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銭湯  作者: 聖魔光闇
2/16

其の二

 次の日、やはり家の風呂が壊れてしまっている為に、昨日の変な銭湯に行くことにする。


 利用料大人(中学生以上)四百二十円。小人(未修園児を除く)百七十円。バスタオル・洗面器・入浴用玩具・石鹸・ボディソープ・シャンプー・リンス・コンディショナー・洗顔石鹸・フェイスソープ・脱色剤・脱毛剤・育毛剤・洗体タオル・頭髪用ブラシ・ドライヤー・くし・飲食物・振りかざすと火の玉の出る杖等の持ち込み禁止。


 若干、昨日と書いてある内容が変わっている。


『現実、マジックステッキみたいなアイテムないでしょ……』と思いつつ中へ入る。


 身体に入れ墨のある方・頭髪を過剰に染めている方・浴槽内で排泄される方・カプセルに入った乗り物や家を持っている方・尻尾があると巨大化する方・スーツ姿でご来店のお客様には、当店のご利用を御控えさせていただく場合がございます。


『今日も、ここまでの事を一応整理しておこう。一見マトモ? いや、マトモじゃないな……。書いてある注意書きにやはり不備がある。大体、【カプセルに入った乗り物や家】って何だ? あの有名なカプセルか? 尻尾があると巨大化? 同じアニメじゃないのか? お湯と水で性別が変わるってのが無くなってるな。それはOKになったのか? スーツ姿はやっぱりどうして駄目なんだ? と、とにかく、一見普通のこの銭湯、ここまで見ただで、普通じゃないってことだな……』


 入口の自動ドアを開くと、目の前にもう一枚の自動ドアがある。


《ドアを開く前に、右横にあるボタンを押してください》


 書かれた文章通りに水蒸気の出るボタンを押す。昨日と同じく、天井から白色の霧が降り注ぐ。どうせ水蒸気なので気にせず次の部屋へと入る。


《只今のは、大変有毒な毒ガスでございます》


『ど、毒ガス!? マ、マジで!?』咄嗟に咳込み、衣類をバサバサとはたく。


 心中穏やかでないまま次のドアを開け、前を見ると、《冗談です。ただの水蒸気でございました。そうして、お風呂が楽しくなるのです》と書かれてある。


『そうしてって、どうして楽しくなるんだよ! 既にいっぱいいっぱいなんですけど……』


 精神的に疲労感に満たされたまま、目の前の真っ白な自動ドアを開ける。


『…………』


 やはり絶句。それ以上も以下もない。当たり前だ。昨日と違ったのは、下半身の一部分を大きくした男性が黒いレインコートの男達に連行されて行くところに出くわした事だった。開いたドアの前で声を失ったまま立ちすくむ。


「いらっしゃいませ。今日は入浴されますか?」


 昨日と同じく、子供達にお湯をかけられている番頭が、フード付きのレインコートに身を包み、顔から大量の汗を流しながら、満面の笑みを浮かべている。軽く頷くと、「それでは案内するのでゴザイマス」そう言って、僕を脱衣室へと誘導していく。


「昨日も申しましたが、当施設は、御覧の通り混浴でゴザイマス。ただし、男性の皆様方におきましては、破廉恥な気や行為をなされますと、即退室願います。また、私にお湯をかける行為もご遠慮いただきたいと思っている次第でゴザイマス。他に何か質問はおありでゴザイマショウカ?」


 質問するのがバカらしいので、お湯を子供にバシャバシャとかけられている番頭を見ながら、『どうして「ゴザイマス」だけ片言なのだろう……』と再度思ったのだが、口に出すのは止めにしておいた。


 やはり、女性の姿がちらほらと見える。


『静まっておけよ!!』とムスコに暗示をかけながら浴場へと向かう。


 浴場そのものは、只の大衆浴場であることに違いはない。しかし、違う点がある。【バスタオル・洗面器・入浴用玩具・石鹸・ボディソープ・シャンプー・リンス・コンディショナー・洗顔石鹸・フェイスソープ・脱色剤・脱毛剤・育毛剤・洗体タオル・頭髪用ブラシ・ドライヤー・くし・飲食物・振りかざすと火の玉の出る杖等の持ち込み禁止】この一文の意味するところ。振りかざすと火の玉の出る杖については、とりあえずどうでもいいとして、その他の物については、備え付けの物があるようなのだ。


『別料金取られたりしないよな……』


 恐る恐る、置かれているシャンプーや石鹸を使ってみる。


『なんだ……。市販されているやつと同じじゃないか……』


 ホッと胸を撫で下ろし、体を隅々まで洗ってから湯舟に身を沈めた。湯舟のお湯は、少しぬるい気がしたが、体の深まで温まるには十分過ぎる程だった。



「ありがとうゴザイマシタ」


 風呂から上がり服を着てカウンターのレインコートマンに五百円手渡すと、八十円の釣銭を差し出しながら、少し不気味に笑ったような気がした。


 外に出ると、空は満面の星たちが輝いている。


『僕も少し警戒しすぎかな……?』


 こめかみを右手の人差し指でポリポリと掻きながら、家へとゆっくりと歩きはじめた。






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