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七日の村  作者: たなか
3/7

剣を捨てた少年

アンク村では、

二日目が一番、残酷だ。


一日目はまだ、理解の中にいる。

死は概念でしかない。


だが二日目になると、

身体が動き、世界に触れられる。


――そして気づく。

「この世界は、生きる価値がある」と。


その日、生まれた子の名はエルド。


生まれた瞬間、彼は剣を求めた。

それは知識ではなく、衝動だった。


「戦える。いや、戦うために作られている」


筋肉の張り、重心の安定、反射神経。

剣を握った瞬間、彼は理解した。


――自分は、強い。


一日目。

木剣で村の大人を圧倒した。


二日目。

本物の剣を与えられた。


「君は、勇者の再来だ」


誰かが言った。

その言葉は、毒だった。


エルドは笑った。

誇らしかった。


「なら、邪王を倒せますか?」


そう聞かれて、即答した。


「当然だ」


その夜、丘に行った。

そこに、ソルがいた。


「君が、無能の子?」


エルドは悪気なく聞いた。


「そうだよ」


ソルは否定しなかった。


「不思議だな。君、弱いのに、怖がってない」


「怖いよ」


ソルは言う。


「でも、剣があっても、なくても、怖さは同じだから」


エルドは理解できなかった。


「剣があれば、勝てるだろ」


ソルは首を振った。


「勝てる“相手”しか、見えなくなる」


三日目。


エルドは剣の稽古を拒んだ。


「もう十分だ」


師は戸惑った。


「なぜだ?」


「この剣は、俺を強くしない」


剣は振れば勝てる。

だが――


考えなくなる。


四日目。


エルドは素手で戦った。

負けた。

何度も負けた。


だが、そのたびに考えた。


間合い。

視線。

恐怖。


五日目。


丘で、再びソルに会う。


「君、剣を捨てたんだって?」


「捨てたんじゃない。預けただけだ」


エルドは息を整えながら言った。


「力は、考えるのを止めさせる」


「……それ、リィンも言ってた」


ソルの声が、わずかに震えた。


六日目。


エルドは、村を守った。


剣なしで。

魔法なしで。


逃げる判断。

守る判断。

捨てる判断。


全てが、遅い。

だが、正確だった。


七日目。


丘で、エルドはソルに剣を渡した。


「使うな」


「え?」


「使わなくていい。ただ、重さだけ覚えろ」


身体が、光に溶け始める。


「俺は、強かった。でも――」


最後に、少年は笑った。


「考えられなかった」


消える瞬間、彼は言った。


「ソル。

同じ場所に、立て」


――また一人、七日で終わった。


ソルの手には、

使われなかった剣の重さだけが残った。


それは後に、

邪王の魂を“同じ場所”に引きずり下ろすための、感覚となる。

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