表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

五輪 再会

 大学も4回生になり、残るはゼミだけとなった。今はバイト漬けの毎日である。

 就職はしないことにした。俺は花屋を開業することに決めていたからだ。念のため大手コンサルの内定を3年の冬に得ていたが、辞退するつもりだ。

 花屋の開業資金には300万ー700万ほど必要と聞いた。700万はさすがに足りないが、300万は貯金できていた。銀行に融資をしてもらう必要があるため、計画を立てていた。

 そんなことを考えていたら、声を掛けられる。「只野君。この花外に出してもらってもいいかな?」と女性に声を掛けられる。

「わかりました!」と返事をし、指示に従う。俺は花屋でバイトをしていた。声をかけてきた女性は店長だ。おそらく20代だろう。茶髪のショートヘアーの似合う素敵な女性だった。頼もしいときは年上に感じるが、頼られたときは年下に感じる。俺とそんなに変わらないのかなと思うときもある。

「ありがとう!只野君が来てもう4年目かぁ。すごく助かってるよ」と店長が言う。俺は大学入学と同時にこの花屋でアルバイトをしているのだ。

「ありがとうございます。店長の教え方が上手なんですよ」と返事をした。

「最初は散々だったもんねぇ……やってけるか心配だったけど、今じゃ頼りがいがあって嬉しいよ」と店長が俺に言う。相変わらずバイトはうまくいかなかったが、時間が解決してくれた。花屋開業前に勤めておいてよかったと心から思った。

「只野君就職どうするの?」と店長が質問する。

「コンサルの内定は得てますけど、俺は花屋を開業します。俺の、夢なんで」と返した。俺の夢と言う際、一瞬言いよどんでしまった。正確には桜の夢をかなえるのが夢だからだ。

「素敵!でも、花屋の開業はすごく大変だよ?大丈夫?」と店長に心配された。経験者だからわかるのだろう。

「覚悟の上です。なので、その辺の話を詳しく教えてくれませんか?」と店長に質問する。店長は「わかった!準備するね!」と言いながら花を運ぶ。

 それからお店を閉めてからは開業についてみっちり教えてもらうことになった。


 今日は桜の誕生日だ。桜の咲いているこの時期に誕生日なのは名が体を表すといったところだろうか。そんなことを思いながらケーキを買って帰っていた。今日はいつもとは違う道を通っていた。少し歩くと母校の高校が見えてきた。桜の誕生日には必ずここを通る。

 始まりの場所だ。俺の人生のスタート地点。桜には人生を大きく変えてもらった。桜がいなければ俺はだらしなく生きていただろう。自信がある。

 母校を後にし、桜のことを想いながら帰路に着く。すると、そこには初めて見る花屋があった。【花屋 花心】と書いてあった

「こんなところに花屋なんてあったかな」なんて思いながら桜にお供えする花を買って帰ろうと思い、立ち寄ることにした。

「いらっしゃいませ!」と元気の良い女性の声が聞こえた。なぜか懐かしい響きで驚いたが、花に集中していた俺は一旦忘れることにした。

 買う花を決め、「すいません」と店員さんに声をかける。「はーい!」と元気よく返事をされる。また懐かしい響きだった。

 そして店員さんが俺の前に現れた。その時、俺は持っていたケーキを落としてしまった。俺は店員さんを見るなりつい口にしてしまった。

「……桜?」と。

 

 ――エピソード??? 回想――

 今日は妹の誕生日だった。この日はケーキを買い、花をプレゼントするのが毎年の恒例行事だった。

 妹は花がとにかく好きだった。高校生のときなんて、学校の花壇を休みの日まで毎日世話していたくらいだ。

 妹はおとなしい性格だったが、ある日から少し活発になった気がする。それも高校の時だ。ある日を境に少し緊張した、でもすごく楽しそうな表情で学校へ行くようになったのだ。恋でもしたのかなと思ったが、妹が自分の口で言うのを待った。

 そして本当に恋人ができたらしい。写真を見せてもらうと、写っていたのは冴えない男子だったが、誠実そうな男子だった。プロポーズされたと聞いて、驚いた記憶がある。

 おめかしをしてほしいと頼まれたので、私は精一杯のおめかしを妹にした。見違えるほど妹は可愛くなっていた。

 両親には内緒にしてくれと頼まれたので、スイーツをおごってもらうことで承諾した。私は甘いものが大好きだからだ。後日、でっかいパンケーキを2人で食べたのを思い出す。

 ある日、妹が倒れた。白血病だった。突然余命1カ月と宣告されていた。最近は貧血で辛そうだったが、まさかこれが原因なんて誰が思うだろう。

 妹へ会いに彼氏が毎日訪れていた。私は邪魔しないように、かぶらない時間に見舞いへ行っていた。聞く話によると、東京からすべてを投げ出して大阪に来たらしい。常軌を逸していると思った。だが、同時にうらやましいとも思った。妹はそれだけ彼に愛されていた。

 ICUにいる妹の見舞いに行ったとき。妹から2つ、最後のお願いをされた。いまだにそれはかなっていないし、私には荷が重かった。

 余命宣告から1か月もしないうちに妹は亡くなった。余命の1か月を生きることがかなわなかった。私は悔しかった。何もできなかった自分が。しかし、だれよりも悔しそうな顔をした男がいた。彼だ。彼はその場の誰よりも泣いていた。

 葬儀が終わり、彼と両親が話していた。私も同席した。

 やはり冴えない。そう思ったが、心なしか写真で見た時よりも垢ぬけていた気がする。泣いたからかなと私は思ったが違った。

 彼は妹の夢のために生きるといった。泣いたからではない、彼は決意が固まったから、私は彼が垢ぬけて見えたのだろう。そんな彼を見て、妹の夢を思い出した。花屋さんだ。私は花に興味はなかったが、妹が生きた証を残したいと思い花屋になることを決意した。

 それから紆余曲折ありながら、花屋を開業した。大学で経営学を学び、独学で花についても勉強した。私は妹と違って勉強はできない。でも、天国で見ている妹のためを思うと力が湧いた。苦手な勉強を何とかこなして大学を卒業。銀行の融資に時間がかかってしまったため、時間はかかったが今日開業することができた。妹の誕生日である今日に。

 初めてのお客さんが来た。垢ぬけた大学生って感じの男性だ。

 とりあえず元気よく「いらっしゃいませ!」と言った。男性は少し驚いたような顔をしていたが、花に夢中だった。ずっと花を見ていた。学生時代に花屋でバイトをしていたが、その期間中に見てきたお客さんの中で彼を超える夢中さを見たことがない。よっぽど花が好きなのだろうと思った。

 少しすると「すいません」と声が聞こえた。私は「はーい!」と言いながら彼のもとへ赴く。

 すると彼は手に持っていたケーキが入っていそうな箱を地面に落とした。どうしたのだろうと思ったが、彼は衝撃の一言を放った。

 「……桜?」と。それは妹の名前だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ