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面倒な人たちに囲まれて。  作者: 枯木榑葉
最終章 ~面倒な人たちに囲まれて。~
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忘れていた過去を想う.2

 彼女たちが向かった先は、お城でした。門番たちに挨拶をするだけで、いと簡単に彼女たちは中に通されます。そのまま王宮の中の応接間に向かうようです。

 あぁ、この城。ここで私はB先輩と兄に会ったんです。兄は王様で、B先輩は宰相様。彼らは覚えていないのでしょうが、Aさんは王宮騎士団の団長。C君とB君はその騎士団の団員でした。

 これは確か王様との会見も回数を重ね、門番の方々にも顔を覚えられてしまったので言葉を簡単に交わすだけで中に入れるようになった頃です。特にこの日のことはよく覚えています。

 何と言っても、私が今の"時間"に飛ばされた当日ですから。


 彼女らのあとを付いて歩いていると、視界の端に小さな白い亀裂が入ったように感じました。それも一瞬で、すぐに無くなります。それには、昔の私も気付いたようです。



「ねえ、リック、さっき何か――」

「オフィー!」



 しかし、そのことを私が口に出すよりも早く、私の台詞は私を呼ぶ声に阻まれました。オフィー、それは私の名前、オフィーリアからきた愛称です。リックが呼んでいるフィアというのはだいぶ特殊な愛称で、リックしか呼んでいません。

 ちなみに、リックの本名はリチャードです。リックというのも私しか呼んでいません。と言うより、私にしか呼ばさせないんです。この頃から独占欲は強かったんですね。



「ごきげんよう、アイザックさん」

「もう来ていたんですね。呼んでくだされば、お迎えに上がりましたのに」

「あんた、宰相だっていうのに暇なの? 仕事しなよ」

「仕事はいつも前倒しで処理していますから、今のところ何か急遽仕事が入らない限り1週間は休めます。それに、私の部下たちはとても優秀ですから、私がいなくてもちゃんと仕事をしてくれるんです。いつもフィア、フィアとオフィーに張り付いている、シスコンなあなたとは違うんですよ」

「部下が優秀で仕事を代わりにしてくれるって、あんた、いなくてもいいんじゃないの? いなくても巧く機能しているようだし。ちなみに、オレの仕事はフィアの補佐だ。フィアが必要な時にいつでも手を貸せるようにしているだけだよ。それに、オレはフィアと一緒に入れたらそれでいい」

「そうですね。宰相としての仕事が無くなると、今度は私はオフィーの右腕として働きましょうか」

「はぁ!? オレがいるからあんたなんか必要としてないんだよ!」

「何言っているんですか? あなたの方がいらないでしょう。あなたはオフィーの弟ですが、私はオフィーの婚約者なんです。ただ姉にベッタリと張り付いている弟と伯爵家で財力も実績もある宰相の婚約者、周りから見たらどちらが大切でしょうね?」

「っ!! 婚約者って! あんたが無理矢理そうせざるを得ない状況をつくったからだろ!?」

「それを、回避するのはあなたの仕事でしょう。それができなかったあなたこそ、用済みではないですか?」



   はぁ、また始まったわ。毎回毎回元気ね。



『……え?』


 考えるのを中止して彼らの口論を聞いていると、昔の私のくぐもるような声が聞こえました。何か喋ったのかとそちらを向いたのですが、特に何かを口に出したような感じはしません。それに、誰も彼女の声に反応しないのです。


 あれ? 何で誰も反応を返さないの?



   リックとアイザックさんの性格的にはそこまで相性は悪く無さそうなのに。

   人の関わりって本当に難しいものね。



 また、くぐもるような声が聞こえました。これにも誰も反応しません。

 あぁ、もしかしてこれは昔の私の心の声なんですかね。でしたら、他の人には分からないのは当然です。でも、私は記憶を覗いている状態なのでそのとき感じた心の声が聞こえるのでしょう。

 さて、リックの発言からお分かりになられたでしょうが、彼がB先輩の前世にあたる、宰相のアイザックさんです。物腰の柔らかい方だったんですよ。今とは大違いな気がしますが。

 リックは何かとアイザックさんに喧嘩腰で、それにのるかたちでアイザックさんも接するので、いつも喧嘩ばかりしていました。この頃はどうして二人は仲が悪いんだろうと、ずっと不思議に思っていましたよ。

 それにしても、また喧嘩ですか。喧嘩するほど仲がいいって言いますが、仲が良くてもこんなに毎回毎回喧嘩されると困ったものですね。

 この口論がどんどん激戦に進むなか、昔の私はと言うと……。非常に申しにくいのですが、先に応接間に向かっているんですよね。綺麗にスルーしているのです。私の精神は図太いんですかね。


 昔の私は、リックとアイザックさんの姿が遠くになり小さくなっていくのも気にせず、ずんずんと先に進んでいきます。私はリックとアイザックさんの口論と、昔の私の行動、どちらに付いていこうかと悩みましたが、結局昔の私についていくことにしました。

 今進んでいる一直線の道の先にある曲がり角を右に曲がって3つ目の部屋。ここが私と王様が対面するためにいつも用意されている応接間です。王様は後から来るので中には誰もいないでしょうが、昔のノックをしてから中に入りました。そして、少し歩いたところにある肌触りのいい、いかにも高そうなソファー居座り、王様の到着を待ちます。


 いつ見ても豪華な部屋ですね。ソファーとテーブルはどれも高そうで、テーブルの脚には美しい彫刻が施されています。窓は扉から入って左側の壁に一つあり、今は閉まっています。その窓からは綺麗に整えられた中庭が見れるようになっていて、その窓の景色を眺められるようにソファーがおかれているので、座ったままでも充分に見ることが可能です。応接間にシャンデリアとか必要ないと思うんですけど。


 昔の私は何もすることもないので、ただボーッとそのシャンデリアを見つめていました。

 そのとき、今度ははっきりと白い亀裂が見えました。それに、今回は前回のものよりも大きくなっています。



   おかしい、これは絶対に変だわ。それに何だか胸騒ぎがする。もしかして、"あの方"に何かあったの?

   ――あれ? え、風??



 昔の私が"あの方"の身を心配そうに考えていると、風が彼女に触れたようです。

 先程も言いましたが、窓は閉まっています。扉も入ってきてすぐに閉めていました。王様は寒いと機嫌が悪くなるので隙間風が吹かないようにきっちりと設計されています。なのに、風が当たるのは変です。不意に遠くの方からこちらの方に近づいて、ドドドドドと何かが走ってくる音が聞こえました。

 しかし、今気になるのはこの風の吹きどころです。音を無視してもう一度窓を確認しようとソファーから立ち上がった途端、目の前に白い亀裂が走りその亀裂へと強烈に風が吸い込まれ、風と一緒に昔の私の身体はその亀裂に吸い込まれていきました。



「フィアッ!!」



 バンッ! と、リックは荒々しく大きな音を出して扉を開け中の光景を見ると、その光景にただ呆然とその場に立ち尽くしていました。その後ろから、急に弾かれたように走り出したリックの後を追ってきたアイザックさんが、呆然と中を見続けるリックを不審に思いながら彼の脇から部屋の中を覗いたときは、すでに白い亀裂の幅が小さくなり散り散りになって消えた瞬間でした。



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