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銭湯  作者: 聖魔光闇
12/16

其の十二

 家の風呂が壊れて修理もしないまま十二日が経った。


『そろそろ修理しないといけないかな』


 とは思いつつも、一週間以上前から通っている不思議な銭湯に行くことにする。昨日の彼女、天戸さんとの約束もあることだし。家から歩いて五分程度なのがせめてもの救いだな。


 利用料大人(中学生以上)四百円。小人(未修園児を除く)百五十円より。バスタオル・洗面器・入浴用玩具・石鹸・ボディソープ・シャンプー・リンス・コンディショナー・洗顔石鹸・フェイスソープ・脱色剤・脱毛剤・育毛剤・洗体タオル・頭髪用ブラシ・ドライヤー・くし・飲食物・ライター等の着火装置・ドライアイス等の持ち込み禁止。また、水着を着用しての入浴は禁止しています。


『料金については、まあいいか。でも、風呂場にライター持って入って何に使うんだよ! てか、ドライアイスって、この前、降らせてなかったか』と思いつつ中に入る。


 身体に入れ墨のある方・頭髪を過剰に染めている方・浴槽内で排泄される方・背広、タキシード、スーツ、ドレス・セレブ衣装を着用された方々・お風呂を楽しみの一貫にできない方・スーパー銭湯と勘違いされている方等のお客様には、当店のご利用を御控えさせていただく場合がございます。また、本日館内の改装を行っており、使用スペースが若干狭くなっております。


『さてと……だ。日課のまとめを始めようか。マトモじゃないのは当然だ。《お風呂を楽しみの一貫にできない方》って……。お風呂を楽しんで入れってのは、オッサンの勝手な理屈だろ!? って昨日とたいして変わらんな。《スーパー銭湯と勘違いされている方》って、スーパー銭湯じゃないのか? これがただの銭湯だとでも言うのか? セレブ衣装って何だ? 未だによくわからないな……。まあ、僕にはやっぱり関係ないだろうけど……。改装? 何をやっているんだ』


 入口の自動ドアを開くと、目の前にもう一枚の自動ドアがある。


《ドアを開く前に、右横にあるボタンを押してください》


 ここは、いつものように書かれている通りにボタンを押す。降ってきたのは白い霧だった。


『もう水蒸気は飽きたよ』


 何も違和感を感じないので、そのまま次のドアを開く。


《ただいまのは水蒸気でございます》


『はいはい。完全なネタ切れだな』


 前を見ると、また自動ドアがあり、《お風呂の前に服を脱ぎましょう》と書かれてある。


『当たり前だ! てか、服を着たまま風呂に入っている人見たことねぇよ!!』


 一人ツッコミも疲れてきたので、僕は目の前の真っ白な自動ドアを開けた。


「はい。どうも」


『……』


「どうかしたので、ゴザイマショウカ?」


 レインコートマンが、またまた当たり前の応対をしていた為、声が出なかった。


「おや? 更衣室はあっちだよ」


『……どうしてタメ語……』


「更衣室わかる? あ! あと、あそこら辺は改装中だから使用できないよ」


『不気味だ。どうしてタメ語なんだ……。不気味すぎるだろ。てか【あそこら辺】って、殆ど全面じゃないか!?』


 今日はカードを使わず脱衣所へ向かう。脱衣所も心なし狭くなっている気がする。


 とりあえず、買う気は無いのだが、自動販売機を見て回り、『今日はやめとこ』と、普通に服を脱いで浴室へと向かった。


 入口から見たよりも、異常に狭い。男性客を追い出そうかと思っているかの如く、洗身場も浴槽も、これでもか!! と言わんばかりに狭かった。


『いったい何を造っているんだ? まぁ、ろくでもないものだろうけど……』


 身体を洗い、浴槽に身を沈めていると彼女、雫さんを見付けた。と言うよりも、この狭さで見付けられない方がどうかしている。


 声を掛けようかとも迷ったが、入浴中なので、声は掛けずにもう少し温まった後、外で待つ事にした。


 ゆっくりと着替えを済ませた後、レインコートマンに五百円玉を手渡し、百円の釣銭をもらってから《お風呂で楽園》を出た。


 しばらく待つと彼女が出てきたので、気軽に声をかける。


「やっぱり、外なんですね」


 そう言ってクスクスと笑う彼女を見て、「どうして笑うんですか?」と尋ねると、「私、湯舟にいた貴方を知ってるんですよ」と言われ、カーっと顔が熱くなった。


「じゃあ、どうして声を掛けてくれないんですか!?」


「だって恥ずかしいでしょ?」


 上目使いにそう言って、彼女はまたクスクスと笑った。


「それはお互い様でしょう?」


「そう?」


 彼女の方が一枚上手のようだ。真っ赤になりながら、次の話題を探していると、「ねぇ。もう敬語で話すのやめにしない?」と言われ、「え?」とすっとんきょうな声を上げてしまった。


「いいんですか?」


「いいから言ってるのよ。それともイヤ?」


 そう言われて断る理由などない。むしろ嬉しいくらいだ。


「じゃあ、名前、雫さん……って呼んでいい?」


「いいわよ。雫でも天戸でも」


「え? いや、呼び捨てはまだ……。じ、じゃあ、名前、雫さんって呼ばせてもらいますね」


「わかった。でも、敬語は禁止だからね」


 またまた上目使いに見てくる雫さんにあたふたしながら、「あの改修工事って何、造るんでしょうね」と言うと、「敬語!」と言われた後、「サウナみたいよ」と続けられた。


「サウナかぁ……。って、どうして雫さん、そんな事知ってるの」


「う〜んとね、それは内緒だよ」


 銭湯の話題ばかりしていても仕方がないので、好きな食べ物や趣味なんかの話をして、今日は帰る事になった。


「じゃあ雫さん、また明日」


「うん。また明日ね。坂君」


 そう名前で言われて、また顔が赤くなってしまった。どうも雫さんには、かなわないようだ。


「また明日か……」


 今日も帰路の夜風が心地良かった。








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