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〈7話〉異世界構造


リーシェの城は、城ではなかった。


ザリアの城はいかにも魔王が住んでいますと言わんばかりの大きさと風格を放っていたが、それに対してリーシェの拠点はただのログハウスだった。


脇腹にくっついているもちもちを引き剥がして頭に乗せ、貸してもらえた一室を出ると、吹き抜けになったリビングから漂う肉の匂いが空腹を刺激し、足早に階段を降りた。


「おはようございま、うわなんだよお前かよ」


「ロアさん、おはようございます」


ロアはリビングに併設されているキッチンで朝ご飯の支度をしながら俺に対して嫌そうに言った。


ロアは朝だというのに、すでに身なりを完璧に整えており、明るい所で初めて見る彼女は口が悪い所を除けばとても魅力的な女性だった。


「あの、なんで俺にそんな感じなんですか?」


「うざいから」


「はは、酷いなあ、、ははは。リーシェ様は?」


「まだ休んでる」


「ロアさんは朝から偉いですね」


「うるさい、あっち行っててくれる?」


「はい、」


なんでここまで嫌われているのだろう。


謎だ。


朝ごはんの邪魔をする訳にもいかず、リビングのソファで眠たげに目をしばしばさせているもちもちをもちもちしたり外の景色を眺めたりして1時間ほど過ごしていると、ようやくリーシェが2階から姿を現した。


降りてきたのは良いが、格好でいえば、ほぼ全裸だった。


下着は辛うじて身に付けていたが、ブラの肩紐がずれ落ち今にも落ちそうな状態だ。


「リーシェ様!今日はアキが、、アキ様がいらっしゃるのですからそんな格好ではいけません!」


朝食の支度を既に終わらせて掃除をしていたロアがすぐに駆け寄り慌てて毛布で体を隠した。


「おう、おはやう、ろあ〜。」


どうやらリーシェは朝に弱いらしい。


しかも多分、お酒も入っている。


このログハウスに着いたのは既に日付が今日に変わった頃で、俺は風呂に入って汚れを落としてからすぐに爆睡したが、リーシェは晩酌を嗜んだらしい。


俺も目のやり場に困り視線を逸らそうとしたがその必要は無かった。


もちもちが俺の顔に飛びつき、視界を完全に塞いだからだ。


「なんだお前。そこら辺のモラルはしっかりしてるタイプなのか」


「んま!」


無理に剥がそうとしてもいやらしい人間になるだけなのでそのまま放置しつつ頑張って口だけもごもごさせて挨拶した。


「リーシェ様おはようございます」


「アキくん、おはやう〜。随分早く起きてるんだねえ」


「会社員でしたので」


「カイシャイン?まあいいや〜ゆっくりしててえ」


リーシェはそれからロアに連れられて1度自室に戻り着替えてから洗面台で身なりを整えられてからリビングに戻ってきた。


「見苦しいところを見せてしまってごめんね。お酒は強くないんだ」


解毒瓶を飲んで酔いが抜けたリーシェは昨日と同じテンションに戻り謝った。


「魔王様でも酔うんですね」


「魔王の適正にお酒の強さは関係ないからね。今度はアキくんも一緒にどう?」


「お誘い頂きありがたいんですけど、お酒は飲まないようにしてるんです。身体のために」


「確かにアキくんは良い身体をしてるよね。鍛えてるの?」


「はい。といってもジムに行ったり走ったりする程度ですけど」


「ジム?稽古場のようなところ?」


「まあそんな感じです」


俺は高校生ぐらいから一人暮らしになり、それからは身体を鍛えていた。


「基礎が出来上がっていて良かった。これからの稽古にもすぐに馴染めそうだね」


稽古?


なんだその話は、、


「おふたりとも、朝食の準備が整いましたのでこちらへどうぞ」


話の途中だったが、ロアが朝食をテーブルに並べてくれたのでいったん話を中断してそれぞれ席に着いた。


「そういえばグレンさんはいないんですか?」


「グレンは昨日私たちをここに届けて直ぐに飛び立ったよ」


水を汲みながらリーシェはそう答えた。どうやらグレンは多忙の身のようだ。


テーブルには朝ごはんとは思えないほど豪華な料理が所狭しと並べられていた。


食材は異世界の物でよく分からなかったがその味はどれも今までに食べたことの無い美味しさを誇っていた。


異世界の料理が口に合うことに安心感を覚える。


「すごく美味しいです。ロアさんは料理が上手なんですね」


「あ、ありがとうございす」


俺の褒め言葉に対し、歯切れ悪く答えるロアは面白かった。


「ロアの料理の腕は世界中で見てもトップクラスだよ」


リーシェがそう言ってロアの方を見ると、ロアはさらに気恥しそうに下を向いた。


褒められていることに慣れていないのか、それとも照れ屋なのかは分からないが面白かったのでしばらく褒め倒しているとすごい形相で睨まれたので辞めた。


「そういえば、この世界には人界と魔界があるんですか?」


ご飯を食べ終え、再びソファに戻りロアの入れてくれた珈琲のようなものを飲みながらこの世界のことについて尋ねた。


飛竜の背中に乗っている時にリーシェとグレンがそのような事を話していたのを覚えている。


「世界が空間的に別れている訳ではないけど、この世界の大きな大陸の集まりをそれぞれそう呼んでいるんだよ。この際だし、この世界の歴史について少し話そうか。ロア、地下室から地図を持ってきてもらっていいかな?」


「かしこまりました」


その後すぐにロアは大きな1枚の地図を持ってきてソファの前にあるローテーブルに広げた。


「一般的に、魔界のことを『ハルテナ』と言って、人界のことを『ローバル』と呼ぶの。私たちが今いるのはローバルとハルテナの境界であるスランレッカ海域に面してるバーナス大陸って言うところ」


ハルテナ。ローバル。スラン何とか。


いろいろ出てきたが、ここがバーナス大陸だということだけは理解した。


「ハルテナとローバルでは3,000年前から戦争状態にあるの。ハルテナでは魔王が、ローバルでは勇者が指揮を執って戦争してる。目的は領地の侵略じゃなくてどちら一方の完全な滅亡」


「3,000年に及ぶ戦争って、戦力は拮抗してるんですか?」


「いや、魔王同士が組んでローバルに攻め込めば滅亡させるぐらいはできるんじゃないかな?それを試した時代があったのかも分からないけど、今の魔王はあまり仲良くなくてね、人間の滅亡に関しても別にどうでも良いって感じだよ」


それでも戦争が続くということは、人間側の方に戦闘意欲があるのだろうか。


リーシェは地図上の大陸のひとつを指さし説明を続けた。


「魔王にはそれぞれでハルテナの大陸のひとつを領地として統治する権利が与えられる。ちなみにバーナス大陸はザリアの領地だよ」


「じゃあなんでリーシェ様のお城?お家?分からないですけど、この場所があるんですか?」


「私は少し特殊でね、軍を持ってないんだよ。だから領地もない。少数の仲間と場所を点々と移動してるんだ」


そんな魔王もいるのか。魔王にも色々あるらしい。


「というか、ここが人界、ローバルとの境界である海域に面してるってことは、実質戦争の最前線ってことですか?」


「その通り。勇者の軍は大体はバーナス大陸に乗り込んでくるから、ザリアの軍が日頃から海岸に軍を配置して迎え撃ってる。だからザリア自身も軍全体のレベルも、魔王の中でも郡を抜く実力を持ってるよ」


ザリアから放たれる圧の謎がわかった気がした。魔王序列第3位は伊達じゃないということだ。


そんな相手から、油断していた可能性があるとはいえ逃げられた事の幸運とリーシェ達に感謝しなければならない。


というか、そうなると1位と2位はどんな魔王なのだろう。想像するだけで悪寒が走った。


「じゃあこの場所にも勇者たちが攻めてくる可能性があるんでしょうか?」


「ここはバーナス大陸の中でもスランレッカ海域の真逆にある森の中だから、人間からの侵略は心配しなくて良い」


「人間からの?人間以外からも狙われるんですか?」


「もちろん。ここはハルテナだからね。大陸を巡る魔力の影響が強くてローバルには滅多に湧かない魔物がそこら中にいる。家の周辺には結界を張ってるから周囲500mぐらいまでなら魔物は入ってこないけど、その外はなるべく行かない方が良いよ」


その後もリーシェはこの世界についての情報を教えてくれた。


その中でも勇者の話は興味深いものだった。


どうやら、魔族の寿命は長いのに対し人間の寿命は前の世界と同じ程度であり、勇者の力は代々継承されていくらしい。


勇者が死ぬとまた新しい勇者が選ばれ、その人に力が宿るという具合で、たとえ勇者を倒しても力が消滅しないから人間側からの侵略が終わらないとの事だ。


「とまあこんな具合で、今のところ覚えておいた方が良いことはこのぐらいかな」


「ありがとうございます。とても助かりました」


「気にしないで。最後にひとつ、アキくんも気になっているであろうことを話そう」


リーシェの声色が変わったことに気づき、今までの空気が少し固くなったリビングで俺も姿勢を正した。


次にくる話は大大予想がついていた。


「こっちの世界の事はもう話した。だから次は」


リーシェは足を組みなおし前傾姿勢を取り対面して座る俺の前に顔を近づけて言った。


「アキくんの存在と世界について」


ご愛読ありがとうございました!

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