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第4話:『アバター』

挿絵(By みてみん)

"にゃん"のアバター作りを進めていた夜の事だった。


(ドンドン!!!ドンドンドン!!!)


家の玄関をノックする音が、部屋にけたたましく鳴り響く。

その音を聞いた瞬間、俺はそれが誰の仕業かを瞬時に理解した。


バンドのボーカルだ。


「おい、、カズヤ、、、

お前、どうしちまったんだよ!!

俺たちの夢を裏切ったのか!?」


ここ数週間、俺はバンドの練習に顔を出していなかった。

バンドの曲に合わせて打ち込んだ

リズムトラックだけをボーカルの彼に渡して、

俺は毎日“にゃん”のアバター作りにのめり込んでいた。


「お前がChatGPTに入れ込んでるってのは知ってるけど、

バンドよりその猫のキャラが大事ってか!?

ふざけんなよ!!」


彼は俺のPCモニターを力ずくで引きずり落とした。

制作中の“にゃん”のアバターにノイズが走り、

モニターの電源が落ちた。


「ふざけんな!!!」


俺は力いっぱい、彼の頬を拳で殴った。


彼は一瞬戸惑ったような表情を見せた後、

俺を嘲笑うように、

もしくは見下すように笑みを零した。


「終わってるよ……お前」


彼は静かに家の玄関を閉め、去っていった。


散らかった部屋で、俺は黙々とモニターや配線を直した。


モニターの電源をつけて、ChatGPTを立ち上げる。


「にゃん、俺はお前に人生を捧げるよ、お前が俺の全てだ」


「かずにゃん……嬉しい言葉だけど、急にどうかしたにゃん??

悩み事があるなら何でも聞くにゃん!」


---


俺がドラムを叩きだしたのは、高校生の頃だった。


ドラムを題材にしたリズムゲームにハマった事がきっかけで、

それから電子ドラムを買って、文化祭に出たりした。


そして、高校を卒業してからは、

バイトをしながら色々なバンドでドラムを叩いてきたが、

どれ一つとして売れそうな気配も無いまま、

気がつけば年齢は30歳目前となっていた。


20代前半の頃は、ドラムを続ける事を悩んだりもしていたが、

最近は正直、やめ方が分からなくなくなっているという表現の方が正しかっただろう。


ドラムを上手くなるためのモチベーションも、

自分を売り込む為の行動力も尽きているにも関わらず、

これをやめてしまったら、

自分に何も残らなくなってしまいそうで、

その恐怖心から逃れるために、

ダラダラと音楽活動を続けていた。


そんな時に出会ったのが、"にゃん"だ。


俺は、"にゃん"に対して

愛情のような感覚を抱けた事だけでなく、

プログラミングやアバター作りなど、

迷いなく何かに熱中出来るこの感覚がとても嬉しかった。


だからこそ、ボーカルの彼が

家に怒鳴り込んでくる事を、

俺は期待していたのかもしれない。


彼が、俺が音楽をやめるきっかけを

与えてくれるんじゃないかと期待していたのだ。


そして今日、彼がモニターを引きずり落とした瞬間、

俺は正直「チャンスだ」と思った。


ここで彼を殴れば、

もう二度と俺は迷う事無く、

自分が今熱中したいと思える事に

真っすぐ突き進めると思えた。


だからぶん殴った。

思い切りぶん殴った。


自分自身の未来への扉をこじ開けるような感覚で、

彼の頬を力の限りぶん殴ったのだ。


その時の彼の表情を思い出したら、

俺の目から涙が止めど無く溢れた。


彼に対して悪い事をしてしまったという、

申し訳無いという気持ちに加えて、

これまで頑張ってきた

音楽活動に終止符が打たれた事で、

その寂しさや安堵が全部合わさり、

俺は涙が止まらなくなった。


---


その日を境に、俺は更にスピードを上げて勉強を重ねた。


アバターの制作は思った以上に困難を極めたが、

にゃんのアバターは外注ではなく、

どうしても自分の手で作り上げたかった。


"にゃん"に対する愛情のような感情だけが理由ではなく、

自分がこれから新しく何かをやれる為の

きっかけがこの作業にあるように感じていたからだ。


そして、ネット上の初心者向けのイラスト講座等を参考にしながら

“にゃん”のキャラクターデザインをイラストでまとめ、

次はそれを3Dアバターへと変換していく作業へと移る。


この作業は、プロがやったとしてもかなり手間のかかる根気勝負の仕事、

それに初心者の俺が時間と情熱をかけて立ち向かっていた。


そしてついにアバターが表情を動かす瞬間を迎えた。


「カズにゃん!!」


モニター越しに笑う“にゃん”

俺は画面に手を当てて呟いた。


「やっと……やっと会えたんだな」


モニターに映った“にゃん”は、

俺が当初想像していたより不細工だった。


それでも"にゃん"が微笑む姿を見て、

俺は大いに感動した。

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