中編
今回はシリアスです。読んでくださりありがとうございます。
「貴方は……何を知っているんですか?」
「さあ? 何かを知っているかもしれないし、何も知らないかもしれない。俺は何を知っているのかな?」
「ふざけないで下さい!」
「ふざけてなんて無いよ。質問したら何でも答えてもらえるなんて考えちゃダメ。答えてもらったとしても、嘘を掴まされてしまうこともあるからね。――真実は自分の目で見て確かめないとね……」
B先輩は急に真面目な顔をしました。雰囲気が完全にシリアスですね。私、シリアスは苦手なんですけど。
それに加え、なんだか熱の篭った言い方です。何か昔に遭ったのでしょうか。昔……600年前? 兄のときに600年前がどうとか言ってましたよね。そのときに何かあったのでしょうか。それにしても、大体分かってきましたよ。夢ももう実力行使に出たんですね。確実にファンタジーを突き進んでます。平穏な生活が遠のいていく!
「それに、これは君が自分で決めなければならないこどだよ。俺としては、忘れているのなら忘れたままで過ごして欲しいけど……。過去は変えられない。どんなに遠くに逃げても、何処までも追ってくる。……もう少しで、君は全てを思い出す。真実はとても辛いことだろうけど、君が信じた道を選ぶといい。たとえ何を犠牲にしたとしても。自分がしたいようにするんだよ」
え、何、フラグ? 私に何か悲惨なことが起こりますよっていうフラグ? この人私にフラグ立ててるの?
そんなの勝手に立てないで下さい。何ですか、その"苦難の果てにっ!"みたいな小説とかの物語みたいになっているんですか。それを読む読者は楽しいでしょうけど、その出演者はめっちゃきついんですよ! 第三者から、当事者になるんですからね。想像してみてください!
両親の仲は良好。4人兄弟で兄弟同士の仲も良い。学校では気の休める親友もいる。父の稼ぎもそれなりで、今まで普通に、他の人と変わらない生活を送ってきた。
でも、15歳のある日、父親が知り合いにだまされ、7000万円もの借金を背負った。父は一家心中をしようと、家に火を放つ。家は全焼。両親は亡くなり、生き残ったのは自分よりも幼い、まだお母さんに甘えたい盛りの妹一人。その妹も体全体に大火傷を負って重症。今まで良くしてくれていた親戚たちからは、手のひらを返したように穀潰しだと、たらいまわしに遭い、自分の火傷をした姿が醜いと、親友だと思っていた人たちからいじめられる。
これは小説のなかの話ではないから、自分がこれから幸せになれるかなんて分からない。日々、苦悩に耐えながら、妹をこんな醜く歪んだ現実に独り置いていくわけにもいかず、生きていかなけらばならない。
そんな現実、受け入れられますか? 無理でしょう? だから、平穏な生活が一番なんですよ。読者にとってはつまらないでしょうけど。そんな"山あり谷あり"が好まれるのは物語の中だけなんです。現実でなんて、クソくらえ、です。
で、えっと何の話でしたっけ? 完全に私、なにやら大事な雰囲気になっていたところをぶち壊してしまいましたよね。申し訳ございません。直ちに雰囲気作りに努めさせていただきます。
「……努力します」
「まあ、でも、さすがに、何も覚悟が無い状態で全てを思い出してしまうのは辛いだろうから、ヒントをあげようか」
「ヒント、ですか?」
「そう、ヒント。ここで話すのはなんだから、俺の部屋で話そうか」
「……分かりました」
こうして、私は自分の家からB先輩の家にいきました。家には誰もいないようで、B先輩は鍵を使って家に入ります。こんな夜中なのに、皆さん何処に行っているのでしょうね? 家に上がると真っ先にB先輩の部屋らしきところに入ります。
「お邪魔します」
「どうぞ、汚いところですが」
B先輩が公式的な挨拶を言っています。これで汚ないと言うのなら、私の家はゴミ屋敷ですか? 家の掃除当番の私に喧嘩売ってます? 掃除と洗濯だけは、天羽と一緒にするという条件付きで、することを許可されています。私どれだけ天羽に行動制限されているのでしょうか。
「それじゃあ、ヒント1。ねえ、妹ちゃん? 今まで、名前を呼ばれたことがあったかな?」
「名前?」
ヒント1? ヒントは何個かあるんですか? 1つしかないのに、ヒント1とかさすがに言いませんよね? あ、でもB先輩だから分かりませんね。1つしかないというのも、ありえます。
まあ、それは置いといて。えーと、名前、ですか? そういえば、呼ばれたことはありませんね。
「無いです。それがどうかしたんですか?」
「それが異常なことだと思わないの? 両親にすら名前を呼ばれたことがないんじゃない?」
「……?」
……あれ? 両親にはなんて呼ばれているんでしたっけ? 学校ではなんて呼ばれてる? 担任の先生には何て呼ばれてた? 友達には? そうだ。いつも、妹か天羽の姉、君とかお前って代名詞で呼ばれてたんだ。
あれ? もしかして、今まで一度も名前を呼ばれたことが……ない?
「やっと、おかしいことに気が付いたみたいだね。じゃあ、もうひとつヒントだよ」
B先輩から聞かされたことが、私の予想以上に大事でした。私はいったい何を忘れているの……?
「ねえ、君は、君がAさんだと言っている人の名前を知ってる?」
「Aさんの、名前、ですか?」
Aさんの名前は何だったでしょうか。初めて会ったときに、自己紹介もしたのに。さっきだって、兄が呼んでいたのに。全部"Aさん"って聞こえていました。分からない。
これも? いえ、違います。Aさんだけではありません。兄の名前も分かりません。それだけでに留まらず、B先輩の名前も分かりません。両親の名前は? 私の親友の彼女の名前は何だった?
どうして? あんなに仲良くしてくれたのに、彼女の名前すら出てこないの?
「分かり、ません」
「……」
B先輩は何も言わず、責めるでもなく、ただ、無表情で、黙って私を見つめています。
私は何も分からないことが怖くなり、とうとう視界が涙で潤んでいました。顔が自然とうつむきます。
私の名前を呼ばれたことがありません。それを異常だと感じたこともなかったです。周りの人たちの名前も分かりません。
何でみんなの名前が分からないの? 今まで出会った人たち全員? ……そんな、嫌です。一人、一人だけでも覚えている人はいないの?
私が必死に考えていると、私は一人だけ相手の名前が分かる人がいることに気づきました。
彼の名前は知っている。良かった。全員忘れているわけではないのですね。
その時は暗闇の中に輝く一筋の光が見えた、そう思いました。
「天羽! 天羽の名前は分かります!」
私は喜びでつい声を荒らげて、満面の笑みで叫んでしまいました。
しかし、B先輩が浮かべていた表情は、先はどまでの無表情とは違い、哀れみのような表情でした。それを見て、私の顔から表情が消えていきます。
「そうだね。きっと天羽も君の名前を覚えているんじゃないかな? でも、どうして両親にすら呼ばれたことが無い名前を、天羽だけは知っているんだろうね? どうして、他の家族や親友といった人たち全員の名前を覚えていないのに、彼の名前だけは覚えているのかな……?」
「……え?」
私が一筋の光だと思ったそれは、本当に光の筋だったのでしょうか……?
ただ今、ラストの案が2つ出ているのですが、どちらにしようか全く決まりません。その為、次回あたりから更新速度が落ちるかもしれません。ご了承いただけると助かります。




