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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
 2 鋼の拳
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 11 -乱入者-


 11 -乱入者-


 リヴィオが海面付近で戦っている様子を、葉瑠はダイヤモンドヘッドの頂上から眺めていた。

 リヴィオは一度敵機と接触したが、それ以降は距離を取り、相手の出方を窺っている。

 もっとド派手な戦闘が起こると思っていたが、作戦的にはこれがベストだ。1機引きつけられているだけでも十分過ぎるほど仕事をしている。

 葉瑠は続けて空に視線を向ける。

 アビゲイル機は上空1000mあたりで敵機と相対していた。 

 アビゲイルは両手に持ったブレードを敵機の盾に絶え間なく叩きつけていて、ここからでも火花が散る様子がはっきりと見えた。

 流石はアビゲイルさんだ。亜細亜の壁の代表メンバー相手にまともに戦えている。

 昨日ホテルで追加要員の話が出た時、アビゲイルさんはそこまで乗り気ではなかった。しかし、今の戦いっぷりを見る限り、戦いを楽しんでいるようだ。

 すぐ近くにはアルフレッド教官もいて、ロングソードの回転斬りで敵機を圧倒していた。

 アルフレッド機はロングソードごと機体を回転させ、空中でトルネードスピンや前転を繰り返していた。遠心力によって加速された長い刃の剣先は常軌を逸したスピードで回転しており、少しでも触れれば即破壊できるほどの威力を秘めていた。

 まるでベーゴマである。

 ただ、自機が回っているせいでコントロールが難しいのか、逃げる敵機を追いきれていなかった。

「うわ、はえー……」

 隣の結賀はスラセラートの3人ではなく、アークジェットスラスタを装備した2機を見ているようだった。

 2機はそれぞれ別の場所で戦闘していたが、どちらとも目で追うのがやっとのスピードで空を駆け回っていた。

 どうやら高速のヒット・アンド・アウェイを行っているようで、敵機は空中で停止したまま盾を構え、突進に耐える以外に方法はないようだった。

 明らかにNATO側の優勢だった。

 葉瑠は安堵の溜息を吐く。

「はあ、どうなるのかと心配してたけど、このぶんだと普通に勝てそうだね」

 葉瑠は隣の結賀に同意を求める。しかし、結賀は眉をひそめていた。

「……何かおかしくねーか?」

「何が?」

 結賀は右前方、アビゲイル機を指さす。

「アイツ、盾にしか攻撃してねーぞ」

「そりゃあ、防御されてるから仕方ないでしょ……?」

 結賀は首を左右に振る。

「いいや、絶対わざとだ。コンビネーションが単調だし、敵が防ぎやすいようにわざと大ぶりに振ってる」

「そうかな……」

 ……言われてみればそうかもしれない。

 確かに、結賀の指摘通り、アビゲイル機の攻撃は単調で、死角への攻撃や刺突攻撃は全く見られなかった。

 結賀は続いて左前方、アルフレッド機を指さす。

「アルフレッド教官も同じだ。いくらでも近付けるはずなのに、わざと剣のリーチぎりぎりで距離を保ってる」

「確かに……」

 そもそも、あのアルフレッド教官があんなカッコの悪い方法で戦うとは思えない。

 この事実を踏まえ、結賀は結論を出す。

「あいつら、全然本気出してない。つーか、敵もさっきから防御しかしてねーぞ。どうなってんだ?」

 戦闘の様子だけを見れば派手な立ち回りをしているが、全体を冷静に観察してみると違和感だらけである。

 実力が拮抗しているとも思えないし、両者ともお互いに手加減しているとしか考えられない。

「……でも、一体何のために?」

 そんな疑問に応えるように、不意に遠くで閃光が走った。

 次の瞬間、遠くの空で待機していたファスナ・フォースが爆散した。

 ボディーには大穴が空いていたが、その穴を中心にして装甲やパーツがバラバラに砕け散り、すぐに破片の雨となって海へ落下していった。

「……え?」

 葉瑠を始め、周囲の観客も何が起きたか理解できず、言葉を失った状態で空を見上げていた。

 二度目の閃光が走った時、ようやく耳をつんざくような轟音が周囲に響き渡った。

 またしてもファスナ・フォースに巨大な穴が空き、爆散する。

 2機目のファスナ・フォースの残骸は、海ではなくダイヤモンドヘッドに落下してきた。

 つい数秒前までVFを形作っていたパーツ類が鬼のように降り注ぎ、斜面や遊歩道を容赦なく破壊していく。

 その雨の中、葉瑠はいち早く事態を理解した。

(……狙撃だ!!)

 狙撃で間違いない。それも、超遠距離からの精密射撃だ。

「葉瑠、危ない!!」

 結賀は葉瑠にいきなり飛びつき、共に遊歩道の奥へ倒れこむ。

 ほぼ同じタイミングで空から巨大な破片が降ってきて、先程までいた場所に激突した。

 遊歩道には大穴が開いていた。もしあのまま突っ立っていたら間違いなく死んでいただろう。

「結賀……」

「ここは危ない。早く降りるぞ」

 葉瑠は結賀によって即座に立たされ、海から逃れるべく山の斜面を降り始めた。



「……何が起こった!?」

 3機目のファスナ・フォースが撃ち落とされる様子を見つつ、リヴィオは半分混乱していた。

 一体何がどうなっているのか。

 外部から攻撃を受けたことは理解できるが、何故攻撃されるのか、どこから攻撃を受けているのか、全くわからない。

 4機目のファスナ・フォースに大穴が空くと、ようやく残り4機のファスナ・フォースが一点目掛けて移動し始めた。

 4機は移動開始後3秒でトップスピードまで加速し、5秒後には視界から綺麗さっぱり消え去っていた。

 どうやら攻撃の主を迎撃しに向かったらしい。

 対戦は既に中断されており、通信回線はオープンチャンネルになっていた。

「意外と早かったな」

「戦うフリもなかなか疲れる。こんなにノロノロと戦ったのは久々だ」

「ぼやくなよ。誘い出すのには成功したんだ。これだけ揃っていればまず問題ないだろう」

「ああ、今日は確実に(アンクリア)(レッド)を仕留めるぞ」

(UR……?)

 リヴィオの頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされていた。

 外部からの攻撃は間違いない。が、どうしてこんなにもみんなは落ち着いているのだろう。しかも、会話から察するにその犯人も見当がついているみたいだ。

 リヴィオは説明を求めるべく会話に参加する。

「あの、これはどういう……」

「お前ら、油断すんなよ」

 話し出した瞬間、どこからともなくシンギの声が聞こえてきた。

「URはファスナ・フォース8機とプロランナー6名をアウトレンジから全機破壊したバケモノだ。気ぃ抜くと次の瞬間には破壊されてるかもしれねーぞ」

 そんな忠告とともに現れたのは全身紫にカラーリングされたVFだった。

 頭部から伸びる角が特徴的で、リング状の装甲が腕部と脚部を覆っていた。

 リヴィオはこのVFに見覚えがあった。

 スラセラート学園、玄関ホールに飾られていたVF……シンギ教官が初めての代替戦争で勝利を収めた機体だ。

 リヴィオは自然とその機体名を呟く。

嶺染(リョウゼン)……」

 リヴィオの声が聞こえたのか、シンギはリヴィオに指示を出す。

「騙すような真似して悪かったなリヴィオ。こっから先は生死に関わる。ダイヤモンドヘッドに戻ってろ」

「……わかりました。戻ります。その代わり説明してください、シンギさん」

 シンギの命令なら何でも喜んで従うリヴィオだが、今回は流石に説明が欲しかったようだ。

 シンギは「えーと……」と呟いた後、説明を丸投げした。

「おいセブン、答えてやれ」

 シンギに指示され、人工知能『セブン』は女性の合成音声で説明し始める。

「今回の代替戦争はURをおびき出すためのフェイクです。URはこの代替戦争のシステムを根底から崩しかねない危険な存在です。もしもURが妨害行為を続ければ、私の影響力が弱まり、世界は再び戦争の時代に突入しかねません。世界平和を盤石なものにするためにも、URは早急に排除せねばならないエラーなのです。……よって、これよりファスナ・フォースを含め総勢14機でURを撃破します。ご協力お願いします」

「俺も含めて15機だろ?」

「そうでしたね」

 ――セブンは71機の中軌道衛星『明神』に搭載されている人工知能で、ネットワーク上のあらゆる電子機器をハック可能な優秀過ぎる兵器だ。

 これを作ったのはVF生産で有名な日本企業、七宮重工社長の七宮宗生だ。

 当初はVFの遠隔操作用の中継通信衛星として開発されたわけだが、大罪人更木はこの明神をセブンというAIを用いて悪用し、世界を混乱に陥れた。

 現在はセブンが勝手にひとり歩きし、当初のプログラムに従い世界平和を強引に維持している。

 セブンには誰も逆らえないし、手も出せない。

 だが、戦争が無くなっているのは事実だし、別にそれでもいいとリヴィオは思っていた。

「リヴィオ、一人で戻れるな?」

 再度シンギに指示され、リヴィオはもう一人の訓練生の名を挙げる。

「アビゲイルは……?」

 彼女も一緒にダイヤモンドヘッドに戻るのかと思っていたが、どうやら違うようだ。

 アビゲイルはいつも通りの抑揚のない声でさらっと告げる。

「私は戻りません。皆さんと一緒にURの討伐に参加しますので」

 アビゲイルの発言に、リヴィオは思わず聞き返す。

「それじゃあ、最初から知ってたのか!?」

「はい。追加要員の説明を受けた時にアルフレッド教官からこっそりと。私としてもURには興味がつきませんので、この作戦に参加することにしたのです」

 ならば自分も立候補しよう。

 そう思った矢先、またしても遠くで爆発音がした。

 どうやら話している間にファスナ・フォースが撃ち落されたらしい。

「シンギ、また1機撃墜されました。どうやらURの放つ銃弾は重力盾を貫通する能力を有しているようです。防ぐのではなく回避を推奨します」

「よし分かった」

 悠長にお喋りしている暇はないと判断したようで、シンギは右アームに持っていた日本刀の切っ先をURがいるであろう方向に向ける。

「これで奴を捕らえられなきゃ、打つ手がなくなる。散開して接近するぞ」

 掛け声を耳にしつつ、リヴィオはその日本刀に釘付けになっていた。

 刀身は斑模様で覆い尽くされ、ダマスカス鋼に非常に酷似していた。

(あれは『鋼八雲(ハガネヤクモ)』……)

 傭兵時代、シンギさんが愛用していた武器だ。絶対的な強度を誇り究極的な切れ味を持つ、最強のランナーにふさわしい最強の武器だ。鋼八雲はロストテクノロジーと称されるほど構造が複雑で、隕鉄が使われていることもあり、再現はほぼ不可能と聞いたことがある。

 あれを持ち出しているということは、シンギさんは本気らしい。

 シンギ教官は鋼八雲を腰の鞘に収めると、前傾姿勢で飛行し始めた。

 先ほどまで戦っていた敵機も盾と槍を体の前に構え、同じ方角へ飛んで行く。

 その際、敵機はこちらに向けてひらひらと手を振った。

 そのジェスチャーを見て、リヴィオは何故か下に見られた気がした。

(遊ばれてたのか……)

 こちらは本気で戦っていたつもりだったのに、向こうはURが現れるまでの時間潰し程度にしか思っていなかったようだ。

 アルフレッド機やアビゲイル機もシンギ教官の嶺染に続いて高速飛翔し始める。

「……戦力外か」

 何気なく呟くも既に通信は切れており、その声は誰にも届くことはなかった。

 リヴィオはシンギの指示通り、ダイヤモンドヘッドに戻ることにした。



 URの予測地点に向けて飛行すること20秒弱

 15機いたUR討伐隊は既に5機までその数を減らされていた。

(重力盾を打ち抜くって、どんなカラクリだ……?)

 真っ先にやられたのはファスナ・フォースだった。

 無人機の上戦闘AIによって操作されているので、その辺のプロランナーに比べてずっと強いはずなのだが、回避パターンを読まれたのかもしれない。

 その後亜細亜の壁のVFも順次撃ち落されてしまった。

 先刻のセブンの報告通り重力盾は全く役に立たず、ラウンドシールドを貫通して頭部を貫かれていた。

 だが、それだけの犠牲を払ったかいあってか、とうとうシンギは初めてURの姿を確認することができた。

「あいつか」

 シンギは頭部に搭載されたカメラ越しに、巨大な銃を構えている真っ赤な機体を見ていた。

 だが、正確な姿形までは分からなかった。何故なら、相手がこちらに足の裏を向けていたからだった。

 どうやら仰向け状態で射撃していたみたいだ。

 相手が逃げる様子はない。このまま近づけばあと10秒後には接触できそうだ。

 そんな事を考えていると巨大な銃からマズルフラッシュが発せられた。

(……!!)

 少し考え事をしていたせいか、回避行動が遅れてしまった。

 シンギは咄嗟に鋼八雲を抜刀し、射線を遮る。

 鋼八雲は見事に弾丸を防ぎ、甲高い声を周囲に響かせた。

 どういう理屈でこの重力盾を貫通できるかまだ分からないが、鋼八雲なら防げそうだ。

 だからと言って全ての弾を刀身で受け止めるつもりはなかった。

「大丈夫ですかシンギ教官」

「見りゃ分かるだろアルフレッド。俺の心配より自分の心配してろ」

「はい!!」

 会話中も絶え間なく弾丸が飛んできていたが、アルフレッドは機体をロール回転させ、器用に弾丸を回避していた。

 ジェットスラスタを装備している2機は言わずもがな、アビゲイルも何とか回避できているようだった。

 そんなこんなで接近していくと、不意にURは狙撃を止めた。

 これ以上は弾の無駄遣いだと判断したのだろうか。それとも、逃げるつもりだろうか。

 URは銃口を下に向けると足裏も下に向け、こちらに体の正面を向けた。

 どうやら闘り合うつもりらしい。

「……!!」

 静かな佇まいのURを見てシンギは悪寒を覚え、空中で急制動を掛けて停止する。

 他メンバーもシンギの動きに従い、その場で停止した。

 距離にして約300m。

 その距離を保ったままシンギは呟く。

「ご対面だな……」

 初めて見るURは、シンギの予想を遥かに上回るほどの禍々しい空気を纏っていた。

 全身は濃い真紅に染め上げられ、ボディーは病的にまで細い。一言で言えば“血まみれの骸骨”だった。

 シンギは鋼八雲を腰の位置で構えつつ、アンクリアレッド……もとい、赤い機体を観察する。

 全長はこちらと同じ10m程度。しかし頭部は少し大きく、両脇から捻れた牡羊の角が生えており、その分を含めると11mを超える勢いだった。

 胸部は肋骨を連想させる細長い装甲板が取り付けられ、その奥には球体のコックピットが見え隠れしていた。胸部から腰部にかけての胴部分はほとんど中空で、縦長い背骨があるだけだった。

 手足も細く、脚部は自立歩行すら難しく思えるほど頼りなかった。

 構造自体はVFのそれと酷似していたが、AGFや擬似AGFは使われていないようだ。

 しかし、何らかの形で重力制御を行っているのは明らかだった。

 姿を確認でき、晴れて未確認物体ではなくなったわけだが、便宜上URと呼ばせてもらうことにしよう。

 束の間の対峙の後、何を思ったか、URは狙撃銃を呆気無く投げ捨てた。

 狙撃銃はくるくると回転しながら落下し、海に着水し沈んでいった。

「シンギ・テイルマイト……あなたは愚かな男だ」

 低い合成音声が響く。これは通信ではない。外部スピーカーを使って話しているみたいだ。

 応じられるわけもなく、シンギは黙ってURの言葉に耳を傾ける。

「この世界は袋小路に陥っている。恒久的な平和、それすなわち進化の放棄。我々は進化せねばならない。競い、争い、殺し合い、勝ち抜いていかねばならない」

「……ラリってんのか?」

「いい感じに狂っていますね」

「言葉自体は理解できますけど、何を言っているのか理解できませんし理解したいとも思いません」

 仲間内で感想を述べている間も、URのランナーは高説を垂れ続ける。

「平和ボケしたこの世界では我々は進化できない。世界は混沌であるべきだ。混沌を阻害するシステムは破壊する必要がある」

「……要するに私、セブンを破壊して代替戦争を止めさせたいようですね」

「なるほど」

 セブンの翻訳を介してようやくURの言葉を理解したシンギは、自らも外部スピーカーを用いてURに応じる。

「オーケーオーケー、お前の言いたいことは分かった。……が、目的が分からねー」

 シンギはゆっくりと近づいていく。

「セブンを破壊して、本来の戦争を取り戻したとして、お前はそれからどうするつもりだ?」

「平和の次のステージを実現させる」

「次のステージ?」

「……秩序だ」

 言葉の後、URは背中に手を突っ込んだかと思うと、新たな武器を取り出した。

 それは長い棒の先端に半月状の大きな刃が付いている武器……大鎌サイスだった。

 サイスは実用性に乏しい武器の代名詞なのだが、ヴィジュアル的には血まみれの骸骨に実にマッチしていた。

「私は平和を超える真の秩序を実現させる。邪魔者は何としても排除する」

「そうか、よく分からねーが、マジであぶねー奴だってのはよく分かった」

 そういう考え方を持っている団体があるのは知っている。考えは人それぞれだし、文句を言うつもりはない。

 だが、これほどのVFをセブンに気取られずに製作できるとなると見過ごす訳にはいかない。

 あのセブンがわざわざ俺に頼み込んできたのも理解できる。

「……説得は無理そうだ。さっさと破壊しちまうぞ」

 事情を聞き終えた所で改めてシンギは鋼八雲を構え、接近していく。

 シンギの動きに合わせるうように、URも大鎌を両手で保持し胸の前で構える。

 緊張した空気の中、最初に動いたのはシンギ……ではなく、米国代表の2人だった。

 2人は示し合わせたように左右に展開し、高速飛行しながら大きな弧を描いていく。

 シンギは一瞬でそれが挟み撃ち攻撃だと理解し、2人に合わせて前に飛び出した。

 米国代表の2人……イグナシオとゲルハルトは旧知の仲で、戦ったこともあれば共闘したこともある、どちらも信頼できる一流のランナーだ。

 3人のランナーによる同時攻撃。

 これを回避できるランナーはこの世に存在しないだろう。

 まずURに攻撃を仕掛けたのはゲルハルトだった。

 ゲルハルト機は衝突の瞬間に指先にプラズマナイフを形成し、素早い突き攻撃を放つ。

 URの左後方、死角から放たれた突きだったが、URは右前方に飛び出すことでその突きを回避した。

 その先で待っていたのはイグナシオ機だった。

 イグナシオ機は足裏のスラスターにプラズマナイフを形成し、前転しながら踵落としを行う。

 流石に回避できないと判断したのか、URは大鎌を振り上げて踵落としを弾き返す。

 プラズマジェットが空気を焼く高音と金属同士が擦れ合う重低音を体全体に感じつつ、シンギは隙だらけの腹部目掛けて横薙ぎの斬撃を放った。

 URは武器を振りきった状態で固まっており、回避も防御も反撃もできない状態だった。 しかしURは強引に細長い脚を上げ、どんぴしゃで鋼八雲の斬撃を食い止めた。

「――甘い」

 シンギにとって、このURの防御行動は予測済みだった。

 シンギは脚部に刃先が当たる直前で刃を返し、逆回転しながら回転斬りを放つ。

 刃の速度は音速を越え、刹那の間にURに達する。そして抵抗すら感じさせることなく振りぬかれた。

 刃が頭部を通過すると、立派な角ごと頭部の上半分が本体から分離して宙に舞った。

「よしッ」

 呆気無く勝利したシンギはコックピット内で小さくガッツポーズを取る。

 ……が、この油断がいけなかった。

 セブンの警告がコックピット内に響く。

「シンギ、まだです!!」

 セブンの声に驚き、シンギは反射的にコンソールに手を置き直す。

 頭部を失ってもURは機能停止することなく、それどころか今まで以上のスピードで大鎌を振り回していた。

「ッ!?」

 大鎌は一息でURの周囲を一周し、3機の頭部を通過する。

 気付いた時には頭部はひしゃげ、シンギのHMDには何も映らなくなった。

 どうして頭部を破壊しても相手は動けるのか、シンギは最も重要な事を失念していた。

「馬鹿か俺は。相手はAGFじゃねーんだよ……」

 セブンから配給される純正AGFは頭部がエネルギーのレシーバーの役割を負っている。

 レシーバーを破壊すれば動けなくなるし、そうでなくてもジェネレーターを止めれば動けなくなる。これは、AGFの暴走を防ぐための安全対策だ。

 しかし、URはそうではない。バッテリーを積んでいるだろうし、頭部を失った所で機能停止に陥ることはないのだ。

 無論、10年前に作られたこの嶺染も頭部を失っても動けるが、反撃するにはあまりにも遅すぎた。

 シンギは続けざまに大鎌による斬撃を受け、コックピットに衝撃を受ける。

 視界ゼロなのでどこから攻撃が来るか分からなかったが、ステータスに表示されたダメージ状況を見ればどこに攻撃を受けたかは分かる。

 膝下断絶、左腕大破……

 それらの情報から次に狙われる場所を予測するのは難しくはなかった。

(……上か)

 シンギは瞬時に冷静に判断し、嶺染を急降下させてURから離脱する。

 その時になってようやくサブカメラに切り替わり、シンギは状況を把握できた。

「やられたな……」

 米国代表の2機は動力を失い、海に向かって真っ逆さまに落ちていた。

「イグナシオ機、ゲルハルト機、レシーバーを破壊され機能停止です」

「見りゃ分かる」

 セブンに応じつつ、シンギは自機の破損状況を確認する。

 嶺染も左腕と脚部をやられていた。この状況から逆転するのは難しいだろう。

 悔しいが、一旦退いてアルフレッドとアビゲイルに合流した方がいい。

 URはこちらを追いかけるべく、切断された頭部を下に向けて急降下してきた。

 深紅の骸骨、額より上を失った髑髏、そして不気味な大鎌も相まって、その姿はまるで死神のようだった。

 このまま追撃されたらヤバイ。

 どうしようかと考えていると、すぐに助けがやってきた。

「シンギ教官!!」

 嶺染とURの間に高速で割り込んできたのはアルフレッド機だった。

 アルフレッド機は長い長いロングソードを上に向け、URに相対する。

 URは新手に警戒したのか、嶺染を追うのを中断して大鎌を構え直した。

「アビゲイル君、教官を連れて陸にもどってくれたまえ!!」

 アルフレッドから指示が出されたかと思うと、すぐにアビゲイル機が背後から近づいてきて、嶺染をキャッチした。

「はい。戦線を離脱します」

 このままダイヤモンドヘッドまで連れ帰るつもりらしい。

 しかし、シンギはこの作戦に同意しかねた。

 シンギはアビゲイル機の手を振りほどく。

「ここで逃げてもどうにもならねーよ。俺たち3機でどうにかして倒すぞ」

 URはアルフレッド一人でどうにかできる相手ではない。この場にいる全員で攻撃するべきだ。

 シンギの命令にもかかわらず、アルフレッドは自分の作戦を曲げようとはしなかった。

「いえ、シンギ教官には戻ってもらいます。そしてリヴィオ君のVFに乗ってください」

「お前……」

「それが最も最適な方法だと思います」

「……」

 確かに、手足を失った嶺染よりもリヴィオ機の方が戦闘力は高い。それに、鋼八雲さえあればURを屠るのは容易いだろう。

 シンギはアルフレッドの作戦の方が確実だと瞬時に判断した。

「分かった。……俺は一人で戻れる。アビゲイル、アルフレッドを援護しろ」

 2機なら効率的にURを牽制できるはずだ。

 シンギはアビゲイル機から離れ、残された右アームでアビゲイル機を押し飛ばす。

「……了解です」

 アビゲイルは遅れて返事すると、腕をクロスさせて両腰のブレードホルダーから黒塗りの刃を抜いた。

 下手をしたら死ぬかもしれないというのに、アビゲイル機からは迷いが感じられなかった。

 齢15の女子学生にしては肝が座りすぎている。……心強くもあり、そして恐ろしくもあった。

「5分だ。5分で戻ってくる」

 ……もたもたしている暇はない。

 シンギは背を向けると、ダイヤモンドヘッドに向かって飛行し始めた。


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