【 第12話 】東京の空の下で
「明治大学へいの一番に行ったって、ほんとに?」
雪子がスマホを覗き込むと、そこには装太から届いた数枚の写真。明治大学の構内を背景に、やや緊張した面持ちの装太と、その後ろでポーズをとる弟の姿が写っていた。
「やっぱり一番行きたかった大学だったんだね」
装太が東京に着いたのは前日の朝。
空港での記念写真から始まり、ホテルにチェックインした後は少し観光を挟んで、今日はオープンキャンパス初日――しかも「マーチ」のM、明治大学だ。
LINEに送られてきた文章にはこうあった。
「明治大学、最高でした。
理系棟の研究室見学、めちゃくちゃ刺激的だった。
本当に行きたい実験が見られて、話も聞けて、もう感激…!
あと、在学生に質問されて、ちょっと自分の考え話したら“すごい視点だね”って言われた。
正直、めっちゃ嬉しかったです」
読みながら、雪子は思わず微笑む。
(あの子、本当に“自分の言葉”で語ったんだ……)
単に進学の選択肢としてではなく、夢の入口としての大学。
装太にとっては、それが「現実になりうる」と実感できた、初めての一歩だったのかもしれない。
「で、次はどこに行ったの?」
そう思いながら読み進めると、続いて送られてきたのは秋葉原での写真だった。
弟の晶矢が満面の笑みで、ビルの前に立っている。
「弟の希望で、秋葉原にも寄りました。
目的地は“Vチューバー神地”ってやつです(笑)
本人いわく、聖地巡礼。テンションMAX。
僕は冷房のありがたみしか記憶にない……」
まるで実況中継のような軽快な文面に、雪子は笑ってしまう。
「東京、マジで暑い。ヤバいヤバいヤバい。
日陰ないし、アスファルトの照り返しで全方向から熱が来る。
あと、人が早すぎ。ついていけない。
でも楽しい。なんか、全部が“情報”って感じ」
(そうそう、それが東京よ)
彼らにとっては、見るものすべてが初体験。
慣れない都市の速度に振り回されながらも、それを楽しんでいる様子が写真越しに伝わってきた。
雪子はメッセージを読み終えたあと、ふうっと息を吐いた。
「ほんとうに……行ったんだね、あの子たち。東京へ」
感慨とともに、わずかな不安も浮かぶ。
(この先、装太がもし東京の大学に進学したら……
私は、いったいどれだけの“現実”を見送ることになるんだろう)
希望と共に広がっていく距離。
彼が一歩踏み出すたび、雪子もまた、新しい心の準備を迫られていた。
あとがき
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
今回は装太たちの東京遠征初日――明治大学のオープンキャンパスと、弟のための秋葉原訪問を描きました。
写真とLINEを通じて伝わる「現地の熱気」と、
それを見守る雪子の少し切ない心情とを、対比的に描いてみました。
次回をお楽しみに、またお付き合いいただければ幸いです。




