第7話 世界で一番美味しいモノ
論功行賞は一旦終わりを迎えた。
ただしサミュエルへの報奨が途中だったため3日後に王宮に呼び出され、改めて目録を渡された。
ドラゴン討伐という史上類を見ない偉業により以下を報奨とする。
・赤竜討伐勲章および竜牙勲章
・辺境伯位への陞爵
・キュミケス王国ケーニゼカ領西部地域
・ドラゴンの素材の三割
・キュミケス王国第四王女、シャーロット・キュミケスとの婚約
以上がサミュエルの報奨となった。
爵位も素材もいらないと言ったが、さすがにそういうわけにもいかず、素材は予定通り授与されることとなった。
爵位に関しても所領を授与したこと、王族との結婚で箔をつけさせるため、辺境伯位に変更となった。
なお兵器代と遠征費は論功行賞とは別予算であったが、今回の論功行賞での報奨では王国から銅貨一枚たりとも出ていないため、財務卿はご満悦だった。
多くの名誉を与えることで誤魔化せた宰相の手腕によるところが大きかった。
ただしケーニゼカ王国に四割のドラゴン素材をわけ、それを王国が買い取る形にするため莫大な価値を持つ素材はあるが、すぐに動かせる金はまったくないという状態になってしまったからである。
そしてケーニゼカ公爵から話があると言われ、会うこととなった。
「サミュエル殿、父上と国民の仇を討ってくださったこと、何とお礼を申し上げればよいのか……。」
「礼には及びません。私にできることをしただけです。」
「それでもだ。立場上身につけることはもうできないが、それでも父上の形見まで取り戻してくれたことも感謝いたす。」
ドラゴンが集めていた財宝の中にケーニゼカ前国王が身につけていた王冠があった。
血がついていたが、おそらく最後まで戦ったのだろうことが伺えた。
「それにしても我が妹との婚姻を進めても歯切れが悪いわけだ!昨日のアレを見せられては妹はどうだ?とは言えなくなってしまったな。ハハハ!」
「いやあ、お恥ずかしいところをお見せしました。」
「なんのなんの。我ら王族は誰かを愛してから結婚することなどまずできない。その点シャーロット殿下は羨ましい。いやヴァロワール辺境伯婦人だったかな。」
これはからかわれ続ける流れになると思い話を変える。
「ところでどうして急に王族であることをやめられたんですか?」
「急にではないぞ。ドラゴンから逃げ延びたあと、多くの情報が流れてきた。そしてどううまく言っても我が国は死に体だ。いくら同盟を継続してもらっても国土も国民も守りきれない。そして同盟でもこちらから同盟国に力を貸すことができない。そんなものすでに国として崩壊していると考えたのだ。それに君も王都やその手前の街を見たのだろう?」
「はい……。」
「なら私より詳しいはずだ。領地の現状を。ならば同盟国の属領となり家と血を存続させる道を選んだ。なに、戦争で負けてとかではなく平和的に友好国へ吸収されるだけだから悪い扱いも受けない。ただ王家を終わらせてしまったというのはさすがに悔しいがな。」
貴族や王家に連なるものとして自分の代で終わらせてしまうのは屈辱だろう。
「だが血が途絶えたわけではない。それに多大な温情を受けた。公爵位として家は残せてもらえたし、なにより隣国との国境沿いの領地はドラゴン討伐者たるそなたの領地となった。偵察はしても怖くて攻められんよ。ハハハ。」
そう、今回賜った領地はキュミケス王国からみて元ケーニゼカ王国の王都跡地よりさらに奥、他国との国境沿いのケーニゼカ領西側一帯だった。東側をケーニゼカ公爵が収める土地とする。
「それにサミュエル殿ならドラゴンの素材で得た資金など復興にまわしてくれると思っている。それに元々資金が余ってると言うではないか羨ましい。それにサミュエル殿は魔術技師でこの国の発展に大きく寄与したとも聞いた。私の領地は減ってしまったがそこに住む人々にとってはケーニゼカ王国のままより助かることばかりだろう。」
なんとも正直な人だ。だけど見栄や地位に固執することなく、元国民のことを考えて辛い決断を下せることに尊敬の念を覚えた。
「これからは良き隣人として頼むよ。あとうちの家訓にも残さないとな。ヴァロワール家は我が家の恩人である。決して手を出すべからず。さもなくばドラゴンを滅した力が降りかかるであろう。とね。」
「それは家訓というより神罰とかその類に聞こえるのですが……。」
「人は年代を跨げば忘れるからな。これくらいがちょうどいいのだよ。」
さすが何代にもわたって国を運営してきた一族である。
「それではこの場を去ろうかね。これからよろしく頼むよ。隣人たる辺境伯殿。」
「こちらこそ、お手柔らかにお願いします。」
「それでは。あ、そうそう。側室が欲しくなったらいつでもいってくれ。妹がまだならいつでも向かわせよう。妹がすでに婚約済みならすまないが10年ほど待ってほしい。すぐに作るからな。」
「勘弁してください。私には一人の女性で満足です……。」
「そうか、妹もまんざらではなかったのだがな。残念だ。それでは今度こそさらばだ。」
ハーレム……男なら憧れないわけじゃないけど俺には無理だ。
それなら一人の女性を全力で愛してみたい。
なんてことを考えると王宮の使用人から声がかかる。
「ヴァロワール辺境伯様。シャーロット殿下がお会いになりたいとのことです。付いてきていただけますか?」
「わかりました。案内をお願いします。」
そういって使用人に案内され、シャーロットのいるサロンへと向かった。
----------
「サミュエル・ヴァロワール。シャーロット殿下のご下命により参上いたしました。」
「お呼び立てして申し訳ありません。本来なら私から今すぐにでも伺いたかったのですが。」
「いいえ、お立場を考えれば当然です。」
「ありがとうございます。どうぞお掛けになってください。」
「失礼します。」
そうして椅子に腰掛けると紅茶が注がれたティーカップが差し出された。
「どうぞ。」
「ありがとうございます。」
そうして一口だけ口に付ける。
やはり美味しい。でも何故だろうなにか違うような……。
「昨日は申し訳ありません。」
シャーロットが急に謝罪をしてきた。サミュエルはなんのことだかわかってなかった。
「私、まさかあの様に望まれるだなんて思ってもいなくて……。そのおかしなことを言ってしまったのではないかと……。」
「ああ、そういうことでしたか。てっきり昨日はなしでという意味での謝罪かと思ってショックを受けかけてました。」
「そんなことはあり得ません!……ではなく、たしかにそう取られてもおかしくない切り出し方でした、そちらも申し訳ありません。」
「いえ、私の方こそ早とちりしてしまいました。」
「それで私、おかしなことはなにも言ってませんでしたでしょうか。気持ちが高ぶりすぎてなにを言ったのかすら曖昧になってしまいまして。」
王族たれと教育を受けてきた人だ。多少のことでは動揺して顔に出さないよう教育されてきたのだろう。それなのに自分のせいで初めての感情の高ぶりで混乱してしまってたのだろうと推察した。
「いいえ、特におかしなことはなにも。ただ……」
「ただ……?」
ゴクリと生唾を飲み込むような音が聞こえた気がした。本当に気のせいだが。
「可愛らしい反応が見れてよかったなと。」
「……っ!」
予想してなかった言葉にシャーロットは顔を赤くする。
(この人はどうして、どうしてこう普段は口下手なのにそういうことが!)
口下手だからこそそういう言葉が本心だとわかってしまう。
「えっと……そ、その様に言っていただき光栄でございます。」
「こちらこそ、お礼と謝罪をしなければなりません。」
「お礼と謝罪?」
そういってサミュエルは本来王女の前に出すようなものではない、所々解れて、汚れてしまった布を取り出した。
「お守りのお陰で、私は最後に勇気を持って前に出ることができました。スカーフで手と武器を結んだからこそ、最後まで武器を落とさずやりきれました。そのお礼です。ありがとうございました。」
お守りとはいえ本当に神のご加護があるわけではない。それでも愛する人の役に立ったことにシャーロットは嬉しくなる。
「そして、頂戴したスカーフをこのように汚してしまった事を謝罪いたします。申し訳ありません。」
王女が手ずから思いを込めた品。それをボロボロにしてしまった。サミュエルはそのことに罪悪感を覚え、謝罪が必要だと思っていた。
「いいえ、謝罪はいりません。むしろサミュエル様のお役に立てたこと、嬉しく思います。それに……お礼も昨日頂いておりますので、そちらも不要です。」
シャーロットと結婚できるなら地位も、名誉も、お金もいらない。
この国のすべての人が注目する場でそう宣言して自分の想いに答えてくれたのだ。
そう言われ今度はサミュエルが顔を赤くする番だった。
「あれはっ……、そのなんというか……、はい……。」
なんとか言葉を返そうとしたが、紛うことなく本心から出た言葉であり、そこに打算すらなかった。だからシャーロットに対してまともな言葉が返せなかった。
シャーロットは仕返しができたと内心思いつつ、これ以上はさすがに可哀想だとも思い話を変える。
「コホン、話は変わりますが、この後はどのような予定を考えているか聞かせていただいてもよろしいでしょうか。」
サミュエルは自分から切り出した話題とはいえ、話を変えてくれたことに助かったと思い、紅茶を一口飲んでから答えた。
「そうですね。拝領したからには運営をしないといけません。なので各地に触れを出し、逃げた人たちにもどってきてもらうべきかなと。あと領主の屋敷とかも用意しないとですね。なので安定するまで時間はかかりそうです。」
「それがよろしいかと存じます。家の切り盛りなら私ができますが、領地の経営となると男性の仕事になります。ですがサミュエル様はあまり得意ではないかと思われます。」
「そのとおりです。ギルバートが付いてきてくれるので頼りにはなるのですが、彼一人では負担が大きすぎて……。」
「でしたらノアお兄様に人手を斡旋していただくのはどうでしょうか。」
「それは…いいんでしょうか?」
「いいんです。今回私たちを見て一人で一番楽しんでらしたのですから。これくらいしてもらっても罰は当たりません。」
たしかにノアの手のひらで踊らされていたとサミュエルは考える。
しかし結果的に自分たちの幸せを考えてくれての行動だったから悪くは言えない。
「まあ紹介してもらうだけなら……ありですね。」
そんな実務的な話をしばらくしてると話は自分たち自身の今後のことになる。
「ところで……式はいつ頃にしますか?」
「さすがに式を上げてしまうと私も王宮をでなければならなくなってしまいます。なのでせめて屋敷ができてからでないと困ってしまいます。」
「たしかにそれは困りますね。結婚してすぐに宿暮らしというわけにはいきませんし。」
「それに……早く世継ぎを……」
シャーロットが顔を赤くしながらそんなことをボソっと呟く。
(よつぎ……余つぎ?……世継ぎ!?)
「い、今のは聞かなかったことにしてください!」
「わかりました。」
シャーロットはほっとする。がシャーロットへの返事ではなかった。
「最優先で屋敷が建設できるよう工房を総動員させます。」
愛を知らなかった男は、愛のためなら全力を尽くす男になっていた。
「いえっ!ですから!いえ、もういいです……。」
シャーロットは空になったサミュエルのティーカップを見て、おかわりのお茶を淹れてくれた。
「あ、すみません、おかわりまで。ありがとうございます。」
「いえ、これは私が好きでやってることですのでお気になさらないでください。今ではお茶を淹れるのが趣味になってますので。」
「そうだったんですね。でもどうして。」
「それは……好きな人が美味しそうに飲んでくれるのが嬉しくて……と申し上げたら、どう思われますか?」
再度こちらが顔を赤くさせられる番だった。
「それは……その……大変光栄ですっ……。」
そういって淹れてくれたお茶に口をつける。
(やはり美味しい……だけどこれは……。)
「あの、一つ伺ってもいいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「茶葉変えられましたか?同じ味なのになぜだか前淹れていただいたのと味が違う気がして……。いえ前より美味しくなってる気がして。」
そう言われてシャーロットは笑みを浮かべた。
「フフッ、茶葉は変えてませんよ。でも前より美味しく……ですか。嬉しいですね。」
「嬉しい?」
確かにお茶が趣味で腕が上達したのなら嬉しいだろう。だが今のニュアンスはそういう感じではなかった。
「誰かのために淹れると、お茶って美味しくなるんです。少なくとも私はそう思って淹れています。」
想いが通じ合った今、その言葉の意味を理解するのは難しくなかった。
「前より美味しく感じたというのは……きっとそういうことなんだと思います。」
「ハハ、たしかに私じゃ絶対に淹れられない味というわけですね。」
そう言うと、また一口紅茶に口をつけた。
今日のお茶はいままでで一番美味しい。
きっと、次のお茶はさらに美味しくなっていることだろう。
完
ここまで読んでいただきありがとうございます。
短編ですがこれにて完了です。
まだサミュエルの話は続きますが。これにて一旦終了となります。
元々長編で考えていたものですが、初めての投稿でいきなり長編は無謀だということで自分がこういう話を書きたいと思える部分の一部を吸い出して書き上げました。
ガバガバプロットでは2~3万字の予定でしたが書くのが楽しくて2日で4万字まで増えてしまいました。
これを機に長編のほうに着手できればなと思います。
感想やレビュー、評価お待ちしております。




