15 -壁-
15 -壁-
リヴィオがスーニャから対戦を申し込まれてから1日後
バトルフロートユニットでは二人によるランキング戦が行われていた。
広大なヘキサゴンのエリアの中央では2機のVFが至近距離で向かい合っていた。
片方は青にカラーリングされた左右非対称のリヴィオ機、もう片方は脚部に分厚いブレードを装着したスーニャ機だ。
既に試合は始まっており、リヴィオ機は右拳を前に突き出していて、スーニャ機は高く掲げた脚部、足の裏でその右拳を受け止めていた。
「おーっと、スーニャちゃん、リヴィオくんの開幕パンチを余裕で防ぎました」
カヤの実況を耳にしつつ、リヴィオは愕然としていた。
「マジかよ……」
試合が始まるまで、リヴィオはスーニャに勝てると根拠の無い自信を持っていた。
相手はお子様で直情的、対するこちらはURを撃退したヒーロー。
いくら8位と言えど、自分の拳なら通用すると思っていた。
……その結果が今の有り様である。
最短距離で打ち込んだはずの拳は相手の足裏のブレードに阻まれ、それどころか真っ二つに破壊されていた。
(フィストガードごと割るなんて……何だよこの兵装は……)
スーニャのVF、その脚部には分厚いブレードが装着されている。
ブレードはひざ上から足先にかけて脚に沿うように伸びており、足裏もスケート靴のようにブレードで覆われていた。
以前にも試合映像越しに見たことはあったが、こうして間近で見るとその異常性がよく分かる。
もっと研究して対戦に臨むべきだったかもしれない。
後悔したのも束の間のことで、リヴィオは追撃を防ぐべく後退した。
右の拳はイカれてしまったが、殴るだけなら問題ない。取り敢えず距離をとって攻め方を考えよう。
そう決めた瞬間、リヴィオは予想外の物を目にした。
(……足? キック?)
目の前、こちらの頭部めがけて迫ってきていたのは相手の脚だった。
相手の脚はこちらの右拳を防ぐために掲げられている。この状態でキックを繰り出すのは不可能だ。
しかし現に目前に相手の脚がある。
……どういうことなのか。
考えている間に相手の脚部のブレードはリヴィオ機の頚部に命中し、首を切断した。
「……あ」
映像が途切れる直前、リヴィオは相手の脚が地面に着いていないことに気付いた。
スーニャは蹴り足をこちらの右拳で固定し、蹴り足と軸足を入れ替えて追撃してきたのだ。
だが、その事実に気づいた頃には試合終了を告げるアナウンスが鳴り響いていた。
「試合終了ー。10秒で終わっちゃいましたー。それにしてもあっけなかったですねー。おかげでわたしの可愛い声を全く届けられませんでしたー。んー残念」
カヤの気の抜けた実況に耳を傾けつつ、リヴィオはHMDを脱ぎ捨てる。
そして、今更ながら敗北した事実に気づき、沈み込む。
「負けた……」
しかも圧倒的な実力差を見せつけられて負けた。
自慢の拳を足の裏で受け止められるなんて、屈辱的すぎる。
「順位は嘘をつかない、か」
外見はあんなだが、スーニャは間違いなくランキング8位のランナーなのだ。
少し、調子に乗りすぎていたかもしれない。
「……降りるか」
すぐに次の対戦が始まる。邪魔にならないよう、リヴィオはVFを降りることにした。
……試合が終わってから5分後
リヴィオはバトルエリアから退避し、ロッカールームに向かうべく通路を歩いていた。
すると、前方からランナースーツ姿のスーニャが現れた。
スーニャはリヴィオに詰め寄り、睨み上げる。
「お前弱すぎ。URを撃退したって話、嘘じゃないのか?」
「……」
呆気無く負けたリヴィオに言い返す気力は残っていなかった。
何も言わぬリヴィオに対し、スーニャは更に蔑むように言葉を連ねる。
「こんなに弱いのに、どうして8位のボクに勝てると思ったんだ? そもそも、あんなパンチしかできないのによく58位まで登って来られたな。あーあこんなのに勝ってもカヤに自慢できないじゃないか……」
スーニャは言葉の途中でリヴィオから視線を逸し、長い後ろ髪を体の前で弄っていた。
「あの人、葉瑠って言ったっけ? あんな鈍臭そうなメガネに格闘教える暇があるなら、もっと技を磨くことだね」
「……」
葉瑠のことを悪く言われ、リヴィオはスーニャを殴ってやりたい衝動に駆られる。
しかし、リヴィオは手を出せないでいた。
相手が一回りも小さい少女だという事もあるが、それ以上にスーニャから強者の気迫のようなものを感じていたからだった。
もし仮に殴りかかったとしても先ほどの対戦と同様に返り討ちにされる気がする。
可憐な少女を前に押し黙っていると、スーニャの背後からルーメが現れた。
ルーメは一目見ただけで状況を察したのか、スーニャを諌める。
「スーニャ、対戦内容に納得できなかったのはわかるけれど、リヴィオを責めるのはお門違いよ。勝者なら敗者に労いの言葉を掛けるくらいの余裕を持たないと」
親切心からでた言葉には違いなかったが、ルーメの言葉は更にリヴィオの心を傷つけてしまった。
「やっぱり俺は……弱いのか」
リヴィオはダイヤモンドヘッド上空でシンギに言われた言葉を思い出していた。
乱入者が出現したあの時、シンギさんは迷う素振りも見せずに俺を討伐メンバーから外した。戦力外だとはっきりと告げられてしまった。
乱入者を追い払って何か掴んだ気になっていたが、結局何も変わっていなかった。
通路で沈んでいると、カヤの元気なアナウンス音が響いた。
「――次の対戦は、70位の結賀と60位のシオネイラの対戦です。両者とも準備お願いしまーす。因みに今日最後の対戦にはわたしが出まーす。みんな応援してねー」
「カヤも試合するのか」
初耳だったらしく、スーニャは情報を求めてルーメに視線を向ける。
ルーメは把握していたようで早速説明し始めた。
「カヤは……リヴィオと同じくURを倒した1年生、アビゲイルと戦うみたいね」
「アビゲイルって、あのアビゲイル?」
アビゲイルの名前だけは知っていたようだ。
ルーメが「そうよ」肯定すると納得したふうに頷いた。
「なるほど、ずっと対戦を申し込まれていたみたいだし、いい機会だったかもね」
アビゲイルが上位ランナー相手に喧嘩を売っていた事に驚きつつも、リヴィオは彼女に同情していた。
(アビゲイル、一体何秒持つだろうな……)
カヤもスーニャと同じく可愛いなりをしているが、スーニャよりも順位は上の6位だ。
当然スーニャよりも強く、スラセラートの中で唯一ライフルをプライマリウェポンとして使っている厄介な相手だ。
ルーメは腕時計を見てスーニャに告げる。
「もうすぐ次の試合が始まるわね。せっかくだから大きいモニターで観戦する?」
「もちろん」
「あなたもどう? 結賀って子、友達なのよね?」
ルーメに唐突に誘われ、リヴィオは答えに詰まる。
「俺は……」
学園トップのランナーから誘われるなんて滅多にないことだ。
だが、リヴィオはこれ以上二人と同じ空間にいたくなかった。自分が弱者であると自覚させられる空間に留まりたくなかった。
「ん? まだいたのか。さっさとハンガーに行ってエンジニアさんたちに頭下げてきたらどうだ」
断ろうとしたリヴィオだったが、先にスーニャによって断られてしまった。
普段ならキレるところだったが、今のリヴィオは素直にその言葉を聞き入れていた。
(エンジニアか……)
これまで常勝だったこともあってか、修理の事なんて全く気にしていなかった。
あれだけ綺麗に首を切断されると、修理もすぐに終わりそうだ。
作業自体も単純だろうし、何か手伝えるかもしれない。
これもいい機会だし、ハンガーに顔を出してみよう。
「……」
リヴィオは特に何を言うでもなく通路を引き返し、エレベーターホールに向かう。
ルーメとスーニャもそれ以上は何も言わず、観戦室へ向かって歩き出した。
ランキング戦の為に用意されたバトルフロートユニット。
そのタワーの1階部分は他階よりもかなり高さがあり、中央部には穴が開いていてドックになっている。
そんなドックに寄り添うような形でハンガーが併設されている。
タワーが出来た当初は複数のチームがメンテナンスや修繕のためにこのハンガーを使用していたらしいが、今はパーティションなど気にすることなく全面を使うことができる。
設備は充実しているとは言い難いが、オーバーホールや本格的な改修や装備の開発以外のことであれば、たいてい事はここで済ませられる。
葉瑠はそんなハンガーの中にいた。
「……ですから、破片が変な場所に入り込んでいる可能性もあるので、アウターユニットを外すときには常にテンションゲージに気をつけておく必要があるんです。わかりましたかモモエさん」
「へー、そうなんですか。流石は葉瑠さん」
「これ、基礎教本に下線付きで書かれてるところですよ。モモエさん、本当にエンジニアコースの学生なんですか?」
「さらっと酷いこと言わないで……」
リヴィオを応援しに来たはずなのに、何故か葉瑠はエンジニアコースの学生と混じってVFの修理を手伝っていた。
モモエさんはエンジニアコースの2年生、結い上げられたピンクの髪が特徴の優しい人だ。一応先輩なのに、モモエさんは私をさん付けで呼んでいる。
やはり、ランナーコースとエンジニアコース間には埋められない溝があるようだ。
でも、モモエさんも結賀やリヴィオくんと同じく仲がいい友達なのは間違いなかった。
(リヴィオくん、どこに行ったんでしょうか……)
葉瑠はリヴィオに思いを馳せる。
ハンガーで待っていれば会えるかと思っていたのに、昇降リフトで降りてきたリヴィオ機のコックピットには誰も乗っていなかった。
先に更衣室で着替えているのだろうか。
VFランナーなら機体の状況をエンジニアさんたちに伝達するべきだ。それが修繕が必要なVFなら尚更のことである。
仮にも自分に支給されたVFをほっぽり出して、先に着替えるなんてありえない。
(……それだけ、ショックを受けてるってことでしょうか……)
あのスーニャという少女に、リヴィオくんは呆気なく負けた。
試合はまさに一瞬だった。
スーニャ機はリヴィオ機のストレートを足の裏で受け止め、そのまま延髄蹴りでリヴィオ機の首を綺麗に斬ってしまった。
脚にブレードを付けるなんて移動の邪魔になるだけで実用性は皆無だと思っていたが、さっきの対戦を見て180度考えが変わった。
ブレード自体がスライド機構によって飛び出す、リーチが伸びる蹴り技というのは中々新鮮だった。
ブレードさえ付ければ腕でもできるだろうが、フレームの構造上、腕よりも脚のほうが馬力……というかトルクがあるので、ああいう大物を付けるには脚のほうが効率的だ。
ただ、どこからどうみても使いこなすにはかなりの熟練度が必要なので、効率的以前の問題かもしれない。
とにかく、スーニャは8位という順位に相応しい強いランナーだった。
負けて当然の相手だと思う。が、リヴィオくんはそう思っていないかもしれない。
(リヴィオくん、遅いですね……)
結賀の試合が既に始まっているのに連絡もなければ帰ってくる気配もない。
やっぱり、ショックを受けて落ち込んでいるのかもしれない。
慰めてあげたい気持ちはあるが、そこまで出しゃばっていいのか悩みどころだ。
葉瑠は昇降リフトを眺めつつため息をつく。この仕草で色々と察したのか、モモエはリヴィオについて話題を持ちかけてきた。
「リヴィオさんは確かに強いけれど、流石に上位ランナーには敵わないと思います。でも、次の対戦相手には勝てますよ」
「そう、だよね……」
48位くらいの相手ならリヴィオくんなら楽勝だ。
そう思っていたのに、それを真っ向から否定する人物が現れた。
「いいや勝てない」
「うわ、アルフレッド教官……」
ハンガー内にいきなり現れたのは金属製のマスクにオールバックの髪が映えるアルフレッド教官だった。
教官は周囲のエンジニアさんたちに「ご苦労」と声をかけつつ近づいてくる。
葉瑠たちの前まで来ると、先ほどの話を再開した。
「いままでリヴィオ君が戦ってきたのはただの訓練生。50位より上は残留組や学園職員も混じっている」
「そうなんですか」
「そうなんだ。今までは持ち前のセンスや反射神経で何とかなったろうが、これ以降はどうにもならない」
確かに、よく考えてみればその通りだ。
次の対戦もリヴィオくんは勝てないと言うのだろうか。
「そんな、急に勝てなくなるとは思えないんですけれど」
50位を境に急にレベルが上がるとも思えなかった。が、アルフレッド教官は理由を淡々と述べる。
「残留するのは大抵が各学年でトップクラスのランナーだ。ランキング戦に出ていないだけで代替戦争では大活躍しているランナーも大勢いる。50位以上はほぼ横並びの強者集団だと考えたほうがいい」
現在、葉瑠が知りうる限り50位を超えている同級生はアビゲイルさんだけだ。
単機でURを倒すほどの実力の持ち主なので当然といえば当然かもしれない。
葉瑠が納得しかけていると、離れた場所から質問の声が飛んできた。
「……じゃあ、どうすればいいんですか」
不意にアルフレッドに問いかけたのはリヴィオだった。
「リヴィオくん……」
いつの間にか帰ってきたみたいだ。
リヴィオは制服に着替えておらず、ランナースーツのままだった。
「どうすれば勝てるっていうんですか」
リヴィオの表情は暗く、声も沈みきっている。
……何か様子がおかしい。
アルフレッド教官もそれを察したのか、マスクに手を当てリヴィオくんに近寄っていく。
「勝ち進みたければ私の訓練メニューを真面目にこなすことだ。最近ランキング戦を理由に頻繁に訓練を欠席しているようだが、訓練がおろそかになるようならランキング戦への参加は禁止する」
「何が禁止だ!!」
リヴィオはいきなりHMDを地面に叩きつけた。
「わっ……」
葉瑠はリヴィオの言動に驚き、思わずモモエの背後に隠れる。
モモエもそれなりにびびっているようで、表情が硬くなっていた。
激突音がハンガー内に鳴り響く中、リヴィオは声を荒げる。
「ついこの間まで実戦に勝る訓練はないとか言ってただろうが!! いい加減な事言いやがって……だいたい、URに負けた教官に言われても説得力がないんだよ!!」
「……言うようになったな」
キレたリヴィオを前にしても、アルフレッド教官はいつも通り余裕たっぷりに応じていた。
「今日はもう何を言っても無駄だろう。今日の対戦を反省し、頭を冷やしたまえ」
アルフレッドはそれだけ告げるとポケットから携帯端末を取り出し、画面に視線を落とす。
その行動が許せなかったのか、リヴィオはアルフレッド教官に突っかかる。
「無視すんなよ!!」
「ほら、やはり君は冷静ではない。今の君と話す気はない。それより……」
アルフレッド教官は携帯端末の画面を葉瑠に向けた。
「どうやら結賀君は勝利を収めたようだ」
「ほんとですか!?」
嬉しいニュースを告げられ、葉瑠は思わずモモエの陰から飛び出す。
そしてアルフレッド教官の手を掴み、その手中にある携帯端末画面に注目した。
端末画面にはバトルエリアの中継映像が映し出されていた。
エリア中央には鎖で簀巻きにされた対戦相手が横たわっており、結賀のVFは既にバトルエリアから脱し、昇降リフトで階下に向かっているようだった。
数秒後、結賀はVFと共にハンガーに降りてきた。
遠目から見ても分かるほど、結賀のVFには傷一つ付いていなかった。試合時間もそんなに長くなかったし、難なく勝ったようだ。
昇降リフトがある程度床に近づくと、結賀は落下防止策を飛び越えて先に着地した。
ランナースーツ姿の結賀は特に疲れた様子もなく、早速葉瑠に駆け寄る。
「勝ったぞ葉瑠ー、これでオレも60位……うわっ、アルフレッド教官も来てたのか」
アルフレッドはため息を付く。
「結賀君も葉瑠君も、いちいち私を見る度に驚かないでくれないか……」
「ごめんごめん」
結賀は謝りつつもアルフレッド教官と一定距離を保ったまま迂回していく。
やがて葉瑠の隣に到着すると、結賀は葉瑠と両手のひらを合わせて柄にもなくピョンピョン飛び跳ねた。
「勝ったぞ葉瑠ー」
「結賀……ちょっと……」
葉瑠はその動きについていけず、メガネだけが激しく上下に動いていた。
それでも勝利の喜びを抑えきれなかったようで、結賀は葉瑠を抱いてくるくる回り始める。
「凄いだろー連戦連勝だぞー」
「分かったから、結賀……やめ……」
「ふう」
ようやく満足したようで、結賀は最終的に葉瑠を体の前に抱いて落ち着いた。
少しの時間だったのに、葉瑠はぐったりしていた。
結賀は葉瑠を抱いたままリヴィオに話しかける。
「リヴィオ、お前8位のスーニャに返り討ちにされたらしいな。しかも10秒で負けるなんて……URを倒してちょっと天狗になってたんじゃねーか?」
自分が勝利したのをいいことに、結賀は遠慮することなくリヴィオを小馬鹿にしていた。
リヴィオは反論しようと口を開けるも、結賀に抱かれた葉瑠を見てバツが悪そうに視線を横に向けた。
「まだ58位なのに8位のランナーに勝てるわけ無いだろ。身の程知らずもここまで来ると恥ずかしいな。……葉瑠もそう思うだろ?」
「え?」
話を振られた葉瑠は先ほどの事もあってか、返答に困ってしまう。
身の程知らずという結賀の意見には概ね賛成だが、それを正直に話すとリヴィオくんが傷ついてしまう。
葉瑠は若干話題を逸らして対処することにした。
「……負けてもデメリットは無いわけだし、挑戦するのも悪いことじゃないと思うよ」
「あの、デメリットありますよ。」
おずおずと手を上げて会話に参加してきたのはモモエさんだった。
「負けても勝っても同じですけれど、対戦の度に修理やメンテナンスをしなければならないので、私達にとっては負担になるんです。それに、対戦枠を取り過ぎると他の人の対戦の邪魔にもなります。単純に勝敗を決したいならシミュレーターでやって欲しい……というのが本音です」
リヴィオはすかさず言い返す。
「メンテナンスするのがエンジニアの役目だろ。文句言わずに仕事しろよ」
「そんな言い方しなくても……」
確かにモモエさんは本音を打ち明け過ぎだが、事実である。
対戦内容が充実していればエンジニアも文句なくメンテナンスするだろうが、10秒と掛からず瞬殺されたとあってはモチベーションも上がらない。
度重なる暴言を見過ごせなくなったのか、とうとうアルフレッド教官が指示を出した。
「リヴィオ君、君は大きな勘違いをしているようだ。自分の実力を確かめる意味でも、結賀君と一戦交えてみないか」
「結賀と……?」
リヴィオは提案を吟味するように顎に手を当て俯く。
「勝負にならないと思いますけど。どうせ勝負するならアビゲイルくらいじゃないと釣り合わないですよ」
「リヴィオ君、君はアビゲイル君に敵うと思っているのか」
「順位に差はありますけど、実力的には大して変わらないと思ってます」
同じURを倒した者同士、実力も同レベルだと思っているみたいだ。
アルフレッド教官はマスクに手を当て力なく首を左右に振る。
「はあ……やはり勘違いしているようだから言っておこう」
そう前置きすると、アルフレッドは葉瑠の隣に移動して肩に手をのせた。
……瞬時に鳥肌が立つ。
しかし結賀が咄嗟に遠ざけてくれたおかげでそれ以上不快感を感じずに済んだ。
アルフレッドは咳払いして話を再開する。
「あの時URを撃退できたのは葉瑠くんのサポートがあったからだ。普通なら一撃で破壊されていたであろうランスの突きを、葉瑠君は完璧に防御していた。君一人では呆気無くやられていただろう」
「わかってます。そうだとしても、アビゲイルは教官と組んでURを撃退したんですよね? そう考えると訓練生同士で倒した俺の方が強いのは事実で……」
「それは、『ケフェウスの光』による強力な援護を受けた君が言えるセリフではいな」
「……」
リヴィオは反論できなかった。
実質、あの分厚い装甲を身に纏ったURを撃退したのは人工衛星ケフェウスによるレーザー攻撃だ。
長々しい言い合いに飽きたのか、結賀が文句を言った。
「それで、結局オレと戦うのか? 戦わないのか?」
結賀の言葉を受け、アルフレッド教官は再度リヴィオに提案する。
「シミュレーターを使うといい。それならリヴィオ君も文句ないだろう」
ここまで言われては引けないようで、リヴィオは提案を受け入れた。
「分かりました。余裕で勝ってみせますよ」
ぶっきらぼうに言うとリヴィオはハンガーの出口に足先を向ける。
葉瑠たちもその後に続いた。
バトルフロートユニットを出てから1時間後
リヴィオはHMDの画面に映る“YOU LOSE”の文字を呆然と眺めていた。
「負けた……」
結論から言うと、リヴィオは呆気なく結賀に負けた。
試合の内容も酷いものだった。
リヴィオは初っ端から結賀の鎖に脚部を絡め取られ、ろくな反撃もできずに頭部を破壊されてしまったのだ。
思っていた以上に結賀の鎖は厄介だった。
複雑なカーブを描きながら高速で迫ってくるあれに対処するのは困難を極める。下手をすれば銃弾を避けるより難しいかもしれない。
相性が悪いのは事実だが、それを言い訳にしていては始まらない。
認めたくはないが、結賀のほうが俺よりも1枚上手だったようだ。
リヴィオはシミュレータマシンから降り、トレーニングルームの床に足をつける。
結賀は既にマシンから降りており、腕を組んでリヴィオのマシンに背中を預けていた。
「呆気ねーな。つーか、この期に及んで素手で勝負とか……ありえないぞ」
「素手で悪いのかよ」
「舐めた戦い方してんじゃねーって言ってんだ。対戦相手に失礼だろ」
確かに素手による格闘はリーチが短い分不利になる。槍や剣を使って戦ったほうがいいに決まっている。
今回も、もしこちらが武器を使っていたら鎖を防ぐこともできただろう。
だが、リヴィオは飽くまで自分のスタイルを変えるつもりはなかった。
「これでわかっただろう。君は確かに強い部類に入るランナーだが、このままでは50位の壁を超えられない。これ以上の強さを求めるのなら固執を捨てる必要がある」
説教しながら近寄ってきたのはアルフレッド教官だった。
教官の後ろには葉瑠もいた。
「君の弱点はわかりやすい。その戦闘スタイルも改善した方がいいだろう」
対戦にも負けたし、ここまで言われると反抗のしようがなかった。
「わかりましたわかりました。……で、どうすればいいんですかアルフレッド教官」
「取り敢えずランキング戦への参加を禁止する」
「それは……」
言い返そうとしたリヴィオだったが、早々に口を封じられてしまう。
「どうせ対戦をした所で負けるのは目に見えている。これからは葉瑠君と一緒にフィジカルトレーニングに励みたまえ」
このあり得ない指示に異議を唱えたのは意外にも結賀だった。
「馬鹿じゃねーか? 操作訓練をしないでどうやって強くなれっていうんだよ」
乱暴な言葉づかいに耐えかねてか、アルフレッド教官はマスクを結賀に向ける。
「……結賀君、最近君からは敬意という物が全く感じられないな」
「それがなんだってんだよ」
「君も葉瑠君やリヴィオ君と同じくフィジカルトレーニングに切り替えだ」
「はぁ?」
結賀はまゆを顰め、アルフレッドを睨む。
アルフレッドは結賀のガン飛ばしを物ともせず、静かに告げた。
「しばらく己を見つめなおすといい」
それ以上会話する気は無いようで、アルフレッド教官は早々に背を向け、足早に去って行ってしまった。
操作禁止を言い渡された3名は、それぞれ顔を見合わせてため息を付いた。
「はあ、こんなことになるなんて……災難だったね二人とも」
「何考えてんだ? 教官は……」
「アルフレッドの野郎はああ言ってるが、ばれないようにこっそり申請すれば今まで通りランキング戦に参加できるだろ」
「大丈夫かなあ……」
リヴィオと結賀はアルフレッド教官の指示を聞く気は全く無いようだった。
「バレても無理やり出ればいいんだよ。実力を見せつければ流石の変態マスクも認めざるを得なくなるだろ……つーか、お前が弱すぎるからこういうことになったんだぞ。反省しろよな」
結賀は早速リヴィオに突っかかる。
リヴィオも早々とその喧嘩を買った。
「あ? 誰が弱いって? 鎖使ってるチキンが偉そうにしてんじゃねーぞ」
「そのチキンに負けたのはどこのどいつだよ雑魚ランナー」
「ああ、もう……」
同じ境遇になったというのに連帯感が生まれる気配は全く無い。
二人の間に挟まれ、葉瑠は頭を抱えていた。




