10 -思惑-
10 -思惑-
「――調子はどうだエネオラ」
「どうだと言われましても、こっちに来てからずっと機体テストですよ。いつになったらレンタグアの敷地から出られるんですか、ロジオンさん」
ロシア国内、VF開発企業『レンタグア』社のラボラトリー内。
ラボの中央には巨大な人型機械、VFが鎮座している。
その足元にて、エネオラはアメジスト色の髪を弄りながら、酒瓶片手に立っているロジオンと会話をしていた。
「このままこんな場所に缶詰じゃあ体調も崩しちゃいますよ。ちょっとくらい外出できないんですか?」
エネオラは機体のテストを終えたばかりで、薄手のシャツは少し汗で濡れている。
ロジオンは機体を弄っていたのか、作業服は汚れ、酒瓶にも油汚れがついていた。
「外出は許可されてない。……そもそもお前の調子じゃなく、機体の調子を聞いたんだが……」
「……」
エネオラは機体の脚を軽くノックし、率直な意見を述べる。
「この機体、ぶっちゃけただの“空飛ぶ箱”ですよね」
そう言ってエネオラは改めて機体を見上げる。
この機体はレンタグア社が総力を上げて制作している、AGF搭載型の新型VFだ。
だが、新型という割には外見は素朴……と言うか、シンプルだった。
「一応人の形はしてますけど、巨大な箱に手と足と頭が生えてる感じですよね。……そりゃあ、重力制御のお陰で機動性は申し分ないですけれど、もっと空力とか考えたデザインにできなかったんですか」
ロジオンは酒瓶を咥えるとぐいっと傾け、応じる。
「進行方向に力場を作って上手く空気抵抗を減らしているから問題ない。一応は人型だし、とりあえず歩行もできるし、デザインは申し分ないだろ。……お前の意見もごもっともだが、俺に言わせてみれば、“箱”に手足が生えてるんじゃなくて、“重力滑空砲”に大容量の弾倉と頭と手と足がくっついているようなもんだ」
実際、新型VFのデザインは酷かった。
機体は極めて立方体に近い形状をしており、ずんぐりむっくりのその両肩には二門の重力滑空砲が固定されている。砲身は前にはあまり飛び出しておらず、むしろ背後に長く伸び、羽のようになっていた。
その砲身にぶら下がるように射出機構と弾倉が配置され、ユニット化された弾倉は背部を覆い尽くすほど大量に装備されていた。
ベルトによって接続された弾倉は腰部どころか脚部にまで取り付けられ、その結果として箱のような形状になっているというわけである。
兵装は肩の2門のみであり、そのためだけに設計されたVFと言われても過言ではない。
「まあ、一目見てレンタグア社のVFって分かるデザインですよね」
「その言い方、まるでレンタグアの作るVFが常に奇抜なデザインであるかのような言い方だな」
「そうですよね?」
「まあ、そうなんだが……」
ロジオンは意見を認めた上で質問を変える。
「で、重力滑空砲はどうだ? 使い勝手はいいか」
エネオラは黒塗りの砲身を見上げる。
「いいですよ。あれほど暴力的な兵器もなかなかありませんよね」
「言うほど暴力的か?」
ロジオンのとぼけたセリフに、エネオラは強く言い返す。
「あのですねロジオンさん、毎分300サイクルで10kgのスパイクを……と言うか槍を超高速で撃ち出す兵器のどこが暴力的でないと?」
「核と比べりゃ優しいもんだろ」
「比較対象がおかしいですよ……」
弾倉が巨大化した原因は、重力滑空砲から打ち出される弾……いや、槍にある。
鋭敏な槍は強力な斥力によって初速8km/sで撃ち出され、その破壊力はURが使っていた重力砲を遥かに凌駕する。おまけにそれが毎秒5発、2門で10発も着弾するとなれば、重力盾もその意味を成さない。
威力だけではない。射出後は五重の重力ライフリングによって軌道を細かく調整されるため、内部誘導装置がなくても高い命中率を誇る。
2門もそんな滑空砲を装備した新型VFは、まさに、最強の砲台と呼ぶに相応しい機体といえよう。
しかし、弱点がないこともない。
「それはともかく、全く格闘戦を想定してませんよね、この機体」
「いや、一応手も足もあるからパンチやキックはできるぞ」
「体当りしたほうがよっぽど有効的ですよ……」
弱点は機体重量とミドルレンジからクロスレンジにかけての近接戦闘だ。移動しながらの射撃は精度が落ちてしまい、高速起動型の敵に近付かれてしまうと対処に難しい。
だが、この2門の重力滑空砲さえあればアウトレンジから敵を破壊することができるので問題無いだろう。
ロジオンは酒瓶を再び傾け、エネオラに指示を出す。
「……さて、今日はあと2回ほど乗ってもらうぞ」
「まだやるんですか? これ、もう実戦で使っても問題ないと思いますけれど」
「そう焦るな。軍が言うにはこれは対AGF用の機体だ。敵がAGFを出してこないかぎり出番はない。つまり、じっくり丁寧に調整ができるってわけだ」
「敵、ですか……」
エネオラは話題を機体から国内情勢に切り替える。
「4国が独立を宣言してから1ヶ月……一体どうなるんでしょうね」
「国は向こうの軍事基地に空爆を仕掛けてるらしいが……あまり効果は出てないらしいな」
「昔と違って対空防御システムが安価で設置できるようになりましたからね」
「ぶっちゃけ爆弾落とすだけ金の無駄遣いだよなあ」
両名とも情勢にあまり興味はなかった。関心があるのは、これからこの機体が出動するか否か、それだけだった。
エネオラは若干投げやりに今後を予測する。
「正直、独立は止められないと思います。インドもクーデターを成功させましたし、アンカラードの影響力もかなりのものです。そもそも、共和国を強引に統治下に置いたこっちに落ち度がありますからねえ……」
「お前、思っていても口に出すなよ……」
こんな愚痴をこぼしていたと知られてたら罰を受ける可能性もある。
ロジオンは声を潜めて周囲を見渡す。
周囲には他にも研究員が数名いて、小型端末片手に新型機のコンディションを確かめていた。
エネオラは特に気にすることなく言葉を続ける。
「うまく話がまとまってくれればいいですけどね……」
「ま、そうだな……」
戦いがないことに越したことはない。が、暇すぎるのもつまらない。
無人の基地を砲撃するくらいのミッションなら喜んで請けるのだが……それも有り得そうになさそうだ。
「どちらにせよ、ここに来た以上はランナーとしての仕事はきっちりと果たすつもりです」
エネオラの言葉に、ロジオンは気を取り直す。
「当たり前だ。……っと、無駄話してないでさっさと『キングレイブ』に乗れ、テスト再開するぞ」
「はーい」
エネオラはロジオンの指示に従い新型機……『キングレイブ』に乗り込むことにした。
一方その頃、サハ共和国内郊外のとある廃倉庫
陽の光も差さない暗い倉庫内には宏人とジェイクの姿があった。
宏人は白のシャツに白のチノパンという出で立ちで丁度いい瓦礫に腰掛け、ロングコートに身を包んだ長身のジェイクは入り口に体を向けて鋭い眼光を放っていた。
入り口には自動小銃を持った兵士が2名待機しており、宏人とジェイクをじっと監視していた。
「ジェイク、そんなに緊張することはないよ。時間までゆっくりしようじゃないか」
「緊張はしていません。警戒をしているんです。サハ共和国の連中も信用できません。今はまだいいですが、いつ襲われるか分かったものではないですよ」
ジェイクの言葉に、宏人は軽く応じる。
「一応僕らは彼らに協力を持ちかけている立場なんだ。なのに警戒していたら向こうも同じように僕らを警戒してしまうよ」
「……そうでしょうか」
「そうそう。リラックスだよ」
宏人の指示には逆らえないのか、ジェイクは入り口から目をそらして壁に背を預けた。
「……しかし、なかなか上手く行かないものだね」
宏人は少し前かがみになり、指先で遊び始める。
「4国で一斉に独立を宣言すればすぐに折れてくれるかと思っていたけれど、交渉の場すら用意してくれないとは……」
「こちらから会談を要求しても、返答代わりに空爆ですからね」
「対空防御システムがあるからいいものの、世が世なら大量殺人だよ」
露国の態度は強固だった。
独立は認められない、の一点張りだ。
今もこちら側の軍事施設に空爆を仕掛け、容赦無い姿勢を貫いている。
こうやって相手が四方八方に攻撃を仕掛けられるのも、国内にAGFという絶対的な戦力を有しているからなのだろう。
こちらが攻めても、向こうは対処できる手段を持っているということだ。
むしろ、こちらが攻めてくることを望んでいるかもしれない。こちらが攻撃すればあちらは大義名分を得、その時こそAGFを投入して本格的に軍事施設を潰しにかかるだろう。
と言うか、いつそのような状況になってもおかしくない。
しかし、こちらも対抗手段を持っていないわけではなかった。
「……もうすぐこの硬直状態ともおさらばだよ」
「例の量子コンピュータですね」
ジェイクの解答に宏人は「その通り」と指を鳴らし、更に続ける。
「あれさえ設置できればAGFを使えるようになる。他の共和国と手を組んで露国のVF部隊に対抗できれば独立も直ぐ目の前だよ」
「いくら4国で手を組んでも、露国を制圧するとなると難しいかと思うのですが……」
ジェイクの的はずれな言葉に、宏人は指をふる。
「いや、保持しているだけで十分なんだ。AGFの保有は一昔前の核保有みたいなものだからね。こちらの発言の重みも違ってくるというものだよ」
「独立を認めなければAGFで攻撃する、ということですね」
「そこまではっきりとは言わないけれどね」
「しかし、それだけで相手は交渉に乗ってくるでしょうか……」
「交渉せざるを得なくなるよ。……戦力的には露国のほうが圧倒的に上だよ。でも、戦闘が起これば向こうも無傷じゃいられない。戦闘による金的損失とこちら側が独立することで生じるデメリットを天秤にかけ、後者のほうが軽くて済むと判断すれば独立を認めてもらえる。それだけの話だよ」
AGF同士の戦闘は性能差や国力差ではなくランナーの技量差に大きく依存する。
小国が大国を負かすことも可能だ。実際、代替戦争が行われていた時はそんなことはしょっちゅうあった。
代替戦争のシステムが崩壊した今はあながちそうとも言えないが、優秀なランナーを有する側が圧倒的に有利なのは間違いない。
エネオラが出てくるとなると荷が重いが、その時は僕が出れば何とかなるだろう。
そもそも、AGF同士の戦闘が現実に起こるかどうかも怪しかった。
宏人の話を聞き、ジェイクは呟く。
「脅迫に近いですね」
「まさしく脅迫だよ。今まで何だと思ってたんだい?」
戦争においては脅迫も大切な手段だ。
上手くいけば相手もこちらも最小限の被害で事を済ませられる。
ジェイクは一呼吸置き、話題を戻す。
「ところで、量子コンピュータの設置の件なのですが……外部の人間に任せて大丈夫でしょうか」
「大丈夫……というか、そもそも僕らは今まで量子コンピュータを散々利用してきたけれど、設置したことはなかったからね。……餅は餅屋、専門業者に頼むことにしたんだ」
「専門業者……?」
「『榊』という日本の会社なんだけれど、量子コンピュータの設置、運営、管理、警護まで一手に引き受けてくれるらしいんだ」
「怪しくないですか」
「きちんとした会社だよ。なにせ、あの稲住愛里が立ち上げた会社だからね」
「……!!」
稲住愛里の名前が出ると、ジェイクは一瞬ではあるが驚きの表情を浮かべた。
「社長の任を解かれたとは聞いていましたが、そんなことをしていたとは……」
溜緒工房襲撃の際、ジェイクは彼女に煮え湯を飲まされている。忘れたくても忘れられない相手なのだろう。
宏人は瓦礫から立ち上がり、チノパンについた埃を払う。
「さて、あと少しで榊の建設チームが到着する。後のことは頼むよ、ジェイク」
「任せておいて下さい」
ジェイクは短く返事し、再度視線を入り口に付近に向けた。
(うう……おしりが痛いです……)
海上都市を離れてから1週間。
葉瑠は露国東部、サハ共和国の中心部に向けて車で移動してた。
葉瑠は愛里とともにまず神戸まで空路で移動し、そこで榊のスタッフと合流した。
その後機材を船に積み込んで2日掛けてウラジオストクに到着し、そこからコンテナをトレーラに載せて5日間、陸路を移動していた。
コンテナを載せているトレーラーの数は3台。
隊列には榊のスタッフが6名ほど同乗しており、葉瑠や愛里と行動を共にしていた。
5日も一緒にいるとそれなりに仲良くなるもので、葉瑠はスタッフとカードゲームするくらいには仲良くなっていた。
車内は温かいし、食事も保存食だが普通に美味しいし、夜にはモーテルに宿泊するので睡眠も十分に取れている。
が、問題は……トレーラーのシートが固いことだ。
数分おきに腰の位置を変えたり足を組んだりしているが、どうにも固くていけない。
こんなに固いことを知っていれば座布団の一枚や二枚持ってきたのだが……それももう後の祭りだ。
なぜなら、この旅も今晩で終りを迎えるからだ。
……夕刻のガスステーション
簡素な夕食を終え、葉瑠はガスステーション向かい側の歩道から夕日を眺めていた。
夕日の手前には白化粧した山々が、そして更に手前には広大な自然が広がっている。
初めてこの光景を見た時は鳥肌モノだったが、5回目となるとその感動も半減だ。
「……っくし」
痛むおしりを擦りながら夕日を眺めていると、不意にくしゃみが出てしまった。
外は寒いが、トラック内は空気が淀んでいる。多少寒くても新鮮な空気を吸えるほうが精神衛生的に楽なのだ。
鼻を啜りつつ、葉瑠は視線を道路の行く先に向ける。
(今晩には到着ですか……)
長かった旅も今日で終わりだ。
これからどうやって紛争解決に尽力すればいいか分からないが、自分なりに努力はしてみるつもりだ。
それに、サハ共和国にいれば宏人さんと会える可能性も少なからずある。
宏人さんにエネオラ先輩のことを教えれば、この前のインドのように武力衝突で解決するような方法を取らずに、別の方法を取ってくれるかもしれない。
宏人さんが現地でどれだけの影響力を有しているかは不明だが、アンカラードのリーダーである以上、戦闘を止めることはそれほど難しいことではないはずだ。
一人寒空の下で黄昏れていると、背後から愛里が現れた。
「長かったわね」
「はい。長かったですね……」
葉瑠は夕日から視線をそらし、愛里に向ける。
愛里は両手にホットココアを持っていた。
差し出された片方を「どうもです」と言って受け取り、葉瑠は早速唇を金属コップの縁につける。
程よい暖かさだ。
湯気で眼鏡が曇ることも気にしないで、葉瑠はココアを胃に流し込んだ。
食道を伝う暖かさを感じていると、愛里は申し訳無さそうに話し始めた。
「こんなに長旅になるとは思わなかったわ。……本当は空路を使いたかったんだけれど、監視されてるでしょうから陸路を使うしかなかったのよ……」
「平気です。出発する前から分かってましたから……」
空なんて飛んでいたら撃ち落とされたかもしれない。
地道に陸路を移動して正解なのだ。
……ちなみに海路は論外だ。
サハ共和国は海に面しているが、北側、東シベリア海にしか面していない。海から行くとなると陸路の数倍時間がかかってしまうのだ。
愛里はココアには口を付けず、夕日を見ながら話し続ける。
「時間を無駄にロスしたし、陸運局への賄賂も高く付いたわね……」
「賄賂?」
「こんな緊張状態にあるのにサハ共和国に向かう、しかも怪しいコンテナを積んだトレーラー隊を見逃してもらえるわけがないでしょう?」
「そう……なんですか」
「まあ、貴女は知らなくてもいいことよ」
流石は七宮重工の元社長さんだ。交渉事には慣れているらしい。
「そういえば、まだ詳しくは聞いてなかったんですけれど、向こうについたら私はどうすれば……?」
葉瑠は何気なく質問する。しかし、愛里から返ってきたのは曖昧な答えだった。
「細かいことは気にしなくていいわ。とりあえずいつでもVFに乗れるよう、心構えだけしっかりしていて頂戴」
「……はい」
この1週間、私は全く仕事という仕事をしていない。ただみんなに付いて行っているだけだ。暇なのは楽でいいが、仕事が無いのも結構辛いものだ。
二人でぼんやり立っていると、道路の遠くから甲高いエンジン音が聞こえてきた。
気になった葉瑠は音の方向に目を向ける。少し離れた場所、スポーツバイクがこちらに向かって走ってきていた。
ほとんど車が通らないこの道路で、バイクが通るなんて珍しい。
近づくに連れて音も大きくなり、ライダーの容姿もはっきりと分かるようになってきた。
黒いバイクに乗っているのは、同じく黒のライダースーツに身を包んだ……女性だった。
フルフェイスのヘルメットのせいで顔は分からないが、体のラインから女性だとはっきりわかった。
バイクは通り過ぎるかと思いきや、近づくに連れてどんどん速度を落としていき、とうとう葉瑠と愛里の目前で停車した。
ライダースーツの女性はエンジンを切るとバイクから降り、歩み寄ってくる。
何の用だろうか……
葉瑠は身構えていたが、愛里はフレンドリーに彼女に話しかけた。
「遅かったじゃない、キノエ」
「すみません、手間取りました」
二人は知り合いだったらしい。
キノエと呼ばれた女性は答えると同時にヘルメットを外す。すると、紅蓮に染まった長髪がブワッと広がった。かなりの癖毛だ。毛先は刺々しく、触るとチクチクしそうだ。
髪に続いて彼女の顔も確認できた。
細長い切れ目にはダークレッドの瞳が収まっており、表情は固く、冷たい印象を受けた。
愛里は自分のココアを彼女に手渡し、質問する。
「どう? 目標はいた?」
キノエはヘルメットをバイクシートに丁寧に置き、ココアを両手で受け取る。
「はい、合流地点で姿を確認できました」
ココアには口を付けず、キノエは報告を続ける。
「直属の警護を一名付け、共和国の顧客と共に行動しています。武装した兵隊も20名ほど配置されていました」
「アドバイザー気取りかしら、気に入らないわね」
会話を進める二人に、葉瑠は思わず口を挟む。
「愛里さん」
「何?」
「あの、この方は……」
紹介を促すと、愛里は快く彼女について教えてくれた。
「キノエ・カディスよ。私の……そうね、腹心の部下と言ったところかしら」
キノエは葉瑠に一礼する。
「キノエです」
「あ、私は葉瑠です」
葉瑠も礼を返す。
頭をあげるとキノエはいつの間にか葉瑠の正面に立っていた。
「あなたのことはよく知っています。……アイリに気に入られるなんて、あなたも不運ですね」
「聞こえてるわよ」
「分かっています。それに間違っていないと思いますが」
「……まあいいわ。話を戻すわよ」
愛里は不服そうな表情を浮かべながらも今後の予定をキノエに告げる。
「到着後はコンテナをダミーのコンテナと入れ替えてトレーラーを別の場所に向かわせるわ。いわゆる囮ね」
「慎重ですね」
「場所を知られないのが一番の防衛策。情報は命より重いのよ」
ごもっともな意見だ。監視されているとは思えないが、万全を期して望むのは悪いことではない。
「量子コンピュータの設置は到着後すぐに行う予定だから、そのつもりで動いて頂戴」
「わかりました」
話が終わるとガスステーションからトレーラーのクラクションが鳴った。
どうやら休憩はもう終わりらしい。
「さ、行きましょうか」
愛里は葉瑠とともにガスステーションへ戻っていく。
キノエはヘルメットをかぶり直し、再びバイクに跨る。
「では、私は先行して監視していますので」
「気をつけないさい」
「10年前に比べたら、この程度のことは朝飯前です」
愛里の忠告を軽く受け流し、キノエはバイクに乗って先へ行ってしまった。
遠ざかるエンジン音を耳にしつつ、葉瑠もトレーラーへ急ぐことにした。




