無能の子
アンク村で、
ソルは最初から、数に入っていなかった。
剣を持てない。
魔法も使えない。
祈りに応えられたこともない。
七日で死ぬ子供たちの隣で、
彼だけが――残った。
「無能の子」
それは蔑称だったが、
訂正されることもなかった。
ソル自身も、
それを否定しなかったからだ。
一日目。
彼は、自分の誕生日を覚えていない。
七日で死ぬ子供たちとは違い、
刻む必要がなかった。
「……今日も、生きてる」
それだけで、
一日が始まる。
二日目。
丘に行く。
いつもの場所。
ここには、
多くの“七日”が来て、消えた。
剣の重さ。
諦めなかった手。
嘘をつかない痛み。
否定された祈り。
震えたまま立つ感覚。
疑い続ける視線。
全部、ここにある。
――自分の中に。
三日目。
村人は、ソルを避ける。
理由は明確だった。
「死なない」
それは、
祝福ではなく、異物だ。
「なぜ、あの子だけ……」
答えは、誰も知らない。
神すら、測れない。
四日目。
ソルは、気づいていた。
七日で死ぬ子供たちは、
皆、**“完成品”**だ。
完成しているから、
終わりも早い。
自分は違う。
未完成で、
未定義で、
だから――
回収されない。
五日目。
夜、
丘で“声”を聞いた。
低く、重く、
胸の奥を直接叩く声。
――覚えているか。
ソルは、即座に理解した。
「……邪王」
逃げなかった。
震えもしなかった。
理由は単純だ。
――逃げる力も、抗う力も、ない。
だから、
立ったまま、聞いた。
――力を、欲しいか。
ソルは首を振る。
「いらない」
――神を、憎んでいるか。
「……分からない」
正直な答えだった。
邪王の魂は、
しばらく沈黙した。
――ならば、何を望む。
ソルは、考えた。
剣を振ること。
魔法を使うこと。
奇跡を起こすこと。
どれも、
自分にはない。
だから――
「同じ場所に、立ちたい」
声は、震えていなかった。
「上も下もなく」
「勝ちも負けもなく」
「逃げ道もなく」
邪王の魂が、
初めて、言葉に詰まった。
――それは、無力だ。
「うん」
ソルは頷いた。
「それしか、ない」
六日目。
邪王の魂は、
ソルに“触れた”。
完全な憑依ではない。
重なり合うだけだ。
神の分身では、耐えられない。
完成しすぎているから。
だがソルは、違う。
未完成。
空白。
余白。
――入る“場所”がある。
七日目。
村に、異変が起きた。
神殿の鐘が、鳴らない。
祈りが、届かない。
神の観測が、
ソルを中心に、歪む。
邪王の魂が囁く。
――力を解放しろ。
ソルは、首を振る。
「解放しない」
代わりに、
広げた。
自分も。
邪王も。
同じ高さへ。
同じ重さへ。
同じ弱さへ。
それは能力ではない。
現象だ。
〖無力〗
相手を弱くするのではない。
自分が強くなるのでもない。
――すべてを、等しく無力にする。
邪王の魂が、
初めて、恐怖を知った。
――なぜ……!
「分からないから」
ソルは、静かに答えた。
「分からないまま、立つ」
丘に、風が吹く。
ここにあるのは、
集められた七日間。
積み重ねられた未完成。
神も、邪王も、
この場所では――
特別ではない。




