表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

【第1話】カフェでの提案 

かつて北海道・ポロテ山を所有していた冠木家。

商売の失敗により山は手放されたが、時を経て、めぐりめぐって一族のひとり・冠木秋男の手に戻ってきた。


ある春の日、秋男は親族の雪子に「この山を、次の世代のために役立てたい」と提案する。

大学受験を控える孫・装太の進学支援を含む、親族の子どもたちへの贈与計画——

それは静かに、けれど確かに、家族の時間を動かし始めた。


だが、善意から始まったその提案は、やがて家族内の思惑や価値観の違いに巻き込まれ、二転三転していく。

信頼、誤解、そして再び向き合う勇気。


小さなカフェで交わされた一言が、ある家族の未来を変えていく——

静かな余韻と、ささやかな希望を描く、現代フィクションの物語。

春の陽射しが差し込む、静かなカフェの窓際席。

雪子は少し緊張しながら、テーブルの向かい側に座る従兄の秋男を見つめていた。


「久しぶりだね、雪子。元気にしてた?」


秋男は柔らかな笑顔で言いながら、コーヒーに砂糖を入れた。

雪子は小さくうなずきながら、湯気の立つカップをそっと両手で包んだ。


「今日は、急に呼び出してしまってごめんね。ちょっと話しておきたいことがあってさ。」


秋男の声音に、雪子は自然と背筋を伸ばす。

どこかいつもと違う、まじめな雰囲気がにじんでいた。


「装太くん、来年大学受験でしょ?」


「ええ。本人なりに頑張ってるみたいよ。」


「それでね……提案があるんだ。」


秋男はカップを置き、真剣な眼差しで話し始めた。


「昔、うちの叔父さん——雪子のお父さん、冠木二郎さんが持っていたポロテ山の土地、回り回って僕が持つことになったんだ。」


「えっ? あの山を……秋男さんが?」


「うん。その一部をね、これからの世代のために活かしたいと思ってる。

たとえば、子どもや孫たちの教育資金として。装太くんにも、大学進学が決まったら必要な費用を渡そうと思ってる。」


雪子の手が止まった。

目の前のカップから立ち上る香りが、ふいに遠くへ消えていくような気がした。


「……それは……ありがたいけれど、本当にいいの?」


「もちろん。僕自身、教育が人生を変えるって信じてるんだ。だからこそ、応援したい。」


秋男の目には、迷いのない光があった。

雪子は黙って深くうなずいた。


装太に、この話をどう伝えようか。

言葉を探しながら、カフェの窓の外に目をやると、春風が街路樹の若葉を優しく揺らしていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

この物語はフィクションですが、家族のあいだに流れる静かな想いや、小さな提案が人生をゆっくり動かしていく、そんな時間を描いていけたらと思っています。


次回は、雪子が秋男の言葉を装太にどう伝えるのか。

彼の未来が静かに動き出す瞬間に、ぜひご一緒ください。



▼登場人物のご紹介(第1話時点)

冠木二郎かぶき じろう

 雪子の父で、今は亡き人。昔、北海道にある「ポロテ山」という山の土地を持っていましたが、商売がうまくいかず手放すことに。それでも、家族の心の中には今も大切に生きています。

冠木秋男かぶき あきお

 二郎の親族で、少し離れたところから見守っていた存在。縁あって、かつてのポロテ山を再び所有することになり、「この土地を、次の世代のために使えたら」と、親族に贈与する話を持ちかけます。

雪子ゆきこ

 二郎の娘。今は子育てを終え、孫たちの成長を見守る日々。4人の孫がいて、なかでも装太の進学のことを、心の中でずっと気にかけています。

装太そうた

 雪子の孫で、高校3年生。大学進学を目指して日々努力している、ちょっと真面目で、ちょっと繊細な少年です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ