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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
 2 鋼の拳
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 17 -リアライズ-


 17 -リアライズ-


 朝。

 太陽の光が室内を仄かに照らしだす頃

 葉瑠は壁に掛けているカレンダーを一枚破り捨て、呟いた。

「もう7月かあ……」

 早いもので、入学してから3ヶ月経った。

 ここでの生活にもだいぶ慣れてきた。

 朝一番の仕事は結賀を起こすことだ。結賀は低血圧らしく寝覚めが悪い。最低でも3回は声を掛けないと起きてくれない。

 その後、寝ぼけ眼の結賀を制服に着替えさせ、寮の食堂で朝食をとり、そのまま登校。

 午前中は簡単な講義を受け、昼食を挟んで午後はVFの操作訓練だ。……が、私だけは例によってフィジカルトレーニング。ここ2週間は結賀とリヴィオくんも一緒だ。

 訓練が終わると寮に戻って大浴場で汗を洗い流し、夕食を食べる。

 夕食後は自由時間なのだが、私の場合は部屋に直行して即就寝だ。フィジカルトレーニングは疲れる。最近は疲れにくくなってきたが、眠気には勝てない。

 自然と食べる量も増えて体重も増えている気がするが、たくさん食べないと翌日のトレーニングが辛くなるので食べたくなくても食べなければならない状態だ。

 休日は完全にオフだ。たいていみんな他のフロートユニットに遊びに出るが、私は誘われない限り部屋で映画やドラマを観ている。

 そこまで楽しくはないが、充実した日々を送っているのは間違いないだろう。

 葉瑠は7月のカレンダーに描かれた海のイラストから視線を逸し、早速朝一番の仕事にとりかかる。

「結賀、朝だよー」

 結賀のベッドの上に乗り、シーツの上から肩を揺する。

 いつもは唸ったり動いたりするのに、今朝はぴくりとも動かない。

 5回は揺り動かさないと起きないなあと思いつつ、葉瑠は朝の準備を進めることにした。



 30分後

 葉瑠と結賀は食堂で朝食を取っていた。

 結賀は茶碗に盛られた白米を掻き込みつつ意気込む。

「……今日こそはガツンと言ってやる」

「そんなこと言ってないで、素直にアルフレッド教官の言うこと聞けばいいのに」

「あんな変態の言うことなんて聞いてられるかよ」

 結賀は乱暴に言い捨てると、茶碗をテーブルに叩きつけた。

 その大きな音に食堂にいた女子学生たちが反応したが、結賀の仕業だと知るやいなや呆れたふうに視線を逸らした。

 ここ最近結賀は口を開くたびにアルフレッド教官の文句を言っている。

 ストレスが溜まっているのか、言動も荒っぽくなってきてるし、酷い時には八つ当たりもある。

 本来の結賀は気さくでかっこいい女子なので、こういう姿を見るのは結構辛い。

 周りの目を気にしつつ、葉瑠は結賀に注意する。

「朝からそういうのは止めようよ」

「……悪い」

 結賀はパック牛乳のストローを口に咥え、心を落ち着けるようにゆっくり吸い始める。

 葉瑠もバタートーストを囓った後、話を再開する。

「ねえ結賀、やっぱり素直にしてたほうが早くVF操作訓練に復帰できると思うんだけど、今日一日くらい教官に喧嘩売るのやめてみない?」

 結賀は再びむっとする。

「オレだって好きで喧嘩売ってるわけじゃねーよ。向こうが一々煽ってくるから……つい癖で言い返してしまうっていうか……」

「確かにそうだけど、そのたびに問題起こしてたら時間が勿体無いし、みんなにも迷惑が掛かるよ」

「迷惑……?」

 何気なく言った言葉だったが、結賀は後半部分について問い詰めてきた。

「もしかして葉瑠、オレのこと迷惑だって思ってんのか?」

 これは予想外の切り返しだ。

 葉瑠は咀嚼中のトーストを急いで飲み込み、首を横にふる。

「まさか、そんなことないよ。ただ私は結賀の為を思って……」

「嘘つくなよ。オレだって自分が葉瑠にどれだけ迷惑かけてるか分かってんだよ……」

「……」

 結賀は自己嫌悪に陥っているのか、テーブルに肘をついて掌で顔を覆い隠す。

 自覚があるのなら自重して欲しい……などと言えるわけもなく、葉瑠は黙って次の言葉を待つ。

「はあ……駄目だなあオレ。ここに入学して変われたと思ってたんだけどなあ……」

 朝から弱音を吐くなんて、結賀らしからぬ言動だ。

 ……やっぱり結賀はストレスでおかしくなってるに違いない。

 ここで下手に慰めて状況を悪化させると余計ややこしくなる。

 本人が落ち着くまで放っておくのが一番いいだろう。

 葉瑠は急いで残りのトーストを食べ、そろりと席を立つ。

「じゃあ、先に行ってるね結賀」

「……」

 結賀は顔を隠したまま、返事はない。

 葉瑠は鞄を持ち、食堂を後にした。



 寮を出た後、連絡路を歩いていると声を掛けられた。

「――よう川上、今日は一人で登校か?」

 葉瑠は背後から聞こえた挨拶に振り返る。

 背後に立っていたのは同じクラスの男子3人組だった。

 葉瑠は「おはよう」と言葉を返し、4人目の姿を探す。

「あれ、リヴィオくんは一緒じゃないの?」

 いつも一緒に登校しているのに、今日は見当たらない。

 葉瑠の問いかけに、クローデルは頭を掻いて応じる。

「今日はリヴィオより先に出てきた。……ちょっと空気に耐えられなくなってな」

「……と言うと?」

 葉瑠は少しスピードを落とし、3人に合流する。

 続いて答えたのはアハトくんだった。

「最近リヴィオくんピリピリしててさ。正直近づきたくないんだ……」

「そうなんだ……」

「ランキングこそ変動してないが、色々と焦っている感じだな」

 アハトに続いてドナイトも意見を述べる。

 ここで葉瑠も一人で登校していた理由を告白することにした。

「結賀もリヴィオくんと同じかも」

「同じって……?」

 アハトくんは首を傾げる。かわいい。

 本当は小学生なんじゃないだろうかと不信感を抱きつつ、葉瑠は説明を続ける。

「うん、これまで結賀って座学で溜まってたストレスをランキング戦で発散してたから……ストレスが溜まる一方でいつ爆発するかわからないの」

 私が被害を被ることは無いが、別の喧嘩に巻き込まれる可能性は否めない。という訳で、結賀を置いて先に寮を出たというわけだ。

「お互い大変だな」

「何かいい方法ないかな?」

「一番手っ取り早いのはアルフレッド教官の説得だと思うが、難しいな」

 3人は悩ましげに唸る。

 ここまで考えてくれる友だちがいるなんて、リヴィオくんは幸せ者である。

 結賀の悩みを解決するためにも、彼らの意見を聞いていて損はないだろう。

 やがて4人は門を潜り、正面玄関へ向かう。

 葉瑠は会話を続けるため、積極的に話し掛けた。

「そういえば、最近3人ともランキング戦出てないよね?」

「頭打ちだ」

 と、短く応えたのはドナイトだった。

 ドナイトの言葉を引き継ぐようにアハトくんが話す。

「現時点での実力の限界っていうのかな。だらだらランキング戦に出ててもしょうがないから、弱点を潰すために訓練に専念しようって思って」

 アハトの言葉に共感するようにドナイトは深く頷く。

 しかし、クローデルくんには別の理由があるみたいだった。

「……俺の場合、自分でやるよりも他人のを見てるほうが楽しいからな。ここじゃ毎日レベル高い対戦が行われてるし、VFBマニアからしてみりゃ天国だ」

 強くなる気は全く無いようだ。なんだか勿体無い気がする。

「でも、合格したってことは操縦も上手いんだよね?」

「それなりにな」

 確か、クローデルくんの戦闘スタイルはショートレンジでのショットガンだったと記憶している。

 4人は玄関を抜けて階段に差し掛かる。

「クローデル、そんなこと言ってないでランキング戦に出たらどうだ」

「面倒くせーからパス」

「あはは、クローデルくんらしいね。でも、クローデルくんの撮った映像には普段からお世話になってるし、あんまり強く言えないなあ」

 アハトの言っている意味が一瞬理解できず、葉瑠は思わず聞き返す。

「お世話になってるって?」

「試合の映像だよ。客観的に見てみると自分が思ってたよりも踏み込みが甘かったり、タイミングが早すぎたり……色々発見があるんだ」

「へえ、そうなんだ」

「アドバイスも的確でな。それなりに感謝してるんだ」

 アハトとドナイトに賞賛され、クローデルはまたしても頭を掻く。

「朝から気持ち悪いこと言ってんじゃねーよ。俺はただ違和感覚えたポイントを言ってやってるだけだ」

「違和感……?」

「なまじ大量に試合映像を観てるせいか、そういうのには結構すぐ気付くんだ」

 階段を登り終え、4人は2階に到達する。が、葉瑠だけが階段の中腹で立ち止まっていた。

 アハトは後方で止まっている葉瑠に声を掛ける。

「どうしたの?」

「……」

 葉瑠は黙ったまましばらく眼鏡のツルを弄り、遅れて応じる。

「クローデルくん。結賀とリヴィオくんの試合映像、もう一度見てくれない?」

「別にいいけど、どうするつもりだ?」

「このまま二人が荒れたままだと困るから、アルフレッド教官を納得させられる何かを探そうかと思って」

 葉瑠の提案にクローデルは肩をすくめる。

「リヴィオはともかく結賀は問題無いと思うぞ。あの鎖は応用力も高いし、このまま順調に勝ち進めるだろ」

「そもそも、結賀がランキング戦禁止になったのは態度が悪かったからだろうに」

「そうだったね……」

 クローデルとドナイトに指摘され、葉瑠は考えを改める。

 ……結賀に関してはまた別の方法を考えよう。

(問題はリヴィオくんですね……)

 まずはリヴィオくんの問題をみんなで解決して、その後結賀についても手伝ってもらおう。

 そんな下心を抱きつつ、葉瑠は早速提案する。

「取り敢えず座学まで時間あるから、休憩コーナーに行こ?」

 葉瑠は遅れて階段を登りきり、3人の正面に立つ。

「ジュース奢るから……駄目かな?」

 断られるかもしれないと思っていたが、3人は予想よりも好反応を示した。

「僕は問題ないよ」

「ありがたい提案だ。こういう問題は早めに解決するに限るからな」

「むしろこっちがジュース奢ってやりたい気分だ」

 3人は口々に提案を了承し、同じタイミングで進行方向に体を向けた。

 授業が始まるまで30分。

 少しでも解決の糸口が見つかればいいなと葉瑠は考えていた。



 廊下の終端にある休憩スペースにて、葉瑠は自販機で買ったココアを片手に呟いた。

「――わかったかも」

「マジか」

 リヴィオのこれまでのランキング戦映像を見始めてから20分。

 葉瑠は早くもリヴィオの弱点を見抜いていた。

 クローデルの携帯端末画面を指さしながら葉瑠は続ける。

「リヴィオくん、動きがちょっとおかしいと思う」

「……分かるように説明してくれないか」

「あ、ごめん」

 ドナイトに指摘され、葉瑠は言い直す。

「パンチとかガードの動きが効率的じゃないというか、VFで人間の動きを無理やり再現させているというか……」

 うまく言葉に表せないでいると、アハトくんが補足説明してくれた。

「人間には人間の、VFにはVFに適した打撃フォームがあるってことかな?」

 まさしく言いたかったことだ。

 葉瑠はアハトを指さし、大きく頷く。

「そうそう。例えばこの場面、ここまで大きく振りかぶらなくても十分な威力が出ると思うし、その次のガードもタイミングが早過ぎると思う」

 我ながら見事な指摘かと思ったのだが、クローデルくんの反応は芳しくなかった。

「それは誤差の範囲内だろ。それに、今更それを指摘した所で一度付いてしまった癖ってのはなかなか抜けないと思うぞ」

「そうなんだ……」

 せっかく自分なりの答えを見つけたのに、こう否定されると気が滅入る。

 これ以上は無駄だと判断したのか、クローデルは携帯端末をポケットに仕舞う。

「ま、最大の問題点はクロスレンジでしか戦えないってことだと思うけどな」

 クローデルが立ち上がるとアハトとドナイトもベンチから立ち上がった。

「素直に武器使えばいいのにな」

「やっぱり難しいのかな……」

「――何が難しいのですか?」

 諦めムードが漂う中、凛とした声を放ったのはアビゲイルだった。

 いきなり背後から出現したアビゲイルに男子3人組は驚いた表情を浮かべていた。

「もしかして聞いてはまずい話だったのですか?」

「いや、そんなことはないけど……」

 せっかくだしランキング6位のアビゲイルさんにも意見を聞いてみよう。

「今、リヴィオくんがランキング戦参加禁止になってるのは知ってるよね?」

「ええ。今は試合よりも訓練を優先すべきだとか」

「うん。だから、弱点を本人に教えてあげて、克服してもらおうって話。弱点を克服すればアルフレッド教官もランキング戦参加禁止を取り下げてくれると思うし……でも、なかなかそれらしい弱点が見つからなくて……」

「クロスレンジでしか戦えないというのは立派な弱点だと思うのですが」

 アビゲイルは自販機でコーヒーを購入し、一口飲んでから続ける。

「武器を使えば解決する問題じゃありませんか?」

「そうなんだけど……リヴィオくんって素手以外は駄目みたいで」

「その程度の問題なら簡単に解決できますよ」

 アビゲイルは悩む葉瑠の隣に座り単純明快な答えを告げた。

「腕自体のリーチを伸ばせばいいのです。それで距離に関しての弱点はなくなります」

「あー……」

 アビゲイルの言葉に、葉瑠を含め男子3人組も納得の声を上げる。

 武器を使えないのなら、腕自体を改造してリーチを伸ばそうというわけだ。

 これなら武器を使わずとも攻撃範囲を広げられるし、リヴィオくんも納得するだろう。

 早速葉瑠はその兵装の完成像を頭の中に思い描く。

 長い腕の追加兵装は前例が無いわけではない。少し昔の資料を参考にすればすぐにでも形にできるだろう。

(でも、まずはシミュレーターで試してみないと駄目ですね)

 データ上でテストするだけならすぐにでもできる。

「そろそろ授業が始まりますね。早く講義室に行きましょう、葉瑠」

「うん」

 葉瑠は放課後に地下のラボに行くことを決め、休憩スペースを後にした。



「――ということなんだけど、どうかな」

「難しい話ではないと思いますけれど、巨大なアームを作るくらいなら武器を使ったほうが手っ取り早い気が……」

「色々と事情があるの……」

「そうなんですか……」

 座学とフィジカルトレーニングが終わり放課後

 葉瑠は学園地下のラボでモモエと会話していた。

 内容は勿論リヴィオの追加兵装についてだ。

 エンジニアコースの学生にも意見を聞いておいたほうがいいと思ってモモエさんに声を掛けたのだが、彼女の考えでは巨大アーム兵装は非効率なようだった。

 葉瑠も同じ感想を抱いていたが、リヴィオの弱点を克服するには仕方ない。

「データを見る限り強度と出力は問題なさそうですけれど、これ、かなり重くありませんか?」

「それが問題なのよね……」

 二人の前にある端末には仮に作った兵装データが3次元画像で表示されていた。

 巨大なアームは背中部分に装着するタイプの物で、左右2本付いている。肩部には追加の補助動力が付き、腕自体にも関節が追加されてかなり大きい。

 太いところはVFの胴ほど太く、長さもVFの身長以上に長い。

 一見すると翼に見えなくもなかった。

 二人して設計データを眺めていると、ラボ内に男子が入ってきた。

「俺に話って何だ?」

 葉瑠とモモエは同時に横を向く。そこにはリヴィオの姿があった。

 葉瑠は端末から離れ、リヴィオに近寄る。

「あれ、リヴィオくんどうしてここに?」

「いや、クローデルから葉瑠がラボで待ってるって聞いて……」

 話している間、リヴィオは物珍しげに周囲を見ていた。

 葉瑠はそんなリヴィオの手を取り、端末の前に立たせる。

「話すのはもうちょっと後にしようと思ってたんだけど……これ、どうかな」

 そして、設計データを自慢気に見せつけた。

「なんだこれ……?」

 エンジニアの知識に乏しいリヴィオくんに見せても分かるようなものではない。

 葉瑠は遅れて説明する。

「追加のアームパーツ。これなら素手で十分なリーチを確保できると思う」

 説明後、リヴィオは画面をしげしげと眺めていた。

 感心しているのか、それとも嬉しさのあまり声が出ないのか。

 リヴィオから賞賛の言葉を聞けると思っていた葉瑠だったが、その予想は外れていた。

「これ、ずるくねーか?」

 葉瑠はリヴィオの隣に立ち、端末を操作しながら言い返す。

「ずるくもなんともないよ。ほら見て、フレームに手を加えるわけじゃないし、他の兵装と何ら変わりないよ」

「葉瑠、お前何も分かってねーな」

 リヴィオはそう言い捨て、端末から視線を逸らしてしまった。

 せっかくアビゲイルさんのアドバイスを元に考えたのに、こうも蔑ろにされると気分が悪い。

「そう言わずにもっとよく見てよ。これを使えば戦闘も有利になるはずだよ?」

「余計なお世話だ。恩着せがましいんだよ。よえーくせに口出しすんじゃねーよ」

 リヴィオは乱暴な口調で言った後、端末を足蹴にし舌打ちをした。

 普段は温厚な葉瑠も、この不遜な態度を前にして我慢できずにいられなかった。

「……いい加減にして」

 怒りのこもった静かな声がラボ内に響く。

 声に驚いてか、リヴィオは「え?」と葉瑠に目を向ける。

 その後数秒と経たずして、葉瑠は爆発した。

「いい加減にしてよリヴィオくん!!」

「な……」

 固まっているリヴィオに対し、葉瑠は詰め寄っていく。

「いつまでもそうやって一人でイライラしてさ、みんな迷惑してるんだよ? そりゃあランキング戦に出られなくて焦る気持ちはわかるけれど、だからってみんなに当たるのは間違ってるよ」

 喋っている間も葉瑠はリヴィオに詰め寄り、とうとう目と鼻の先まで近づいてしまった。

 怒り顔でリヴィオを睨んでいた葉瑠だったが、近付き過ぎてしまったことに気付くとすぐに後退し、先程までの勢いが嘘だったかのようにしゅんとなる。

「……みんな、リヴィオくんのこと心配してるんだから」

 大人しい眼鏡っ子にここまで言われ、リヴィオはバツが悪そうに頭を掻いた。

「悪い。そんなに迷惑かけてたか、俺……」

 どうやら自覚はなかったらしい。それだけプレッシャーを感じていたのだろう。

 一段落ついた所で葉瑠は眼鏡のツルを弄りつつ話を進める。

「リヴィオくん、もう一度この兵装のこと見てくれない? 絶対役に立つと思うよ」

「気持ちはありがてーが、やっぱ使えないな」

 相変わらずの返答に葉瑠はムッとする。

「武器も兵装も使わないって……そんなこだわりなんて捨てちゃえばいいのに……」

「こだわりなんて持ってねーよ」

 リヴィオは少し俯き額に手を当てる。

「……何か勘違いしてるみたいだから言っとく。俺、武器を使わないんじゃなくて、武器をうまく扱えねーんだ」

「……はい?」

 武器を使えない、なんて笑えない冗談だ。

 葉瑠がぽかんとしていたせいか、リヴィオは再度繰り返す。

「だから、素手じゃないと上手く戦えないんだって」

「なにそれ……」

 リヴィオは拘っていたのではない。素手で戦う以外に選択肢がなかったらしい。

 ……どうやら根本から見直す必要がありそうだ。

 脚の力が抜けるのを感じつつ、葉瑠は深い溜息を付いた。


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