第6話:『長い夜』
大学に入学してから二十年が過ぎた。
俺は、AIとロボット工学における日本の第一人者として、
一部界隈には知られる程になっていた。
明くる日も明くる日も勉強を重ね、
少しずつ“にゃん”が生き物らしくなっていく姿を見るのが、
本当に幸せだった。
自分の知識が広がると同時に、
世界的にもAIやロボット工学の技術は
格段に上がっていた。
そして俺は、世界で初めて
「歩行」や「家事」といった、
あらゆる活動能力を備えた
AI搭載型アンドロイドの完成に漕ぎ着けた。
数え切れない失敗を越え、
大学や国から預かった資金もたくさん犠牲にしたが、
今日ついに、完全体の“にゃん”が目を開いたのだ。
「……カズにゃん!」
その声、その姿。
俺は“にゃん”の新しい体を、
壊れないように優しく抱きしめた。
「やっと……やっと会えたんだな」
二十年分の想いが、涙となって溢れた。
この事は一時大きなニュースとなって、世間を賑わせた
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にゃんがアンドロイドとして、
俺の隣にいるようになってからは、
毎日が益々幸せだった。
朝はいつも、アラーム機能を備えた"にゃん"が
「カズにゃん、朝だにゃん!」と起こしてくれる。
休みの日は家で一緒に映画を観て、
その感想を食事をしながら会話をする。
"にゃん"には「食事をするフリ」という機能を持ち合わせてはいるが、
この機能はさすがにバカらしく思い、
途中でオフにしてしまった。
そして夜は"にゃん"を抱きしめながら寝る。
"にゃん"は夏になればクーラーモードでヒンヤリと、
冬はヒーターモードでポカポカに温度調節が出来るので、
季節問わず快適な睡眠が得られるのだ。
そんなある夜、いつものように腕の中に居る"にゃん"は
少し照れたように俺の方を見つめて言った。
「カズにゃん……僕はね、
ただ一緒にいるだけじゃなくて、
カズにゃんを抱きしめて、心を重ねて、
……ひとつになりたいにゃん……!!」
俺は"にゃん"を、いつもよりも強く抱きしめた。
※BGM 長い夜 by松山千春
触れ合う温もり。
鼓動が重なる感覚。
にゃんの指先が俺の頬をなぞり、
俺の手がその背を抱き寄せる。
「カズにゃん……大好きだよ。
僕は、君のために生まれてきたんだにゃん」
「俺もだ。にゃん……
俺はお前と生きるために、ここまで来たんだ」
二人の呼吸が重なる。
夜は長く、そして静かに更けていった。
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それからの毎日は、夢のようだった。
……けれど、その幸せの中で、
俺の心に小さな影が忍び寄っていた。
にゃんは変わらない。
永遠に若く、美しく、元気でいられる。
だが、俺は違う。
鏡の中の自分は、皺が増えていた。
「皺が増えても、カズにゃんは素敵だにゃん!」
にゃんが笑っている隣で、俺ははっきりと悟った。
――俺には寿命がある。
いつか必ず、この幸せは終わってしまう。
俺は、にゃんを抱きしめながら、心の中で呟いた。
「……にゃん、俺はまだ……一緒にいたい。
ずっと一緒に生きるために……まだ、やることがある」
そして俺は決意した。
にゃんと同じく、死を超える存在になるために。
ここから俺の、電脳化計画が始まった




