを見越して既に流動体で小さな盾を成形していた。弾丸は透明な盾によって弾かれ、葉瑠機には命中しなかった。

 ずっと防げるわけではないが、相手との距離を詰めるまでなら十分強度は持つ。

 葉瑠は盾を構えたまま地面を蹴り続け、確実に接近していく。

 ロドニスは早々にハンドガンをホルスターに仕舞い、細剣を抜いた。

 葉瑠はその細剣目掛けて盾を投げつける。

 こんな適当な投擲、素人でも避けられる。盾自体が透明でも投擲動作さえ判れば回避するのは難しくない。

 ロドニス機は葉瑠の手の動きに合わせて回避行動を取り、お返しと言わんばかりに細剣をこちらに突き出してきた。

 葉瑠はその突き攻撃を……

 盾で防いだ。

(……よし!!)

 ロドニスは細剣が何もない空間に阻まれたことに驚いたのか、腕を付きだしたまま硬直していた。

 どうして刺突攻撃を盾で防げたのか。仕組みは簡単だった。

 ……実は盾を投げていなかったのだ。

 投げるふりをしただけで、手にはしっかりと盾を保持していたのだ。

 簡単にいえばフェイントである。透明だからこそできる戦法だ。

 葉瑠は作戦成功の余韻に浸る間もなく盾を外側に振り、細剣を弾き飛ばす。

 ホールドが甘かったのか、細剣はロドニス機の手から離れ、宙に飛んだ。

 葉瑠も盾を投げ捨て、流れるような動作で腕を振り上げ、相手の頭部めがけて振り下ろした。

 ロドニス機は上方からの攻撃に備え、腕をクロスさせて頭の位置まで掲げ、防御態勢を取る。

 葉瑠はそれを把握していても腕を振りきった。

 ……この時も葉瑠は武器など成形していなかった。

 結果、腕は何にもぶつかること無く振り下ろされ、ロドニス機に大きな隙が生じた。

 胸部から腹部にかけて完全にがら空き状態……葉瑠は勝利を確信した。

「!!」

 確信したその瞬間、手が震え始めた。

 胸が異常なほど高鳴り、視界が明瞭に、色彩が鮮明になっていく。

 時の流れが遅くなり、全ての動きがスローモーションに感じられる。

 そして、次に狙うべき場所に自然と視線が向けられた。

 狙うは敵機の喉元だ。下から刃物を突き刺せば、首を刎ね飛ばせる。

 明確なイメージが頭の中に浮かんだところで、葉瑠ははやる気持ちを抑えつつナイフを成形し、狙いを定める。

 そして一息でナイフを首元目掛けて押し出した。

 透明なナイフは最短距離で目標目掛けて突き進んでいく。

 ……しかし、その攻撃は途中で遮られてしまった。

 ナイフを遮ったのは相手の腕ではなく、下方から現れた膝だった。

 ロドニスの膝蹴りは葉瑠の手首に命中する。衝撃のせいで狙いは大きく外れ、ナイフはこめかみあたりを掠め、後方へ抜けていった。

 葉瑠はここで怯むことなく、逆の手にもナイフを成形する。

 しかし、葉瑠は攻撃する暇もなくロドニスに蹴り飛ばされ、距離を取られてしまった。

 葉瑠は地面に背中を打ち付けながらも即座に立ち上がり、ブレードを構えてみせる。

 ロドニス機の手にはハンドアックスが握られていた。

「やるねー葉瑠ちゃん、見えない武器でフェイントを掛けるなんて……わたしもあれやられたら困るかも」

「確かに、強度の点から成形できる形状に制限はありそうだが、透明であることと出し入れが容易という、この2点だけでも武器としては高性能な部類に入るだろう」

「でも、それだけで勝てるほど50位の壁は薄くないんだよねー」

「その通りだ」

 カヤとアルフレッドの対話を耳にしながら、葉瑠は背筋に冷たい感触を得ていた。

 ロドニス機はハンドアックスを手の内でくるくる回し、こちらをじっと見ている。

 ただそれだけの事なのに、葉瑠は彼から阿修羅の如き威圧感を感じていた。

 しかし、そんな感覚を得ていたのも数秒の間だけだった。

 ロドニスはハンドアックスのグリップを握り締めると、容赦なく斬りかかってきた。

 葉瑠は即座に槍を成形し、距離を詰められないようにけん制する。

 だが、こちらの不可視の攻撃を物ともせずロドニスは突進し、強引に斧を振り下ろした。

 葉瑠は槍を手元に引き寄せ、シャフト部分で斧の刃を受け止める。

 ハンドアックスとあってコンパクトなスイングだったが、肉厚な刃の影響か、威力は申し分なかった。

 槍は接触した部分からポッキリ折れ、盾の役目を果たせなかった。

 斧は止まること無く葉瑠機目掛けて突き進む。

(……!!)

 葉瑠にとってこれは不測の事態だった。

 まともな思考ができるわけもなく、葉瑠は咄嗟に腕部のノズルから流動体を噴出する。

 しかし、武器成形が間に合うわけもなく、流動体は斧にべチャリと付着しただけだった。

 結局葉瑠は斧を止めることができず、刃は間もなく頭部に命中した。

 命中の瞬間、葉瑠はコックピット上部から大きな振動を感じた。すぐにヘッドカメラの映像が乱れ、エネルギー供給が途絶え……

「……?」

 途絶えなかった。

 確かに頭部に損傷を受けたが、何故か機能停止していない。

「なんで……?」

 葉瑠が事態を把握できずに戸惑っていると、カヤの笑い声が響いた。

「あはは、なるほどねー、葉瑠ちゃんの新兵器にはそういう使い方もあるわけねー」

「敵の武器に硬化性透過流動体(CTL)を吹き付け、刃を覆って切れ味を大幅に落としたわけだな。あの流動体は高い粘性がありクッション代わりになる。……硬化する直前に刃を流動体で覆うことで、衝撃をも吸収したわけか」

 攻撃を頭部に受けたのは間違いないが、意図せず出した流動体のおかげで大幅にダメージを抑えられたようだ。

 アルフレッドの解説でようやく状況を理解した葉瑠は、改めて正面を見る。

 まだ試合は終わっていない。

 ロドニスは斧が使いものにならないと判断したのか、斧を投げ捨てハンドガンを抜いた。

(これもさっきと同じようにすれば……)

 葉瑠はスナップを効かせて腕を振り、流動体を敵機に浴びせる。

 流動体は運良くハンドガンの銃口に付着し、瞬時に硬化した。

 無論、全てが透明なので相手が認識できるわけもなく、ロドニスはその状態でトリガーを引いてしまった。

 結果、ハンドガンは暴発し、強烈な破裂音とともに銃身が裂けた。

 手元で火薬が炸裂し、ロドニス機は大きく怯む。

 ……葉瑠は絶好のチャンスを逃さなかった。

(今度こそ!!)

 葉瑠は残りの流動体を全て使い、ブレードを成形する。

 そして刃を腰の位置で構え、ロドニス機に向かってダッシュした。

 4歩目にはトップスピードに達し、葉瑠はロドニス機の真横を走り抜ける。

 すれ違いざま、葉瑠は渾身の力でブレードを斜め上へ振りぬいた。

 ロドニス機は防御態勢もままならず、まともにその攻撃を頭部に受けた。

 抵抗は感じられない。

 葉瑠の斬撃は完璧に決まり、頭部を胴体から完全に切り離した。

 ……この時、葉瑠の勝利が確定した。

 切り離された頭部は静かに自由落下し、乾いた衝突音をフィールドに響かせた。

「ふう……」

 地面を転がる頭部パーツを見て、葉瑠は安堵の溜息を付く。

 今度こそ、間違いなく、私の勝ちだ。

 頭部パーツはしばらく地面を転がり、やがて止まる。

 その頃になってようやく実況のカヤが言葉を発した。

「し、試合しゅーりょー。この試合、葉瑠ちゃんの勝ちでーす」

「私とエネオラの指導を受けたのだから、この結果も当然と言える」

「あれー? 試合前と言ってること違うんですけどー」

「私は“そう簡単には勝てない”とは言ったが、“決して勝てない”とは言ってない」

「屁理屈だー」

 二人の掛け合いを耳にしつつ、葉瑠はHMDを脱ぎ去りコックピットハッチを開ける。

 暗いコックピットから日差しの眩しいバトルエリアへ足を踏み出すと、正面にランナースーツ姿の男性が立っていた。

 身長は180後半はあるだろうか。ランナースーツにはくっきりと筋肉の筋が浮き出ており、浅黒い肌に精悍な顔つきが特徴的だった。

 彼がロドニスさんだろう。

 葉瑠は彼に歩み寄り、早速話しかける。

「対戦、お疲れ様でした」

 そう言ってお辞儀しようとすると、先に握手を求められてしまった。

「川上葉瑠……流石はあの川上宏人の妹だ。いい試合だった」

 葉瑠は握手に応じ、手を握る。

 ロドニスは握手の後、葉瑠をジロジロと観察する。

「しかし、聞いていた以上に小さい。こんな娘に負けるとは、私もいよいよ駄目かもしれないな……」

「すみません……」

 操作技術に年齢や性別や身長は関係ないと自覚しつつも、思わず葉瑠は謝ってしまう。

 ロドニスは慌てて発言を撤回した。

「すまない。今のは聞かなかったことにしてくれ」

 力なく首を左右に振り、ロドニスは言い直す。

「今日の試合、文句なしに君の勝ちだ。これからも上を目指して頑張ってくれ。応援しているぞ」

「あ、はい、ありがとうございます……」

 ロドニスはあっさりと別れを告げると、バトルエリアから早々に立ち去っていった。

 ふと気付くと既にVFの回収作業が始まっていて、ロドニス機はクレーンで昇降リフトまで移動させられていた。

 葉瑠も自機に乗り込み、帰り支度を始める。

 その間、葉瑠は宏人と交わした約束のことを思い出していた。

(宏人さん……)

 50位の壁を突破したら、何でも言うことを一つだけ聞いてくれると宏人さんは言った。

 何をお願いするのかはもう決まっている。後はそれを伝えるだけだ。

(緊張しますね……)

 まずはお願いのセリフの練習でもしておこう。

 ……激しいバトルを終えたばかりだというのに、葉瑠の頭の中は既に宏人のことで一杯になっていた。

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