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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
 2 鋼の拳
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 05 -追加要員-


 05 -追加要員-


 シャトルバスに乗ること20分

 葉瑠はホテルのエントランスホールにいた。

 広いエントランスは床一面が大理石でできていて、清潔感があった。

 大理石の床を踏み鳴らしながらエントランスを抜けると、受付カウンターがみえてきた。

 カウンターには綺麗なお姉さんが5名ほど並んでいて、笑顔で宿泊客の対応を行っていた。

「でけーホテルだな。一泊いくらすんだろ……」

 結賀は額に手を当て、上を眺めていた。天井にはガラス製のシャンデリアがぶら下がっており、キラキラと光を放っていた。

 葉瑠は思わず足を止めてしまう。

 そんな葉瑠を追い抜き、他の訓練生たちも次々とエントランスホールに入ってくる。

「へー、このホテル結構評価高いじゃん」

 携帯端末を弄りながら入ってきたのはクローデルだった。何かの評価サイトを見ているらしい。

 ドナイトはその画面を覗きこむ。

「10点中8点か……うむ、トレーニングジムも完備しているようだし、文句ないな」

「お前、自由時間も筋トレするつもりかよ……」

「駄目なのか?」

「いや、駄目じゃないけどさ……」

 二人は他愛のない会話をしながら進んでいった。

「リヴィオくん高級ホテルだよ高級ホテル!!」

「そんな騒ぐなよアハト。別に初めてってわけでもないんだろ?」

「そうだけど……リヴィオくんはこういう場所興奮しない?」

「しねーよ……」

 リヴィオとアハトは楽しげに会話していた。

 そんな男子連中を追い抜き、アビゲイルはカウンターで受付の女性と何やら話し始める。

「シングルルームに空きはありますか」

「大変申し訳ございません、現在シングルルームは満室でして……ツインでしたら空きがありますが」

「それでいいです。一人で利用しても問題無いですね?」

「はい。それではお部屋に案内させていただきます」

 アビゲイルは勝手に部屋を取り、一人だけ先にエレベーターホールへと向かう。

「待ちたまえ。何のつもりかなアビゲイル君」

「私、一人じゃないと眠れないので、勝手ながら自費で部屋を取らせていただきました」

「そういうのは困るな。……君、彼女の部屋はキャンセルしてくれ」

 アルフレッド教官は受付カウンターの女性に告げる。

 女性は戸惑いながらも「承りました」と返事をし、手元の端末を操作していた。

 アビゲイルは不満そうにしていたが、教官には言い返せないようで、黙ったままエントランスのロビーへ向かった。

 ロビーには一人掛け用の革製ソファーがズラリと並んでいて、アビゲイルはその中でも最もカウンターに近いソファーに身を預けるように座る。

 アルフレッド教官もロビーへ向かい、軽く手を叩く。

「諸君、集合だ」

 集合の合図を聞き、訓練生達は素直にアルフレッド教官の元へ集まる。

 そして、各々好きなソファーに腰掛け、教官の言葉を待つ。

 満を持してアルフレッド教官は話し始める。

「長旅ご苦労。今回、君達にとっては初の合宿となるわけだが、今の心境はどうかね……葉瑠君」

 初っ端から質問され、葉瑠はしどろもどろに答える。

「心境と言われましても……やっぱり、それなりに緊張していると言いますか……」

「……そうか。では詳しい日程を発表しよう」

 アルフレッド教官は葉瑠の話を強引に終わらせた。

 何のために質問したのだろうか……。

 文句を言っても意味が無いだろうし、ここは黙って引き下がろう。

「今回の合宿のテーマは『見学』だ。ということで、君達にはひたすら代替戦争を見学してもらう」

「……え?」

 アルフレッド教官の発表に7名全員が首を傾げる。

「あの教官、私達合宿しに来たんですよね?」

「そのとおりだ。今更何を言っているんだ?」

「いえ、てっきりみんなで集中的に訓練すると思っていたんですけれど……」

「勝手な思い込みはよくないな葉瑠君」

「でも、この間言ってましたよね。“米国の演習施設でトレーニングをする”って」

 アルフレッド教官はフッと笑い、マスクに手を当てる。

「この世に不変な物などない。……そういうことだ」

「言い訳になってませんよ、それ……」

 どういう経緯でトレーニングが中止になったのか分からないが、フィジカルトレーニングをサボれるのなら万々歳だ。

「質問いいですかアルフレッド教官」

「何かなリヴィオ君」

「代替戦争、もしかしてシンギ教官も出るんですか?」

 リヴィオは久々に会ったシンギ教官の事が気になっているようだった。

 アルフレッド教官は首を左右にふる。

「いいや、シンギ教官は偶然居合わせただけで今回の代替戦争とは関係ない。……だが私はNATO側で戦う事になっている。私の美技に酔いしれるといい」

「へー、流石は学園ランキング2位だけのことはあるな」

 結賀はしれっとしていたが、葉瑠はこの事実にかなり衝撃を受けていた。

(すごい……こんな大規模な代替戦争にランナーとして参戦できるなんて……)

 やはり、ただのマスクの変態ではなかったようだ。

 NATOから依頼を受けるのだから、一流ランナーに間違いない。

 一体この試合に出るだけでいくらお金を貰えるのだろうか……。

「さて、ここからが本題だ」

 アルフレッド教官は一人掛けソファーに深く座り、おもむろに足を組む。

「明日は本来なら3対3のチーム戦が行われる予定だったのだが、あちらの要請で5対5のチーム戦に切り替わってしまった。……ついては、君達7名の中から2名ほど追加要員を選抜したい」

「!!」

 アルフレッド教官の言葉を受け、7名は同時にソファから立ち上がる。

 ……いや、アビゲイルだけはヘッドレストに頭を預け、外に目を向けていた。

 立った6名の内、口火を切ったのは結賀だった。

「オレたちまだ訓練生だぞ!? 代替戦争に出る資格なんてねーだろ」

「おや、結賀君から弱音を聞けるとは思わなかったな。威勢の良いいつもの君はどこに行ったのかな?」

「……」

 少し言い返されただけで結賀は押し黙ってしまう。

 そんな結賀を葉瑠はフォローする。

「確かにそうですけど、私たちはまだランナーとして経験が浅いといいますか……まだ擬似AGFにも慣れていないのに、いきなり純正AGFで戦うなんて……」

「それは君に限った話だ。君以外はシミュレーターで純正AGFの戦闘訓練を受けているのだよ」

 私がフィジカルトレーニングをしている間、みんな先に進んでいたみたいだ。

 煮え切らないのか、アルフレッド教官はため息をつく。

「はあ……嫌なら辞退すればいい。ただ、これはチャンスだと思うのだがね」

 この場にいる全員がランナーとして実力を付け、活躍したいと考えている。……はずなのだが、いざとなるとなかなか決断できないみたいだ。

 急に代理として代替戦争に出ろと言われて“行きます”と即答できる人間はそういない。

 せめて、半日くらいは考える時間がほしい。

 ……そんな中一人の男子が手を挙げた。

「俺、立候補します」

 手を上げたのはリヴィオだった。

「決まりだな」

 アルフレッド教官はあっさりとリヴィオを一人目に任命し、続いてアビゲイルに声を掛ける。

「二人目は文句なしにアビゲイル君だ」

 彼女は一年生の中でも一番強いランナーだ。選ばれて当然である。

 しかし、アビゲイルは外を眺めたまま拒否の言葉を発した。

「辞退します」

「とことん反抗的だね、君は……」

「チーム戦は苦手です。それに、急場しのぎの兵装では実力の半分も出せませんので」

「その半分でも十分な戦力になるんだがなあ……」

「私の半分でいいのなら葉瑠に頼めばいいじゃありませんか」

 アルフレッド教官はこちらを見る。しかし、ため息混じりに肩をすくめた。

 ……何だか小馬鹿にされたようで釈然としない。

「仕方がない。では、最後の手段を使うとしよう」

 アルフレッド教官は席を立ち、アビゲイルの背後に立つ。続いて腰を屈めると彼女に耳打ちをした。

 アビゲイルは不快な表情を浮かべたが、アルフレッド教官がごにょごにょと話すうちに真顔になっていく。

 教官が話し終えるとアビゲイルは目を閉じ、浅い溜息をついた。

「……そういうことでしたら協力しましょう」

 アビゲイルは参戦を決め、ソファから立ち上がる。

「では、準備もありますので私は別行動を取らせてもらいます」

「一人で準備できるのか?」

「一人じゃないと準備できません」

 アビゲイルは振り返ることなく応じ、そのままホテルから出て行った。

 結賀は去っていくアビゲイルを指さし、アルフレッド教官に訴える。

「おい、勝手に行かせていいのかよ!?」

「彼女は代替戦争に参戦するランナーだ。私と同じ舞台に立つ彼女がああ言っているのだ。私がとやかく言う資格はない」

 アルフレッド教官はきっぱり答え、マスクに手を当てる。

「……さて、思った以上に早く代理が決まった。リヴィオ君にはこれからチーム会議に同席してもらう。他の訓練生は明日の試合開始時刻まで自由時間だ。ハワイの午後を楽しむといい」

 アルフレッド教官は椅子の合間をゆっくり移動し、リヴィオの正面に立つ。

「それではリヴィオ君、ついてきたまえ」

「あ、はい……」

 リヴィオはワンテンポ遅れて立ち上がり、アルフレッド教官と向き合う。

 アルフレッド教官は手を後ろで組み、エレベーターホールに向かって歩き始めた。どうやらチーム会議はこのホテル内で行われるみたいだ。

 リヴィオもその後を追い、ロビーから姿を消した。

 7名から5名に減り、残る訓練生は葉瑠と結賀、それにクローデルとドナイトとアハトだけとなった。

 アルフレッド教官が去った後、ロビーには微妙な空気が漂っていた。

(自由時間と言われましても……)

 本当はいますぐ詳しい事情について教官に聞きたいのだが、チーム会議があると言ってたしそれは無理そうだ。

 アビゲイルさんなら事情を知っていそうだが、今から追いかけても追いつける気がしない。アドレスも交換していないし、連絡も望めない。

 アルフレッド教官に言われたように自由時間を満喫することにしよう。

(ハワイ……どこに行きましょうか)

 行きたい場所がないわけではない。一応私も普通の高校生だし、人並み程度には観光地に興味がある。

 ただ、女一人で観光に出るのは避けたほうがいいだろう。少なくとも結賀と一緒に……できればこの5人で一緒に行動した方がいい。

 結賀だけでも大丈夫な気はするが、彼女の性格上逆にトラブルを招きかねない。

 それに、今日は代替戦争目的の観戦客で溢れかえっているはずだ。いつ何があるかわかったものではないし、やっぱりみんなで行動した方がいい。

 葉瑠は何気なく男子に目を向ける。

(名前とVFの兵装は知ってますけど、それ以外は全然知らないんですよね……)

 男子3人とは殆ど話したことがない。挨拶を交わす程度で、雑談すらしたことがない。

 無理に仲良くなる必要もないと思っていたが、こういう場面になると最低限の付き合いくらいはしておいたほうが良かったと思えてくる。

(どうしよう……)

 観光は諦めて、今日は部屋でゆっくりするのもいいかもしれない。

 とりあえず今後の方針を決めるべく、葉瑠は結賀に相談を持ちかけることにした。

「結賀、どうする?」

「……くっそー、リヴィオに先越されちまった……」

 結賀は苦虫を噛み潰したような顔でエレベーターを睨んでいた。

 リヴィオが立候補した時に黙っていたので、今回は彼に譲ったのかと思っていたが、単に悩んでいただけらしい。

 その気持は男子たちも同じだったみたいで、結賀と同じく悩ましい表情を浮かべていた。

「リヴィオの奴、マジで行きやがったな……」

「あいつはは上昇志向が強いからな。このチャンスを逃す手はないと思ったんだろう」

「リヴィオくん、活躍できるといいなあ……」

(まだ1ヶ月しか経ってないのに、ずいぶんと仲が良さそうですね……)

 男子同士の友情、いいものだ。

 かく言う私もリヴィオくんのことを少し心配していた。

 アビゲイルさんは何が起きても動じることなく対処できそうだが、リヴィオくんはいい意味でも悪い意味でも直情的なので、簡単に敵の罠に嵌りそうで怖い。

 結局結賀から返事はなく、葉瑠も黙ってしまう。

 5人して黙っていると、静寂を破るように快活な男の声が響いた。

「何だこの暗い雰囲気は? ティーンエージャーが揃いも揃って沈んでんじゃねーぞ」

 かなり近くから発せられた声に驚き、5名は声の主を探すべく顔を上げる。

 5名の視線の先、先程までアルフレッド教官がいたソファーに腰掛けていたのはシンギ教官だった。

 いきなり登場した伝説のランナーに、5名とも言葉を失ってしまう。

「さっきそこでアビゲイルに聞いたんだが、お前ら暇なんだろ? 遊びに行こうぜ」

「……」

 ――伝説のランナーの提案を、一介の訓練生が断れるわけがなかった。

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