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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
 3 二重の鎖
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 19 -武器-


 19 -武器-


(武器……得意な武器……)

 宏人に戦闘スタイルのことを言われてから3日間、葉瑠の頭の中は武器のことでいっぱいになっていた。

 葉瑠にとって武器は戦闘を有利に進めるための道具であり、決してアイデンティティを獲得するための道具ではなかった。

(私、武器とは無縁の生活を送ってましたし……)

 むしろ武器を向けられる悲惨な幼少期を送っていたのだが、それはそれとして……

 私はリヴィオくんのように格闘センスがあるわけでもなければ、結賀のように武器を自在に操れるほど熟練しているわけでもない。

 試合に勝つためにはこのままのスタイルで行くしか無いのだ。

 ……しかし、決定打に欠けると言われるとどうしても気になる。

「うー……」

 悩ましい唸り声を上げながら廊下を歩いていると、急に肩を叩かれた。

 葉瑠は驚き右を向く。

 右側にはいつの間にかルーメ教官が出現していた。

「どうしたの、悩み事でもあるの?」

「ルーメ教官……」

 葉瑠はこれほど近い距離からルーメを見るのは初めてだった。

 小麦色の肌はくすみ一つなく健康的で、ブロンズの髪ととてもマッチしている。

 緑の瞳は神秘的でありながらも、表情は朗らかで、底知れぬ天真爛漫さと自由奔放さを感じさせられた。

 手には例によって菓子袋が握られている。こんなに甘いモノを大量に食べているのにどうして彼女は体型を維持できているのだろうか……不思議で仕方がない。

「お菓子いる?」

「いえ、これから昼食ですから……」

 葉瑠はお菓子を断り、質問を返す。

「ところでルーメ教官、教官はどうして槍を使ってるんです?」

「いきなりどうしたの?」

「いえ、武器について少し悩んでまして……」

 合点がいったのか、ルーメは快く葉瑠の問いかけに応じた。

「そりゃあ、強いからに決まってるじゃない」

 ルーメは自信満々に告げる。

「リーチもあるし取り扱いも簡単だし、何より隙がないわ。訓練生で槍を使ってるの結構多いし、武器で迷ってるなら槍にしなさい、ね?」

 こだわりか何かあると思っていたのだが、そうでもないらしい。

 実際、この3日間で色々考えたが、槍は第1候補だ。扱いやすいしリーチもある。

「考えておきます……」

 葉瑠は廊下を曲がり、食堂内に入る。

 ルーメも葉瑠の後に続いた。

「考えるだなんて言わないで、決めちゃいなさいよ。もし槍を使うつもりなら特別にレクチャーしてあげてもいいよ」

「レクチャー……」

 ありがたい提案だ。

 しかし、ただそれだけの理由で武器を決めるのは早急すぎる。

 もっとじっくり考える時間がほしい。

 葉瑠は考えながらトマトサンドをトレイの上に載せ、食堂中腹の丸テーブルがあるエリアに向かう。

 丸テーブルにはいつものメンバーが座っていた。

「やっと来たか……って、珍しい組み合わせだな」

 いち早く葉瑠に気付き、声を掛けたのはリヴィオだった。

 リヴィオの声に反応し、丸テーブルで食事していた4名の視線が葉瑠に向けられる。

 ロン毛のクローデル君は携帯端末片手にパンを食べていて、

 筋肉隆々のドナイト君はプロテインらしき物を飲んでおり、

 華奢で小柄なアハト君はパスタを口いっぱいに含んでおり、

 金属のマスクにオールバックのアルフレッド教官は食後のコーヒーを飲んでいた。

 いつもならここに結賀が加わるのだが、彼女は現在数学の追試中だ。数学を教えているイリエ教官も結賀には骨が折れるみたいだ。

 アルフレッド教官は私ではなく、私の背後にいるルーメに話しかけた。

「どうしたルーメ、葉瑠君に何か用でも?」

「逆よ逆、この娘に武器について相談されてたの。で、槍がいいってオススメしてたところよ」

 ルーメはアルフレッドの正面……アハトの隣に座る。

 いきなり隣に座られ、アハトは緊張している様子だった。

 葉瑠はトレイをテーブルに置き、ルーメの隣に座る。

 席につくと、アルフレッドは早速葉瑠に話しかけた。

「何だ、そういうことなら私に相談するといい。書類上はまだ私が担当教官として登録されているのだからな」

 嬉しい言葉だったが、正直武器に関しては役に立ちそうになかった。

 葉瑠はやんわりとアルフレッドの申し出を断る。

「えーと、アルフレッド教官のはあまり参考にならないといいますか……」

 葉瑠の言葉を無視してアルフレッドは勝手に語り始める。

「……知っての通り、私は人工眼球を埋め込み、視力を強化している。この眼球はVFに取り付けられたカメラを介して視界を360度にまで広げることが可能で、私はこの特性を最大限活かすべく、かつ最大限の破壊力を実現するために連続回転攻撃という結論に達し、その攻撃に耐えうる武器を精査した結果、あのロングソードが最適だとわかったわけだ」

「はあ……」

「葉瑠君もロングソードにするといい」

 勧められたものの、葉瑠はロングソードを使うつもりはなかった。

 あれは槍と同じく単純な構造の武器だが、重量バランスが最悪で完璧に扱うのは難しい。

 スピートが命のVFBに於いて、重くて取り扱いづらい武器を使用するのは自殺行為だ。

「ロングソード? 冗談でしょ? 自分の得意な武器を訓練生に押し付けるなんて、教官の風上にも置けないわね」

 自分のことを棚に上げ、ルーメはアルフレッドの提案を鼻で笑う。

 アルフレッドは即座に反応した。

「別に押し付けているつもりはない。ロングソードも候補として申し分ないと言いたかっただけだ」

「嘘ね。学園内でロングソードを使ってるランナーがあなたしかいないから、仲間が欲しいだけでしょ?」

「むう……」

 図星だったのか、アルフレッドはマスクに手を当てて黙りこんでしまった。

 言い合いをしている二人を他所に、葉瑠は男子4人組にも同じ質問をする。

「リヴィオくんとアハトくんは素手だけど、ドナイトくんとクローデルくんは武器使ってたよね?」

 話を振られ、ドナイトがいち早く反応する。

「俺はナイフだ。高速機動でクロスレンジがメインだから、あまり長モノは使えないな」

 クローデルも続けて応える。

「みんな近接武器ばっかだけど、俺は苦手だな。消去法でショットガンって感じかな」

 銃器……やはり最後はそこに行き着く。

 お手軽で取り扱いも簡単で、それでいて威力も申し分ない。何故みんなこれを使わないのか、疑問に思うほどだ。

「となると、やっぱり私も銃かなあ……」

 葉瑠は何気なく呟く。

 すると、リヴィオが反対するようにデメリットを告げ始めた。

「やめとけやめとけ。銃は弾数に制限があるし、軌道を読まれやすい。それに嵩張るし重いし、50位の壁を破るには銃じゃ難しいぞ」

「そうかなあ……」

 葉瑠は素直にリヴィオの注意を受け入れられなかった。

 少なくとも試してみる価値はあるし、第一素手で戦ってるリヴィオくんに武器についてとやかく言われたくなかった。

 その後も葉瑠はトマトサンドを齧りながら武器についてずっと悩んでいた。



(これも違いますね……)

 夜

 エネオラに勉強を教えた後、葉瑠はトレーニングルームで自主練習を行っていた。

 練習の目的は自分に合う武器を探すことだ。

 この2時間で槍やロングソードやナイフやショットガンなど一通り試したが、全くしっくりこない。

(少し休憩しますか……)

 長時間狭い空間でHMDを被っていたせいか、頭は蒸れて服も汗でびっしょりだ。

 葉瑠はシミュレーションマシンから出て、タオルを首に巻く。そして、差し出されたドリンクボトルに手を伸ばした。

 葉瑠は何の疑問もなくそのボトルを受取り、上を向いてドリンクを胃に流し込む。

 冷たい液体が乾いた喉を潤していく……。

 が、飲んでいる途中で異常に気付いた。

 ……トレーニングルームには誰も居ない。一体誰がドリンクボトルを差し出してくれたのか。

 その答えはすぐに分かった。

「精が出るな」

 葉瑠はボトルを口元から離し、正面を見る。

 そこにはシンギ教官の姿があった。

 葉瑠は慌てて口元をタオルで拭い、姿勢を正す。

「お、お久しぶりですシンギ教官。いい、いつからそこに?」

 葉瑠の慌てっぷりを見てシンギは微笑する。

「驚かせて悪かったな。暇つぶしがてらシミュレータで遊ぼうと思ってたんだが……この時間帯になると誰もいやしねーな」

 時計は既に午後の9時をまわっている。

 私もこんなに遅くまで練習するのは初めてかもしれない。

 葉瑠は恐れながらシンギに提案する。

「あの、もしよければ私と対戦を……」

「俺もそのつもりだったんだが、練習で疲れきった訓練生に無理やり対戦させる気はねーよ」

 シンギは筐体から離れ、トレーニング器具に腰掛ける。

「それより随分とやりこんでたな。何か悩みでもあるのか?」

 シンギは懐を探り、チョコバーを取り出した。

 売店ではあまり見かけないタイプのお菓子だ。お土産か何かだろうか。

 シンギはチョコバーをこちらに向け、細かく上下に振る。

 どうやら、これが欲しければここまで来い、ということらしい。

 葉瑠は恐る恐るシンギに近づき、両手でチョコバーを受け取る。

 受け取ったまま突っ立っていると、シンギ教官は2本目を取り出し、包装紙を破り捨てて食べ始めた。

 葉瑠もシンギを真似てチョコバーを食べる。

 口に含んだ瞬間、濃いチョコレートの甘味が口全体に行き渡った。

(おいしい……)

 先ほどまでヘトヘトだったのに、疲労が少し和らいだ気がする。

「まあ座れよ。どうせ暇だし悩みくらい聞いてやるぞ」

 シンギ教官は世界最強のランナーだし、私程度の悩みなんてあっという間に解決してくれるに違いない。

 葉瑠は膝を揃えてシンギの隣に座り、早速悩みを打ち明ける。

「私、武器のことで悩んでるんです。色々と試したんですけれど、どうもしっくりこなくて……」

「あー、だからとっかえひっかえしてたんだな」

 自主練風景を見ていたのなら話は早い。

 葉瑠はストレートに悩みを告げる。

「どうしたら自分に合う武器を見つけられるんでしょうか?」

 シンギは即答する。

「色々試すしかないだろ」

「ですよね……」

 やはり今のやり方を根気よく続けていくしかないようだ。

 相談が無駄に終わったところで、葉瑠は何気なくシンギの武器について問いかける。

「そういえばシンギ教官の武器は日本刀でしたよね。どうして日本刀を?」

「俺の場合は選んだっつーより、『鋼八雲(ハガネヤクモ)』以外に選択肢なかったからなあ」

「鋼八雲……かっこいい名前ですね」

 葉瑠はシンギの鋼八雲を何度か目にしたことがあった。

 ダマスカス鋼を連想させる斑の刃、それ以外は普通の巨大な日本刀に見える。

「その鋼八雲以外に選択肢がなかったっていうのは……?」

 日本刀の形をした武器なら他にいくらでもある。名前をつけているくらいだし、何か思い入れでもあるのだろうか。

「あれは武器としての性能がべらぼうに高いからな」

「性能……?」

「隕鉄か何かを使ってるみたいでよ、折れない欠けない、それでいて切れ味は最高ってわけだ。俺が最強って言われてるのも、半分はアレのお陰みたいなもんだ」

 確かに、そんな武器があれば戦略の幅がぐっと広がる。

「高性能な武器ですか……」

「おう、上位連中は全員高グレードの武器を使ってる。使う武器を一つに決めて、自分に合わせて改造と調整を繰り返しながら熟練度を上げていくわけだ。自分の体の一部として扱えるくらいにならねーと上位に食い込むのは難しいな」

 一つに絞って熟練度を上げていく。

 だからほとんどのランナーは武器を一つに決めているのだろう。

 だとするなら、私も早く武器を決めなければならない。

 早く決めて熟練度を上げなければ、50位の壁を超えることなんてできない。

「シンギ教官、私、どの武器を使えばいいと思います? 直感でも何でもいいので教えてくれませんか? 今すぐその武器を使って訓練しますから……」

 葉瑠は焦りと不安からか、シンギに無理難題を押し付けてしまう。

「仕方ねーなあ……」

 シンギは後頭部を掻き、全く別方向のアドバイスを葉瑠に送った。

「どの武器もしっくり来ないっていうなら……自分で新しい武器作っちまえよ」

 予想だにしない言葉に、葉瑠は思わず感心してしまった。

「新しく作る……その発想は無かったです」

 目を丸くしている葉瑠を見て、シンギは笑う。

「何言ってんだよ。お前、散弾砲を組み込んだ4本のアームとか作ってただろ」

「あー……」

 葉瑠はその時の思い返す。

 散弾砲を組み込んだアームはロジオン教官に無理を言って作らせてもらった武器だ。

 あれとアクティブアーマーのおかげでアビゲイルさんに勝てたが、色々と反則していたため宏人さんにはきつく叱られてしまった。

「まあ、作るのは最終手段として、まだまだ時間はあるんだから色々と試してみろよ」

 シンギはそう言うとトレーニング器具から離れ、出口へ向かう。

 すると、タイミングよく室内に女性が入ってきた。

 女性は入ってくるなりシンギに飛びついた。

「シンギさーん」

 シンギに抱きついたのはこの学園の理事長、セルカさんだった。

 抱きついた勢いで長い銀髪はブワッと広がり、シンギに絡みつく。

 碧の瞳はシンギだけに向けられ、背後にいる葉瑠には全く気づいていなかった。

 セルカはしっかと抱きついたままシンギに告げる。

「もう、探したんですからね。今晩は久し振りにふたりきりで過ごそうって決めてたじゃないですか……」

「セルカ、分かったから離れたらどうだ」

 恥ずかしいのか、シンギはセルカを引き剥がそうとする。

 しかし、セルカは首を左右に振ってシンギの提案を却下した。

「やーです。しばらく離れるつもりはありませんよー」

 セルカは葉瑠が聞いたことがないような透き通った、それでいて甘い声で続ける。

「シンギさん、このまま抱いて部屋まで運んでください……」

 セルカはシンギの首に腕を回し、頬と頬が擦れるほど密着する。

(わわ……)

 葉瑠は二人から発せられる大人の雰囲気に耐えられず、思わず視線を逸らしてしまう。

 テレビドラマのラブシーンすらまともに見られない葉瑠にとって、この光景は目の毒以外の何物でもなかった。

 シンギは特に動揺することなく注意し続ける。

「セルカ、誰かに見られたらどうするんだ」

「誰も見てませんよ、こんな夜中に……」

「お前なあ……」

 シンギは呆れ口調でセルカの頬を両手ではさみ、顔をある方向へ向ける。

 その先には葉瑠がいた。

 セルカと目が合い、葉瑠は申し訳なさげに挨拶する。

「こんばんは……」

「……ひっ!?」

 セルカは少し遅れて悲鳴を上げる。

 そして一連の出来事を見られていたことを自覚したのか、みるみるうちに赤面していく。

「ま、まさか……」

「ばっちり見られてたな」

「うう……」

 セルカは涙目でシンギを見つめる。既にその表情からは色気も大人の雰囲気も感じられなかった。

「仕方ねーなあ……」

 シンギはセルカをひょいと持ち上げ、そそくさとその場から去っていく。

 去り際にシンギは葉瑠に告げる。

「また相談したいことがあればいつでも言えよ。しばらくは学園にいるからな」

 シンギはその言葉を最後にトレーニングルームから姿を消した。

 葉瑠はトレーニング器具に座り直し、チョコバーを齧る。

 やはり甘い。結構高いお菓子じゃないのだろうか。というか、シンギ教官、いつもこんなお菓子を持ち歩いているのだろうか……。

 葉瑠は3口でチョコバーを完食し、指の腹を舐めつつ考える。

(高性能な武器を自作……ですか)

 シンギ教官は本気で言っているわけではなさそうだった。

 大体、武器の開発にはエンジニアを始めとして大勢のスタッフが必要だ。既存のものを組み合わせるならまだしも、ゼロから創り上げるのは並大抵のことではない。

 ……が、葉瑠はこれこそが自分にあった解決策だと確信していた。

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