〈4話〉脱出の手引き
闇の深まった夜空に浮かぶその人の詳細は城壁の下に落ちた俺から見ることは出来なかったが、長い髪とシンプルなワンピースのような服装が確認でき女性であると分かった。
何でか分からないが俺を助けてくれたのは事実だ。もちもちも無事に俺の手の中に収まっている。
女性はザリアと何やら会話をしているようだったが、それを待つ余裕はない。
手に枷をつけたままもちもちと一緒にこの場を逃げようとしたその時、新たにもう一人の女性が、俺の前に現れた。
「アキ様でお間違いないでしょうか?」
透き通る程の白髪で色白の彼女はその体格に似つかわしくない巨大な斧を担ぎながらそう言った。
見た目から考察して歳は俺と同じぐらいか少し下ぐらいだろう。肩にぎりぎりかからないぐらいの長さの白髪で、右の髪の一部は綺麗に編み込まれている。
白い髪と肌とは対照的に服は黒で統一されており、前の世界で言うスーツに似た衣類を纏ったその姿には凛々しさと可愛らしさが共存していた。
「はい、アキです。あなたは?」
「ロア・リアスタールと申します。リーシェ様からアキ様の逃亡のお手伝いを命じられております」
「リーシェ様?」
「詳しい話は後にしましょう。ひとまずここを離れます。少々荒くなりますがお許しください」
ロアと名乗る女性はそう言うと斧をその場で消してから俺の身体を抱き上げ、そのまま魔王城とは反対側に走り出した。
魔王城ではザリアが放った魔術が弾けた音を聞きつけた兵隊が続々と俺たちのところに集まりつつあった。
「え、ちょっと待ってください自分で走れますよ!」
「私が走った方が速いと判断致しました」
たしかにロアの走力は人間とは思えないぐらい速く、体感では電車くらいの速度ですぐに魔王城周辺の荒野を抜け、深い森にたどり着いた。
「ここまで来ればあとはリーシェ様が何とかしてくださるでしょう」
森の中の小さな洞窟でロアは俺を降ろし、魔術で小さな光の玉を生み出した。
「ありがとうございます。でもなんで俺の事を?」
「リーシェ様からの命令ですので」
「リーシェ様って言うのは?」
「先程城壁の上に浮かんでザリアとお話をしていた、私が仕えている魔王様です」
魔王?
「魔王はザリアじゃないんですか?」
「あー、そうですね。その辺の事も後々お話します」
「はあ。じゃあ何でリーシェ様は俺を助けてくれたんでしょう?」
(チッ)
今、何か、舌打ちのような音が聞こえた気がした。
気のせいだろうか。
ロアからの返事もない。
「ロアさん?」
((チッ))
おいやっぱり聞こえたぞ。この場で舌打ちができるのは俺の他にはロアしかいない。
「お前、ごちゃごちゃうるさいんだよ」
「え?」
「後から全部リーシェ様が話すんだから大人しくしてろよ。どうせ今は何もできやしな、、、」
「2人とも大丈夫だった?」
ロアが何やら早すぎるキャラ崩壊を起こしている時、洞窟の入口から一人の女性が入ってきてそう言った。
「ご無事で何よりです。リーシェ様。アキ様は無事確保致しました」
「ありがとう。ロアに任せてよかったよ」
リーシェ。この人がさっきザリアの魔術から俺を守ってくれた人か。
深緑の長い髪が洞窟に吹き込む風でふわりと揺れているその人は、これまでの人生でも類を見ない程の美女であった。
服装はワンピースではなく、背中が大きく開けたタイトな黒のドレスを着ていた。
「あの、先程はありがとうございます。鈴木亜紀です。」
「ああ、アキくんのことはことは知ってるよ。探してたからね」
ロアのキャラ崩壊はまだ脳が追いついていないから後回しにして、ひとまずリーシェとの会話に切り替えた。
「迎えが来るまで少し時間がかかるし、少しお話しようか。聞きたいことも多いだろし」
「ぜひ」
「改めて、私はリーシェ。今は序列第5位の魔王だよ」
やはり、この世界の魔王は1人では無かった。
「ザリア様は何位なんですか?」
「ザリアは今、序列第2位の魔王だよ」
純粋に数字で見れば、第2位というのはこの世界でも明らかに指折りの強者の部類だろう。
「この世界には今、9人の魔王の席があって、魔王は全員固有の魔術を扱える。この魔術のことを私達は『権能』と呼んでる」
「元々使える魔術ではなくて、魔王になると扱える魔術ってことですか?」
「そう。そもそも魔王になるには最強でないといけないけど、魔王になると更に強くなれる。だから人間からは絶対的な悪と称され、同族からも畏怖と尊敬の対象になるの」
「そんな魔王の席についているリーシェ様がなんで俺なんかを助けてくれたんですか?」
魔王がすごいことは分かったが、俺を助ける意図が分からない。
俺はこの世界に来たばかりで、しかも来て早々投獄されていた身だ。
「もちろんアキくんのことを知ってるのはザリアと少数の部下だけ。ザリアが君の事を皆に隠してるからね。でもそれは表面上の話で、魔王は互いに諜報員を送りあってるから大体の事はすぐ広まっちゃうの」
「それで俺の居場所を知ったとして、なんで助けようと?」
「だって君は」
次の言葉を放つ前にリーシェは口角を少し上げて悪魔的な笑みを浮かべた。
「だって君は、神の使いでしょ?」
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