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国から捨てられた伯爵令嬢は南国で売られる  作者: 青空一夏
本編

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4/6

 ヴァルデン公爵家の厨房ではシェフ(料理長)やコックたちが最初こそ驚いたが、雪の食器の便利さや、雪をふんだんに料理や食べ物の保存に利用できることを喜んだ。


「よしスノア、今日もデザートを頼んだよ! 雪食器も多めに作ってほしい」

 シェフ(料理長)がテキパキと指示を出す。


「はい」

 スノアは短く返事をすると、せっせと手を動かした。ここでもスノアはよく働いた。


(これからどうなるかわからないけれど……今いる場所で精一杯頑張るしかないわ)


 ヴァルデン公爵家の使用人たちはスノアに優しく、ヴァルデン公爵夫人も娘のように可愛がってくれる。そんな日々が続くうちに、スノアは次第に明るい気分になっていくのだった。





 そんな折、ひょこっと金髪の青年が何の前触れもなく、厨房に顔を出した。


「やぁー、みんな! お菓子を作りに来たよー」


 不思議なことに、厨房の誰も彼を追い払わない。

 むしろ当たり前のように場所を空けたり、材料を差し出したりしている。


「君かい? 雪を降らせる珍しい子って? ……俺に見せてほしいなぁ」


 青年の青い瞳がきらきらと輝き、スノアは頷いた。雪をイメージしながら手を前へ差し出すと、手のひらの上だけに白い粒がふわりと降り積もった。


「すごく不思議な魔法だね。外だけでなく室内でも雪を降らせるなんて……聞いたことがないよ。氷菓――アイスやジェラートにぴったりだ。君の名前は? 俺のお菓子作りを手伝ってほしいな」


「は、はい。スノアです。よろしくお願いします。少し前から、こちらでお世話になっています」


「スノアか……銀髪と銀の瞳にぴったりだね。俺はアレクシス。アレクでいいよ」


 アレクは器用に生クリームを泡立てながら続けた。


「氷より贅沢なんだよ、雪って。だって溶けやすいし、ふわっとしてて形も保てないだろ? あの状態のまま常夏の国に持ってくるなんて、ほとんど不可能なんだ。氷の方がまだ運べるくらいさ。だから雪は、この国じゃ宝石みたいに価値がある。君は誇っていいんだよ」


 アレクは午前中いっぱいヴァルデン公爵家にいて、どこかへ帰っていく。


「アレクはどういう人なんですか?」

「公爵夫人の親戚だよ。よく厨房に遊びにくるんだ」

 コックたちが気軽に教えてくれた。


(なるほど……親戚なのね……)


 アレクは週に二度ほど厨房へ現れ、そのたびにスノアを巻き込んでは、新しいお菓子を試した。彼のお菓子に雪が使われるのは、いつしか当然のことになっていた。そうして二ヶ月が過ぎた頃には、アレクと過ごす時間は、スノアにとって密かな楽しみになっていた。


 

 その日もスノアは厨房で、雪皿の上にメロンや桃、葡萄などを丁寧に盛り付けていた。隣ではアレクが、果物に添える生クリームやプディングを黙々と作っている。


「最近はここに来るのが、前よりずっと楽しみだ」


 そう言って笑うアレクの金髪が、陽光を浴びてキラキラと輝く。

 その時、厨房の扉が控えめに叩かれた。アレクがいつも伴っている騎士が、遠慮がちに声をかけた。


「失礼いたします……殿下。王宮に戻られるお時間でございます」


 スノアの手が止まった。

 アレクは迷惑そうに眉を寄せる。


「もうそんな時間なのかい? まだいいだろう、あと少しくらい」


(殿下……? 今、殿下って言った?)

 スノアは疑問を抱えたまま動けなかった。


 騎士は一礼して下がろうとしたが、ふとアレクに身を寄せ、声を潜めた。

「王妃様から、“第二王子として遅れるな”と念を押されておりまして……早くしてくださいよ」


 今度は、はっきりと聞こえた。


(アレクは王族だったんだ)


 血の気が引いていく。これまで気軽に“アレク”と呼んでいた自分が急に恥ずかしくなる。


「も、申し訳ありませんでした。まさか第二王子殿下とは知らず……気軽に愛称でお呼びしておりました」


「ああ、気にしなくていいよ。伯母上には子どもがいないから、将来ヴァルデン公爵家を継ぐのは俺なんだよ。スノアはそのままずっと、俺をアレクと呼んでくれ」


 ここへ来ているのはヴァルデン公爵から領地経営を学ぶためで、お菓子作りは気晴らしだと軽く言いながら、アレクは優雅に立ち上がる。扉に手をかけたところで、くるりと振り返った。


「そのデザートは伯母上と一緒に食べて。……また明日ね、可愛いスノア」


 扉が閉まる。氷皿のプディングが、ぷるんと揺れた。


(か……可愛い、スノア……?)


 アレクは王族で、でも私にとってはただの“アレク”だ。

 そして、その名前で、これからも呼んでいいと言われた。


(……これからもずっと? ……ここにいていいの……?)


 雪を扱う手は冷たかったけれど、心はどこかほんわかと暖かかった。


 


 ――――――End――――――



 この先、ざまぁ番外編となります。

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