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七日の村  作者: たなか
2/8

七日で完成し、七日で終わる

アンク村では、時計が役に立たない。


必要なのは、七日を刻む印だけだ。


その朝、生まれた子供は泣かなかった。

理由は単純で――理解していたからだ。


自分が、七日で死ぬことを。


「……目を開けた瞬間から、全部分かるのね」


少女は自分の声に驚きもしなかった。

声帯は完成している。

思考も完成している。


名は、リィン。


村人は彼女を祝福しない。

哀れみもしない。


ただ、日付を記す。


一日目。


墓地を見た。

数は、把握できなかった。


人の脳は、本来“自分の死”を想定していない。

だが彼女は、最初からそれを前提に作られている。


「……多すぎるわ」


言葉は冷静だった。

感情は、追いついていなかった。


二日目。


剣を振った。

身体は即座に最適解を選ぶ。


強い。

だが、“必死さ”がない。


「君は才能がある」


剣士はそう言ったが、

リィンは首を振った。


「才能じゃない。初期設定よ」


三日目。


魔法を学ぶ。

術式は理解できる。


だが、魔力を“深める時間”がない。


「君は正確すぎる」


魔導士は褒めた。

それは裏を返せば、遊びがないということだ。


四日目。


治癒。


血を止め、肉を繋ぐ。

だが、命そのものを掴めない。


「救えない命もある」


教官の言葉に、リィンは答えなかった。


――救えない命しか、ここにはない。


五日目。


丘で、少年に会った。


年相応。

未完成。

知識も、力も、不足だらけ。


「君、誰?」


「ソル」


彼は土に座り、空を見ていた。


「七日目は?」


「来ない」


リィンの思考が、わずかに乱れた。


「……神の分身じゃないのね」


「たぶんね」


彼は気にしていない様子だった。


「無能って呼ばれてる」


「……それで、怒らないの?」


「怒っても、何も変わらないから」


その言葉は、奇妙な重さを持っていた。


六日目。


リィンは理解する。


――この村の子供たちは、

――“神の分身”であるがゆえに、

――神に回収されている。


「私たちは、使い捨て」


丘で、ソルに言った。


「完成した部品は、役目が終われば処分される」


ソルは黙って聞いている。


「ねえ、ソル。君は怖くないの?」


「……怖いよ」


初めて、彼の声が揺れた。


「皆が死ぬのに、僕だけ生き残るのが」


「それでも、逃げないのね」


「だって――」


彼は地面を握りしめる。


「覚えてないと、皆、本当に死ぬから」


その瞬間、リィンは悟った。


――この少年は、

――力がない代わりに、

――“終わらない時間”を持っている。


「お願いがある」


リィンは言った。


「私の七日を、受け取って」


剣の理屈。

魔法の考え方。

治癒で“躊躇する理由”。


技術ではない。

精神の積み重ね。


七日目。


身体が、光に変わる。


「ソル」


「うん」


「君は無能なんかじゃない」


「……知ってる」


「いつか、邪王の魂が目を覚ます」


ソルは、はっと顔を上げた。


「その時――

力で戦うな」


光が薄れる。


「同じ場所まで、引きずり下ろして」


最後に、彼女は微笑んだ。


――また一人、七日で終わった。


だが、呪いは完全ではない。


神の分身でも、勇者でもない、

無力な少年が、すべてを受け取ったからだ。


丘に立つソルの影が、夕日に伸びる。


その影は、

やがて神と邪王、両方に届く。


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