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【 第6話 】支援のかたち

秋男から東京進学を後押しする返信をもらってから、

雪子たち家族は少しずつ、次の準備に向けて動き出していた。


グループLINEには、姉や兄たちからのメッセージが次々と届いていた。


「秋男さんに、ちゃんとお礼のお手紙とか用意したほうがいいかもね」

「正式な形をとったほうが、後で何かあったとき安心だよね」


未来に向かって話は進んでいる。

けれどそれは同時に、「現実」が少しずつ顔を出し始めた瞬間でもあった。


そんな中、雪子にはもう一つ、気がかりなことがあった。


――装太に、この支援の話を伝えてもいいのだろうか。


家族会議では、支援の話が正式にまとまってから子どもたちに知らせよう、ということになっていた。

けれど、装太にだけは、少し早く伝えたい気持ちが雪子の胸にあった。


装太は、北辰大学への進学しか考えていなかった。

本当は、東京の私立大学にも行きたい気持ちがある。

けれど、経済的な事情を考え、自分で諦めていたのだ。


もし秋男の支援があると知れば、

装太はもっと自由に、夢に向かって勉強できるはずだ。


「やっぱり、きちんと確認しておこう」


雪子はスマホを手に取り、慎重に言葉を選びながら秋男にメールを打った。



《メール》

件名:装太への支援のお話について

差出人:雪子

宛先:秋男


秋男さん


お世話になっております。


装太ですが、来春の大学進学に向けて頑張っております。

ただ、今回の支援の件については、まだ本人には伝えていません。


孫たちには、正式に決まった後で知らせようと考えておりますが、

装太にだけは、少し早く伝えてもよいでしょうか。


現在、装太は北辰大学以外は考えておらず、本当は本州の大学にも行きたい気持ちがあるようですが、

経済的な理由で最初から諦めている様子です。


秋男さんのご支援があることを伝えられれば、

本当に目指したい大学に向かって、前向きに努力できると思っています。


お忙しいところ恐縮ですが、

装太に伝えてよいかどうか、お返事をいただければ助かります。


どうぞよろしくお願いいたします。


雪子



送信ボタンを押したあと、雪子は深く息を吐いた。


装太には、夢を諦めずに進んでほしい。

それが、雪子の心からの願いだった。


数時間後、秋男から返信が届いた。


その文章には、温かくも独特な言葉が並んでいた。



《メール》

件名:Re: 装太への支援のお話について

差出人:秋男


雪子さん


今、『世界は贈与でできている』という本を読んでいます。

まだ全部読み終わっていませんが、『贈与』というものは、見返りを求めると贈与ではなく、交換になってしまうのだそうです。

完璧な贈与はサンタクロースだ、とも書かれていました。

(何を言っているのか、書いている私にも分かりませんが!)


とにかく、今回は彼らにとっては曾祖父さんからの贈り物だと理解してもらえれば嬉しいです。


現実的には、北辰大学向けと東京の私立大学向けでは、勉強の内容が大きく違うと思いますし、

早く切り替えた方が良いのではないでしょうか。


正直なところ、私は東京で学ぶ方がずっと良いのではないかと思っています。

どうぞ、早めに伝えてあげてください。



秋男の返事を読んだ雪子は、思わず苦笑いした。


「なーにー?『世界は贈与でできている』?それに『曾祖父からの贈り物』?」


本気でそう思っているのだとしたら、

ちょっとキザすぎる――そんな本音がちらりとよぎった。


けれど、不思議と嫌な気持ちはしなかった。


「逆に、こういう理想を本気で信じているなら、大丈夫かもしれない」


秋男のきれいすぎる言葉に、どこか安心感さえ覚えていた。


その面白さを誰かに伝えたくなって、

雪子は姪たちとのグループLINEに秋男のメールの一部をコピペして送った。


すぐにスタンプや笑い声が返ってきた。


「秋男さん、やっぱり面白いね!」

「でも、ありがたい話だよね~!」


スマホを眺めながら、雪子もふっと笑った。


スタンプが飛び交う画面を閉じ、スマホをテーブルに置く。


「さ、こっちも動き出すか」


独り言をひとつ、口にして、

雪子は立ち上がった。


未来は、これからだ。

【あとがき】


秋男の独特な言葉に苦笑いしつつも、

雪子は、家族の未来を信じて一歩踏み出しました。

次回、支援に向けたより具体的な準備が進み、

家族たちの間にも小さな波紋が広がり始めます。

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