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七日の村  作者: たなか
6/7

祈りを否定する神官

アンク村で、

神官は最も早く絶望し、最も遅く否定する。


神を信じるという行為が、

この村では最初から歪んでいるからだ。


その日、生まれた子の名はノア。


彼は目を開いた瞬間、

自分が“神に近い役割”を与えられたことを理解した。


祝福。

祈祷。

導き。


――神は、ここにいる。


それが知識として、最初から流れ込んでくる。


一日目。


ノアは祈った。

生まれた意味を、問わなかった。


「神は、最善を選ぶ」


それが前提だった。


二日目。


村人の前で祈祷を行った。

言葉は整い、声は澄んでいる。


皆、頭を垂れた。


――祈りは、人を落ち着かせる。


それは事実だった。


三日目。


墓地で祈った。

七日で終わった者たちの前で。


「神よ、彼らの魂を――」


そこで、言葉が止まった。


魂は、どこへ行く?


神は、回収しているだけではないのか?


四日目。


ノアは、神殿の奥で古い記録を見つけた。


呪いが発動した年。

生まれ、死んだ子供の数。


――多すぎる。


「……試作品?」


その言葉が、頭をよぎった。


神は、祈られているのではない。

管理している。


五日目。


ノアは祈れなくなった。


言葉を紡ぐたび、

それが“命令文”に見えてしまう。


「救え」


「導け」


「回収せよ」


丘で、ソルに会った。


「神官なのに、祈らないの?」


「……祈りが、

お願いじゃない気がしてきた」


ノアは言った。


「最初から、

決まった結果に向かわせる手段だ」


ソルは、静かに聞いていた。


「それでも、祈る?」


六日目。


ノアは、神殿で最後の祈りを捧げた。


だが、それは神に向けたものではなかった。


「もし、神が正しいなら」


声が震える。


「この村は、間違っている」


その瞬間、

胸の奥が、すっと軽くなった。


――否定したのだ。


神を。


七日目。


身体が、光に溶け始める。


丘で、ソルに言った。


「神は、答えない」


「うん」


「だから――」


ノアは、最後に微笑んだ。


「問い続けろ。

祈るな。考えろ」


消えた後、丘に残ったのは、

否定された祈りと、

問いを引き受けた無力な少年だった。


空の向こうで、

何かがわずかに、軋んだ。


神が、

初めて“見られた”気がした。


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