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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
 3 二重の鎖
61/133

 16 -戦神-


 16 -戦神-


 翌朝

 葉瑠たちスラセラートのメンバーは時刻通り指定された戦闘エリアに来ていた。

 対戦の場はケンブリッジ校校舎の背後に広がる広大な草原だ。

 ランナーは両校とも既にVFに搭乗済みで、横一列に並んで向かい合っていた。

 10機のVFが並ぶ光景はそれなりに壮観だった。

 これから5対5で戦うわけだが、全員で戦うわけではない。1対1の勝ち抜き戦だ。

 一体どれだけ時間が掛るのか検討もつかないが、早朝から始めたということは、少なくとも昼まで掛かるように思える。

 朝にもかかわらず、草原には観戦客らしき人が大勢集まっていた。

 一体どこから湧いて出てきたのか、彼らの多くがロゴマークの入ったシャツを着ており、大きなカメラを構えていた。

(あのシャツ、結構いいですね……)

 シャツには大きな盾のマークがプリントされている。多分ケンブリッジ養成校の校章だろう。

 観客を眺めていると、疑問が思い浮かんできた。

 葉瑠は何気なくその疑問を口にする。

「あの人達……流れ弾とか危なくないかな……」

 海上都市なら思う存分撃てるが、ここではそういうわけにはいかない。いくら広大とはいえ、撃ち漏らせば市街地まで余裕で届く距離である。

「それなら大丈夫ですよ、葉瑠さん」

 葉瑠の素朴な疑問に応えたのはモモエだった。

「使用する弾丸は発射後一定時間で炸裂するように調整されています。十分距離を取っていれば問題無いですよ」

「なるほど……」

 ちなみに葉瑠やモモエを含めたサポートスタッフは急ごしらえのバンカー内から対戦の様子を観戦することになっている。

 直接見られないのは残念だが、カメラ越しの方が詳細に動きをトレースできるし、逆にいいかもしれない。

「お前ら、ぼーっとしてないでさっさとこっち来い。巻き込まれても知らないぞー」

 ロジオンは早速そのバンカーに向かっていた。

 葉瑠とモモエはロジオンの後を小走りで追いかけ、少し遅れてバンカー内に入った。

 内部は暗く、モニターや計器類がズラリと並んでいた。狭苦しいが、VFのコックピットに比べれば広いものだ。

 葉瑠はモニター越しに外の様子を見る。

 十分距離は離れているし、意図的に撃たれない限りは被弾することはなさそうだ。

 そんなこんなで色々観察していると、ジェフリーの声が通信機越しに響いた。

「お互い準備が整ったようですし、ぼちぼち始めましょうか。先鋒戦の組み合わせは……ケンブリッジ校側はヒュー・グレッソン、スラセラートがリヴィオ・ミレグラスト……両者前へ」

 先鋒先はやっぱりリヴィオ君が出るみたいだ。

 昨日あれだけ強く言ったのでエネオラ先輩が出るかと思っていたが、リヴィオ君の意志は曲げられなかったみたいだ。

 エリア内には2機のVFだけが残り、それ以外の8機は背後に退く。

 リヴィオは高機動型のアウターユニットを装備し、武器は一切持っていなかった。

 武器は己の拳のみだ。だが、リヴィオには当たれば必殺の高周波拳ヴァイブロナックルがある。

 擬似AGFでもその威力はすさまじいが、扱いには難がある。

 インファイターのリヴィオにしか上手く扱えない武器であることは間違いないだろう。

 対戦相手のVFは葉瑠が昨日目にした通りの重装備だった。

 両手には散弾銃

 右肩にはガトリングガン

 左肩にはボディの半分を覆い尽くすほど大きな盾

 と、近接戦闘をする気が全く無いことがよく分かる構成だった。

(まあ、リヴィオくんの敵じゃないですね……)

 ああいう手合は一気に懐に飛び込み、張り付いてしまえばそれで終わりだ。

 相手の力量にもよるが、1分と経たないうちに試合は終わるだろう。

 色々と予想していると試合開始のブザーが鳴り、2機が動き始めた。

 葉瑠はモニターを注視する。

 まず動いたのは予想通りリヴィオだった。

 リヴィオ機は体勢を低くし、獲物に襲いかかる大型獣の如く靭やかに、それでいて素早く相手に接近していく。

 敵機の銃撃など全く気にしていない、自信に溢れるダッシュだった。

 対戦相手は余裕を持って散弾銃を構え、リヴィオ機めがけて発砲した。

 マズルフラッシュと同時に巨大なスラッグ弾が砲口から飛び出す。スラッグ弾は自らジャイロ回転し、草原の上を一直線に駆け抜ける。

(あんな位置から撃っても意味ないのに……)

 2機の距離はまだだいぶある。

 これなら避けるまでもなく重力盾で弾き落とせるだろう。

 葉瑠と同じくリヴィオもそう判断したようで、回避行動を取ることなくダッシュを続行する。

 スラッグ弾はリヴィオ機の重力盾に弾かれ、空に舞い上がって炸裂する……はずだった。

 しかし、弾丸は一直線に重力盾を抜け、リヴィオ機に到達した。

「……え?」

 瞬間、甲高い着弾音が草原に響いた。

 音がしたかと思うとリヴィオ機は糸の切れた人形のように動きを止め、ダッシュの勢いのまま頭から地面にスライディングした。

 いや、正しくは首からスライディングした。

 何故なら、リヴィオ機の頭は無残にも弾け飛んでいたからだ。

「嘘だろ……」

 この展開が信じられないのか、ロジオン教官はモニターの前で立ち尽くしていた。

 残響音が止むと、すかさずジェフリーのアナウンスが入った。

「勝者、ヒュー・グレッソン。何ともあっけなかったですね。……では、次鋒戦の準備に入りましょう」

 アナウンスが終わると我に返ったのか、ロジオンはバンカーを出て、戦闘エリアへ向かっていく。

「葉瑠、とりあえず回収しに行くぞ」

「あ、はい」

 葉瑠も後に続き、リヴィオ機に駆け寄る。

 数十秒も走るとリヴィオ機の足元に到着した。

 ……リヴィオ機は半分地面にめり込んでいた。

 転倒の衝撃で地面は抉れ、緑の草に混じって土の色もちらほら見える。

 その土の上、ランナースーツ姿のリヴィオはVFを眺めながら首を捻っていた。

「災難だったなリヴィオ」

 ロジオンが話しかけても、リヴィオはVFから視線を逸らさなかった。

「重力盾が機能してなかった……? 整備不良でこんな状態になるわけがないし……となると……」

「――意図的に機能をロックされた可能性が高いですね」

 通信機越しに発せられたのはアビゲイルの声だった。

 声は壊れたリヴィオ機から発せられている。通信機が生きているということは、内部の損傷はそこまで激しくなさそうだ。

「でも、チェックした時は異常は見つからなかったぞ?」

 ロジオンはコックピットハッチに脚を掛け、中の通信機に告げる。

 今朝一番のチェックには葉瑠も参加したが、オールグリーンだった。

 となると、試合中に何らかの妨害を受けた可能性が高い……と葉瑠は考えていたが、アビゲイルの意見は違った。

「見つからなくて当然です。チェックプログラム自体が改竄されていますから。……これは、かなり手の込んだイタズラですね」

 リヴィオは拳で手のひらを叩き、怒りを露わにする。

「クソ、間違いなく奴らの仕業だな……」

 勝ちたい気持ちは分からないでもないが、交流戦で不正をするなんて、根性がひん曲がっているとしか思えない。

 だがしかし、どんな方法でこちら側のVFに妨害工作を行ったのだろうか。

 葉瑠達が悩んでいると、次鋒戦の相手が……つまりは先鋒戦の勝者、ヒュー・グレッソンが近づいてきた。

「お互い重力盾が不具合を起こしてるみたいだな、困ったもんだ。全く」

「テメエ、ぬけぬけと……」

「先に言っとくが、俺達は何もしてないからな? というか、こっちも被害者なんだぜ?」

(じゃあ一体誰が……)

 葉瑠は一人で考える。

 昨日、最終チェックの時点では何も異常なかった。つまり、妨害工作はその後に行われたことになる。

 私やモモエさんの後でハンガー内にいた人物、それは一人しかいなかった。

(まさか、ケレスくんが……?)

 断定できないが、ケレスが怪しい。

 エンジニアとしての知識もあるし、VFに細工ができるとすれば彼以外にあり得ない。

 昨日見た感じではいじめを受けていたようだし、命令されてVFに細工をしたのだろう。

 戸締まりを彼に任せてしまったのは私達の落ち度だ。そもそも、対戦相手のランナーに自機の調整を手伝わせる事自体が間違っていた。

 こちら側のVFだけに不具合があれば抗議できるのだが、両者とも同じ状態となると話がややこしい。

「こんな試合、もう止めだ」

 リヴィオはHMDを地面に叩きつけ、踵を返す。

「……逃げるのか?」

 ヒュー・グレッソンはVFで腕を組み、リヴィオを見下す。

「だったら言ってもらおうか? “勝てる自信がないので負けを認めます”ってな」

 明らかに相手はこちらを馬鹿にしていた。ここまで煽られると怒りを禁じ得ない。

 葉瑠は息を吸い込み、言い返そうと口を開く……が、言葉が出る寸前でエネオラが割って入ってきた。

「何をぐちゃぐちゃ話してるの?」

 エネオラ機は悠然と歩いてくると、葉瑠たちと対戦相手の間に立ちはだかった。

 相手に文句を告げるのかと思いきや、エネオラは葉瑠に話しかける。

「……ねえ葉瑠、昨日の話の続きなんだけれど……」

 真面目な口調だ。

 いささかタイミングが悪いが、葉瑠は黙ったまま次の言葉を待つ。

 数秒の間を置き、エネオラは告白し始めた。

「私、強くなることに興味はないし、対戦なんて疲れるし面倒臭いって今この瞬間も思ってる」

「先輩、何言って……」

「でも、この才能自体には感謝してるのよ」

 エネオラはファイティングポーズを取り、言葉を続ける。

「だって、この才能のおかげで今からあいつらを思う存分痛めつけられるのだから」

 唐突に煽られ、ヒュー・グレッソンは「フフッ」と小さく笑う。

「そんなこと言って大丈夫か? お前の武器は近接武器だろ。ここは素直に狙撃銃持ってるやつを出したほうがいいんじゃないのか?」

 ヒュー・グレッソンはカヤを指名した。

 両者とも武器は銃器で、重力盾の影響を受けない。この条件ならカヤはその実力をフルに発揮できるはずだ。

 カヤ機はやる気があるようで、ロングレンジライフルを胸の前で構え、中央に向けて移動し始める。

 しかし、エネオラは「下がって」と一言だけ発し、カヤを制止した。

「私がやる。少しは後輩にもいいところ見せないとね」

 どう考えてもここはカヤが出た方がいい。

 全員がそう考えており、モモエもエネオラに苦言を呈した。

「先輩、いくら強いって言っても重力盾なしに銃器に対応できませんよ……」

「そういう決め付けはよくないよ」

「決めつけも何も……れっきとした事実ですよこれは」

 ぐだぐだと話している間にもリヴィオ機の回収作業は順調に進み、やがてジェフリーの声が聞こえてきた。

「えー、バトルエリアの準備は整ったようですが……話は終わりましたかな?」

 エネオラは全員の反対を押し切り、一歩前に出る。

 ジェフリーはその動きで参戦と判断し、試合を進行していく。

「では、第2試合を始めます。スタッフその他はエリアから退避してください」

 こうなってはもうどうにもできない。

 葉瑠たちは説得を諦め、その場から離れていく。

「葉瑠」

 エネオラに呼び止められ、葉瑠は振り返る。

 VFのコックピットからエネオラが顔をのぞかせていた。

「昨日葉瑠が言ってた“強い人なりの責任”、今から取るからね」

「エネオラ先輩……」

 朝会った時も昨日の件について全く触れなかったので全然気にしていないのかと思っていたが、あれで結構気にしていたようだ。

 エネオラはアメジストパープルの髪をかき上げ、HMDをかぶり直す。そして、コックピット内へ戻った。

 葉瑠は心のなかで「頑張れ」と応援し、バンカーへ戻る。

 バンカー内にはリヴィオの姿があった。

「リヴィオくんおつかれさま」

「おう、負けちまったけどな……」

 リヴィオが入ったことにより、ただでさえ狭いバンカーがもっと狭くなる。

 モモエはリヴィオに素朴な疑問をぶつける。

「ところで、リヴィオさんはどうしてここに?」

「VFは壊れちまったし、ここ以外に行き場がねーんだよ。それとも何か? 俺だけ外で一人で突っ立ってろってか?」

 リヴィオはモモエにまくし立てる。

「いえ、別にそういうつもりで言ったわけじゃ……」

 モモエは視線を逸して引きつった笑みを浮かべていた。

 知らない人が見ればリヴィオは頭を銀色に染めている不良少年だ。睨まれると結構恐い。

 モモエを庇うべく、葉瑠はリヴィオに注意する。

「リヴィオくん八つ当たりはよくないよ。みっともない」

「う……」

 葉瑠の一言だけでリヴィオはしおらしくなり、肩を落として簡易イスに腰を下ろした。

 間を置かずジェフリーがアナウンスを再開した。

「では改めて……ケンブリッジ側はヒュー・グレッソン。スラセラートはエネオラ・L・スミス……両者前へ」

 重力盾の不具合について一言も言及することなく、試合は進行していく。

 ジェフリーの声に促されて葉瑠はモニターを見る。

 ここで改めて葉瑠はエネオラ機をじっくりと観察することができた。

 エネオラ機にはこれといった特徴はなく、アウターユニットはバランス型で構成されていた。バランス型、オールラウンド型と聞くと耳触りはいいが、言ってしまえばデフォルト状態、単なる標準仕様である。

 特にカラーリングも施されていない。個性豊かなVFが勢揃いしている事もあってか、まるで素人機が紛れ込んだような印象を受ける。

 ただ、武器に関してはその限りではなかった。

(あれ、なんでしょうか……)

 エネオラの武器は個性的(ユニーク)のレベルを超えていた。

 エネオラ機の右手に握られていたのは短い金属棒だった。いや、棒とも言えない。持ち手の両端に角度の浅いスパイクが付いているだけだ。

 あんなものを持つくらいなら素手のほうがいいように思える。

 そもそも武器かどうかすら怪しい。

 整備した時は武器のパーツの一部かと思っていたが、あれをそのまま使うとは考えもしなかった。

 対戦相手も同じ感想を抱いたのか、オープンチャンネルで言及した。

「おいおい冗談だろ? 武器を取り出したかと思ったらなんだそれは?」

 声が笑っていた。

 葉瑠は彼に便乗し、モモエに問いかける。

「ねえモモエさん、エネオラ先輩の武器って……」

「あれは『独鈷杵(ヴァジュラ)』です」

「ヴァ……え?」

「インド神話上の武器。本当は法具なんですけれど、先輩はどうもあれを気に入ってるみたいなんです」

「へえ……」

 どういう経緯であんな武器を使うことになったのか気になる葉瑠だったが、事情を聞く前に試合が始まってしまった。

「では、カウントダウンに入ります」

 ジェフリーの宣言の後、カウントダウンがスタートした。

 10秒のカウントダウン中、ヒュー・グレッソン機は右肩のガトリングガンを前方に展開し、臨戦態勢に移行する。

 その間、敵機とは打って変わってエネオラ機はのんきに背伸びをしていた。

 VFにその動作をさせる意図が理解できない。が、余裕たっぷりだということはよく理解できた。

 すぐに10秒が経ち、ブザーが鳴り響き試合が開始した。

 まず動いたのはヒュー・グレッソン操る重兵装のVF……その右肩に装備されたガトリングガンだった。

 円状に配置された6つの砲身が高速で回転し始める。

 そして、試合開始から1秒と経たずにガトリングガンから弾が発射された。

 毎分3000発という高サイクルで発射されるため、銃声は連なり、マズルフラッシュは点滅ではなく点灯しているように見える。

 装弾数はそこまで多くないので、射撃も長く続かないだろう。

 だが、重力盾が機能しないこの状況では、長く続こうが続かまいが関係ない。

 ……エネオラにこの弾を防ぐ手立てはない。

 当然のようにエネオラ機は回避行動を取る。

 真横に大きく移動し、ガトリングガンの射線の外へ外へダッシュしていく。

 弾丸はエネオラの後方へ抜け、草原をえぐり、土を舞い上がらせる。

 だが、真横に走って回避するだけでは限界がある。

 ヒュー・グレッソンはガトリングガンの照準を細かく調整し、着弾ポイントを正確に修正していく。

 弾丸は走るエネオラ機にどんどん追いついていく。

 いよいよ弾が命中するかと思われたその時、予想外の場所から予想外の音が発生した。

 それは「ゴン」と「ガン」に形容される、重量物が硬い物体とぶつかった際に発せられる衝突音だった。

 その衝突音が響くと同時に射撃が止み、戦闘エリア内は静けさを取り戻す。

 一体何が起きたのか。

 誰もが不思議に思う中、急にグレッソン機が地面に膝をついた。

 挙動不審な動きに、全員が彼に注目する。その視線は頭部に向けられた。

「……!!」

 モニターには驚愕の光景が映し出されていた。

 グレッソン機の頭頂部、そこにヴァジュラが突き刺さっていたのだ。

 かなり深くまでめり込んでいる。まるで角を生やしているようだ。

 葉瑠は自分の目を疑った。しかし、隣のリヴィオやモモエ、そしてロジオンも同様な反応を示しており、それが紛れもない事実だということを悟った。

 グレッソン機はそのまま機能停止し、顔面から地面に崩れ落ちた。

「し、試合終了、勝者はエネオラ・L・スミスです……」

 エネオラ機は特にリアクションすることなく、グレッソン機に近寄る。そして、頭頂部からヴァジュラを引き抜いた。

 エネオラはヴァアジュラを手の中でくるくると回しつつ、試合開始位置へ歩き始める。

 その様子を呆然と見つつ、葉瑠は呟く。

「一体どうなってるの……」

 何から何まで理解不能だ。

 バンカー内で唖然としていると、通信機からスーニャの笑い声が聞こえてきた。

「プッ……アハハ!! ほんとに当たっちゃった……笑える」

「どういうことだスーニャ?」

 リヴィオの質問にスーニャは自慢気に応じる。

「実はね、エネオラは試合前に……」

「予め武器を真上に投げていたみたいだねー」

「ちょっ、カヤ!! ボクが言おうとしてたのに」

「誰が言っても同じでしょー」

「同じならボクに言わせろよ!!」

 言い合いを始めた少女2人を無視し、葉瑠は話を進める。

「なるほど、試合前のあの動作、あれは背伸びじゃなくて、投擲の動作だったんですね……」

 エネオラは相手が試合開始後も動かないことを予見して、予めヴァジュラを投げていた。

 先読みの力もさることながら、あんな不安定な形状のものを狙い通りに投擲できるその操縦センスも恐ろしい。

 まだ気になることがあるのか、リヴィオはロジオンに問いかける。

「投げたのはわかったけど、ルール的に大丈夫なのか?」

「さあわからん。が、向こうさんが気づかなければ文句も何も言ってこないだろ」

「それもそうか……」

 ロジオンの言葉にリヴィオは納得した様子だった。

 そもそも、先に反則じみた嫌がらせをしてきたのは向こう側なのだ。もし文句を言われても無視すればいい。

 それにしてもこんなアクロバティックな方法で敵機を破壊するなんて……やはりエネオラ先輩は4位の名に相応しいランナーだ。

 そう再認識する葉瑠だった。



 エネオラは思いの外作戦がうまくいったことに驚いていた。

 そして、狙い通りに事が運んだことに対して、快感に近い感情を得ていた。

 やはり、VFでの対戦はおもしろい。

 自分の夢がランナーならどれだけ良かったことか……惜しくてならない。

 試合開始位置で待機していると、ケンブリッジ側から文句が飛んできた。

「テメー、何しやがった!?」

 やはり、私の投擲のモーションには気づかなかったようだ。

 あの程度を見破れないようではランナーとしては二流だ。

 エネオラはわざとらしく言い返す。

「……何をしたと思う? まさか、ケンブリッジ養成校の代表ともあろう優秀なランナーが、この程度の攻撃を見破れないわけがないよね」

「クソッ……」

 よほどこちらの言葉に苛ついたのか、通信機越しに舌打ちの音が聞こえてきた。

 相手はイライラした口調で続ける。

「どうせ、どこかに仲間が隠れてるんだろ? じゃなきゃあの状況でヒューの頭にあんな物ぶち込めるわけがねえ……」

「この草原で隠れる場所がどこにあるの。こっちが教えて欲しいくらいよ」

 相手は更に口調を荒らげる。

「さっきのはズルだ、不正だ!! タイマンで俺達が負けるわけがない!!」

「そう。だったら2人掛かりで来てもいいよ」

「は?」

「やっぱり面倒だから4人一緒に相手してあげてもいい」

 エネオラは譲歩に譲歩を重ねる。

 これでもエネオラは余裕を持って勝てる自信があった。

(んー、スラセラートのランキングだと……30位台くらいの強さかな……)

 先鋒戦でリヴィオ機の頭部を撃ち抜いたあの一撃は見事だった。

 あれほどの腕前なら、重力盾が機能していても、干渉エリア内で同じことができていただろう。

 なのにどうしてわざわざ重力盾の機能を制限したのか、理解に苦しむ。

「4対1って……舐めてんのか?」

 ケンブリッジのランナー達はこちらの提案に不服なようだ。

 エネオラは更に一言、ダメ押しで挑発する。

「あ、ようやく分かった? あんた達が舐められるくらいに雑魚だってこと」

「……後悔するなよ!!」

 ようやく挑発に乗ったと思いきや、開始の合図も待たずにいきなり襲いかかってきた。

 まず襲いかかってきたのは3回戦で戦う予定だった相手……アサルトライフルを装備しているVFだった。

 至近距離だということもあってか、相手は銃を使わず、腕部に収納していた隠しナイフで斬りつけてきた。

 エネオラは反射的にナイフを横に払いのけ、代わりにヴァジュラによるカウンター攻撃を行う。

 コンパクトに振り出されたヴァジュラは敵機の首の付根を正確に捉え、一撃で装甲に穴を開けた。

 敵機のバランスが崩れる。

 エネオラは敵機を蹴り飛ばして仰向けに転倒させると、流れるような動作でマウントを取り、今度は顔面にヴァジュラを突き立てた。

 頭部を破壊された敵機は機能停止し、ピクリとも動かなくなった。

「……野郎ッ!!」

 仲間が一瞬で破壊されて焦ったのか、少し後ろで待機していた3機が一斉に銃口をこちらに向けた。

 エネオラは先程破壊したVFを抱え、体の前に構える。

 盾、人質である。

 流石に仲間は撃てないのか、3機は固まってしまった。

 もはやこれは試合とは言えない。ただの喧嘩だった。

「卑怯だぞ!!」

「だから?」

 エネオラは機能停止状態のVF、その腹部にヴァジュラを突き刺すと、代わりに右腕からアサルトライフルを奪う。

 そして一瞬で狙いを定め、敵機に向けて射撃した。

 弾は初弾から敵機の頭部に命中し、1機を機能停止に追いやった。

 残り2機は遅れて反応し、肩部の盾をこちらに向ける。銃弾は盾に弾かれてしまった。

 2機は盾を構えたまま駆け寄ってくる。

 どうやら近接戦がお望みらしい。

 エネオラはヴァジュラを手に取り、VFを前方に押し出す。

 2機はそのVFを避けるように左右二手に分かれる。

 そして、挟み撃ちで盾ごとタックルしてきた。

 エネオラは左に狙いを定め、ヴァジュラを盾中央に突き立てる。銃弾すら通さなかった分厚い盾だというのに、エネオラの軽い一突きで盾表面に亀裂が走った。

 次の瞬間にはバラバラに砕け、破片を周囲にまき散らした。

 エネオラはヴァジュラを引くことなくそのまま突き出し、敵機の頭部、側頭部に突き立てる。

 自身の突進の勢いも相まってか、衝撃に耐え切れず、頭部は内部パーツを盛大に撒き散らしながら破散した。

 残りは一機

 エネオラはろくに後方も確認することなく、ヴァジュラを振りぬく。

 先ほどと同じように盾が粉々に破壊され、破片が飛び散った。

 しかし、既に敵機は盾を捨てていたようで、後方に下がって銃を構えていた。

 まもなく銃撃が開始され、エネオラは背中に銃弾を受けることになる。

 ……はずだったが、エネオラ機には一発の銃弾も命中しなかった。

 エネオラは瞬時に体を折って銃弾を回避し、その後も姿勢を低く保ちながら回避行動をとる。その後反転し、ツーステップで敵機に肉薄した。

 敵機はエネオラ機を何とか補足しようと頑張っていたが、狙いは全く定まっていなかった。

 エネオラはアサルトライフルの側面をヴァジュラで叩く。

 ライフルも盾と同じく一瞬で分解され、マガジンや銃身、その他の部品が一方向に吹き飛んだ。

 武器と盾を失った敵機を破壊するのは簡単だった。

 エネオラは腹部にキックし、相手を仰向けに倒す。そして流れるような動作でマウントを取り、頭部にヴァジュラを突き立てた。

「ふう……」

 エネオラは予告通り一人で4機を破壊してしまった。

 この間たったの20秒……

 戦闘エリアでの動きが止まると、我に返ったのか、ジェフリーがアナウンスを再開した。

「えー、重大なトラブルが発生しましたので、交流戦は中止します」

 アナウンスの後、周囲で観戦していた人々が何故か拍手し始める。

 最初はまばらだった拍手も、時を経るごとに増していき、気付くとほぼ全員が拍手していた。

 この拍手はエネオラへの賞賛の拍手だった。

 エネオラの戦いは圧倒的だった。見事な戦いっぷりを目の当たりにして、拍手せずにいられなかったのだろう。

 エネオラは久々に高揚感に包まれていた。

 やはりVFで戦うのは楽しいし、勝利すると気持ちいい。褒め称えられると嬉しい。

 勝利の余韻に浸っていると、ケンブリッジのVFからランナー達が這い出てきた。

 彼らはエネオラ機の手前で集合し何やら話し始める。

「マジで強かったな」

「あーあ、負けだ負け」

「サッシュ、お前マジで切れてただろ。だせー」

「別にキレてないし」

「キレてたキレてた。でも、サッシュの不意打ちが通用しなかった時点で負け確定してたよな」

「確かに」

 試合前の傍若無人っぷりが嘘のように、5人からは爽やかな印象を受けた。

 ここまで毒気が抜けると逆に心配になる。

 エネオラはコックピットから出て、草原に降り立つ。

 彼らは私が降りてくるのを待っていたようで、早速声をかけてきた。

「すごかったな。流石はスラセラート4位のエネオラだ。だが、次は絶対に負けねーぞ」

「え、ああ、はい」

 何だか性格が変わっている気がする。もしかしてどこかで頭を打ったのだろうか。

 彼らは勝手に話し続ける。

「そうだ、次は俺達がスラセラートに遠征に行こうぜ」

「それいいな。今度は10人くらいランナー引き連れて行くか」

「……ちょっと待って」

 エネオラは話に割って入る。

「もしかして、また私達と試合できると思ってるの?」

 今回の重力盾の件、有耶無耶にされては困る。事実関係がはっきりするまで試合なんてできるわけがない。

 ケンブリッジのランナーは途端にしおらしくなり、何故か同情の視線をこちらに向けた。

「そうだったな。お前、今年で卒業だもんな」

「もう、戦えないってことか。残念」

「それじゃあ、次会うときは代替戦争だな」

「だから、勝手に話を進めないでよ。そもそも、私ランナーになるつもりはないから、代替戦争にも出ないよ?」

 事実を告げると、ケンブリッジの訓練生が不満気な表情を浮かべた。

「冗談だろ? 勝ち逃げは許さねーぞ」

「何でそんなに強いのにランナーにならないんだ? 理解不能だな」

 当然の疑問である。

 エネオラは真面目に返す。

「VFに乗るのは楽しい。でも、私の夢はエンジニアなの。だから、夢を実現させるためにはランナーを諦めないと……」

「馬鹿じゃねーの? どっちもやればいいじゃん」

「!!」

 気軽に発せられたセリフだったが、その言葉はエネオラにとって青天の霹靂だった。

 軽くショックを受けている間にも、ケンブリッジの訓練生は言葉を重ねる。

「そりゃ、夢が10も20もあったら取捨選択しなくちゃいけないけど、あんたなら2つくらい両立できるだろ」

「ランナーを諦めるって……そんな古典的な考え方だとこれからの時代生きてけねーぞ。得たいものは全部得るくらいの気持ちで生きてこうぜ」

「……」

 まさに彼らの言うとおりだ。若干プラス思考過ぎる気もするが、よくよく考えれば無理な話ではない。凝り固まっていた思考が解け、頭の中が晴れ渡る。

 こんな単純な解決策を思い付かなかった自分が情けない。

 彼らの言葉を噛み締めていると、アビゲイルの声が耳に届いた。

「あなた達、重力盾を無効化して銃で一方的に攻撃するという卑怯で姑息な事をやった後でよくそんなセリフが言えますね。反省の欠片も感じられません」

 いつの間にか彼女はエネオラの隣に立っていた。

 あまりにも口調が平坦で、怒っているのかどうかも分からない。が、アビゲイルの言葉を受け、ケンブリッジの訓練生は軽く謝罪した。

「重力盾のことはともかく、挑発しまくって悪かったな。だが、相手を煽って集中力を乱すのも立派な作戦だ。文句があるならジェフリーに言えよ。ま、8割は素だったけどな」

「殆ど素じゃないの……」

 確かに、今にして思えばミーティングルームでの絡み方は過剰だった。

 まあ、リヴィオは間違いなく彼らの術中にはまったわけだし、作戦は成功したと言っていいだろう。

 やがて、アビゲイルに遅れて他のランナー達も中央に集まってきた。

 リヴィオは勝ち誇った顔で彼らに告げる。

「ざまあねえな。重力盾無しでも俺らの勝ちだったな」

「だから、重力盾に関しては俺達はやってねーって言ってるだろ」

 しつこく疑われ、ケンブリッジの訓練生は全員辟易している様子だった。

 彼らの反応に違和感を覚えたのか、葉瑠が恐る恐る質問する。

「重力盾の件、ケレスくんにやらせたんじゃないんですか?」

「どうしてあいつの名前が出てくんだ?」

「それは……昨日最後までハンガー内で作業していたのはケレスくんだけでしたから、彼じゃないかなあと」

「あの意気地なし野郎がこんな大胆な真似できるかよ。実はお前がやったんじゃないのか?」

 疑いを掛けられた葉瑠の代わりにリヴィオが言い返す。

「よく考えろよ。わざわざこっちが不利になるような真似するわけないだろ」

「まあ確かに……」

 うまく話が噛み合っていない。本当に何も知らないようだ。

 業を煮やしたのか、ロジオン教官が強めの口調で全員に告げた。

「犯人探しは後でいくらでもできる。とりあえず今はVFをハンガーに運び込んでくれ。いいな?」

 ロジオンの言葉を聞き、全員が改めて戦闘エリアに目を向ける。

 草原には頭部を失った5機のVFが倒れていた。

 壊れたVFを長時間放置するのは避けるべきだし、何にせよ一旦ハンガーで落ち着いたほうがいいだろう。

 全員がロジオンに従い、まもなく撤収作業が始まった。



 壊れた5機のVFを引き連れ、葉瑠たちはハンガー内へ足を踏み入れる。

 普通、回収作業にはクレーンなどの重機を使うのだが、今回は時間短縮のためスラセラートのVFで回収作業を行った。

 アビゲイルとスーニャ、そしてエネオラの3人はVF本体を運び、カヤはエリアに散らばった残骸や武器をまとめて運んだ。

 ハンガー内には既にリヴィオ機が運び込まれており、整備用のケージに固定されていた。

 その足元のコンソールの前、ケレスが一人で佇んでいた。

 ケンブリッジの訓練生達は真っ先に彼に駆け寄り、取り囲む。

「ケレス、重力盾を使えなくしたのはお前か?」

 決め付けるような言い方を耳にして葉瑠は止めようとしたが、彼自らが告白した。

「……僕がやりましたよ。間違いなく」

 ケレスは笑っていた。

 それは不気味な笑みだった。

 ケンブリッジのランナー達は普段とは違うケレスを前に、若干戸惑っていた。

 葉瑠は遅れて駆け寄り、ケレスに問いかける。

「ケレスくん、どうしてこんなことを……?」

「僕は見たかったんです。スラセラートのランナーが無様に負ける様をね!!」

 ケレスは大声を出し、拳をコンソールに叩きつける。

 そして、腕を乱暴に振り回し、取り囲んでいた訓練生達を追い払った。

 気弱な彼からは想像もつかない行動だった。

 呼吸が荒くなり、目も大きく見開かれ、明らかにケレスは正気を失っていた。

「スラセラート……僕を書類選考で落とすなんてあり得ない!! 僕はエリートなんだ!! VFOBのランクもダブルAで勝率は7割を超えてる。それなのに、操作技術も確認しないで落とすなんて……あり得ないあり得ないあり得なあああい!!」

 コンソールを乱暴に叩きながらケレスは喚く。

「エンジニアコースでもランキング戦に参加できるのは知ってた。だからエンジニアコースで妥協してやろうと思っていたのにそれも不合格……ふざけるなよオオォ!!」

 発狂したケレスを見て、全員が引いていた。

 葉瑠は哀れみの視線を向けつつ距離を取り、

 エネオラは腰に手を当て眉をひそめ、

 モモエは体半分だけ機材の陰に隠れ、

 スーニャは不安げな表情を浮かべつつリヴィオの右腰にしがみつき、

 カヤはやましい笑みを浮かべつつリヴィオの左腰にしがみつき、

 2人にくっつかれているリヴィオは困り顔で立ち尽くしていた。

 そんな中、ロジオンとアビゲイルだけがケレスに近付いていく。

 ロジオンはケレスの正面に立つ。

「ふざけているのはお前だ」

 静かに言い放つと、ロジオンは素早く前に踏み出し、ケレスの胸ぐらを掴む。そしてそのままコンソールに押し付けた。

「重力盾を無効化するなんて何考えてんだテメーは!! 素人が勝手に弄っていいもんじゃねーんだよ!! どっか不具合を起こしてランナーが怪我したらどうするつもりだったんだ!?」

 ケレスは押さえつけられているにも関わらず、ロジオンを見て笑っていた。

「アハハ……スラセラートのランナーが怪我するわけないだろ。スラセラートは強いんだ。最強のランナーが集まる世界一の養成校なんだ。僕はスラセラートの訓練生になるんだ……ヘヘ」

 もはや支離滅裂だった。

 ロジオンが手を離すと、ケレスはそのまま床にへたり込んだ。

 すぐにジェフリーが駆け寄り、彼を強引に脇に抱える。

「スラセラートの皆さん、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。この件については後日改めて話をするということで」

 苦笑いするジェフリーを見て、リヴィオが突っかかる。

「オイ、俺達に見て見ぬふりをしろってか?」

「違いますよリヴィオ。我々がこの場で話し合って解決できるような問題ではないということです」

「どういうことだ?」

 アビゲイルに引き続き、ロジオンが応える。

「つまり、上層部同士で話し合う必要があるほど重大な事故だったってわけだ」

 説明し終えると、続けてロジオンはジェフリーに文句を言う。

「門戸を大きく開くのもいいことだが、こんなヤツを通すようじゃ駄目だろ。もっと適性検査に力入れろよ」

「返す言葉もありませんよ」

 二人の会話を耳にし、ケレスは再度喚き散らす。

「こんなヤツって……僕を馬鹿にするなよ。僕は、この半年間毎日毎日苦しい思いをして訓練に励んできたんだ。こんなに努力をした僕がそこにいるような呑気な連中に劣るなんてあり得ない……絶対に追い越す。追い越して、跪かせてやる!!」

 青筋を立てながら、唾を飛ばしながら必死に告げるケレスに対し、葉瑠は静かに語りかける。

「ケレスくん、VFBを楽しいと思ったことある?」

「楽しい? そんなわけがあるか。血反吐を吐いて訓練して、体がボロボロになるまで技を磨く。ランナーは苦しんだ分だけ強くなれるんだよ」 

「やっぱり楽しいと思ったこと、一度もないんだね」

 葉瑠は哀れみの視線をケレスに向ける。

「嫌なことを続けても辛いだけだよ。だから……」

 葉瑠は間を置き、はっきりとした口調で告げた。

「――もう辞めたら?」

 葉瑠の言葉は皮肉でも何でもない。純粋な提案だった。

 無論、そんな提案をケレスが受け入れるわけがない。

 ケレスは強く反発した。

「辞めろだって? エンジニア風情が偉そうに抜かすな!!」

「……!!」

 流石の葉瑠もムカついたのか、ムッとした顔で言い返す。

「そもそも、ケレスくんって半年掛けても基礎教練プログラムをクリアできない下手くそなんでしょ。そんなんじゃこれ以上続けても無駄だと思うよ」

 葉瑠のセリフはケレスの心に深く突き刺さる。

 ケレスはもはや何も言い返すことができない。

「うぅ……あああぁぁッ!!」

 色々と我慢できなくなったようで、ケレスはとうとうジェフリーの腕の中で暴れだした。

 足をばたつかせ、腕を大きく振ってジェフリーの背中を叩く。しかし、ジェフリーは全く動じていなかった。

 音も軽いし、ケレスは見た目通り非力な少年だったようだ。

「それでは、私達はこれで失礼します」

 ジェフリーは半ば強引に別れを告げると、代表ランナー達を引き連れてハンガーから出て行った。

 ケレスが見えなくなると、スーニャは感心した様子で呟く。

「葉瑠やるなあ、完全にトドメ刺したね」

「ほんとほんと、えげつないなー……」

 これにはカヤも同意していた。

 声を聞きつけ、葉瑠は二人に問いかける。

「え? トドメって何?」

「何でもないよー。それよりアウターユニット、早めに外したほうがいいんじゃない」

 カヤは話を誤魔化し、視線をVFに向ける。

「そうだな。これ以上ここにいても無駄だし、さっさと帰り支度を始めるか」

 ロジオンはカヤの意見に賛成し、早速整備用ケージに向かって行く。

 その後、スラセラートのランナーは全員ユニットの解体作業を手伝うこととなった。

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