〈5話〉知るべき事・やるべき事
「神の使い、ってそ、そんな訳ないじゃないですか、ははは」
なんでこうもバレてるんだ。普通転生の情報っていうのは隠し通すものなんじゃないのか?
「君は選ばれたんでしょ?だから私はそれを聞き付けてすぐに駆けつけたってわけ。今は極小数しか君を認知していないけどね」
リーシェは俺の手を縛る鎖の枷を魔術で分解しながらそう答えた。
ザリアだけではなく、何故かリーシェも神のことを知っていた。魔王と神には繋がりがあるのだろうか。それに、自称神のおじさんも魔王であるリーシェも、俺の事を「選ばれた」と言っている。選んだのはこの2人でもない何かということになる。
「すまないが、その辺の話をアキくんに詳しくしてあげられる権利を私は持ってない。だからこの先は答えを君自身で探して導き出すしかない」
そう、権利がない。
自称神のおじさんはどうなのか分からないが、少なくともこの世界で確実に覇権を握っているであろう魔王ですら権利を与えられていない。
さらなる上位存在がいるのだ。
頭の中で少ない知識を結びつけている最中、突如リーシェが聞き覚えのある単語を口にした。
「朝霧という名前を聞いたことはある?」
「なんでその言葉を?」
この異世界で、「朝霧」などという日本語があるとは思えない。
「反応が早くて助かるよ。私の予想は当たったようだ。朝霧はまだ救える。これだけでも君がこの世界で情報を集めるには十分過ぎる理由なんじゃないかな?」
朝霧。
俺が元の世界で自分の姓の次に忘れない苗字だ。
一時期、俺は朝霧を名乗ったこともある。
そして何より、「ユキ」の苗字だ。
「朝霧について調べていけば、それが俺の目的に繋がるんですか?」
「そこだ。私は君の存在を初めから知っていたけれど、その目的までは伝えられていないんだよ」
俺が自称神のおじさんから命じられたのは滅びた世界の救済だ。そのために違う世界で力をつけろとも言われた。
「神からは力をつけろとだけ」
大事な部分は伏せておくことにした。さすがにザリアのように嘘を見破れる力はないだろう。
「なるほどそうか。今はそういうことにしておこう」
バレては無いけど、疑われてはいるって感じだ。
相手は魔王だし明らかに知能派っぽいからそれぐらいは当然で、むしろそこそこ隠せた方だろう。
「自身の能力を全体的に伸ばすなら、結局は旅するのがいちばん早いことになる。情報を集めながらこの世界を回れば自然と強くなれるよ」
「旅ですか。いつかはしてみたいと思ってたことの1つですし、良い案ですね」
「でしょ?ちょうど迎えも来たことだし、とりあえず私たちの城に案内しよう。捕まえたりしないから安心して」
迎え?迎えなどどこにも来ていない。と思ったがリーシェがそういった1分も経たないうちに洞窟の入口に1人の影が見えた。
リーシェが誰かと連絡を取ったり、時計か何かを確認している仕草は見られなかった。
まさか気配で気づいたんじゃないだろうな。だとすれば化け物すぎる。
「リーシェ様。お待たせいたしました。城は先程までごたついておりましたが、今はザリアが事態を収拾させました。追っ手の心配もございません。ロアもよくやってくれた」
「ありがとうグレン」
リーシェの礼に対して膝を着いて敬意を評しているグレンという男は、全身に赤黒い鎧を纏い、筋肉隆々という感じではなく西洋の騎士を連想させた。
ロアはただお辞儀をしただけであとは口を挟まずにじっとしていた。
「貴方がアキ様ですね。お話はお聞きしております。お会いできて光栄です」
グレンは俺にも礼儀正しく接してくれて、この世界に来てから初めての敵意の無い男との会話ができて少し心が楽になった。
そういえば、ここにいる全員からはザリアほどの圧を感じなかった。
ザリアが別格の強さなのか、俺に敵意を示していたのかは分からないが、おそらくその両方が半分ずつ入っていたのだろう。
「それと、こちらもどなたかの仲間でしょうか?」
グレンは鎧の胸当の部分をガシャガシャと揺らしながらそう言った。そしてすぐに鎧の隙間から何かが落ちてきた。
もちもちだ。
そういえば洞窟に来てから俺の手を離れてどこかに消えてたな。まさか外に出てたとは。
「すみませんそれ俺の相棒です」
「外で走り回っているところを見つけて、こっちに向かって突進してきたのですが敵意を感じかったので様子を見ていたら鎧の中に入って眠ってしまいまして」
たしかに眠っていたらしく、もちもちはもたもたと起き上がりいかにも眠そうな目を擦っていた。
目を、擦っていた。
「もちもちお前、目なんて無かっただろ!」
「んまんま!」
「そういえば声も出るようになってるし、お前は本当に何なんだよ」
もちもちの目はどこか抽象的な雰囲気で、黒い楕円がふたつちょこんと雪だるまについている感じだ。
口は無いけど発音できているのは謎でしかない。
「そいつはもちもちと言うのか?」
俺の肩に乗っかって再び眠り始めたもちもちを不思議そうに見ながらリーシェが尋ねた。
「そうです。いや、名前とか決めて無かったんですけど、何となくもちもちって呼んでたんで、もうそれで良いです」
「可愛い奴だね。私も欲しい」
「いや、まあ一応相棒なのでそれは勘弁してください」
「冗談だよ。そろそろ行こうか」
リーシェの冗談に真面目に答えてしまった恥ずかしさを体の中で消化してから全員で洞窟の外に出た。
この世界での最初の驚嘆は魔術と魔族だったが、洞窟を出た瞬間、また新たな驚きがあった。
そこには黒い飛竜が羽を折りたたみ座っていたのだ。
「竜は初めてか?」
「はい。実在するんですね」
「ハルテナの奥地ではよく見かけるよ。もっとも、グレンの使役するこの竜は他とは少し違うけど」
リーシェの説明もあまり頭に入って来ないほどに、そこに座る飛龍には男のロマンが詰め込まれていた。
漆黒の鱗で身を包み、鋭い牙と爪、角をむき出しにしている。
その竜の背中に俺たちは乗り洞窟を後にした。
こんなにも空を近くで味わえたのは生まれてこの方初めてだった。
暗くて地上はよく見えなかったが、夜空の星々が強く輝いており、隕石が降り注いだ地球のあの光景が頭をよぎった。
それと同時にユキとの記憶がフラッシュバックしてきて、久しぶりに左の脇腹にある傷跡が傷んだ。
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朝霧ユキとの出会いはなんてことは無い普通の話で、別れは多くの血が流れた。
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