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黄昏のヴァイキャリアス  作者: イツロウ
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105/133

 12 -千の槍-


 12 -千の槍-


 軍から出動命令が出てから20分

 エネオラは箱型のVF『キングレイブ』に乗り、2機の戦闘機と共に北東の方角へ飛行していた。

 空は暗い。天井には星が輝き、満月も若干西に傾きかけている。

 夜間飛行は初めてだ。そもそも、こうやって学園敷地内以外の場所を飛行するのも初めてだ。

 が、あまり違和感も感動もない。

 シミュレータでは何度もいろんなシチュエーションで戦闘したし、仮想空間なら宇宙や深海でも戦闘したこともある。

 なんだかんだで最近の映像技術の進化は凄いものだなあと思いつつ、エネオラは視線を空から前方に向ける。

 前を飛んでいるのはロシア軍の戦闘機だ。

 10年前のあの軍事施設襲撃事件から難を逃れた機体であり、当時の最新鋭機だったと聞いている。

 10年以上前の機体だが、流石は戦闘機だ。AGF搭載のキングレイブよりも速度も機動性も上回っている。こちらが重量型のVFという点を考慮しても、戦闘機の機動性には敵わない。

 戦闘になれば簡単に撃ち落とせる自信があるが、追いかけっこだと絶対に負けてしまうだろう。

 下らないことを考えていると、ロジオン教官から通信が入った。

「よう、調子はいいか」

「はい、眠気もないですしカフェインも摂取したので集中力も抜群ですよ」

「お前の調子じゃなくてだな……」

「分かってます。機体に目立ったエラーは出てないですよ」

 夫婦漫才じみたやり取りの後、エネオラは一応ステータスを確認する。

 HMDの画面端、エラーは一つも確認できなかった。

 それにしても、このキングレイブは良くできたVFだと思う。

 私が来た1月前には既に完成状態で、後は細かい部分を微調整するだけだった。

 この機体はロシア政府主導で作ったものではなく、レンタグア社が秘密裏に開発していた機体らしい。

 もっと言うと、開発していたのは重力滑空砲で、機体は後付だ。

 そのせいか、2門巨大な重力滑空砲に挟まれるような外見になっている。

 その重力滑空砲が大きい。砲身は機体の2割を占め、機構や弾倉も含めると機体の7,8割を占めている。

 残りの2割がVF本体で、本体がやることといえば重力滑空砲を運んで撃つくらいなものだ。

 ステータスを確認していると、「ポン」と効果音とともにタイミングよく作戦本部からメッセージが届いた。

 エネオラは気を取り直してメッセージを読む。

 そこには詳しい作戦内容が表示されていた。

(……サハ共和国か……)

 出動命令が下った後、行き先も知らされないまま軍用機の後を追いかけていたが、ここでようやく行き先が分かったというわけである。

 やはり、民間のVF企業であるレンタグア社には事細かい情報は教えてくれないらしい。

 目標も場所と建物の形状が記されているだけで、他の情報に関しては曖昧だった。

 命令内容はもちろん対象施設の破壊だ。

 キングレイブを出したということは、敵側にもAGFが配備されていると予測しているということだ。

 激しい戦闘になるかもしれない。が、エネオラはそこまで気負っていなかった。

「……聞いているのか、エネオラ」

「あ、はいはい。聞いてますよ」

 考え事をしていたせいでロジオン教官の声が耳に届いていなかったようだ。

 そんなことも知らずロジオン教官は話を続ける。

「どうやら諜報部がヤクーツク郊外でAGFの姿を確認したらしい。向こうさんは現在起動シークエンス中だ。上手く行けば動き出す前に敵を叩けるかもしれないぞ」

 どこから情報を仕入れたのか、エネオラは特に疑問を感じることなく会話を続ける。

「AGF……どんな機体ですか?」

「さあ、そこまでは俺もわからん。が、コンテナに収納できるサイズだ。重兵装でもなければ特殊な銃火器も装備していないだろう」

「そーですか……」

 強敵ではなさそうだし、一安心だ。光学センサーが捉える前にこちらの重力滑空砲で破壊できるだろう。

 ロジオンは付け加えるように言う。

「量子コンピュータの搬入を事前に防げなかったのは痛いが、お陰でこの機体の性能を実戦で確かめることができるわけだ」

「ロジオンさん、これに乗って戦うの私なんですけれど……心配してくれないんですか」

「心配はしているぞ。データを取る暇もなく戦闘が終わってしまわないか、とかな」

「もう……」

 ロジオン教官はあまり心配していないらしい。それだけキングレイブの性能に、そして私の操作技術に自信を持っているのだろう。

「今更ですけれど、遠隔操作できないんですか」

 ふと気になった事を告げると、ロジオン教官は悩ましげに返した。

「できていればとっくにそうしている。が、電波を使おうにもハッキングされる危険性が高いし、量子通信を使おうにも、あれは完全にAGFの重量制御に特化していて、送受信装置が作れない。それに、AGFは未だに未知の部位が多すぎる。下手にフレームをいじると重力制御そのものが使えなくなるかもしれない」

「もっとがんばってくださいよ……」

「文句はAGFを発明した鹿住博士に言え。設計だけ残して、理論的なことは全く残さなかったのだからな」

「え? じゃあ今もよく分からないまま重力制御システムを使ってるってことですか」

 驚愕の事実である。

 これだけ多く生産されているのに、その原理が未だに解明されていないのはおかしいのではないだろうか。

 疑問に感じていると、ロジオン教官は急に例え話をし始めた。

「……お前、酒を呑むと酔うのは知っているな?」

「急に何ですか」

「いいから聞け。人が酔うのは胃や腸から吸収されたアルコールが脳細胞を麻痺させるからだ。だが、そんなことを知らずとも酒を飲めば酔うということは誰でも知っている。原因と結果を把握していれば、過程を解明するのは二の次でもいいということだ」

「例えるの下手ですね……と言うか今も飲んでるんですね、お酒」

「……」

 図星らしい。

 ロジオンは何も返答せず、通信機は静かになった。

 その後しばらくすると、軍から新たに通信が入った。

「目的地は近い、武装のチェックを怠るなよ」

「りょーかい……」

 エネオラは軽く返答した。が、心中では少し緊張していた。



 深夜の廃倉庫

 暗闇に支配されていたその場所にもはや静寂はなく、屋内はライトで照らしだされていた。

「急いで荷をまとめろ!! 15分後には敵の空爆が始まる!!」

 兵士は慌ただしく動き、通信機類やその他装備を軍用車に運び込んでいた。

 そんな中、兵士の一人が壮年の男、現場の指揮官と思わしき男に声をかける。

「中尉、我々の準備は完了いたしましたが、榊の彼らは……」

 兵士はそう言って視線をコンテナのある場所へ向ける。

 コンテナ付近では榊のスタッフが機材を片付けるどころかその場に展開しており、何やら準備をしている様子だった。

 中尉と呼ばれた壮年の男は力なく首を横に振る。

「彼らは捨て置け、どうやらVF1機のみで露国の戦闘機を相手にするつもりらしい」

「そんな無謀な……」

「我々の知ったことではない。貴様も、命が惜しければすぐにこの場を離れることだ」

 サハ共和国の兵士たちが逃げる準備をしている頃、葉瑠を含めた榊のスタッフたちはコンテナ内に格納されているAGFの立ち上げ作業に追われていた。

 葉瑠は状況が飲み込めずぽかんとしていたが、兵士たちが逃げようとしているとようやく理解し、愛里に状況の説明を求める。

「ここに敵が来るって……どうして発見されたんですか!?」

 コンテナの前でスタッフに指示を出していた愛里は、一瞬だけ葉瑠に振り向き、端的に原因を告げた。

「私が場所を教えたからよ」

「え!?」

 愛里の想定外過ぎる返答に、葉瑠は若干パニックに陥る。

「ど、どうしてそんなことをしたんですか!?」

「戦うためよ。私が」

 愛里は再びコンテナを見上げる。すると、内部から駆動音がし、コンテナの天井部分を突き破ってVFの右アームが出現した。

 太い右アームはコンテナを紙障子のごとく簡単に破り捨て、仰向け状態から起き上がる。

 現れたのは見覚えのあるVFだった。

 葉瑠はその機体名を呟く。

鬼代一(キヨカズ)……?」

 鬼代一は水陸両用機で、水中戦ではその右に出るものはいない。

 が、言葉の語尾を上げたのは、以前見たものと少し形状が違っていたからだ。

 各部所に取り付けられていた分厚い装甲の影はなく、後頭部や各関節部位に装備されていた加圧タンクのサイズも小さくなっている。

 ボディ中に張り巡らされていたパイプもより細くなり、全体的にスマートになっていた。が、フレームはAGFの他にハイドロリックフレームも組み込んでいるようで、構造自体は複雑になっているようだった。

 貧相に見えなくもないが、重量はそれなりにあるようで、鬼代一に似た機体はコンテナを簡単に踏み潰し、屋外へ出て行ってしまった。

「あれは鬼代一(キヨカズ)の後継機……鬼代継(キヨツグ)よ」

「鬼代継……」

 なるほど、わかりやすいネーミングだ。

(……じゃなくてですね)

 葉瑠は鬼代継で何をするつもりなのか、愛里に問いかけようとする。

 しかし、愛里は機体名を告げた後、その場でジャケットを脱ぎはじめた。

 その動作だけで葉瑠は愛里が何をするつもりなのか、理解してしまった。

「まさか……愛里さんが、戦うつもりですか!?」

「そうよ。だってその為にここまで来たんですもの」

 ジャケットを脱ぐと愛里は白のワイシャツに黒のスラックスという格好になる。

 ポケットから革手袋を取り出すと手際よく装着し、胸ポケットからグラスタイプのHMDを取り出すと片手のスナップでつるを広げ、目元に装着した。

 戦う気満々だ。

 葉瑠は戦闘を回避させるべく、愛里に声をかけ続ける。

「戦うなんて馬鹿げてます。私達も逃げたほうがいいんじゃないですか? だいたい、量子コンピュータはどうするんです? ここから退避させないと……」

「ああ、あれは壊れても別に構わないわ」

「そうですよね、別に壊れても……いいわけないじゃないですか!!」

 軽いノリツッコミの後、葉瑠は鬼代継に歩み寄る愛里の前に立ちはだかり、進路を阻んだ。

 愛里は長いポニーテールを指先で弄り、早口で葉瑠を言い伏せる。

「そもそもな話、私はサハ共和国に量子コンピュータを設置しに来ただけであって、サハ共和国の味方になったつもりはないのよ。だから、ここで何が壊れようと知ったことじゃないの」

「え? でもVFで戦うってことは、サハの味方をすることになるんじゃ……」

「だから、私は戦えればそれでいいの。独立が成功しようが失敗しようがどうでもいい。戦うための口実が手に入ればそれで満足なの。わかるかしら?」

 もう無茶苦茶だ。

 この人の思考回路が理解できない。理解したくもない。

 愛里は葉瑠を押しのけ、鬼代継に乗り込んでいく。

「敵はレンタグア社の最新機……フフ、楽しみ」

 冗談ではない。

 無駄な戦闘は避けるべきだ。

 葉瑠は近くにいたキノエに助けを求める。

「キノエさん、どうにかして下さい。このままだと大変なことになっちゃいます!!」

 キノエは慌てふためく葉瑠の両肩に手を載せ、必死の表情で訴える。

「安心して下さい葉瑠さん、アイリは戦闘狂ですが、仲間の命を守るくらいの矜持は持ち合わせています。私達の命が脅かされることはないですよ」

「私はそういうことを言っているんじゃなくて……はあ……」

 キノエさんと同じく、榊のスタッフは何の疑問も持たずに鬼代継のセットアップ作業に没頭している。

 私の考えのほうが間違っているのだろうか……

 悩んでいると、不意に肩を叩かれた。

 振り返ると宏人さん、その背後に長身の男……ジェイクさんの姿があった。

「やあ葉瑠ちゃん、お互い大変な目にあったね……」

 宏人さんの声に力はなく、いつもの笑顔からも元気が感じられなかった。

 どうやら私たちはどちらとも愛里という人物にしてやられてしまったようだ。

 まさか宏人さんも、敵側に位置情報をバラされるとは思ってもいなかっただろう。

「ですね……」

 ……同情を禁じ得ない葉瑠だった。



 飛行し始めてから30分

 エネオラは深夜の空から地表を眺めていた。

「もう少しで射程距離圏内ですね……」

 市街地にはまだ遠いが、遠方には微かながら街の光を確認できた。手前にはタンカー船も通れるほど太い川が流れており、その水面は街の光を反射して一筋の光の線を形成していた。

 空に目を向ける。

 夜空には月や星が浮かんでいるはずだが、今は全くその姿を拝むことができなかった。

 曇り空だ。濃い雲が空を覆い、地面に闇を落としている。

 暗雲立ち込めるとはこのことを言うのだろう。

 不吉だな、と思いつつエネオラは改めて目標との距離を確認する。

 目標物は30km先にある廃倉庫。

 初速8km/sで射出されるキングレイブの槍ならば1射だけで粉々に破壊できるだろう。

 エネオラは早速重力滑空砲のチャンバーに槍を装填し、狙いを定める作業に入る。

 すると、軍司令部から通信が入った。

「……残念な知らせだ。たった今監視員から敵AGF機の起動を確認したとの連絡が入った。目標を更新し、AGFの破壊を優先してくれ。……君の前を飛んでいる戦闘機が一応は空対地ミサイルを斉射するが、敵AGFによって防がれるだろう。……後はよろしく頼むぞ、エネオラ・L・スミス」

「了解です」

 VFとの戦闘はないだろうと思っていたが、この様子だと作戦は私を主軸に展開されるようだ。

 エネオラは気合を入れ直し、飛行高度を上げる。

 高度を上げれば上げるほど射角が確保できる。撃ち合いにおいては上を取ったほうが圧倒的に有利なのだ。

 後は前を征く戦闘機がミサイルを発射するのを待つのみだ。それを合図にこちらも攻撃を開始しよう。

 そう思った矢先、戦闘機からミサイルが放たれた。

 両翼に取り付けられたミサイルは間髪入れず連続して発射される。

 ミサイルは暗闇に複数のオレンジの線を描きつつ、緩やかな弧を描いて地表目掛けて飛翔していく。

(防がれるって言ってたけれど……命中するんじゃないかな、これ)

 このミサイルも最新の物で、飛翔速度も旋回性能も命中精度も前時代の性能を遥かに上回っている。たとえ相手が重力盾を展開しようとも、上手く迂回すれば背後から目標を破壊することも簡単なはずだ。

 だが、そんなエネオラの予測は発射後5秒にして打ち砕かれることになる。

 順調に飛翔していたミサイルが、唐突に出現した“壁”によって阻まれ、その全てが空中で爆発してしまったのだ。

 爆発の光は壁に反射し、その壁の存在を暗闇から浮かび上がらせる。

(あれは……)

 その壁は川から立ち上るように出現しており、エネオラはそれが水の壁であると瞬時に理解した。

 川の水が重力を無視して天にそびえている。

 ……間違いなく重力制御による現象、敵AGFによる防御に違いなかった。

 水の壁が崩れると、敵機の姿を確認できた。

 敵機は川の上空を浮遊している。目標を発見したエネオラは、記念すべき第一射を射出することにした。

(ミサイルは防げても、重力滑空砲は一味違うわよ、……っと)

 エネオラはトリガーを引く。

 同時に両肩の砲口前方に5重の重力ライフリングが形成され、チャンバー内に装填された槍が超高速で射出される。

 槍の速度は音速を軽く超えている。それどころか重力圏から離脱できるほどの速度だ。

 音もなく射出された槍はジャイロ回転しながら空間を切り裂き、目標へと瞬時に飛来する。

 しかし、瞬時に着弾するはずだったその槍も、目標に到達することはなかった。

「また水ですか……」

 超高速飛翔していた槍は飛行中に巨大な水の塊と衝突し、その場で停止してしまった。

 水は摩擦により瞬時に沸騰、そして蒸発し、霧となって周囲に霧散する。

 運動エネルギーを熱エネルギーに変換し、威力を殺したようだ。これも重力制御が、そして量子コンピュータによる高速演算がなせる技なのだろう。

 エネオラは諦めることなく重力滑空砲を連射する。が、すべてが水の塊に阻まれてしまい、相殺された槍は地面に向けて自由落下していった。

 ……相手はかなりの使い手だ。

 しかも、水をここまで高精度で操るとなると、キングレイブと同様、特殊な機体に違いない。

 そんなエネオラの予想は的中していた。

「ごきげんよう、レンタグアのランナーさん」

 外部スピーカーの音声を捉え、エネオラはその方向にカメラを向ける。

 川の上空、約30mの位置にVFの影を見つけた。

 エネオラは挨拶代わりに槍を射出する。が、それも水の盾によって阻まれてしまった。

 エネオラも外部スピーカーで応じる。

「それ、サハ共和国のAGFじゃないよね。何者?」

「私、榊という会社の代表をやらせてもらっている稲住愛里よ」

「……!!」

 稲住愛里といえばつい最近まで七宮重工の社長だった女だ。新しい事業を始めたとは噂で聞いていたが、まさかサハにいて、しかもVFを操縦しているとは思いもしなかった。

 しかもかなり上手い。機体性能がいいだけかもしれないが、それだけではこちらの重力滑空砲の攻撃を全て予測して防いだことの説明がつかない。

「そういうそちらは声から察するに……エネオラ・L・スミスかしら」

「すごい、よくわかったわね」

 エネオラは素直に感想を述べ、ゆっくりと下降していく。

 すると敵機の姿が顕になってきた。

(あれは鬼代一……?)

 外見は溜緒工房が作った水陸両用VF、鬼代一にそっくりだった。が、微妙にデザインが違う。改造機か、新型機だろう。

 これで、敵機に乗っているのが稲住愛里だという説得力が増した気がする。

 2機は攻撃を仕掛ける事なく至近距離で相対する。

「さて、これから私たちは戦闘をするわけだけれど……なんとまあ不細工な機体ね」

「デザインの良さと性能の良さは必ずしも結びつきませんよ。見たでしょう? こちらの重力滑空砲の威力は」

「それならそちらも見たはずよね。鬼代継の素晴らしい防御性能を」

「……」

 あの機体は鬼代継という名前らしい。

 それはともかく、呑気に会話をしていていいのだろうか。

 エネオラは砲を構え直す。

「投降したらどうです? ただの水遊びでこちらのキングレイブに勝てるとは思えませんが」

「そうね、確かに少しこちらの鬼代継のほうが性能的に劣るかしら」

 敵機は腕を組み、肩をすくめる。

「でも、だからこそ面白いじゃない……フフ」

 ふざけた反応だ。まるで戦闘を楽しんでいるように思える。

 エネオラのその予想は的中していたようで、愛里は予想通りのセリフを吐く。

「さあ、戦闘を続けましょう? ……私を楽しませて頂戴」

 そう告げると、鬼代継は組んでいた腕を解き、手のひらをこちらに向けた。

 手のひらにはジェットノズルがあり、間もなく鋭く細い水流がこちら目掛けて襲いかかってきた。

 マッハで射出されたウォーターカッターは水の帯となり、鞭の如くこちらの軌道を追いかけてくる。

「遅いですよ」

 エネオラはキングレイブを急速後退させてウォーターカッターを避け、お返しに槍を放つ。

 しかし、槍は例によって水の防護壁に阻まれ、鬼代継に届くことはなかった。

(厄介ですね……)

 攻撃はともかく、敵の防御はこちらの最大火力を物ともしない。

 どうしたものか。

(……そうだ、相談しよう)

 無理に悩むことはない。オペレーターに指示を乞えばいいのだ。

 エネオラはチャンネルを変え、通信機に向けて話す。

「あの、どうすればいいです?」

「……敵機を破壊しろ」

「その方法を聞いてるんですけど……」

「……努力しろ」

 自分でなんとかしろ、ということらしい。

 オペレーターでは話にならない。そう判断したエネオラは勝手に個人回線を開き、レンタグア社のロジオンにコールする。

 数コールで回線は繋がり、ロジオン教官の声が聞こえてきた。

「どうした。今は作戦行動中だろ」

「あの、アドバイスを頂きたいと思いまして」

「……言ってみろ」

 流石はロジオン教官だ。学生には優しい。

 遠慮無くエネオラは相談する。

「キングレイブは問題なく作動してます。重力滑空砲も順調なんですけど、どうも水の盾のせいで相手に槍が届かないんです……」

「水の盾……?」

「はい、どうやら重力操作で水を操っているようでして、水に当たったと思ったら威力を削がれて水もその場で蒸発しちゃうんです」

「水とは考えたな……エネルギー量的に200立方メートルもあれば威力を相殺できる。……だがそれは一撃の話だ。連射して押し切ってやれ」

「はい。ですけど……川なんです」

「は?」

「近くに川が流れてるんで、あっちは無限に水を供給できるんです」

「そうか……」

 槍は売るほどあるので持久戦は望むところだが、限りがないわけではない。

 向こうは上流から止めどなく水が流れてくるわけだし、持久戦になると不利になるのは私の方なのだ。

「……待てよ、相手は重力盾と水の壁で威力を相殺しているんだろう? なら、重力干渉エリアまで近づいて撃てばいいんじゃないか?」

「あ……!!」

 今は均衡状態だが、重力盾さえなくなれば押しきれるかもしれない。

 流石は教官だ。ただのオペレーターより余程役に立つ。

「ありがとうございます、ロジオン教官」

 エネオラはそう言って通信を切り、再度鬼代継に集中する。

 接近のチャンスはいつか来る。

 そう思いつつ、エネオラは重力滑空砲での射撃を続けることにした。



 一方、愛里操る鬼代継は何の問題もなく動作していた。

(思った以上に便利ね、この新型機は……)

 AGFにより自機を浮遊させることはもちろん、重力操作で特定の物質を操作することができる。

 現在操作しているのは水だ。その気になればコンクリートやその辺の物体も宙に浮かせることができるが、均一の物体のほうが演算処理をスムーズに行えるらしい。

 水は特に扱いやすい。そして鬼代継にとって水は武器であり動力源だ。

 川の近くにいる限り、鬼代継は無敵であり、それに私の天才的な操作技術が加われば鬼に金棒である。

 敵も中々のやり手だ。

 射撃の狙いも的確だし、既にこちらの水の壁の特性にも気付いている頃だろう。

 だが、気付いた所でどうしようもない。こちらの守りは鉄壁なのだ。

 そんな傲慢なことを思っていると、不意に敵機が射撃を続けながらこちらに接近してきた。

(……?)

 相手はロングレンジに特化したVFだ。近づいてくるメリットは無いはずだ。

 理由は謎だが、接近してくれるのは有難い。こちらの攻撃の機会も増えるというものだ。

 そうやって呑気なことを考えていたのも束の間、急に相手の弾がその威力を増した。

「ッ!?」

 槍状の弾丸は水の壁を撃ち貫き、頭部の真横すれすれを通過し、背後の曇り空へ消えていく。

 この時になってようやく愛里は事の重大さに気がついた。

(重力盾が……!!)

 互いに近づくことにより、重力干渉によって盾を無効化されてしまったのだ。

 水の壁ならば一秒に1発ほどなら延々と防げるのだが、これが2発5発10発となってくると処理能力が追いつかない。

 危険を即座に察知した愛里は、一目散に川に飛び込む。大きな水柱が発生し、機体の形通りに白い泡を発生させた。

 その泡が消えぬうちに槍による容赦無い連射攻撃が再開された。

 先程までの射撃と違い、高サイクルで高速弾が浴びせられる。

 この距離になると重力干渉によって重力盾は打ち消されてしまう。頼りになるのは水の壁だけだ。

「……っ!!」

 愛里は周囲の水を加圧タンク内に溜め込み、手のひらからウォータージェットを放出し、ピンポイントで槍を防御する。

 ……防御で精一杯で攻撃するどころの話ではない。

「ちっ……」

 憎たらしい話だが、ここまで敵の攻撃が正確だと防ぐ方も楽である。

 愛里は川の水で更に厚い壁を作り、敵の高速弾を相殺させる。

 そんなこちらの対応に応じるように、敵機の射撃サイクルもどんどん増していく。

(困ったわね……)

 このままだといずれ上流からの水の供給が追いつかなくなり、つまり水が足りなくなり、防御するものが無くなる。

 距離をとって回避に徹すればなんとかなるかもしれないが、機動性はあちらのほうが上だし、あの高速弾を連続で回避できる自信もない。

 この勝負、策がなければ勝てない。

(……策といえば葉瑠ちゃんね)

 以前、溜緒工房にURが襲撃した際、葉瑠の指示に従い、結賀はVFに握られていた人質を腕ごとワイヤーで切断して救出してみせた。

 あの時の葉瑠の機転がなければ、人質の命は危なかった。

 今回もなにか知恵を借りれるかもしれない。

(川上宏人を釣る餌だけのつもりだったんだけれど、もう少し協力してもらいましょうかしらね……)

 愛里は降り注ぐ槍を防ぎつつ、葉瑠と連絡を取ることにした。

 愛里はまずキノエの無線機に連絡を入れる。

「キノエ、近くに葉瑠ちゃんはいるかしら」

「アイリ、今川の中に落ちるのが見えましたが……」

「心配いらないわ。早く代わって頂戴」

 ガサゴソと音がし、キノエに代わって葉瑠の声が通信機から聞こえてきた。

「何でしょうか、愛里さん」

「実は劣勢なの。いい策があれば教えて頂戴」

「そんな急に言われても……でも、凄い機体ですね、鬼代継。重力操作で他の物体を操作できるとは思ってませんでした」

「重力砲の応用技術よ……それはともかく早く何か閃いて頂戴。こうしている間にも防御のための水がどんどん蒸発してるのよ」

「そうですか……」

 沈黙は3秒ほどで終わり、葉瑠は言葉を再開する。

「……大雑把な作戦になるかもしれませんが、私が今学園で開発してる兵装の基礎理論を応用できればイケると思います」

「よくやったわ。教えて頂戴」

「はい。……でも、約束して下さい。絶対に相手を殺さないってことを……」

 頑固な少女だ。そんなに人が死ぬのが嫌いならしい。

 この場合、相手がエネオラだとわかっている可能性もあるが、どちらにしても私よりも相手の命のほうを大事に思っているのだろう。

 この要求に対し、愛里に拒否権などなかった。

「……わかった。何でも聞くから早く教えて頂戴」

「では教えます……」

 愛里の返答を聞くやいなや、葉瑠は策について説明を開始した。



 一方、キングレイブを操るエネオラは自分の勝利を確信していた。

(まさにゴリ押し戦法ですね……)

 エネオラは重力滑空砲で絶え間なく鬼代継を狙い撃ちにしていた。

 放たれる無数の槍は水の壁に寄って防がれるも、確実に水量を減らしており、このまま行けば全ての水を取り払うことができるのは明白だった。

 残弾数も8割近く残っている。余裕である。

 しかし、相手はあの稲住愛里である。予定通りに行ってくれるわけがなかった。

 水中に身を潜めていた鬼代継が、唐突に水の壁を解除し、浮上してきたのだ。

「……!!」

 エネオラはここぞとばかりに槍の雨を鬼代継に降らせる。しかし、鬼代継は最初の数本の槍を回転運動で回避すると、続いての数本をウォーターカッターで叩き落とす。

 そして流れるような動作で両手を左右に広げ、霧を周囲に拡散させた。

 霧は瞬時に周囲を覆い尽くし、唯でさえ夜で暗い視界を更に悪化させる。

 ……目くらましである。

 防御できないのなら、避けてしまおうという魂胆だろう。

 だが、この程度の霧でキングレイブの槍から逃れることなどできない。

 エネオラは怯むことなく射撃を続け、槍の風圧で霧を強引に晴らせる。

 すると、上空に立ち昇っていく鬼代継の姿を確認できた。

(上に逃げても同じですよ……) 

 霧が晴れると同時に射線を修正し、エネオラは胸部を狙って槍を連射する。

 しかし、距離を取られたことで重力盾が再び機能し、槍は軌道をそらされて虚空の彼方へ飛び去っていった。

 やはり、距離を詰めなければ攻撃が通らない。

 エネオラは鬼代継を追うように上方へ向かって高速飛翔する。

 その間も射撃は続けていたが、動きながらの射撃は精度が著しく落ちる。全て敵を捉えきれず、軌道を追うばかりで夜空へ消えていった。

 鬼代継はどんどん上昇を続け、とうとう雲の中に突入してしまった。

 姿が完全に見えなくなり、エネオラは近くの高層ビルの屋上に降りて一旦動きを止め、射撃を中断する。

(まさか、このまま逃げるつもり……?)

 それは考えにくいことだ。会話から察するに稲住愛里は好戦的な性格。こんな中途半端な状態で勝負を放棄するとは思えない。

 つまり、雲の中に隠れたことにも何らかの理由があると考えたほうがいい。

「入った……方がいいのかな……」

 こちらからわざわざ視界ゼロの雲の中に入るのもどうかと思う。

 罠がある可能性もあるし、至近距離から不意打ちを食らわされたらキングレイブもひとたまりもない。

 となれば取れる選択肢は一つ。

(下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるでしょ……)

 エネオラは雲の中にいるであろう鬼代継の動きを適当に予測し、勘のみで射撃を再開した。

 一秒あたり10発の槍が、超高速で暗雲を貫いていく。

 貫かれた雲には穴が空き、一瞬だけ星が顔を覗かせる。

 ……当たる気配はない。

(出るまで待ったほうがいいか……)

 数秒でエネオラは射撃を止め、警戒を密にする。

 どこから何が飛んで来るか分からない。

 砲口を雲に向けたまま空中に停止していると、雲に動きがあった。

(……回転してる?)

 空に浮かぶ雲がぐるぐると不気味に動き始めたのだ。

 同時に雲の隙間から光が見えた。それは雲中放電であり、雷の予兆であった。

 この現象を見た時、エネオラは特に感想を持たなかった。

 暗闇に浮かぶ放電なんてちょっと神秘的、程度にしか思っていなかった。

 ……数秒後に自分の呑気っぷりを後悔することになろうとは、思ってもいなかった。

「……!?」

 まず見えたのは細長い光の道、いわゆる『先駆放電(ステップトリーダ)』だった。

 先駆放電はエネオラが立つ高層ビル屋上の避雷針と暗雲との間に歪な光の細道を作る。

 これは落雷の予兆である。

 しかし、エネオラにそのような知識はなく、もちろん対処する術など知る由もなかった。

 先駆放電から刹那と間を置かず、雷光が黒い夜空を瞬時に明るく白く染め上げる。

 ……続いて感じたのは衝撃、そして視界いっぱいに広がる白い閃光だった。

「なっ!?」

 閃光の後、間近に雷鳴の音が轟き、コックピット内をビリビリと震わせる。

 HMDにはステータスエラーを示す赤い文字が無数に表示されていた。

 この状況を目の当たりにし、さすがのエネオラもキングレイブに何が起きたのか、瞬時に理解した。

(落雷……!?)

 落雷を受けた。しかも直撃である。

 重力盾は意味を成さず、システムは完全にダウンしてしまった。

 キングレイブは一時的に機能停止状態に陥り、ビル屋上から足を滑らせ自由落下し始める。

 落下の途中、この落雷がどうして起きたのか、エネオラはその犯人の名を呟いていた。

「稲住愛里……」

 鬼代継は水を自在に操っていた。つまり、外部の物体を重力制御できる機能を持っていた。稲住愛里はその機能を使って雲中の水分をかき回して静電気を多量に発生させ、意図的に雷を作り出したというわけだ。

 あの暗雲はもともと多量の静電気を溜め込んでいた。そのきっかけを作るのは簡単だったに違いない。

(やられた……)

 悔しさと後悔の念と同時に疑問が浮かび上がる。

 雲中にいた鬼代継も雷によるダメージを受けているのではないだろうか。

 しかしそのかすかな希望は見事に打ち砕かれた。

「無様ねえ、エネオラ」

 回復したメインカメラ、そこに映っていたのは至近距離で同じように落下飛行している鬼代継だった。

 カメラには鬼代継の頭部パーツ、鬼の形相に似た顔面がドアップで映しだされており、エネオラは背筋に冷たいものを感じた。

「……私の勝ちね」

 鬼代継はこちらの返答を待たずしてウォーターカッターを展開し、重力滑空砲を真っ二つにたたっ斬る。

 砲身と同時に弾倉も破壊され、数千の槍が一気に空中にばらまかれる。

 左右とも重力滑空砲を破壊すると、鬼代継は満を期してこちらのコックピットに指先をあてがった。

 ゴツンという音の後、愛里はゆっくり告げる。

「降参なさい。勝ち目は無いわよ」

 このタイミングでようやくキングレイブのシステムが全て復旧し動けるようになった。

 エネオラは真っ先に至近距離から頭突きをかまし、鬼代継を押しのける。

「真っ先にコックピットを狙わないなんて、優しいんですね」

「私、約束は守る質なの」

 よく分からない返答だが、命を取るつもりはないようだ。

 ……と、こんなことをやっている場合ではない。このままでは地面と激突してぺしゃんこになってしまう。

 エネオラは重力制御を行い、地面に追突する寸前で宙に浮く。

 破壊された重力滑空砲のみが地面と激突し、大半が砕け散り、槍の多くは川に水没していった。

 ……先ほどの鬼代継の雷落としの影響か、雨が降り始める。

 水を操る鬼代継には絶好のバトルフィールドだ。攻撃手段を失った私には勝ち目は無いだろう。

「……で、どうするの」

「仕方ないよね……」

 勝ち目のない勝負をしても仕方がない。

 エネオラは愛里の提案を……降参という選択肢を選ぶことにした。



「呆気無いものでしたね」

「そうですね……」

 廃倉庫内部、天井にぶつかる雨音をBGMに、葉瑠とキノエは量子コンピュータの設置作業を眺めていた。

 愛里さんが敵機を撃破した後、敵機は一切の攻撃を中断しこちらから離れるように退避していった。

 殺さない、という私との約束を守ってくれたようだ。

「それにしても雷を落とすとは……いいアドバイスだったね」

 関心した様子で呟いたのは宏人さんだった。

 葉瑠は宏人に近寄り、自慢気に頷く

「はい、水を重力制御で動かしていたので、雲の微小水滴も操れると思いまして……予想通りでした」

「戦闘は不本意だったけれど、こちらの量子コンピュータを守れて幸いだったよ」

 宏人は葉瑠の頭を撫で、周囲を見渡す。

「ところで、あのバトルマニアの社長さんはどこに?」

「まだ鬼代継に乗って周囲を警戒してるみたいです。報告の感じだと、敵の援軍が来るのを望んでいたようですけれど……」

「あの戦闘を見て援軍を送るとは思えないけれど……まだ戦い足りないのだろうね、彼女は」

 宏人さんの言う通り、先ほどの戦闘は激しかったが、時間は短かった。

 愛里さんは戦うためにここまで来たと言っていたし、まだまだ強敵をお望みなのだろう。

 だが、あのクラスのAGFがそう何機も襲来してくるとは思えなかった。

「さて、これで不本意ながら露国もそう安々とこちら側に手出しができなくなった。そして、AGFを脅威として認識せざるを得なくなった。……この戦闘で露国は条件付きでサハ共和国の独立を認めるだろうね」

 葉瑠は宏人の意見に同意する。

「ですね。今回の戦闘を実質行ったのは榊であって、サハ共和国じゃない。次に攻撃を受けたら対処できるかどうかも怪しい。……多少条件がきつくても、独立という名目が得られるならサハ側も飛びつくと思います」

「その通り。この調子で他の共和国にも量子コンピュータを設置していけば、たくさんの国が主権を取り戻せるだろうさ」

 途方も無い話だ。が、榊の協力があれば今回の例のように上手くいくだろう。

 実際、鬼代継に乗った愛里さんは強い。レンタグアの新型機に勝てるなら、どこに行っても通用するだろう。

「葉瑠さん。的確なアドバイスをありがとうございました」

 宏人さんと話していると、隣にいたキノエさんが改めて話しかけてきた。

「いえ、私もあそこまで上手くいくとは思っていなかったし、それにレンタグアのランナーさんの命も助けられて良かったです」

「そうですか……できることならこれからも榊の手助けをお願いしたいのですが……」

「……それは無理だと思うよ」

 キノエの誘いを断ったのは宏人だった。

「葉瑠ちゃんはまだ学生だ。それに、こんな危険な仕事に同行させるのは認められないよ」

「それを宏人さんが言いますか……」

 インドの時は強引に誘ってきておいて、今更その言い分は説得力に欠ける。

 が、愛里さんと行動をともにすると必ず戦闘に巻き込まれそうだし、榊での仕事は今回だけで御免被りたかった。

 キノエはしつこく告げる。

「私は葉瑠さんに聞いているのですが、どうでしょうか」

「遠慮します……」

 葉瑠は即答した。

 食い下がると思いきや、キノエはあっさりと葉瑠の言い分を認めた。

「……今回はそういうことにしておきます。では、こちらへどうぞ」

 キノエはそう言いながら葉瑠の肩を軽く抱き、廃倉庫の出口へ向かう。

「ちょっと待った、どこに連れて行くつもりだい」

 宏人はキノエに問いかける。

 その返答に、キノエは出口に停めてあったバイクを指差した。

「近場の飛行場までお送りするだけです。人間一人だけならば民間機で送ることが可能ですから」

 葉瑠を一刻も早くこの場から逃したい気持ちは宏人も同じであり、キノエの判断に反対することはなかった。

「……分かった」

 宏人の返答を聞くと、キノエは葉瑠を連れてバイクに跨る。

「では、2時間もすれば戻ってきますので」

 キノエからヘルメットを手渡されつつ、葉瑠も宏人に別れを告げる。

「宏人さん、また今度……」

 その言葉の後、葉瑠は後部座席によいしょと跨がり、雨の中を廃倉庫から走り去っていった。

「榊か……厄介なパートナーを作ってしまったね……」

 宏人は外に出、空中を旋回している鬼代継をじっと見つめていた。

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