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一輪 出会い

 夏の通学路を少年が歩いている。毎日同じ道を歩く。自分は何のために生きているんだろうか。そんな事を考える。

「人志!」と呼ぶ声が聞こえる。僕の名前だ。只野人志という素朴な名前はあまり好きじゃなかった。何もないみたいだったから。

「おはよう。今日も元気だね」と返事をする。こいつは藤野優斗。僕の唯一の友達だ。サッカー部所属で爽やかな見た目のため、裏で女子にモテている。しかし本人はそれに気づいていないという罪な男である。

「今日もダルそうにしてんなぁ」と優斗が僕に言う。実際、学校に行くのがだるい。

「……学校がだるいんだよ」と返事を返す。優斗が「もうすぐ期末テストだしな」と今1番聞きたくない単語を出してきた。「テスト期間ってサッカーできないの辛いんだよな〜」と続けた。こいつは誰が見てもサッカーが好きで、事実スタメン入りしている。【サッカーの忠犬】なんてあだ名もある。

「そのテスト期間が明日からだ。勉強しろよ」と返す。

 優斗は「真面目かよ。俺はサッカーの練習する!」と返事をする。確かに【サッカーの忠犬】だなと思いながら歩くと校門が見えてきた。

 都立花宮高等学校。普通の高校だ。進学クラスの頭が良いらしく、またサッカー部が強いらしい。まあ、僕には関係ない。今日もつまらない1日を過ごすと思いながら教室の椅子に座り、授業を受けた。


 ホームルームを終え、1日が終わった。僕にとってはだが。

 優斗が「んじゃ、部活行ってくるわ!」と手を振りながら僕に告げて足早に去っていく。それを見つめる女子達。相変わらずモテモテだなと思いながらそれを見ていた。

 先生に「只野!今日日直だろ?ちょっと手伝ってくれ!」と雑務に呼ばれる。せっかく帰ろうとしていたのに……と思ったが、言われたものは仕方ない。

 先生に呼ばれるまま、職員室に向かい、雑務を行なった。


 先生から解放され、自席に座る。ため息をつきながら少し休んでいる。あとは帰るだけだが、この日は教室に誰もいなかったからか、珍しくくつろいでいた。勉強漬けの毎日に鬱憤が溜まっていた。

 ふと窓の外を覗く。ほんの気まぐれだった。窓の外を覗くと、花壇を整備している制服を着た少女と目が合う。お互いに見つめ合う。時間にして5秒程度だが、人志には何分にも感じられた。

 可愛い少女だ。茶髪のロングヘアで、垢抜けきれていないところが魅力的だな思った。

 しばらくして、お互い恥ずかしくなったのか目を逸らす。心臓の鼓動が早くなるのを感じた。経験したことのない感覚に困惑する僕。この気持ちは何だろうか?そう思い、もう一度窓の外を覗く。しかし、少女の姿はなかった。

「いない……」と呟き、席を立つ。また出会えるだろうか?と思いながら帰路に着いた。


 翌日の放課後。優斗の声が聞こえる。「公民グラウンドに行ってくる!」と言い残し、彼は去っていく。テストの勉強期間である2週間は昼前に授業が終わるのはいいが、部活動もできない。強豪のサッカー部とて例外ではない。とはいえ、学校で部活を行うのが禁止なのを逆手に公民グラウンドでコーチが教えているのが現状である。

 とまあ、結局のところ僕は早く終わってラッキーと思っている。大抵の人間はそう思うんじゃないかと思う。

 僕は昨日、目があった少女のことを考えていた。不思議なことに、昨日と今日の間、ずっと頭から離れずにいて仕方ない。

 また目が合うかもしれない。そんな淡い期待を抱えながら窓の外を見てみる。すると、昨日の少女が花壇に水をあげていた。とても笑顔だ。お花を大事に思っているのだろう。その笑顔を目で追っていた。

 しばらくすると、その少女がこちらの目線に気づく。見過ぎだと思い、罪悪感に苛まれる。しかし、彼女は笑顔で会釈をしてくれた。彼女の笑顔に救われた自分は会釈で返す。お互い照れくさそうにしながら彼女は水やりに戻り、僕は前を向いた。

 昨日感じた不思議な感覚が、また頭を支配していた。少し心地が良く、自分では形容し難い感情だと理解する。

 テスト週間の2週間、同じやりとりをして時間は過ぎていった。


 テスト初日。僕は満足していた。テストの出来は良いだろう。苦手な理系教科も平均を超えそうだ。

 優斗が死人みたいな顔でこっちを見ている。こいつは部活推薦でこの高校に来たので、勉強は苦手らしい。まあ、赤点をとるとサッカーできないから最低限はやる!と豪語していた男だし、僕もまとめたノートのコピーを渡している。それほど心配はしていない。ちなみに死人みたいな顔をするのは恒例行事である。開き直ったのか、「公民グラウンドへ行く!」と宣言し、去っていった。騒がしい男だ。

 僕は窓の外を見る。そこには例の少女がいた。テストの日まで花壇の整備をしている。そんなことを思いながら見ていたらまた目が合う。お互いに笑顔で会釈をする。

「花、好きなんですか?」と声をかけてしまった。自分でもなぜ声をかけたか分からず、やべっと思った。そんなことを思いながらあたふたしていると、彼女は笑っていた。

「はい。花が好きで、毎日世話しているんです」と返事が来た。返事がきてびっくりする。

「知ってます。毎日見てますから」と僕はまた返事をする。あとで考えたら気持ち悪くないか心配だが、今それを考える余裕はなかった。

「私も毎日あなたを見ますよ。えっと」と名前がわからないのだろう。言葉に詰まっていた。

「只野人志、2年です。よろしくお願いします」と返事をする。

「花野桜、2年です。こちらこそよろしくお願いします」とお互いに自己紹介をする。どうやら同学年のようだ。

「同い年……」と声を漏らす。敬語を使うべきか、タメ口でもいいのか迷ってしまった。

「同い年だ!よろしくね只野くん!」と笑顔で返事をされた。


 それからテストの1週間、窓越しで話すようになった。

 たわいのないことを話す。テストの感想や好きなアニメの話、流行りの話などだ。彼女は進学クラスらしく、教室が離れているらしい。どうりで見たことがないはずだ。進学組は国立大学を目指せるレベルの偏差値である。つまりは頭がいい。僕のクラスは頑張ればまあ、目指せるくらいであろう。

「よく藤野くんと話してるの見ます!」と花野さんが言う。

「花野さんも優斗のファン?」と返す。そうだと嫌だなぁと思いながら。

「いえ。ただ、彼は何かと有名ですから、覚えやすいなと思って」と彼女は返事をする。その返事に安堵する自分。だが自分ではそれに気づいていない。

 優斗は爽やかイケメンでサッカー部の次期主将と言われており、隠れファンが多い。それだけ実力のあるプレイヤーであり、なにより顔がいい。ただ、面白い噂をよく聞く。バレンタインでは両手にでかい紙袋を下げて帰ったり、全教科赤点スレスレで通っているため不思議がられたり、告白をサッカーがあるからと断ったと言う噂まである。

 バレンタインの件は事実で、赤点スレスレなのは僕がノートのコピーを渡して、本人が努力してるからだろう。そして、最後のはただの噂である。当の本人は「彼女欲しいなぁ……」と僕の前でいつも呟いている。噂が一人歩きした結果、誰にも告白されないと言うジレンマを抱えている。

「あいつは彼女欲しいらしい。よく呟いてるよ」と返事をする。自覚はないが相手の反応を見たいのもあるかもしれない。

「そうなの?すぐ出来そうなのにね」と花野さんが笑顔で返事する。本音で思ってるんだろうなと思う曇りのない笑顔だ。とても可愛いなと思った。

「噂が一人歩きしてるんだと思うよ。多分早い者勝ちだと思う」と冗談っぽく返した。まあ、本当に早い者勝ちだと思うけど。

「これ、内緒にしたほうがいいのかな?」と花野さんが質問する。本当に優斗のファンではないようだ。

「まあ、戦争が起きるかもしれないから、内緒にしとこうか」とまた冗談っぽく返した。

「確かに。じゃあ2人の秘密だね!」と笑いながら花野さんは返す。ずるい言い方だと思う。不覚にもドキッとしてしまう。

「そうだね。2人だけの秘密だね」と取り繕って返す。正直、正気を保つので精一杯だった。そこに、「花野さん!ちょっと手伝って欲しいんだけどいいかな?」と女子の声が聞こえる。

「はーい!今行くね!」と返し、僕に「ごめん、行かなきゃ」と告げる。

 僕は寂しかったが、「いってらっしゃい。僕も帰って勉強しなきゃ。」と返した。僕の中では精一杯の返事だ。

 花野さんは「また来週話そうね!」と言いながら去っていく。僕も「また来週!」と返した。

 また来週。その言葉に嬉しく思った。今日は金曜日。次の登校日は月曜日だ。次もまた話そうねって言ってくれたようで嬉しかった。僕は彼女に惹かれていた。それは自覚できてきた。でもどうしたらいいのだろうと思いながら帰路に着いた。

 

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