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銭湯  作者: 聖魔光闇
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其の五

 家の風呂が壊れて修理もしないまま五日が経った。五日前から通っている不思議な銭湯。風呂の修理はまだ頼んでいないので、今日も同じように行くことにした。どうせ、家から歩いて五分程だし。料金は徐々に安くなるし。


 利用料大人(中学生以上)四百円。小人(未修園児を除く)百七十円。バスタオル・洗面器・入浴用玩具・石鹸・ボディソープ・シャンプー・リンス・コンディショナー・洗顔石鹸・フェイスソープ・脱色剤・脱毛剤・育毛剤・洗体タオル・頭髪用ブラシ・ドライヤー・くし・飲食物等の持ち込み禁止。オムツ等のポイ捨て禁止。


『今日は安くなってないじゃん。てか、子供、元値に戻ってんじゃん!? レインコートマン寂しくなったのかな? というよりも、オムツ等のポイ捨てって、そりゃあ親のマナーの問題でしょ……』等と思いつつ中へと入る。


 身体に入れ墨のある方・頭髪を過剰に染めている方・浴槽内で排泄される方・くしゃみで壺の中に出入りできる方・真っ黒の全身タイツで異常に強くなれる方・背広姿でご来店のお客様には、当店のご利用を御控えさせていただく場合がございます。


『さてと、だ。ここは日課として行っておかないといけので、ここまでのことを適当に整理しておく。もうマトモじゃないのは、十分承知している。でも、注意書きに不備がある。大体、【くしゃみで壺の中に出入りできる方】って何だ? 昔のアニメにそんなのがあった気がするな……。【真っ黒の全身タイツで異常に強くなれる方】? それも漫画か何かでしょ? レインコートマンはオタクなのか? てか、スーツが背広になってんぞ! 何か苦情でもくらいやがったのか? と、とにかく、既に普通ではないこの銭湯、やはり見た目で判断出来ないってことだな……』


 入口の自動ドアを開くと、目の前にもう一枚の自動ドアがある。


《ドアを開く前に、右横にあるボタンを押してください》


 ここはいつもと同じように書かれた文章通りにボタンを押す。降ってきたのはやはり白色の霧だった。


『?』


 寒くもなければ何も変わった気がしない。拍子抜けした僕は、そのまま次の自動ドアを開く。


《只今のは、ただの水蒸気でございます》


『? 水蒸気? ネタ切れか?』


 前を見ると、また自動ドアがあり、《そうして、お風呂が楽しくなってきたのではありませんか?》と書かれてある。


『どうして聞く! しかも、今日はえらくネガティブだな……。《そうして》の意味、ここまでじゃわかんないだろうし……』


 呆れたまま僕は目の前の真っ白な自動ドアを開けた。


『…………』


 絶句。今日もやはり絶句。それ以上も以下もない。しばらく、開いたドアの前で開いた口が閉まらない。


 目の前で何故かレインボー色のレインコートに身を包んだレインコートマンが、カラフルなフードの中で、汗をダラダラと流しながら爆笑していたのだ。しかも、お湯をかける子供はやりたい放題。


「いらっしゃいませ。五日連続で利用していただくお客様は、あなた様で二千と五十六人目です」


『減ったな。すごい減った。四日と五日の間に何があった……? て、考えるだけ無駄か……。て言うよりも、その数本当だろうな!? 適当な数、言われてる気がしてなんねぇ。昨日言われた人数を覚えている僕もどうだとは思うけど、あまりにも微妙過ぎないか? やっぱり、最後の一桁半端だし……』


 突然の出来事に不意を付かれた僕は、微動だにできなかった。


「当施設の説明、しなくちゃいけませんか?」


『どうして聞いた? と言うよりも、今の発言は職務放棄じゃないのか!?』


 困惑した僕の表情を他所に、レインコートマンは「面倒臭っ」と吐き捨てると僕を脱衣所に案内していく。


『やっぱり職務放棄じゃねぇか!』


「当施設のもう一つの別料金SYSTEMの説明はもう不要でゴザイマス。では、金を出せばいいのでゴザイマス。そうしてお風呂が楽しくなるのでゴザイマス」


 そう言い残すとレインコートマンは、両手の親指と小指を立てて頭の上に乗せ、変なポーズで去っていった。


『ちょい待てコラァ!! 「金を出せばいい」とはどういう了見だ!? てか、今日はアイツやる気ないのか? それにしてもあのポーズ、やっぱり腹立つ』


 と、気を取り直して、自動販売機を眺めてみる。石鹸・ボディソープ・フェイスソープ・シャンプー・コンデショナー・育毛剤・脱毛剤・洗身グッズ・フェイスタオル・バスタオル等、他にも浴用玩具や見たこともないアイテムまでが昨日と変わらず販売されている。


 今日は「金を出せ」と二日も連続で言われたので、買わないでおいてやろうかとも思ったが、洗身グッズの中に《毛根ブラシ》なる物を発見し購入してみることにした。値段はたったの百五十円。『何が洗髪ブラシと変わらないのだろう』と気にはなったのだが。


《商品名【毛根ブラシ】:効能【毛根に潜む皮脂をねこそぎ洗い落とします】注意点【擦り過ぎにご注意ください】》


 この説明書き通りに解釈するならば、僕がこのブラシを使うことにより、僕は昨日と違う方法で頭がビカピカになれるということになる。


『頭がピカピカ? まさか禿げたりしないよな……?』


 しかし、買ってしまった物は仕方ない。返品が可能かどうか聞くのも嫌だったったので、とりあえず使ってみることにした。


 浴室に出ると、人気を気にせずバスチェアーに座る。備え付けのシャンプーを手に取り少し泡立ててから頭を洗う。そこで《毛根ブラシ》に登場してもらった。


『ヤバ! これ派手に気持ちいい! これはキレイになる気がするぞ!』


 ゴシゴシと頭を洗っていると、突然腕を掴まれた。


「何するんだよ!」


 思わず声をあげて振り返ると、昨日のオッサンが、僕の腕を掴んでいる。


「禿げるぞ。それを使って、永久脱毛状態になった奴を今まで何人見てきたことか……」


 オッサンが遠い目をしながら話すのを見て、僕はあの注意書きを思い出した。


【擦り過ぎにご注意ください】


「あ、ありがとうございます。昨日といい今日といい」


「いやいや、別にいいんだよ。《毛根ブラシ》別名《全身脱毛ブラシ》、これを初めて使う人は、みんな兄ちゃんみたいになるからね。いやぁ、それにしても見事にゴシゴシ擦ってたよ」


 そう言って笑うオッサンを見ながら『やはり禿げるのか……』と納得はしたが、『じゃあきちんと、擦り過ぎると禿げますって書けよ!』と腹がたった。


 でも流石に脱毛ブラシ。頭皮が少しヒリヒリしたが、髪が完全にパサパサになっていた。


『ちゃんとリンスしないとヤバイな……』


 リンスしたまま体を洗って、全て洗い流してから昨日と同じく、見知らぬオッサンと湯舟の中で世間話を少しして、僕は風呂から出ることにした。


 服を着て入口で嫌がらせかのように千円札を一枚取り出す。


「お客様。昨日も言ったのでゴザイマスが、当施設は湿度が多いのでゴザイマス。ですから、紙幣でのお支払いは避けてほしいのでゴザイマス。Do you know? また本日お買い求めになられた品物も、持ち出しは禁止でゴザイマスので、Cardを出せと言っているのでゴザイマス」


『やっぱり出せって言いやがるか!? てか、今日英語付きか? だからカードが流暢なのか?』


 腹がたったが、言われた通りに《お風呂で楽園》のカードを取り出すとレインコートマンに手渡した。


「暗証番号を確認するのでゴザイマス」


「19760824」


「名前を確認するのでゴザイマス」


「馬場 坂」


「はい、確かに《毛根ブラシ》お預かりしたのでゴザイマス。本日もご利用ありがとうゴザイマシタ」


 差し出されたカードを受け取り、自動ドアを通り過ぎてから、ふと後ろを振り向くと、《そうして、お風呂が楽しくなってきたのではありませんか?》と書かれてある。『誰に聞いているんだ?』とやはり思ったが、《そうして》の意味はわかるような気がした。


『て言うか、いつ書き換えたんだよ!!』


 外に出ると、今日は見事な満月だった。僕はホカホカの体で家へと向かうのであった。少し頭がヒリヒリするのだが……。









ネタ。リクエストやめます。何だか上から目線みたいなので……。リクエストではなくて、こんなのどう? てのがあれば、言っていただけるとありがたく思います。

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