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【 第5話 】東京を目指してもいい?

家族たちと集まった日の帰り道、雪子は心のどこかに、拭いきれない引っかかりを抱えていた。


みんな笑顔だった。

未来への期待に胸をふくらませていた。

秋男の支援があれば、子どもたちは自分の夢にまっすぐ進めるかもしれない。


けれど――


「本当に、東京の大学を目指してもいいのだろうか?」


雪子は、ふと立ち止まった。

心の奥で、小さな声が囁いていた。


秋男は高齢だ。

支援の約束が、何かの事情で変わってしまうことはないだろうか。

家族の中に、反対する人はいないのだろうか。


少し躊躇しながら、雪子はスマホを取り出した。

秋男に、ちゃんと確認しておきたい。

けれど、どんな言葉を使えばいいのか迷った。


「ご支援は……今のままで大丈夫でしょうか。」

いや、こんな曖昧な聞き方じゃ失礼だ。

「東京の大学を目指すことについて……」


何度もスマホの画面を開いたり閉じたりしながら、雪子はようやく慎重にメッセージを打った。


《メール》

件名:進学についての確認

差出人:雪子

宛先:秋男


秋男さん


先日はご支援のお話、誠にありがとうございました。


進学に関し、子どもたちが地元だけでなく東京方面も視野に入れて受験を考えております。

東京の大学を目指すことについても、ご支援の範囲として考えてよろしいでしょうか。


ご多忙のところ恐れ入りますが、ご意向をお聞かせいただければ幸いです。


雪子


送信ボタンを押すまで、長い時間がかかった。

押したあとも、雪子はスマホをぎゅっと握ったまま、じっと見つめていた。


「聞いてよかったのかな……」

「何か、余計なことをしてしまったかも……」


そんな思いが頭をよぎった。


何度も受信ボックスを確認し、ため息をついて、また画面を閉じる。

メールを送ったあとの数時間は、やけに長く感じた。


ようやく秋男から返信が届いたのは、夕方近くになってからだった。


《メール》

件名:Re: 進学についての確認

差出人:秋男


雪子さん


正直なことを言いますと、私は東京で学ぶ方がずっと良いのではないかと思っています。

子どもたちには広い世界を見てほしい。

自分の可能性を狭めずに進んでほしいと思っています。


どうぞ、前向きに考えてください。



秋男の返信を読んだ雪子は、胸をなでおろした。


秋男は、東京進学に対して、むしろ強く後押ししてくれていた。

ありがたい。

本当に、ありがたい。


思わず装太の顔が思い浮かぶ。


塾にも行かず、我慢ばかりしてきたあの子に、もっと広い世界を見せてあげたい。

もっと自由に、もっと大きな夢を持たせてあげたい。

そんな想いが、胸に込み上げた。


雪子は、スマホをそっと伏せた。


けれど――


心のどこかで、小さなざらつきを感じている自分に気づいた。


白紙委任状。

ポロテ山を失った日のこと。

秋男の父が家族に残した、忘れたくても忘れられない苦い記憶。


秋男自身に非はない。

ないはずだ。

それでも、過去の影は、雪子の心に静かに沈んでいた。


「信じたい」

「でも……」


胸の奥で、言葉にならないさざ波が、そっと広がった。


雪子はその感情を押し隠し、目を閉じた。


今は、ただ、進むしかない。


装太の未来のために――。

秋男からの力強い後押しに、雪子は安心を覚えました。

けれど、胸の奥には、拭いきれない過去の影が静かに息づいています。


次回、家族たちの間で、進学に向けた具体的な準備が動き出します――。

期待と不安を抱えながら、雪子たちはまた一歩を踏み出します。

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