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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
 3 二重の鎖
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 15 -負の闘志-

 15 -負の闘志-


 校舎2階

 大きな長机が床面積の4割強を占めるミーティングルームにて

 スラセラートとケンブリッジの代表ランナーが向かい合って座っていた。

 スラセラート側は部屋の奥から順にエネオラ、カヤ、リヴィオ、スーニャ、アビゲイルの順で座っており、全員行儀よく座っていた。

 しかし、ケンブリッジ側は全員態度が悪く、ヘラヘラ笑ったり、テーブルの上に足を載せたり、完全にスラセラートを舐めきった態度をとっていた。

 対面してまもなく、ケンブリッジのランナーが挑発した。

「スラセラートのトップランナーが来るって聞いて期待してたのに、ガキばっかだな」

「本当にこいつら強いの? 弱い奴らと戦ってるほどヒマじゃないんだよね、僕ら」

「……こらこら、失礼だろ」

 彼らをやんわりと諌めたのはジェフリーだった。

 しかし、教官の言葉を無視して彼らはしゃべり続ける。

「俺達と戦いたいなら最低でもルーメを連れてこいよ。こんな奴ら相手だと戦う気も起きねーよ」

「確かに、こんな名前も知らないような連中に勝っても自慢にもならないな」

 ここまで言われてリヴィオが黙っていられるわけがなかった。

「はあ? 舐めてんのかテメエ」

 リヴィオは机を叩き、立ち上がる。

 しかし、彼らは態度を全く変えない。

「舐めてるのはそっちだろ。もう帰れよ。雑魚と戦ったって仕方がねーんだよ」

「はあ……」

 ため息を付いたのはエネオラだった。

 エネオラは席を立ち、スラセラートのメンバーに告げる。

「あちらさん、ああ言ってることだし、帰ろっか」

「ななな、何言ってるんですかエネオラ先輩!?」

 リヴィオに突っ込まれ、エネオラはケンブリッジのメンバーを指さす。

「だって、今向こうが忙しいって……」

「あれは嫌味っていうんです。額面通りに受け取らないでくださいよ……」

 先輩ということもあり言葉は丁寧だったが、口調からは苛立ちが感じられる。

 すかさずケンブリッジのランナーの一人が言い返した。

「嫌味? 僕ら事実を言っただけですけど?」

「ほら、あっちもああ言ってるし、もういいでしょ。それに、向こう側のエンジニアさんたちに迷惑をかけるのも可哀想だし」

「……どういう意味だ?」

 エネオラの言葉に引っかかりを覚えたのか、ケンブリッジのランナーは鋭い視線をエネオラに向ける。

 応えたのはアビゲイルだった。

「私達によって完膚なきまでに破壊された5機のVFを完全に修理するのは貴国が有するベテランのエンジニアでも骨が折れるほど大変な作業になるだろうということです」

「ッ!?」

 まさか言い返されるとは思っていなかったらしい。

 ケンブリッジのランナーは明らかに不機嫌な表情を浮かべ、標的をアビゲイルに変える。

「こいつ……いっちょまえに挑発か? あ?」

「挑発? 私は事実を言っただけですが?」

 アビゲイルは彼らと同じセリフを引用して挑発し、無表情のまま淡々と告げる。

「それと、先程の言い訳は“私達に勝てる自信がないので戦いたくない”と言っているように聞こえましたが、違いますか?」

 プライドの高いケンブリッジのランナーが黙っていられるわけがない。

「上等だ!!」

 彼らは席を立ち、スラセラートの席に向かう。

 リヴィオは待っていましたと言わんばかりに拳を握り、机を迂回して彼らに近付いていく。

 しかし、途中でジェフリーが止めに入った。

「落ち着け、他校の訓練生に暴力を振るったとなると、流石に擁護できないぞ」

「……」

 彼らとしても事を大きくするつもりはないらしい。

「明日の試合、修理不能になるまで鉛弾ぶち込んでやるから覚悟しとけよ!!」

 ケンブリッジの代表チームは口々に捨てセリフを吐き、ミーティングルームから出て行った。

 室内が静かになり、残されたメンバーは胸を撫で下ろす。

 本来ならば自己紹介しあったり意見交換する場だったが、お互いに対抗心を燃やすだけの結果となってしまった。

 ジェフリーは彼らを追うことなく、ミーティングルームに留まっていた。

「色々と済まなかった……気を悪くしただろう」

 リヴィオは席に戻り、言い返す。

「あれがケンブリッジの代表ランナーって……信じられないな。どんだけ高慢なんだよ」

「申し訳ない。一応厳しく注意しているつもりなんだが……実力がある手前、なかなか強く言えんのだよ」

「情けない話ですね……」

 アビゲイルの言葉の後、再びドアが開く。

 室内に入ってきたのは葉瑠だった。

「――すみません、遅れました」

「遅れたってレベルじゃないぞ……」

 完全遅刻である。

 葉瑠の入室をきっかけに、ジェフリーは外に出る。

「それでは皆さん、宿にご案内しましょう。外に車を用意していますので」

 ジェフリーに促され、スラセラートのランナー達はだらだらと移動し始める。

 部屋を出るとリヴィオは葉瑠に話しかけた。

「行こうぜ葉瑠」

 同行を誘うリヴィオに対し、葉瑠は首を横に振った。

「ごめん、私はアウターユニットの整備の手伝いがあるから」

「そうか……」

 残念そうに呟くリヴィオに、スーニャとカヤが飛びかかる。

「リヴィオってこの後暇?」

「せっかくケンブリッジに来たんだし、どっか連れてってよー」

「お前らなあ……遊びに来たわけじゃないんだぞ?」

 リヴィオはうんざりしながらもきちんと二人の相手をしていた。

 葉瑠は一歩二歩と離れ、小さく手を振る。

「それじゃあ私、格納庫に行くね」

「待てよ、俺も行く」

 葉瑠は一人で向かうつもりだったが、リヴィオが慌てて追いかけてきた。

「整備、手伝ってやるよ」

 葉瑠にとってこの提案はありがたいものだった。が、あまり素人に手を出してほしくないという気持ちもあった。

 葉瑠の気持ちを代弁するかのように、アビゲイルが割って入ってきた。

「素人に手を出されて私の大事なアウターユニットが破壊されると堪りませんので今日のところは大人しく英気でも養っておいてください」

「なんだよ、これでも俺は……」

 食い下がるリヴィオだったが、またしてもスーニャとカヤに突っ込まれる。

「リヴィオ、しつこい男は嫌われるぞ」

「だからモテないのよねー、リヴィオは」

「テメーらうっせーぞ」

 リヴィオはまとわりついている少女2人を追い払う。

 カヤとスーニャは素早く離れたが、遠くまで逃げることなく一定距離を保っていた。

「あの、すみません……」

 賑やかに会話していると、申し訳なさそうにケレスが話しかけてきた。

 誰もが「誰だこいつ?」という表情を浮かべる中、葉瑠だけが反応を示した。

「どうかしたんです? ケレスさん」

「あの、格納庫まで案内するようにジェフリー教官に指示されたんです。エンジニアの方は僕についてきてください」

 そう言ってケレスは別方向に歩き始める。

 葉瑠は早速付いていこうとするも、リヴィオに引き止められてしまった。

「おい葉瑠、どうしてあいつの名前知ってんだ?」

「ついさっき廊下でぶつかっちゃって、名前はその時に、ね」

「ぶつかったって……おっと」

 話が長引くと判断したのか、アビゲイルは強引にリヴィオの背中を押す。

「早く歩いてください。これ以上時間を無駄にするなら力づくで車に押し込みますよ」

「へっ、やれるもんならうぐっ……」

 言葉が終わる前にアビゲイルは背後からリヴィオの横っ腹に拳をねじ込んだ。

 鈍い打撃音が響き、リヴィオは打たれた箇所を手で押さえる。

 アビゲイルは急に黙りこくったリヴィオの背を押し、ジェフリーの後を追いかける。

「では葉瑠、メンテナンスよろしくお願いします」

 そう言うと、アビゲイルはリヴィオと共に階段を降りていった。

 スーニャとカヤも後に続き、廊下は一気に静かになる。

「仲、いいんですね……」

「まあ、それなりに……」

 葉瑠はケレスに案内され、校舎から格納庫へ移動する。

 格納庫の天上は高く、内部はVF整備用のケージがズラリと並んでいた。

 その数10……スラセラートには劣るが、アウターユニットの取り付けと簡単なメンテナンスをするくらいならば問題ない。

 スラセラートから空輸したコンテナは既に格納庫内にあり、ロジオンが開封作業を行っていた。

「やっと来たか、もう作業はじめてるぞ」

「すみません、すぐ行きます」

 葉瑠は袖まくりをし、マニピュレーションアームの制御コンソールに向かう。

 ケレスは葉瑠を追い越し、コンテナに向かう。

「せっかくですし、僕もなにか手伝いましょうか? ここの機械なら使い慣れてますし」

 急に話しかけられたロジオンは怪訝な表情を浮かべた。

 葉瑠は咄嗟にフォローする。

「彼はケレスさんです。ケンブリッジ校の訓練生ですけれど、元はエンジニア志望だったみたいで……」

 ロジオンは特に悩む様子もなく提案を受け入れる。

「よし分かった。とりあえずモモエとケージの立ち上げを……あのピンク頭の作業を手伝ってくれ」

「分かりました」

 ケレスはモモエのもとに向かい、すぐに作業に入った。

 ……その後、葉瑠達はケンブリッジ校の擬似AGFにアウターユニットを取り付け、細かい調整作業を行った。

 ケレスの手伝いもあってか、作業自体は2時間ほどで完了した。

「終わった終わった……」

 葉瑠はコンソールから離れ、額の汗を拭う。

 改めて格納庫内を観察すると、明日対戦するであろうケンブリッジ校のVFが見えた。

「重装備ですね……」

 装甲は厚く、肩部には大きなシールドが装備されていた。また、すぐ横には試合で使うであろう兵装がズラリと並んでいた。

 ショットガンから始まり、予備弾倉の詰まったバックパックや重厚なガトリングガンなど、おおよそ交流試合で使うような代物では無かった。

「あれ、使うつもりなのかな……?」

 葉瑠に近寄ってきたのはモモエだった。彼女もケンブリッジ校の装備が気になるようで、視線をVFに向けていた。

「ショットガンはまだしも、あのガトリングガンなんて意味が無いと思いません? 距離をとれば重力盾で弾けますよ」

「でも、オーバーヒートさせるには最適の武器かもね」

 2人で会話をしていると、酒を飲みながらロジオンが現れた。

「最終チェックも済んだし、ケージロックも完了だ。もう宿に行っていいぞ。それとも、どっか飲みに行くか?」

「ロジオン教官、私達未成年ですよ……」

「冗談冗談。とにかく、遅くなる前に宿に戻るんだぞー」

 ロジオンはそう言うと一人でさっさとハンガーから出て行った。

 作業も急ぎ足だったし、よほど酒が飲みたかったのだろう。

「ロジオン教官はああ言ってるけど……どうするモモエさん?」

「私は遠慮しておきます」

 モモエは結っていた髪をバサッと解き、大きなあくびをする。

「連日連夜整備でしたから、今日はもう休みます」

「そう……」

「葉瑠さんも一度宿に行きましょう? リヴィオさんも首を長くして待ってると思いますよ」

「どうしてそこでリヴィオくんの名前が出てくるかなあ……」

 不平を言いつつも葉瑠はモモエと共に格納庫の出口へ向かう。すると、出口からケレスがジュース缶を持って現れた。

 姿が見えないと思っていたら、飲み物を買いに行っていたようだ。

「皆さんお疲れ様です……って、もう終わっちゃったんですね」

 ケレスは苦笑いしながらジュースを葉瑠とモモエに手渡す。

 そして入れ替わるように格納庫内へ入っていく。

「後片付けはやっておきますから、どうぞ先に帰ってください」

 ありがたい提案だったが、葉瑠は受け入れなかった。

「いや、格納庫を使わせてもらったのはスラセラートですし、最後まで私達がやります」

「どうせ施錠は僕がしなくちゃならないので、気にしなくていいですよ」

「……それじゃあ、お願いします」

 疲労していることも相まってか、葉瑠はケレスの好意に甘えることにした。

 

 

 ケンブリッジ校を出てから20分

 葉瑠とモモエは本日宿泊するホテルに到着していた。

 ホテルと言っても何十階もあるような高層ホテルではなく、田舎にぽつりと建っている民宿に近いホテルだった。

 瓦の屋根にレンガ調の壁面、建物はレトロチックな雰囲気を醸し出している。

 軒先には綺麗な庭園が広がっており、刈揃えられた芝生は青々としていて、レンガの黄土と芝生の緑のコントラストは実に見事だった。

 周囲は例によって草原に囲まれ、穏やかな空気が流れている。

 高層ホテルよりもこういう場所のほうが料金が高いかもしれない。

 葉瑠はカウンターで手続きを済ませると、客室がある2階へ上っていく。

 するとタイミングを見計らったかのように通路の先のドアが開き、エネオラが現れた。

「あ、お帰り。案外早かったね」

 エネオラはスウェット地のマキシワンピースを着ており、完全にリラックスモードに入っていた。

 アメジストの髪はシュシュで纏められ、左肩から胸元へ流れている。

 格好に加えて彼女の放つ雰囲気も相まってか、古風な民宿に実にマッチしていた。昔からここに住んでいると言われても違和感がないほど景色に溶け込んでいた。

 葉瑠は遅れて挨拶に応じる。

「調整はバッチリです。明日の試合頑張って下さいね」

「ありがと。でも、私の出番はないかなあ……」

 エネオラは入室を促すように視線を室内に向ける。

 葉瑠とモモエは素直にその仕草を読み取り、室内へ誘われていく。

「出番がないって、どういうことですか?」

 アビゲイルにもおなじ質問をした気がするが、気にすることなく葉瑠は続ける。

「もしかして先鋒じゃなくなったんですか?」

「まあ、その通りなんだけれど……」

 エネオラの声を背後に聞きつつ、葉瑠は室内に足を踏み入れていく。

 中は予想通りクラシックな感じに構成されていた。

 味のあるフローリング、ニスが塗りたくられた木製のベッド、濃いグリーンの古びたソファー、極めつけはダイヤ模様の壁紙……

 まるで数世紀前にタイムスリップしたようだ。古臭くはあるが、不衛生というわけではなかった。

 葉瑠はモモエと共に緑のソファーに座る。

 するとようやくエネオラが葉瑠の問いに答えた。

「宿に着くなりリヴィオが“俺が先鋒で全員ぶっ倒す”って意気込んでて、あのアビゲイルもそれなりにやる気あるみたいだし、明日は多分順番回ってこないかな」

「そんな……私はエネオラ先輩の試合を見るために頑張ってたんですよ……」

 葉瑠はソファを離れる。

「葉瑠さん、どこに行くんですか?」

「リヴィオくんの部屋。先鋒をエネオラ先輩に戻してくれるように頼みに行く」

「今は無理かな」

 エネオラは葉瑠の進路を塞ぎ、理由を告げる。

「リヴィオ、今頃市内のゲームセンターで自主練習してると思うから」

「……」

 葉瑠は大人しくソファに戻り、ため息混じりに言う。

「先輩は練習しなくていいんです?」

「私?」

「ここ1週間、先輩が訓練している所を見てないんですけれど」

「別にしなくてもいいでしょ。私、エンジニアコースの学生だし」

 エネオラは軽く応じ、テキスト片手に葉瑠に近寄る。

「それよりもここの問題おしえてくれない? どうしても分からなくて……」

 いつもなら積極的に教えてあげていた葉瑠だったが、今日は様子が違った。

 葉瑠は「先輩……」と前置きし、眼鏡越しに厳しい視線をエネオラに向ける。

「私、この1週間ずっとエネオラ先輩の要求を飲んできました。ですから、交流試合が終わったらすぐにでも稽古を始めてくださいね。約束ですよ」

「稽古かあ……そもそも私、練習とか訓練とかしたことがないのよね……」

「え……?」

 目を丸くする葉瑠に気付くことなく、エネオラは当たり前のように言葉を続ける。

「だから、私なんかを頼るより、素直にアルフレッドとか宏人の指導を受けておいたほうが良いと思うよ……って、聞いてる?」

 葉瑠は気を取り直してエネオラに問いかける。

「あの、練習したことがないって……今まで一度も?」

「うん、一度も。試合以外では乗ってないね」

「訓練すれば1位になれるかもしれない、って思ったりはしなかったんですか?」

「だから、別に私は強くなりたいわけじゃないの。ランキング上位になると煩わしいことが増えるだけでいいことなんて何もない。むしろ弱くなりたいくらい」

 向上心の欠片も無いエネオラに対し、葉瑠は思いの丈をぶちまける。

「エネオラ先輩はずるいです」

 葉瑠は再度ソファから立ち上がり、エネオラの前に立つ。

「ランナーになりたくてもなれない人がどれだけいるか知ってますか!?」

「……急にどうしたの」

 声を荒げる葉瑠にエネオラは若干腰が引けていた。

 この時葉瑠はケレスのことを思い浮かべていた。彼にはランナーとしての才覚がない。いくら頑張ってもプロのランナーになれないだろう。

 そんな彼とは違い、エネオラは圧倒的な操作技術を有している。全くもって望んでいないのに、彼女はランナーの才能に恵まれている。

 これを不公平と言わずに何を不公平と言うのか。

 理不尽な意見だと分かっていても、葉瑠は文句を言わずにいられなかった。

「エネオラ先輩の悩みは、みんなと比べたら贅沢な悩みです。他のみんながどれだけ努力しているのか、知ってるんですか!?」

 葉瑠は俯いたままエネオラの服を強く掴む。

「え、ちょっと……」

 服を引っ張られて逃げることもできず、かと言って葉瑠を引き剥がすこともできず、加えて後輩に怒鳴られるなんてことは予想外の出来事であり、エネオラはおろおろしていた。

 葉瑠は小さな声で、しかしはっきりと告げる。

「強い人には強い人なりの責任があるんです。弱くなりたいなんてふざけたこと、二度と言わないでください……」

「私は別にそういうつもりで言ったわけじゃ……」

「失礼します」

 最後にそう吐き捨て、葉瑠は部屋から出て行った。

 静かになった部屋で、エネオラはモモエに問いかける。

「私、何か悪いことでもした?」

「ええ、少しだけ。私もちょっとイラッとしました」

「笑顔で言わないでよモモエ、ちょっと恐いから」

「すみません」

 モモエは溜息を付き、柔らかいソファーに身を預ける。

「エネオラ先輩はランキング4位の強者なんです。面倒かもしれませんが、4位に相応しい行動をしてください」

「ふさわしい行動って……例えば?」

「自分で考えてください」

「えー……何か今日のモモエ、私に対して厳しくない?」

「葉瑠さんの事を思えば当然です」

 モモエは部屋の出口を見つめながら続ける。

「葉瑠さんは強くなりたいんです。強くなるために、稽古をつけてもらうためにここまで同行してくれているんです。なのに、練習なんて意味が無い、ランキングに意味は無い、ぶっちゃけ弱くなりたいなんて言われたら、先ほどの葉瑠さんの反応も当然です」

「仕方ないじゃない。気持ちが全然入らないんだもん」

「どっちつかずだと、悲惨なことになりますよ?」

「悲惨って……嫌なこと言わないでよ、モモエ」

 エネオラはモモエの隣に腰を下ろし、駄々っ子のようにモモエの肩を揺らす。

 しかしモモエは「我儘言わないでください」と一蹴し、説教を再開した。

「とにかく、明日の試合ではまじめに戦ってくださいね。葉瑠さんに見放されて困るのは、勉強を教えてもらっているエネオラ先輩自身なんですから」

「確かにそうね……」

 何だかんだで葉瑠は教えるのが上手い。この1周間でそれは嫌というほど実感している。これからも葉瑠には色々と教えてもらいたいし、ここはモモエに従ったほうがいい。

 ……明日の試合はがんばろう。

 そう心に決めたエネオラだった。

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