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七日の村  作者: たなか
11/11

一日の村

アンク村は、

その日から名前を失った。


正確には――

意味を変えた。


七日で死ぬ村。

完成して生まれ、回収される村。


その定義が、

音もなく崩れたからだ。



八日目を迎えた子供は、

泣いた。


理由は、

自分でも分からなかった。


身体は、急に衰えない。

知性も、消えない。


ただ――

「続いている」ことだけが、

理解できなかった。


「……生きてる」


それは、祝福ではなかった。

奇跡でもない。


仕様変更だった。


神の観測が、止まったままだから。



村は混乱しなかった。


それが、

最も異常だった。


人は、

七日で死ぬ準備には慣れていた。


だが、

生き続ける準備は、

誰もしていなかった。


「畑は……?」

「子供は……?」

「学校は……?」


答えは、ない。


未来という概念が、

この村には存在しなかったからだ。



丘で、ソルは一人立っていた。


邪王の魂は、もういない。

神の視線も、届かない。


だが――

彼は勝ったわけではなかった。


「……終わった?」


誰かが、背後で呟く。


振り返ると、

八日目を迎えた子供たちが立っていた。


リィンはいない。

エルドも、ミレアも、カイも、ノアも、フィオも、ラゼルも。


彼らは戻らない。


「終わってないよ」


ソルは、正直に答えた。


「始まっただけ」



村の大人が、恐る恐る聞いた。


「……神は?」


ソルは、考えてから言った。


「多分、まだいる」


ざわめきが起きる。


「でも――」


彼は続けた。


「もう、

僕たちを数えてない」


神は滅びていない。

否定されたわけでもない。


ただ、

関与できなくなった。


測れないものに、

管理はできないからだ。



「じゃあ、邪王は?」


「いない」


「倒したのか?」


ソルは首を振る。


「同じ場所に立っただけ」


勝ち負けではない。

上下を、消しただけだ。


力を奪ったのではない。

力を“意味のないもの”にした。



村の名前が、

その日、書き換えられた。


「七日生命村」でも、

「呪われた村」でもない。


ソルが、ぽつりと言った名前。


「一日生命村」


「……一日?」


誰かが聞き返す。


「うん」


ソルは、丘の下を見た。


畑。

家。

人。


「一日ぶんしか、

生き方は決められないから」


七日先も、

百年先も、

誰にも保証されていない。


それは、この村だけの話じゃない。


「だから、

一日生命」



その夜、

ソルは丘を離れた。


誰にも、別れは告げなかった。


理由は簡単だ。


――役割が、終わったから。


彼は勇者ではない。

王でも、神でもない。


無力なまま、

同じ場所に立っただけの存在。


村は、

彼を引き止めなかった。


引き止める理由も、

資格もなかった。



丘の上には、

もう誰もいない。


だが、

確かに残っている。


剣を振らなかった理由。

諦めなかった手。

嘘を拒んだ痛み。

否定した祈り。

震えたまま立った足。

疑い続けた視線。


七日で終わった命が、

未来を奪われなかった証。



アンク村は、

今日も一日を生きる。


明日を約束されないまま。

だが、

奪われることもなく。


それで、十分だった。


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