アイザックと彼方
遅くなりすみません!!
私の名前はアイザック・リンデル。宰相をしています。私が使える王様は、傲慢で言い方は悪いですが大きな子供、そう形容されている方でした。しかし、私には魔力が大かったばかりにこの国に囲われ、必死に自由を手に入れようとあがくリードに繋がれた犬のように見えるのです。決してリードの外されない哀れな犬、一生自由は手に入れることは出来ない。それならば、せめて彼の欲しいものは何でも提供しようと思っていました。
まさか、その思いをぶち壊すほど私も彼と同じものに執着するとは思いませんでしたよ。
彼女、オフィーがこの国に来た日は、特にこれといった特徴もなく何の変哲もない普通の日でした。いつものように、王様の願いをかなえていたとき、門番たちが騒いでいるのが見えました。
「どうしたのですか? そんなに騒いで」
「宰相様!」
話を聞こうと門番たちのもとに近づいてみると、彼らの隙間からとても美しい女性が見えたのです。眉を下げ困ったような表情をしていることからも、この騒ぎの原因は彼女であることは明白でした。
「彼女は?」
「王様に会わせて欲しいと約束もなく来られたようです」
約束もしていないのに王様に会うことは出来ないでしょう。約束をしていても会われないことが多いですから。今日は諦めてお帰りください。王様の都合がつき次第、日時は追ってこちらからお伝えします。
そう私が口にしても、彼女が引き下がることはありませんでした。どうしたものかと頭を悩ませていると、門番が王様に話だけでも入れておきます、と言い出しました。彼女の熱意に負けてしまったようです。かくいう私も彼女の意思を無下にし続ける行為に罪悪感が募っており、二つ返事で返してしまいました。
「面会だろ? 早く通せ」
拒否されるだろうと予想されていた面会は、予想に反して受け入れられたのです。珍しいこともあるものだな、と思いながらも私は仕事に戻りました。彼女と王様がどんな内容の話をしたのかは分かりませんが、それから、ちょくちょく彼女は城に来るようになり、弟だというリチャードという男も連れてくるようになりました。必然的に彼女と会うことも増え、会話をしていくうちに、彼女を好きになってしまいました。彼女のまっすぐでひた向きな姿に好感が持て、接していくうちに他のいいところも分かり、好感が愛情に変わっていったのです。その後、今度は愛情が渇愛に変わるなるなんて思いもしませんでしたが。
彼女が飛ばされたあの日、私が王都を血の海に変えたあの日。白い亀裂に吸い込まれた瞬間、私の意識は糸が切れたかのように、ぷつりと途切れてしまいました。
ああ、何て可愛いんだろう、この生き物! 撫で回したい!!
これが、彼女を見つけ出した時の感想だった。
アイザックとして生を受けたくせして、王都の民を殺して夢の世界に追いやられた元人間。それが、俺、彼方だった。アイザックはある国で宰相をしていて、その国にやってきた女性オフィーリアに恋をした、哀れな男の一人。
夢の世界の世界に追いやられたとき、俺は"アイザック"だった頃とは違う自我が目覚めた。大量虐殺しておいてお咎めなし、なんてことはもちろんありえなくて。その、お咎めが"アイザック"の消滅だったみたい。
自分が前、人間のアイザックだったことは分かっている。記憶を引き継ぐのもお咎めのうちなのかもしれない。でも、今の俺は人間ではなく夢魔だ。俺と"アイザック"は違う存在。それなのに、心の奥底から湧き上がるように「オフィーを探せ、オフィーを探せ」と責っ付いてくるこの感情は何なのだろうね。
俺は促されるようにオフィーを必死で探そうと、し、た、……のに、案外あっさりと見つかっただー。びっくりだよ。まさか、最初に覗いた夢が彼女の夢だったなんて。
時間を越えバグで飛ばされたためか、彼女の体は時間が巻き戻されていた。彼女を見つけたときに年齢は6歳。何もかも忘れて無邪気に過ごしている今の彼女にとって、俺は遠い彼方に存在する無関係な存在。
だから、彼女が時間が経ってすべてを思い出すまでは関わらないように決めたんだ。俺と関わってしまった所為で不自然に思い出してしまうかもしれないからね。俺は人間から夢魔になった不安定な存在で、彼女もバグの所為で不安定。不安定同士で関わると何が起こるかわからない。彼女が17歳になって全てを思い出すまで、見守っておくことしか出来なかった。
年頃になった彼女があまりにも無防備すぎたから、彼らの危険性を分かってもらうために、彼女に何度も夢を見せてしまったのはご愛嬌だと思ってもらいたい。思い出す前日だったから特に問題ないだろうし。ちなみに、夢で見せた彼らの性格は間違いではないよ。これから続いていく世界を模したもの、パラレルワールドって言うのかな、それを参考にして作った夢だったから、一つの可能性にしか過ぎなかったけれど。
だけど、もう彼女は世界から出て行ってしまったから、その可能性もつぶれてしまったかな?
俺の、彼女に対する感情は……親愛、だよ。そう、親愛。心の中にひっそりと、でも確実に存在するこの感情は、親愛なのだと自分に思い込ませないといけない。まだ、完全に自覚したわけではない今ならまだ、間に合う。
彼女はリチャードであり天羽でもある彼を選んだんだ。……俺じゃない。間に合う内に形無きまで叩き壊しておかないと、俺がまた、壊してしまう。
だから、これが最初で最後。
――――愛してる……




