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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
 2 鋼の拳
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 10 -届かぬ拳-


 10 -届かぬ拳-


 AGFの取り付け作業が開始されてから3分後

 コックピット内にて、リヴィオは通信機越しにロジオンの声を聞いていた。

「駆動系……出力安定、フレームコネクタ……異常なし、操作系……感度レベル最適化完了、視野良好異常なし。こっちの準備はOKだ。お前さえ良ければいつでも出せるぞ」

「ありがとうございますロジオンさん。少し待ってください」

 リヴィオは慣れた手つきでコックピット内のコンソールを操作し、自己診断プログラムを走らせていた。

 純正AGFには初めて乗るが、いつも訓練で使っているものと全く変わらない。

 そのため、目立ったトラブルもなく準備作業は順調に進んでいた。

 やがて自己診断プログラムも完了し、HMDのステータス画面に表示されていたチェック項目が全て『CLEAR』という文字で埋め尽くされる。

「チェック完了。エラー無しです」

 通信機を通じてロジオンに告げると、ロジオンは「了解」と呟き、続いて全体に通達する。

「システムチェック全クリアだ。全員退避、リフトオフだ!!」

 その言葉の後、すぐにケージのロックが解除される音が響き、ステータス画面にもロックが解除された事を示すグリーンのマークが点灯する。

「頑張れよ」

「行ってきます」

 リヴィオは短く応じると、シミュレーション通り浮遊システムを起動させる。

 機体は音もなくゆっくりと固定ケージから離れ、どんどん上昇していく。

 何とも言えぬ浮遊感に包まれつつ、リヴィオは出力を上げて空へ舞い上がる。

 まさに天にも昇る心地だ。

 どんどん小さくなっていくダイヤモンドヘッドを眺めつつ、リヴィオは上昇を続ける。

 今のところシステムには何の問題もない。

 完璧に作業を行ってくれたロジオンさんには感謝の言葉しか無い。

 いつもランキング戦前には機体調整もしてくれているし、対戦後の修理も手際よくやってくれている。

 この対戦で一機でも撃墜して、ロジオンさんへの手土産にしようではないか。

(わざわざ学園から俺のアウターユニットも持ってきてくれたし……マジで感謝だな)

 リヴィオは改めて自機の機体構成を確認する。

 青にカラーリングされた機体は清々しいほど左右非対称の構成になっていた。

 機体の左側、肩部から手の甲にかけては蛇腹状の縦長い盾が取り付けられており、鳥の翼にも見えなくはない。肘を曲げるとちょうど円形の盾になる。

 左肩部や左脚部にも厚めの装甲が装備されていて、防御に重点を置いた構成になっていた。

 そんな左側とは打ってかわり、機体の右側、背筋と胸筋部分にはユニット化された出力補助機構が、そして肘部分には関節補強パーツが、さらに手の甲には頑強なナックルガードが装備されていた。

 明らかにアンバランスな構成だが、リヴィオはこの出来に満足していた。

 この形が、自分自身の実力を最大限に引き出せる形だと確信していたからだ。

 リヴィオは規定高度まで到達すると、その場で軽く構え、ジャブを放つ。

 右のジャブは空の青を切り裂き、周囲に鋭い音を響かせた。

 待機状態でこのスピード、試合が始まれば容易に音速を超えるだろう。

「調整は問題なく完了したようですね」

 既にアビゲイル機とアルフレッド機は上空で待機しており、両機とも自らの獲物を手に構えていた。

 アビゲイル機はスカート状の装甲を腰に巻いていて足元も幅広の装甲で覆われていた。しかし、上半身は頼りなく思えるほど装甲が薄かった。

 武器を自在に扱えるよう、なるべく邪魔なものは減らしたいようだ。

 両手には細長いブレードが握られていて、また、腰部のベルトにも左右2本ずつ同じ形状のブレードが提げられていた。

 計6本のブレードは通常の刀剣とは違いグリップ部分がなく、ブレードの端に指の形に合わせた窪みがあるだけだった。どうやら手のひら部分にブレード保持用のパーツが固定されているみたいだ。

 黒塗りの刃は黒にカラーリングされた機体に同化していて、体の一部のように見えた。

「ようやく来たようだねリヴィオ君。どうかね、初めての飛行は」

 アビゲイル機とは打ってかわり、アルフレッド機は拍子抜けするほど普通だった。

 通常装甲はボディの要所に設置され、補助動力も体に満遍なく配置され、このままVFの基礎教本の挿絵として載っていても不思議ではないくらい標準的な機体構成だった。

 そんな普通の機体とは対称的に、武器は超がつくほど長いロングソードを装備していた。

 幅広で頑強そうな刀身はVFの背丈を軽く超えていた。10m……15mはあるだろうか。柄も合わせると20m以上になるだろう。

 刀身は僅かに湾曲しており、刀身の片側には強度補強用の金属板が幾つも等間隔に貼り付けられていた。

 よく見ると刃自体も複数の刃が連なって構成されており、“刃”というよりも“歯”という印象を受けた。

 あんな扱いにくそうな武器、頼まれても使いたくない。明らかに玄人向けだ。

 アルフレッド機はそんな玄人向けのロングソードの柄を両手で保持し、剣先を地面に向けて構えていた。

 リヴィオは2人に合流し、先ほどの二人の質問に対し遅れて応える。

「今のところどこも問題ないし、飛行も思ったより簡単だな」

 これで3機揃った。後は2機を待つのみだ。

「後の2機は?」

「既に沖でスタンバイ済みだ。」

 リヴィオは言葉通り沖に目を向ける。米国出身の2機はやる気満々のようで、既に戦闘区域で待機していた。

「彼らはAGFの浮遊機能に加え、ボディの各所にアークジェットスラスタを装備している。多分、当時の最新鋭の戦闘機並みのスピードで飛び回ることが可能だろう。……彼らにしてみれば、我々の飛行は“飛ぶ”というより“浮いている”と表現するのが正しいかもしれないな」

「戦闘機か……」

 因みに、10年前の事件の際に兵器という兵器が人工知能セブンによってクラックされ、近代兵器は全て破壊されてしまった。

 それ以降もセブンによる監視が続いており、兵器と名のつくものは一切生産されていない。残っているのは電子制御されていない原始的な兵器……高射砲や榴弾砲その他大砲類くらいなものだ。

 もし戦車や戦闘機を作ろうとしても、71機の中軌道人工衛星が地表を余すところ無く監視している上、通信網もほぼ完璧に傍受されているため、かなり難しいだろう。

 リヴィオは今更ながら通信に関する代替戦争のルールを思い出す。

「あれ、通信ってOKだったか?」

「団体戦の場合、チーム内の会話は許可されている」

 アルフレッド機は下に向けたロングソードの柄のおしりを叩く。

「因みに、レーザーや電波の類を放射するのは禁止されている。通信網経由で敵機をクラックする可能性があるからな」

「あれ、じゃあやっぱりこの通信も駄目なんじゃ?」

「これはセブンの通信衛星を経由しているから問題ない」

 疑問に答え終えると、アルフレッド機は真上を指さした。

「今はそんなことよりも飛行に専念したまえ。シミュレーションで一通りやったとはいえ、1ヶ月でできることなど知れているからな」

 確かにアルフレッド教官の言う通りだ。

 例え短い時間でも、飛行に慣れておいたほうがいい。

「試合開始まであと5分、それまでゆっくりと空の散歩を楽しみたまえ」

「……了解」

 リヴィオは短く応じるとその場を離脱し、急上昇していった。



 NATO側のVFが全てリフトオフした後、葉瑠は少し高い場所から亜細亜の壁のVF、5機の様子を観察していた。

(5機とも同じ機体構成ですか……)

 取り付け作業が始まった当初は全く分からなかったが、終盤に差し掛かかり全体像が見えてきたため、5機が同じ機体構成だとわかったのだ。

 結賀もそれが分かってか、つまらなそうに呟く。

「武器まで全部同じかよ……しかも見たところ既成品しか使ってねーぞ。やる気あんのか……?」

「既成品って言っても最高グレードのパーツみたいだし、勝負を捨ててるわけじゃないと思うよ」

 亜細亜の壁のVFは機体構成こそ同じだったが、全て高価なパーツで固められていた。

 外装甲は全面に衝撃吸収機構付きの物が使われていて、補助動力も消費エネルギー量と単位面積当たり出力のバランスがいい物が使われ、兵装もロングスピアにラウンドシールドと、どんな状況にも応じやすい物を装備していた。

 ……スラセラート学園ではVFの性能よりも、VFを操作するランナーに重点を置いている。

 そのため、ランナーの特性に合わせてアウターユニットの構成を変えられるし、どんなに有用性の低い武器でも使用可能だ。

 軍や国が運営するランナー育成機関ではVFそのものに重点をおいている。

 国が総力を上げて開発した外装甲やVF専用兵装を、如何に上手く操作できるかが重要であって、適正の高い者が代表ランナーとして選ばれるのだ。

 そのため、彼らが代替戦争で使用する機体の種類は極端に少ない。

 スラセラートのように一人につき一機という考え方はありえないのだ。

「……あ、作業終わったみたいだな」

 5機のVFはほぼ同時にアウターユニットの取り付けを終え、示し合わせたように上空へ上って行った。

 上空にはNATO側のVFが待機していたが、5機が近付くと同時に沖の方へ移動していった。

 亜細亜の壁の5機も彼らを追うようにダイヤモンドヘッドから離れていった。

「葉瑠、そろそろ上に行かねーと対戦始まっちまうぞ」

「そんなに焦らなくても大丈夫。まだ3分くらいあるから」

「3分“しか”ないんだ。早く行くぞ」

 何だかんだで結賀は代替戦争が楽しみらしく、中腹から峰の山頂目指して遊歩道をダッシュしていく。

「待って結賀」

 少し遅れて葉瑠は結賀の後を追う。

 走り始めたその時、葉瑠は思い切り脚を絡ませてしまった。

「うあっ」

 結果、バランスを失い、左前を歩いていた男性の背中に突撃してしまった。

 思い切り顔面をぶつけてしまい鼻に激しい痛みを覚えたが、地面に激突するよりは遥かにマシな痛みだ。

 葉瑠はすぐさま体勢を立て直し、腰を深く曲げて謝罪する。

「あの、すみませんでした!!」

「……」

 男性は立ち止まったまま、無言を貫いていた。

 驚いているのか、それとも怒っているのか、全くわからない。

 葉瑠は恐る恐る顔を上げる。

 男性は上半身を捻って振り返り、冷たい目で葉瑠を見ていた。

 彼はかなり背が高く、丈の長いロングコートを完璧に着こなしていた。

 だが姿勢は悪く、若干猫背気味で痩せていた。

 コートの男は掠れ声で呟く。

「その制服……スラセラートの学生か……」

 つぶやくと、コートの男は葉瑠に手を伸ばした。

 葉瑠はゆっくりと近づいてくるその手をやんわりと避け、一歩二歩と下がる。

 結賀は異変に気づいたようで、すぐにUターンして戻ってきた。

「テメー、葉瑠に何してんだ!?」

 結賀は下り坂をダッシュで駆け、瞬時にコートの男と葉瑠の間に割って入ると、コートの男を強引に押し返した。

 コートの男は特にリアクションすることなく、おとなしく引き下がった。

 葉瑠は背後から結賀の腕を掴み、糾弾する。

「勘違いだよ結賀。悪いのは私の方で……」

 結賀の無礼を詫びるべく、葉瑠は再度頭を下げる。

「ぶつかった上に押し飛ばしてしまうなんて……本当にごめんなさい」

 葉瑠の言葉に促され、結賀も「悪かったな」としぶしぶ謝る。

 コートの男は全く気にしていないようで、沖へ視線を向けていた。

「君達は応援のためにここに来たのか」

「ええ、そうですけど……」

「今、VFに乗っている彼らとは知り合いか」

「はい。一応同じコースの訓練生です」

 いきなりの質問だったが、葉瑠は正直に答える。

 コートの男は空を浮遊するVFを指さすと、葉瑠たちに目を向けた。

「……あの中にシンギはいるのか」

「……はい?」

 質問の意味が理解できず、葉瑠は首を傾げたまま固まる。

 そんな葉瑠の代わりに結賀が答えた。

「いるわけねーだろ。つーか、何でシンギが乗ってるって思うんだよ」

「そういう噂を昨晩聞いた」

 昨日の空港での騒ぎの件だろう。あれだけ目撃者がいれば、こういう噂が広がっても無理は無い。

 結賀は重ねて否定する。

「シンギは代替戦争への参加を禁止されてるって知らねーのか? 今日は中継映像で観戦するって言ってたし、街中探したって見つからねーよ」

 コートの男は結賀の話に納得したらしい。「なるほど」と掠れ声で呟き、遊歩道を下り始める。

「こちらが出て来るまではあちらも出てこないつもりか……。まあいい、いつも通り事を進めればいいだけだ」

 よく分からない言葉を呟きつつ、コートの男はその場から去っていった。

(何だったんだろう……)

 とても気になるが、代替戦争の開始の瞬間を見逃すわけにもいかない。

 葉瑠は去っていくコートの男の後ろ姿から目を離し、上を目指すべく進行方向に目を向けた。



 陸から離れること2km、上空500m地点にて

 計10機のVFは対戦開始の時を静かに待っていた。

(それにしても新鮮な光景だな……)

 対戦前だというのにリヴィオの心は落ち着いていた。

 空から見るダイヤモンドヘッドは実に奇妙な形をしていた。

 中央がポッカリと空いた山。峰の部分には観戦客らしき小さな人影が無数に連なっている。

 あの中に葉瑠もいるのだろうか。

 リヴィオは葉瑠にいいところを見せようと「よし」と呟き意気込む。

 その声を聞かれたようで、アルフレッドが話しかけてきた。

「その意気だリヴィオ君。頑張ってくれたまえ」

「頑張るに決まってます。……ところで、そろそろ指示を貰っていいですか」

「指示……?」

「試合開始後の動きだとか、作戦についてです。好き勝手に突っ込んでいったらすぐやられるって俺でも分かってます」

「そうだったな」

 アルフレッドは特に考える様子もなく指示を出す。

「今回も十中八九マンツーマンの戦いになるだろう。リヴィオ君、君は破壊されないよう敵からの攻撃に耐え、我々が援護に来るまで無茶はしないでくれたまえ」

「了解です……」

 本心では全力で敵にぶつかりたいが、指示が出た以上それに従うのがチームだ。

 リヴィオの不満を何となく察知したのか、アビゲイルも会話に混ざる。

「リヴィオ、とにかく防御に徹してください。この勝負、1機でも先に破壊された方の負けですので」

 まるで自分のほうが上の立場にあるような物の言い方だが、間違っていないので反論はできなかった。

 数の均衡が崩れた時点で勝敗は決まる。

 それを理解できないリヴィオではなかった。

「ようやく来たようですね。ファスナ・フォース」

 アビゲイルの言葉に反応し、リヴィオは空を仰ぐ。

 はるか上空から8機のファスナ・フォースが舞い降りてきていた。8機は真横に整列しており、全機とも腕を組んでいた。

 流線型のボディは美しく、頭部から無数に伸びる放熱板は髪の束のように見え、とても女性的なデザインをしていた。

 代替戦争の監視者、審判者に相応しいVFのように思えた。

 8機のファスナ・フォースはそれぞれ四方八方に散らばり、バトルエリアの境界線付近で停止する。

 準備が整ったようで、通信機からセブンの合成音声が聞こえてきた。

「では、これよりNATO対亜細亜の壁、5機対5機時間無制限の代替戦争を開始します」

 抑揚のない言葉が放たれた後、カウントダウンが開始され、HMDにデジタル数字が表示された。

 最初は10だった数字は9,8,7と毎秒ごとに減っていき、その度に緊張が高まっていく。

 だが、その緊張は不快ではなかった。

 震えないし変な動悸もしない。純粋に闘志が高まっている感覚だった。

 やがて数字が3を切ると、今まで無言を貫いていた僚機が言葉を発した。

「全機、健闘を祈る」

「せいぜい楽しむといい、学生諸君」

 どちらとも男性の声で、しかも後者は年季の入った渋い声だった。

 アルフレッドは律儀に応じる。

「はい、全力で楽しませて頂きます」

 返事を終えると同時にカウントダウンが終了し、周囲にブザーが鳴り響いた。

 今度こそ本当の試合開始だ。

 ブザーから間を置かずして自動的に待機モードが解除され、エネルギー受信が開始された。あっという間にAGFの出力は上昇し、自動的に重力盾も展開される。

 敵5機もこちらと同じく戦闘準備が整ったのか、それぞれ目的の相手に向けて一直線に飛行してきた。

 アルフレッド機やアビゲイル機、そしてNATOのランナー達も敵を迎え撃つ形で前方に突進していく。

 リヴィオも遅れを取らぬよう、前方に飛び出した。

「ぐっ……結構来るな」

 体全体にGが掛かるのを感じつつ、リヴィオは接近してくる敵機を見る。

 敵機は高グレードの装甲を余すところ無く装備していて、右アームにはロングスピアを、左アームにはラウンドシールドを装備していた。

 既に敵機は突貫の態勢に入っており、盾を前方に突き出し、槍も脇の位置で構えていた。

(風情も何もねーな……)

 向こうさんは最初の一撃で勝負を決めたいらしい。

 リヴィオとしてもカウンターをかましてやりたかったが、攻撃に耐え、援護が来るまで無茶しないのが今回の作戦だ。

 リヴィオは速度を落とすと高度を下げ、海面に向かう。

 海を背にして戦えば相手もおいそれと突進できないはずだ。

 リヴィオのこの読みは当たったようで、敵機は速度を落として構えを解き、ゆっくりと下降してきた。

 敵機は海面スレスレでピタリと止まると今度は槍を逆手に持ち、肩の位置で構えた。

 ぱっと見ると投擲の体制に見えなくもないが、一本しかない槍を投げるとは思えない。

 あれが近接戦での正しい構え方なのかもしれない。

 敵機は槍を上段に構えたまま接近してくる。

 やがて重力盾の干渉エリアに入り、2機の間に働いていた斥力が無効化された。

 これで重力盾の加護はなくなった。こちらの攻撃は敵に当たり、敵の攻撃もこちらに当たる。

 ……ここからが本番だ。

 リヴィオはボディの左側面を敵機に向け、ゆっくり接近していく。

 すぐに槍の攻撃範囲に入り、とうとう一撃目が放たれた。

(……速い!!)

 リヴィオが想像していた倍以上の勢いで槍の穂先が迫ってきた。

 リヴィオは咄嗟に左アームの蛇腹盾を展開し、姿勢を低くする。

 すぐに槍が盾に接触し衝撃が走った。しかし穂先は蛇腹盾を滑り、右へ逸れていった。

(ッ……!!)

 逸れたというのにコックピットには結構な衝撃が伝わってきていた。

 だが怯んでいられない。

 リヴィオは槍を掴もうと手を伸ばす。しかし、槍は突き出された時以上のスピードで引いていき、敵機のもとに返った。

 そのまま追撃するべくリヴィオは敵機を見る。

 敵機は既に槍を上段に構え突きの態勢に入っていた。このまま進めば確実に刺される。

 その槍に加え、敵機はラウンドシールドをこちらに向けて構えていた。仮に殴りかかっても、あの盾に遮られて拳は届かないだろう。

(マジか……)

 一撃だけでリヴィオは相手と自分の実力差を嫌というほど理解した。

 やはり俺は弱い。

 おまけに武器も装備しないで拳にこだわるなんて、愚の骨頂だ。

 リヴィオは追撃を止め、当初の作戦通り防御態勢を取る。

 敵機も初撃をいなされた事もあってか、槍を構えたまま探りを入れるように横方向に移動し始めた。

 均衡状態を保てるのなら、それに越したことはない。

 リヴィオは早い段階で攻撃を諦め、敵機との距離を一定に保つことに専念することにした。


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