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プロローグ
邪王は、負けた。
剣が胸を貫いた瞬間、痛みはなかった。
あったのは、理解だけだ。
――人は、神に選ばれた者を“勇者”と呼ぶ。
アンク村で生まれたその男は、最後まで自分を見下ろしていた。
力の差ではない。
魂の在り方が、違った。
「……神の犬め」
邪王は、血を吐きながら笑った。
自分は世界を憎んだ。
神に与えられなかったことを、拒絶されたことを。
だが、勇者は違った。
与えられた使命を疑わなかった。
だからこそ――
村そのものが、憎かった。
「ならば、祈りの形を壊してやろう」
邪王は最後の力で、呪いを刻む。
――勇者を生んだ村よ。
――お前たちの“完成”を、祝福してやる。
生まれた瞬間から、完成した身体と知性。
努力も、迷いも、成長も不要。
だが代わりに、
時間だけは与えぬ。
「完成した命は、腐るのも早い……」
邪王は死んだ。
しかし呪いは、村に根を下ろした。




