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面倒な人たちに囲まれて。  作者: 枯木榑葉
第四章 ~変態腹黒鬼畜になっている先輩に囲まれて。~
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後編

 親さえ名前を呼ばないのに、どうして天羽だけは私の名前を知っているのか。

 親の名前から親友の名前まで、まったく分からないのに、どうして天羽の名前だけわかるのか。


 B先輩から提示されたヒントは、私に不安と疑念を運んできました。こんなのヒントというのでしょうか。ただ、気分が暗くなっただけではないですか。これが真実を聞いたときのためなら、真実はどれだけ重いのでしょうか。ああ、真実とやらをなんだか聞きたくなくなってきましたよ。でも、絶対に知ってしまうのですよね。そうB先輩はおっしゃってましたし。気分はどんどん下がる一方です。



「妹ちゃん? なにやら、重く受け止めちゃっているみたいだけど、そんなに暗くならなくてもいいんじゃないかな?」



 暗くさせた張本人が言いますか。そもそも、貴方がヒントとやらを与えなければこんな暗くならなかったんですよ。



「あ、今俺のせいにしてるね」

「……」

「っ!? 怖いよ、妹ちゃん! 顔に何も表情がないよ!?」

「……そうですか」



 私が無表情のまま答えるとB先輩はあからさまに肩を落とした。

 私は今イライラしているんです。そのちょっとした動作にもバカにされているようでムカつきます。殴ってもいいですか? 1発でいいので。私の感情を押し込めた拳で、力の限り殴らせてください。




「――神奈(かんな)



 私の思考が危ないほうにいこうとしていると、急にB先輩が神妙な顔つきで言葉を発しました。

 ――神奈

 そう、B先輩が言ったとき私の心臓がドキッと大きく跳ね、心がじんと温まるのを感じました。

 なんでしょうか。それを言われると、とても嬉しいです。もっと言って欲しい――



「″神奈″は今まで呼ばれてこなかった、今の君の名前だよ」

「え?」

「君に名前がないわけじゃないんだ。ただ、みんな覚えられないだけ。名前を呼ばないようにするためにね。じゃなきゃ、学校に入れないでしょう?」

「なら、なんで……?」

「理由は君が忘れていることを思い出せば自ずから分かるよ。そして、今の俺の名前は彼方(かなた)

「……彼方」

「そう。君が天羽以外の人の名前を覚えていないのは、君が名前を呼ばないように自分で記憶を消去してしまうからだよ。でも、俺の名前は忘れないんじゃないかな。理由は天羽と同じ理由なんだけど、これも時機に分かるよ」

「……あの」

「なにかな、妹ちゃん」

「私の名前で呼んでください。君とか妹とか呼ばれるのはもう嫌なんです」



B先輩は私の言葉を聞くと穏やかに微笑み、私の頭に手を載せて優しく撫でてくれました。

気持ちい。今ならペットの心境が分かりそうです。



「きっと、本当は呼ばないほうがいいんだろうけど、ここはあそこと違って夢だから。いいよ。分かった、神奈ちゃん。でもひとつだけ条件があるんだ」

「条件、ですか……?」

「俺も名前でね、呼んで欲しいんだ。――もちろん呼び捨てで」

「なっ!? 呼び捨てですか!?」

「そう、簡単だよね」



 私は今まで恋愛なんで夢物語みたいなもので、家族以外の異性を呼び捨てなんて経験、皆無ですよ? まだお付き合いもしたことがないのに、異性を呼び捨てなんてハードルが高すぎます。まあ、すでにお付き合い以上のことをされる夢は見ましたが。あれは夢なので。しかし、先輩は取りやめにする気はないようです。

 私は緊張してなかなか出てこない声を何とか絞り出し、先輩の名前を呼びます。



「か、かかか、かな、た」



 自分でも熟れたトマトのように真っ赤になっているのがわかります。きっと耳まで真っ赤ですね。ああ、もう! 穴があったら入りたい! むしろなければ自分で掘って入りたい!!

 しかし、無情にも先輩は告げたのです。



「……俺、そんなに″か″はないよ」



 鬼ぃぃぃぃいいいい!! 私が精一杯言ったのに、文句を言うな! しかし、背に腹は代えられません。

 一度深呼吸をして、バクバク煩い心臓を静めようとしたのですが、なかなか治まりません。それに顔の赤みも全く引きませんでした。これは無理だな、と判断して今度は先輩の目をじっと見つめます。覚悟を決めて、先輩の名前を紡ぎます。



「……かな、た」



 私が何とか名前を呼ぶと、B先輩は私に近づいてきて私を抱きかかえ、数歩先のベッドのもとまで運ぶと、今度は私をそのベッドに投げ下ろしました。そして、B先輩もベッドに上がり私の上に跨ってきます。はたからみると見ると私が押し倒されているように見えることでしょう。



「あの? せせせ、せん、ぱい?」

「彼方だってば」

「え、えーと、かかかかなた? この状況は何ですか?」

「だから、そんなに″か″はないよ。それに、何って分からないの? なら、神奈ちゃん的にはどんな状況に見えるのかな?」

「そうですね。私がおおおおお、押し倒されているように見えるのですがっ!?」

「うん、正解。もう神奈ちゃん可愛すぎ。もう理性の限界なんだよ。本当は忠告だけのつもりだったのに、神奈ちゃんが可愛すぎるから」

「私のせいですか!?」

「そうだよ。それに、ヒントもあげたし色々神奈ちゃんのためにしたんだから、ご褒美くらい貰ってもいいよね」

「ちょっと! やめっ、ひゃんっ!! ど、どどどどこ触っているんですか!!」



 彼方は私の服の下に手を滑り込ませ、直で私の肌に触れてきました。私の抵抗もひらりとかわし、上半身の言うのも恥ずかしいところを触ってきます。



「どこって、何、神奈ちゃん。言葉攻めされたいの?」

「違います!! あんっ!?」

「あ、そうそう。ここは夢だから最後までヤっちゃっても、孕まないんだよね」

「はあああ!?」



 彼方は優麗な笑みを顔に浮かべると、さらりと恐ろしいことを言ってのけました。それを実行するかのように、彼方の手はどんどん下に移っていきます。私は恥ずかしさのあまり、頭はもうショート寸前です。



「本当は夢じゃなくて、あの時にこうなれればよかったのに……」

「あの時?」

「そう。でも今更過去を悔やんでも仕方ないよね。ってことで、今を楽しもう!」

「ちょっ、まっ! やぁ、あ、あ、やんっ!」



 彼方の手が自分でも触ったことがない部分に触れられた瞬間、私の頭は恥ずかしさが許容量(キャパシティ)をこえ、完全にショートしてしまいました。



B先輩視点とB先輩の人物紹介は、凄まじくネタバレが激しいので、後に回します。なので、次回からは最終章です!

なんとか、今年中には完成させます!(週一で投稿していき、12月31日には最終話を投稿する予定です)

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