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面倒な人たちに囲まれて。  作者: 枯木榑葉
最終章 ~面倒な人たちに囲まれて。~
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忘れていた過去を想う.1


 目を覚ますと、懐かしいような気がする土地でした。


 ここはなんだか、中世のヨーロッパのような風景で、レンガ造りの建物が沢山建ち並んでいます。私はそんな街中の大通りのようなところにポツンと立っていたのです。私の脇で、商人であろう人たちが、商品を売ろうと躍起になっています。とても活気がある街です。

 こんなところ、先程までいた、私の近所にはありません。絶対にありません。もしあったら、私は17年間生きてきた近所さえよく知らない不埒な娘です、生きていてごめんなさい。と、遺書を書いて自殺してもいいレベルです。それに、服装も私が普段着ている服と違いすぎていて、私、ここにいると浮くだろう、と確信できます。いいえ、絶対に浮きます。断言できます!

 ここまで見ていて、私もさすがに気付きました。

 あぁ、ここは、私のいたところではない、と。


 はい、キタァァァアアアア!!

 これが小説で最近書かれている、あの! 噂の異世界トリップですか!?

 凄いです! 私体験してしまいましたよ!!

 写真に写して、天羽にメールしたい! 私異世界トリップしちゃったんだよ、って!!

 




 なぁーて、思っていた時期が私にもありました。

 しかし、これは異世界トリップなどではありませんでした。だって、だって……! だって、私の身体が透けているんですもの!!

 私は幽霊かなにかですか!? えええぇぇぇええええええ!?

 

 実際、ここの人たちには私の姿も声も分からないようです。絶対に浮くと思っていた服装も、浮かないで済みそうですね。助かります。


 ……じゃなくて! 何暢気なことを言っているんですか、私は!! それがですね、私のことが本当に彼らには分からないみたいなんです! し・か・も・! 私は彼らに触ることさえ出来ないんです! こう、触ろうとしてみるじゃないですか。すると、なんと! すかっと、空を切るんです! 私の身体が相手の中にのめり込んでいるように見えるんですよ。なのに、その感触はありません。腕を上げているな、という感覚だけですよ。

 凄いですよねぇー。てか、凄い以前に怖いでうすよね。私、これからどうしましょう。



 とりあえず、大通りをまっすぐに進むとあった広場のベンチに座って考えていると、なんだか見覚えのある青年が私の横に座りました。



『のわぁああっ!?』

「まだ、来ないのかな」



 相手に私の声は聞こえていないようです。まあ、それは既に他の人で検証済みだったので分かっていたことですが。

 彼は、誰かを待っているようです。周りを見てみると、なんだかニヤニヤと、これからが待ち遠しいかのように笑っている人、逆にイライラとしたオーラを回りにまき散らしながら時計を見ている人、どこかボウッと空を見上げている人、こんな感じで他にも人を待っているらしい人たちが数人いました。彼は、どちらかというと、早くあいたいのかそわそわとしているように見えます。

 それにしても、彼は誰かに似ていると思うんです。うーん、誰でしょう。顔が似ている、というわけではありませんが、なんだか知っている人に似ていると思うんです。雰囲気が似ている、というか、顔は違うけど同じ存在の様な気がする、というか……。すみません、巧く言えません。


 そう思いながら、相手に私の姿は見えていないので、これ幸いと彼をしげしげと見つめていると、彼の表情がパァーと、効果音が付きそうなな笑顔に変わり、立ち上がりました。

 相手が着たようです。



「フィア!」



 ――――え?


 彼がそう口にした途端、私の心臓がドクンと跳ねました。

 何だろう。凄く嬉しい。もっと言って欲しい……。

 私は自分の感情に疑問を持ちながら、彼が待っていた人物に目を向けました。


 その人物を見た瞬間、今度はズキッと頭に鈍器で殴られたかのような痛みが走り、私は今まで忘れていた記憶を全て思い出しました。

 彼は誰に似ているのか。B先輩とは誰なのか。兄の言っていた600年前が何だったのか。そして、私がどういう存在なのか――



「ごめん。待った? リック」

「いや、今着たところだよ」

「……」

「どうしたの?」

「いや、なんか、これ、恋人同士がデートの時に使う台詞だなと思って。まさか、弟に言われるとは」

「なに、オレとじゃ不満なわけ? だったら、他の人と行けばいいじゃん」

「ふふっ、ほら、拗ねないの。不満なんかないよ。むしろリックと行けて嬉しい」

「なっ!? あぁもう! フィア、行くよ!」




 彼は、私の双子の弟、天羽に似ていたんです。

 そして、私が忘れていた記憶を思い出すきっかけになった人物、彼がフィアと呼んだ人物は、服装は違えど私のよく知る人物で、――600年前の、私でした。



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