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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
 2 鋼の拳
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 14 -小さな挑戦者-


 14 -小さな挑戦者-


 ハワイ沖でのURの乱入事件から1ヶ月後

 当初は大々的に報道されていたこの事件も段々と下火になってきた。

 しかし、スラセラート学園内では今も尚訓練生の間で結構な話題になっていた。

 寮から学園へ続く東連絡路にて、リヴィオはその話題の真っ只中にいた。

「それにしてもすごいよな、あの真っ赤なVFを撃退するなんて」

「ここの動きなんか神がかっているな。シミュレーターでさんざん訓練したとはいえ、これが初めての空中戦とは思えないぞ」

「この戦闘映像、何回見ても飽きないよ。リヴィオくんは凄いなあ……」

「……それほどでもねーよ」

 登校中、リヴィオはクローデル、ドナイト、アハトの男子3人組と共に携帯端末で戦闘映像を見ていた。

 この映像はダイヤモンドヘッドの頂上で撮影されたもので、かなり鮮明に映っている。

 クローデルは全員に見えるように細長い腕を前に突き出していて、大柄のドナイトは上から、背の低いアハトは下から映像を見ていた。

 リヴィオは謙遜するように少し離れていたが、視線は端末画面に釘付けになっていた。

「――おい葉瑠、あれ見ろよ。調子に載ってるぞアイツ……」

「いいじゃない結賀。乱入者を撃退したのは事実なんだし」

 そんな男子たちの様子を後方から観察していたのは結賀と葉瑠だった。

 結賀はリヴィオが持て囃されているのが我慢ならないらしく、不機嫌な顔で前方を歩くリヴィオを睨んでいた。

「全然よくねーぞ葉瑠。あのデカい新手を倒したのは実質的には葉瑠だろ? 今からでも遅くねーからみんなに言えよ」

「私はサポートしただけだから。それに、変に目立ちたくないし……」

 葉瑠は恥ずかしげに眼鏡の位置を押しあげ、俯いたまま鼻の頭を指先でなぞる。

 そんな葉瑠のシャイな行動を見て、結賀の表情は呆れへと変化した。

「はあ、釈然としねーなあ。まあ、オレがとやかく言うことでもないけどよ……」

 そう言っているもののまだ不満があるのか、結賀は歩きながら小石を拾い上げ、リヴィオに投げつける。

 小石はリヴィオの後頭部に命中したが、リヴィオ本人は頭を軽くさすっただけで気に留めている様子はなかった。

 ……この1ヶ月間。葉瑠はリヴィオのように話題の人になることはなかった。

 乱入者の撃退に大きく貢献したのは事実だが、それを知っているのはあの場に居合わせた人だけだ。

 有名になりたい願望が無いわけではないが、葉瑠はこれでいいと思っていた。

(本名がバレるとマズイですからね……)

 有名になって詮索をされると“更木”という大罪人の名を知られる可能性もある。

 リヴィオくんが私のことを全く話さないのも、そういう事情を分かってくれているからだろう。

 それに、不特定多数からちやほやされるよりも、結賀やシンギさんに褒められる方が嬉しい。

 宏人さんにも褒めてもらいたかったが、結局ギクシャクを改善できていないため中々会いに行けないでいた。

 相変わらず不機嫌な顔を浮かべる結賀に対し、葉瑠は話題を変える。

「そういえば結賀、明日のランキング戦の準備は大丈夫?」

 ランキング戦の話題になるやいなや、結賀は嬉しげに応じた。

「ああ、準備は完璧だ。60位にも楽勝で勝ってやるよ」

「本当に楽勝できると思うよ。結賀強いし……」

 結賀にかぎらずみんなどんどん順位を上げている。

(私も早くランキング戦で戦いたいですね……)

 叶いそうにない願望を心に浮かべつつ、葉瑠は結賀と共に正門を潜った。



 葉瑠が正門を潜った頃、リヴィオたちは既に校内に足を踏み入れていた。

 彼らは対戦映像の閲覧を止めており、今は未だ帰ってこない世界最強のランナーについて意見を交わしていた。

「シンギ教官、まだ帰ってこないね」

 視線を上に向けつつ言葉を発したのはアハトだった。

 正面玄関のホール、一月前までそこに飾られていたVF『嶺染』は未だ修復中だ。

 ドナイトはアハトの頭に手をのせ、シンギについて話を続ける。

「あの時、落水した機体を回収した後すぐに東に向かって行ったきりだな。何としてでも乱入者を捕まえたいんだろう」

 11機のプロランナーと8機のファスナ・フォースを相手に戦い、17機も破壊した連中だ。他にも仲間がいることを考えると一筋縄ではいかないだろう。

「下手をしたらこのままずっと帰ってこないんじゃ……」

「縁起でもないこと言うなよアハト……」

 彼らが恐れているのはシンギ教官に指導を受けられないことではなく、アルフレッド教官の指導をずっと受け続けなければならないことだった。

 男子4人してアルフレッドの不気味なマスク顔を思い浮かべていると、背後から優しげな女性の声が聞こえてきた。

「ほら君たち、急がないと授業に遅れちゃうよ」

 男子4人の背後にいたのはスラセラートに常駐している校医、リリメリアだった。

 イエローのフワフワした長髪は朝の光を受けて綺麗に輝いていた。

 男子4人はその神々しさにしばらく言葉を失っていたが、リヴィオは思い出したように挨拶を返した。

「リリ先生お早うございます」

「はいおはよう」

 まだ二十歳前後だというのに、彼女の放つ色香は上品でいて温もりがあった。彼女を前にて癒やされない生物はこの地上には存在しないと思えるほどだ。

「今日も美しいですね、先生」

「はいありがとうねクローデル君。君はもうちょっと睡眠とったほうがいいかもね」

 リリメリアはクローデルの言葉を当たり前のように受け止め歩み寄ってくる。

 その際、背後から赤髪の女性教官がひょっこりと顔を覗かせた。

 クローデルは彼女のことも周知していたようで、彼女を見つつリリメリアに話しかける。

「あれ、イリエ教官とご出勤ですか。なんだか珍しい組み合わせですね」

 入江(イリエ)香織カオリ教官……彼女は座学で数学を教えているスラセラートのOGだ。

 ランナーとしての実力は一級品で、学内ランキングでは5位の上位ランナーでもある。

 実力もさる事ながら、彼女は一級品と呼ぶに相応しい容姿も備えていた。

 ショートの赤髪は頭頂部から左のこめかみにかけて編み込まれ、長い前髪は色白の肌に強烈なアクセントを生み出している。

 幸薄そうな雰囲気を身に纏っているが、常に浮かべている儚げな表情は、リリメリアとはまた違った魅力を生み出していた。

 彼女も間違いなく美人だが、リリメリアの隣に並ぶと霞んで見えるのが残念だ。

「珍しくなんてないわよ。職員寮の部屋も近いし……週に1回くらいのペースでお会いしてますよね、イリエ先生?」

 急に話を振られ、イリエは数学の教材を胸元に抱きつつ応じる。

「そう、ですね。月曜と金曜は朝一で講義があるので、自然と一緒になってしまいますね……それでは急ぎますので」

 掠れ声で早口で告げると、イリエは歩を早める。

 しかし、またしてもクローデルが呼び止めた。

「イリエ教官、一緒に講義室までお話しませんか?」

 今日の一番目の講義はイリエ教官の数学の講義だし、問題はないだろう。

 それにしても、クローデルは普段だらだらしているのに、女性に関しては結構積極的だ。

 女好きなのは別にいいが、この歳からこんな有り様だと将来が心配だ。

 クローデルはイリエ教官と歩く速度を合わせ、先へ先へ進んでいく。

「それじゃあ、講義頑張ってね」

 リリメリアはイリエと男子たちに別れを告げ、医務室方面へ行ってしまった。

 残された男子3人はリリメリアを見送ると、先を行くクローデルに追いつくべく小走りで階段を駆け上がる。

 2階通路、クローデルは何やら楽しそうにイリエ教官に話し掛けていた。

「教官の講義はわかりやすいですよね。毎回楽しみにしてます」

「わかりやすいというか、訓練生のほとんどが学習済みだから歯ごたえがないというか、やり甲斐がないというか……」

「それならいっその事訓練教官をしたらどうですか」

「……そりゃいいな」

 追いついたドナイトが会話に交じる。

「学内ランキングで5位の実力者なんですから、資格は十分過ぎるほどあると思いますよ」

「だめだめ。私教えるのはすごく下手って自覚してるから……」

 これ以上会話をしたくないようで、イリエは逃げるように歩みを速め、203号講義室に駆け込む。

 クローデルは彼女を追いかけるように講義室に踏み込んだ。

「そんなこと言わずに、理事長に相談してみたらどうですか」

 なおも声をかけ続けるクローデルに対し、とうとうイリエは足を止める。

 そして、視線を下に向けたまま静かに言い放った。

「――しつこいよ」

 言葉が放たれた瞬間、講義室内に冷たい空気が流れた。

 が、すぐにその気配は消え、イリエ先生はおっとりとした口調で続ける。

「あんまりしつこいと本気にしちゃうから。誂うのもそのくらいにしてね」

「あ、はい……」

 クローデルは冷気に当てられ、完全に萎縮していた。

 彼女が冷たい空気を発するのはこれが初めてではない。

 若い女性教官は訓練生から結構イジられるのが当たり前だが、たまに感じられるこの冷たさのせいで、誰も気易く彼女をイジることができないのだ。

 いじり易さで言えばセルカ理事長のほうが難易度が低いくらいだ。

 イリエは静かな講義室を横断し、教卓に教材を置いた。

「今日は最後に小テストをしますから、真面目に取り組んでくださいね」

 訓練生たちは口々に返事をし、講義用の情報端末を起動させていく。

 それから始業のベルが鳴るまで、講義室内は恐ろしいほど静かだった。



「うう……難しすぎる」

「どんまい結賀。ベストは尽くしたんだし、仕方ないよ」

「くそう……満点の葉瑠に言われるとちょっとイラッとくるな」

「八つ当たりはやめてよ……」

 午前の講義が終わり昼休み。

 葉瑠と結賀、そしてリヴィオの3人は食堂の円テーブルを囲んでいた。

 結賀は数学の小テストの結果に滅入っており、葉瑠に慰められていた。

 昼食も喉が通らないのか、結賀はカレーライスを一口も食べていなかった。

 リヴィオはホットドッグを頬張りつつ、卓上に投げ出された結賀のテスト用紙を見て笑っていた。

「うわ、あの難易度で50点って……ランキング戦に出る暇があるなら勉強したほうがいいんじゃないか」

「うっせーぞリヴィオ、こっちくんな」

「別にいいだろ」

「もっとあっちの席に座れよ」

 結賀はリヴィオを睨みつけるも、その眼に力は宿っていなかった。

 テスト結果に本気で落ち込んでいるようだ。

 本気で落ち込んでいても尚リヴィオくんと喧嘩できるのだから犬猿の仲もここまで来ると感心してしまう。

 葉瑠はお気に入りのトマトサンドを手に持ったまま仲裁に入る。

「まあまあ別にいいじゃない。ただの小テストだから成績に反映されるわけじゃないし。あとリヴィオくん、人の点数を笑うのはかっこ悪いよ」

「おう……」

 葉瑠が諫めるとリヴィオは素直に引き下がった。

 乱入者との対決では私のサポートがあったから勝てたわけだし、頭が上がらないのだろう。

 そういう風に思われるのは気が引けるけれど、これで喧嘩が収まるのならいいに越したことはない。

「そうだな。勉強よりもランキング戦のほうが大事だもんな。よし、カレー食うか」

 結賀は勝手に立ち直り、ようやくカレーライスに手を付ける。

 楕円形の皿にはルーと米がバランスよく盛られていたが、結賀が一口食べるとそのバランスはすぐに崩れてしまった。

 どんどん減っていくルーを眺めつつ、葉瑠もトマトサンドを頬張る。

 ……結賀はこの2ヶ月でかなり強くなった。と言うより、力の使い方が上手くなった。

 結賀の対戦は毎回観ているが、当初は無謀に殴りかかっていくだけの戦い方だったのに、最近はちゃんと考えて戦えている。

 中でも、鎖による束縛攻撃は嫌がらせとしては最高レベルだ。

 前回の戦闘では鎖を網のように使い、あっという間に対戦相手の動きを止めてしまった。

 重力盾の干渉圏内ギリギリからの束縛攻撃は、あらゆる相手の弱点となりうるかなり有効な戦法だ。

 卑怯な戦法だが、あれを上手く扱うにはかなりの技量が必要なのも事実だ。

 紐や鞭を使わせたら結賀の右に出るものはいないだろう。

 接近戦での格闘術のレベルも高いし、リヴィオくんよりも強いかもしれない。

「リヴィオくんって今ランキング何位だったっけ?」

「今は58位だ。近いうちに50位辺りの奴に対戦を申し込む予定だ」

「もうそんなに……」

 この間まで70代だったのに、もう50位を超えるなんて凄い快進撃だ。

 いや、まだ勝てると決まったわけではないが、この順調っぷりから察するに楽勝だろう。

 リヴィオはホットドッグを食べ終え、早々に席を立つ。

「それじゃ、トレーニングルームで待ってるからな」

「うん」

 葉瑠が返事をするとリヴィオは席を離れていった。

 1ヶ月ほど前から葉瑠はリヴィオから格闘技の稽古を受けている。

 本当に単純で簡単な稽古だが、為になることは結構多い。それに、なまじフィジカルトレーニングを強要されているせいか、体を動かす楽しさというのも分かってきた。

 リヴィオの誘いの言葉を耳にし、結賀は再び不機嫌になる。

「葉瑠、最近回数多くないか? 確か一昨日もトレーニングしてただろ」

「確かに多いけれど、そもそも私が言い出したことだから……」

 葉瑠はトマトサンドをがんばって口の中に押し込み、ジュースで流し込む。

「ごちそうさま。悪いけど先行くね」

「おう、がんばれよ」

 葉瑠は口をモゴモゴさせながら席を立ち、トレーニングルームに向かうべく食堂を出た。



 昼休みとあって、トレーニングルーム内はそれなりに賑やかだった。

 賑やかと言ってもうるさいわけではなく、トレーニング器具の音やシミュレータマシンの作動音が鳴り響いているだけだ。

 そんな音を聞きつつ、葉瑠はトレーニングルーム内の隅っこ、サンドバッグに向かってひたすら拳を突きだしていた。

 拳はサンドバッグに命中して「ぽすっ」と気の抜けた音を出す。

 全く迫力は無かったが、フォームはなかなか様になっていた。

 拳がサンドバッグに当たるたび、葉瑠はリヴィオに確認する。

「こう?」

 葉瑠の隣に立つリヴィオは満足気に頷く。

「そうそうその調子」

 初めて稽古を受けた時は殴る相手はサンドバッグではなくリヴィオくん本人だったのだが、人相手だと思い切り拳を振れず、結局今の形に落ち着いてしまった。

 単に殴っているだけなので格闘技術が身についている気はしないが、思い切り殴るというのはかなり気持ちいい。

 日本にいた頃は思い切り殴られる立場だったが、これだけ気持ちが良いと殴りたくなる気持ちもわからなくはない。が、積極的に人を殴りたいとは思わなかった。

 おじさんは私を殴って気持ちが良かったのだろうか。

 憂さ晴らしのために暴力を振るっていたのは分かっていたが、ああも長時間執拗に殴っていると結構疲れていたはずだ。

 まあ、今考えるようなことではない。

 葉瑠は気を取り直し、サンドバッグに集中する。と、不意に背後から話し掛けられた。

「全然駄目だね。そんなパンチ、クッションに向かってやった方がマシだよ」

 のっけから挑発的なセリフを吐いたのは、葉瑠よりも一回り小柄な少女だった。

(わ、かわいい……)

 葉瑠は思わずその少女に見とれてしまった。

 幼いながらも眼力があり、顔立ちどころか佇まいまで凛としている。長いカーキ色の髪は後頭部で三つ編みにされ、そのまま膝裏までスラリと伸びていた。

 トップスはみんなと同じ青色の制服を着用していたが、ボトムスにはショートパンツを履いていた。ボーイッシュというよりは、やんちゃという言葉が似合いそうな少女だった。

 迷子か何かかと思ったが、スラセラートの制服を着ているので訓練生に違いない。

 葉瑠は拳を止め、小柄な少女に応じる。

「どうしたの? 代わってほしいの?」

「ちがう!!」

 優しく話し掛けたというのに、小柄な少女は不満げに地団駄を踏んだ。

 そして、長い後ろ髪をしっぽのように振り回しつつ、リヴィオを指さして宣言した。

「ボクと勝負しろ、リヴィオ!!」

「はァ? 誰だよお前」

 唐突に指名されたリヴィオは、葉瑠とは違ってキツめに反応した。

 リヴィオに睨まれた小柄な少女は一瞬たじろいだが、負けじと言葉を続ける。

「ボクの事を知らないなんてありえないぞ。仮にもランナーコースの学生ならランキング上位者の顔くらい……」

「はいはいごめんねー」

 不意に女性が現れ、少女の話を遮る。

 女性は唐突に割り込んできたかと思うと、長々と話す少女を背後から抱え込んでしまった。

 葉瑠はこの女性のことを……小麦色の肌にブロンズの髪、そして緑の瞳を持つ彼女のことをよく知っていた。

「ルーメ・アルトリウス……」

 ランキング1位、学園内トップのランナーだ。

 ルーメはリヴィオのことを知っているようで、馴れ馴れしく話す。

「ごめんねリヴィオ君。スーニャがあんまりしつこく対戦を申し込んでくるもんだから、ついつい君の名前を出しちゃったのよ」

 ルーメに捕らえられたスーニャは頬をふくらませてふてくされていた。かわいい。

 スーニャを見て和む葉瑠だったが、リヴィオは驚いている様子だった。

「こいつがランキング8位の……こんなお子様だったのか……」

 どうやらスーニャのなりとランキングの順位のギャップに戸惑いを隠せないようだ。

 葉瑠はサンドバッグの表面を軽く撫でつつ質問する。

「どうしてリヴィオくんの名前を出したんです?」

「えーと、“私より強いシンギ教官を倒したURを撃退したリヴィオを倒したら私よりも強いってことになる”って言っちゃたのよ」

「あー……」

 迷惑な話である。

 スーニャは再度リヴィオに問いかける。

「で、受けるのか受けないのか、どっちなんだ?」

「もし仮に俺が勝てば……8位の座を譲ってくれるんだよな?」

 リヴィオはスーニャではなくルーメに確認していた。

「そりゃあ、こちらから対戦を申し込む以上は順位を賭けて対戦しないと駄目だよねスーニャ?」

 スーニャは首を縦に振る。

「もちろん」

 負けた時のことは全く考えていないようだ。

 リヴィオは「よし」と呟くと、嬉々としてトレーニングルームの出口へ向かう。

「早速申請しに行こうぜ、気が変わらないうちにな」

「ボクに勝てると思うなよ」

 スーニャはルーメの手から逃れ、リヴィオの後を追う。

 二人は仲良くトレーニングルームの扉を抜け、去っていった。

 取り残された葉瑠もトレーニングルームから出ていこうとしたが、ルーメに捕まってしまった。

「急な話でごめんね」

「いえ、リヴィオくんにとってはチャンスだと思いますし、良かったです」

 ランキング戦のルールでは下位の者は負けても順位が下がることがない。

 つまりデメリットは全く無い。

 感謝せねばならないのはこちらの方なのだ。

「いなくなった彼氏の代わりに私が稽古つけてあげたいところだけれど……生憎私これから仕事なのよ」

「いえ、とんでもありません。というか、リヴィオくんは彼氏とかそういうのじゃありませんから……」

 葉瑠は赤面しつつ眼鏡のつるを弄る。

 リヴィオくんのことは信頼できるけれど、好きかどうかで言われると答えに困る。

 そもそも私には宏人さんという憧れの人がいる。生涯宏人さん以外の人を好きになるつもりは無いのだ。

「ルーメさん、お仕事頑張ってください」

「もちろんよ。それじゃあね」

 ルーメは胸元で軽く手を振ると微笑し、去っていった。

 昼休みが終わるまでまだ時間がある。

 葉瑠はもう少しだけサンドバッグを殴ることにした。


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