止まっていた時間は動き出す
「……え、と? Aさん、どういう、意味ですか……?」
「どういうって、そのままの意味だよ。B先輩って誰だ? いつ、そんなやつと出会ったんだよ?」
「なに、言ってるの? クラスメートでしょう……?」
「は? そんな名前のやつなんていねぇよ」
「そうだよ? 僕も聞いたことないよ。誰かと間違えてるんじゃない?」
C君も? C君もそんなこと言うの? 私だけ? 私だけ知っているの? 間違えているですって? そんなわけないでしょう? そもそも貴方たちもB先輩と話していたじゃないですか。それなのにそんな風に言うなんて。それじゃあ、まるで、B先輩は――
――存在していない……?
っ!? 違うっ! そんなことあるわけないじゃない!
――でも、だったら何でみんな知らないの?
「……姉さんは――。いや、姉さんはきっと、昔転校していったBのことを言っているんじゃないかな?」
天羽がすこし言い淀み、その後複雑な表情で口を開きました。
「あぁ、中学2年の2学期なんて中途半端な時期に、親の転勤で転校していったもう一人の幼馴染みか。でもお前らと同い年じゃなかったか?」
「ちょっと、記憶がこんがらがってるんだよ。なんせ、今日もパジャマとスリッパで学校に行こうとしていたくらいだし」
「それは、こんがらがるどころじゃないぞ!?」
確かに、中学の時に転校した幼馴染みがいました。そして、彼のことはをB君と呼んでいました。
だから私は彼を忘れないよう、C君には"C"という代名詞を付けたのです。
……ちが、う。違う、違う違う違う! 天羽に会いに、天羽の部活に顔を出した時に対応してくださったのがB先輩で、その後も顔を見かけたら声をかけてくださって、それからB先輩と呼ぶようになったんです。C君に会ったのはB先輩に会った後だから、C君には"C"を付けたんです。
いや、ダメだ。違う。それも違います。それだとダメなんです。あ、そうだ! そう、B君とB先輩は兄弟なんです。B君は親に付いて転校したけど、B先輩は今の高校に行きたかったから、ここに残ったんです。C君は後から会ったから"C"が付いた。
うん、そうだ。これがいい。――――これが一番締まりがある――
あ、れ? え? 締まりが、ある……? どういうこと? これは創作なの? 嘘なの? 分からない、分からない分からない分からないっ!
「姉さん……」
荒んだ私を天羽が哀れみのような目で見つめています。とても、とても可哀想なものを見るような目です。その姿が、真実を思い出すと言っていたB先輩と重なります。やめてっ! そんな目で見ないでっ!
――っ!! そうですっ! B先輩の家に行きましょう! B先輩が本当に存在しているなら、そこには家があるはずです!!
私はすぐに家を飛び出しました。家のAさんたちはきっと、急に飛び出した私に驚き、呆然としていることでしょう。しかし、私はそんなことも気にせず、脇目もふらずにただ一心不乱に、B先輩の家があるであろう場所に向かいます。B先輩の家には行ったことがあります。徒歩でも10分に満たない距離なので、走ると5分と掛かりません。
B先輩の家があるであろう場所に着き、荒れた呼吸のまま、その場所に目を向けます。
そこに在ったのは、周りを家に囲まれ異様なほど存在を主張する、整備されずに草がぼうぼうと生えた、
――――空き地でした。




