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二輪 勇気

 テストが終わり、月曜日になる。いつもなら憂鬱になる日だが、不思議と憂鬱にならなかった。花野さんの「また来週!」が今週だからだろう。それほどに破壊力のある一言だった。

 そんなことを思いながらテストを受けとる。国語98点、数学72点、英語100点と満足な結果だった。国語はケアレスミスがあれど、内容は間違っていないので満足。数学は苦手なので平均点65点を超えたから満足、英語は普通に満足である。

 もうすぐ放課後だ。最近は放課後が楽しみで学校に通っている。つい最近まで何の楽しみもなかった自分を思い返すと、すごく変な気持ちである。

 ホームルームを終え、優斗が「部活行ってくる!」と元気に告げて去っていく。テスト期間が終わり、公式に部活できるのが嬉しいのだろう。彼の目には一点の曇りもなかった。

 放課後になり、しばらく自席で待つ。花野さんがくるのを待っているのだ。自分でも驚きだが、花野さんと話すのを楽しみにしている。楽しみのなかった人生が1人の少女の存在で楽しみに変わっていた。

 しばらくすると、花野さんが花壇に現れた。相変わらず可愛らしい姿に、僕は見惚れていた。僕はこの人が好きなんだとようやく理解した。

 花野さんがこちらを見ると、僕がいるのに気づいて笑顔で「こんにちは!」と声をかけてくれる。嬉しかった。だが、表に出すのは恥ずかしかったので、極めていつも通り「こんにちは」と返した。

 そこからは今日帰ってきたテストの点数を教え合った。花野さんは全て100点を取ったらしい。自分が喜んでいた点数を凌駕していて、少し悔しかった。

 花野さんは僕のテストの点数を褒めてくれた。理系が苦手と話していたので、平均を超えていること、文系科目が高水準であることを素直に褒めてくれたのだ。

 僕は「ありがとう」と返した。悔しさを隠したつもりだ。しかし、彼女にはお見通しらしく「悔しそう」と返された。なぜ分かるんだろう。

「全部100点の人に点数伝えるのは悔しいよ?!」と全力で返した。本音である。しかし、花野さんは「平均超えてること自体すごいんだよ!誇ろう!」と強者の余裕を見せてきた。彼女の純粋さを際立たせていた。

「花野さんみたいに万能だったらな……」と返した。無意識に返してしまった。しかし彼女は「勉強してますから!」とドヤ顔で返してきた。僕も勉強してるんだけどな……。

 そんなやりとりをテストが返ってくる間していた。


 明日から夏休みだ。みんな待ち侘びたであろう夏休みである。僕は待ち侘びていた。宿題はあるが、それ以外何もしなくても良い。これだけ嬉しいことはない。

 しかし、1つだけ懸念点があった。花野さんとのお話の時間がなくなることだ。放課後に話していた僕らは、学校が休みになると話す機会がなくなってしまう。花野さんと話すのが唯一の楽しみだった僕にとっては緊急事態である。

 そんなことを考えているといつの間にか放課後になった。放課後は待ち侘びた時間である。しかし、明日からは放課後がない。それが悲しかった。

 しばらくすると、花野さんが現れた。真っ先にこちらを見て、僕の姿を見て笑顔になった。そんな彼女が愛おしかった。

「只野くん!明日から夏休みだね!」と花野さんが話しかけてきた。とても可愛らしい笑顔をしていた。

「そうだね。でも、少し億劫なんだ」と返事をする。嬉しいと返すつもりが、億劫と返してしまっていた。やばいと思いつつ、彼女の反応を見た。不思議そうにしていた。

「どうしたの?」と不思議そうに聞いてきた。僕の気持ちは僕だけが抱えているのかなと少し頭を抱えそうになる。

「明日から花野さんと話ができないのを考えたら、少し寂しくて」と返した。本音をそのまま口に出してしまうほど余裕がない証拠である。もうどうにでもなれと思いながら花野さんの返事を待つ。彼女は何かに気づいたように「そういえばそうだね!」と返す。もしかして気づいてなかった?などと思った僕である。天然なのかな?

「それは緊急事態だね!どうしよっか?」と返す花野さん。多分答えを持っているだろう、あざとさに気づかない僕はストレートに返す。

「連絡先を交換して欲しい」と。

 花野さんは笑いながら「もちろん!交換しよ!」と言ってくれた。彼女は元々そのつもりだったのだろうが、僕はそんなことに頭も回らない。ただ嬉しかった。

 連絡先を交換し、再び雑談に花を咲かす。すごく楽しかった。たぶん僕は今、頭が回っていない。

 気づけば日が暮れようとしていた。それに気づいた花野さんが「あ、こんな時間だ、話しすぎちゃった」と彼女が告げる。それは僕との雑談が楽しかったのだろうかと期待してしまう一言である。

「じゃあ、またね!バイバイ!」と花野さんが僕に別れを告げる。僕も「バイバイ!」と手を振りながら伝えた。

「またね」か。そんなことを思いながら帰路に着いた。帰宅中、携帯から着信音が鳴る。普段は両親か優斗からしかならない携帯だが、今日以降は違う。花野さんからも鳴るのだ。慌てて携帯を見る。

【件名:花野桜です!

 いつも放課後に話してくれてありがとう!おかげで毎日楽しくお花のお世話ができてます!これからもよろしくね!】

 と花野さんからの連絡があった。

 僕は嬉しすぎて、すぐに

【只野人志です!こちらこそ毎日ありがとう!僕も毎日が楽しいです!これからも一緒にお話ししたい!】

 と返した。文の校正など一切していない、真実をそのまま伝えたのだ。

 僕は笑顔で家に帰り、無事両親に気持ち悪がられてその日を終えた。


 それから毎日連絡を取り合うようになった。花野さんは夏休みも花壇の世話をしているらしく、毎日登校しているらしい。それほどまでに花が好きなのだろう。僕は何もしていない。宿題を初日に済ませて、花野さんの連絡を待つだけの日々である。自分で思うが、他の人目線だと気持ち悪いだろうなと思う。しかし、それが楽しみなほど彼女に惚れていた。自分でもその自覚があるほど彼女のことが好きだった。

 2週間ほどたったある日のことである。

【件名:只野くんへ

 大事な話があるので、明日学校でお話しできませんか?】

 と連絡があった。

 僕は何だろう?とは思いながらも、

【分かりました。明日学校で話しましょう】

 と返した。彼女からはすぐに、

【ありがとう。明日の13時にいつもの場所で】

 と返ってきた。何だか怖かったが、明日にならないとわからない。考えても仕方ないので、寝ることにした。明日花野さんに会えるのを楽しみにしながら。


 翌日、僕は学校に来ていた。今日は花野さんと学校でお話しする約束をしている。詳しいことは聞いていないが、30分ほど前には教室についていた。

 そして、花野さんはすでにいつもの場所にいた。少し悲しそうな顔をしながらお花に水をあげている。

「花野さん!」と僕が声をかけると、花野さんは笑顔でこちらを向き、「只野君!えっと、早くないですか?!」と驚きの声を上げる。

「それは花野さんもだよ!」と返し、おかしくなって2人で笑ってしまった。


「それで、どうしたの?」と僕は花野さんに尋ねた。率直すぎるかとも思ったが、僕自身気になって仕方がなかった。

「うん、えっとね」と言いづらい感じで言葉を紡ぎだしている。僕は告白とかではないなと一瞬で悟った。少し期待してしまった僕が恥ずかしい。

「私、転校することになったの」と一番聞きたくなかった言葉を聞いてしまった。

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