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〈3話〉命の賭け方(2話が抜けているため、ep.10にある2話を先にお読みください)


「アキくん。君は私の留守中に部屋に侵入した訳だけれど、その目的は?」


城壁で夜風に煽られながら、ザリアは俺にそう尋ねた。


顔は穏やかだがその身から放つ圧は明らかに俺を友好的には見ていない。あるいは意識などしなくても魔王からはこのぐらいの圧が常に出ているのかもしれない。


「あの。本当に何かしようとしていた訳でもなくて。気づいたら檻の中で、、、ここが魔王城ってこともさっき知ったし」


「そうか」


そうか?


たとえ俺の立場が逆だったとしても絶対信じないであろう弁明を、ザリアはあっさり認め問い詰めることはしなかった。


「いや、え。自分で言っといて何ですけどもっとこう、問い詰めたりしないんですか?」


「本当のことなのだろう?」


「そうですけど、、、」


「私の自室に侵入することは不可能に近いんだ」


「は、はあ」


「結界が張られていてね。中では魔術が使えないし、外からの魔術も通じない。それでいて物理的に扉を開けたり壁を壊したりもできない。開けられるのは特別な鍵を持つ極小数の者だけだ。廊下にも多くの目があるから侵入者は部屋に近づくことさえできない」


なるほどそういうことか。


それに、仮に外から侵入したとして、その後部屋の中で眠りこける馬鹿など存在しないだろう。


だが、きっと俺はあの自称神のおじさんによりザリアの部屋の中へ転移させられたのだ。


自称神のおじさんの転移はこの世界にある魔術の理には関係しない類なのだろう。だから俺はザリアの部屋に難なく侵入することができてしまった。


「しかし、このままでは君は規則に則り処刑しなければならない。魔王の自室に侵入する罪はこの城の中でも最上級に重い。君を生かして野放しにしてしまっては部下に示しがつかない」


最もな理由だ。俺が処刑されるのが正しいはずで、きっと誰が考えても結論は変わらないだろう。


「仲間はいないのか?」


この世界での死を悟り奥歯を噛み締めていた俺にザリアはそう聞いた。


「仲間は、いないです」


「私に嘘は通じないと思った方が良い。この際言うが、私は嘘が分かるんだ。隠し事を読み解く力はないが、相手が発した言葉が本当かどうかを審判することが出来る」


それ、先に言って欲しかったよ?


その能力があるのであれば、ザリアは部屋の厳重性など考えるまでもなく俺の発言を信じていたのだろう。


仲間がいるのかと言われれば答えは微妙だった。


意思疎通が取れる仲間はいないけど、おそらく嘘だと見抜かれたのはあの白いもちもちしたあれを俺が仲間に換算したからかもしれない。


「仲間って言うか、一緒に行動してたやつは居たんですけど、どこかに行っちゃいました」


「共に侵入したのか?」


「多分そうだと思います。牢にいました」


「君以外には侵入者は捉えられていないはずだが?」


「俺にもよく分かんなくて、そいつ意思疎通ができないんですよ。本当にすみません」


「どんなやつなんだ?」


「容姿ですか、そうですねえ。あ、あのあそこにある灯火のランプの上にくっついている、あの白いやつみたいな感じです、、、っていうか」


あれじゃね?


おい何やってるだよあいつ。そこ絶対見つかるだろ。


白くてもちもちしたあれは城壁に等間隔で置かれているランプの上に座っていた。


何をしているのかは分からないが、小さい足を浮かせ交互にばたつかせている。


「あんなものランプに着いてたか?魔獣の類だろうか」


「あーいえ。なんなんでしょうね?」


「そうか、あれが君の仲間なのか」


バレた。すぐバレた。


恐るべし魔王。


ザリアはすぐにあれに向かって魔術を放ったが、あれはザリアが放った何らかの魔術を身軽に避けそのまま走り出した。


何やってるんだあれは。


そしてなんて可愛いんだあれは。


もちもちと動くあれに場違いな感想を抱いていると、あれはそのまま俺の元へ近づいてきて頭の上に乗った。そしてそのまま落ち着いたのでザリアも攻撃を止めた。


「私は不思議な物や生物を集めるのが趣味だが、こんなものは見たことがないな」


ザリアは目を細め俺の頭上に座っているあれをじっと見つめていた。


それにしても、ザリアは圧こそ凄いがそれ以外ではとても優しい魔王のように感じられる。


所々に鋭さはあるが、基本的には俺を自由にさせてくれている。


もしかしたら俺を助けようとしに来たかもしれない白いもちもちしたあれを無理に捕まえたりもしていない。


俺に殺されるとか逃げられるとか、そういう心配がないぐらいにザリアが強いからという可能性もあるが、俺にとっては即処刑を言い渡すような脳筋魔王じゃなくて助かった。


「俺にもこいつの正体が分からないんです。出会ったばっかりですから」


「どこで見つけたんだ?」


「見つけたって言うか、貰ったんです。か、髪がオールバックのおじさんに。でもその人怪しすぎて俺もあんまり信頼してないんですけど」


神。この発言は伏せておいた。嘘も付いていないからバレるということもないだろう。理由はないが、何となく伏せておいた方が良いと思った。


「ほう。それで、気づいたら私の部屋にいたと?」


「はい、、、」


「君も十分に怪しいな」


「本当にすみません」


「いやいいんだ。この世界には多くの生物や種族が存在する。怪しくない者の方が少ないぐらいだ」


「それはなんというか、良かったり悪かったりしそうですね」


「本当にその通りだ。この城の近くにも元々野蛮な奴らが住んでいてな、バールグミングって言う魔族なんだが、君は知ってるか?」


「初めて聞きました」


「奴らはとてもずる賢い手を使って種族関係なく食らう獰猛さを持っているんだよ。奴らは全員頭に布を巻き付け小さな鎌を持っているから、もし今後城を出られて道中遭遇した時には気をつけたまえ」


「忠告ありがとうございます。覚えておきます」


「ところでアキくんは、神と会ったことがあるかい?」


背筋どころか全身が凝固した。


何気ないやり取りをザリアがしてくれていると思い少し気が緩んでいたところにこの質問だ。


ザリアが何故、神についての質問をこんな形でしたのかは分からないが、そこには明らかな意図が含まれていた。


しかもおそらく負の意味合いが強いと、そう感じた。


全てが見透かされていたのだろう。


この質問に答えようが黙秘しようが、俺が神と会ったことがあると肯定することになってしまう。


額から流れる汗は夜の風に当てられ瞬時に冷たくなり服に染み込んだ。


乾いた口の中に僅かに残る唾液を飲み込み覚悟を決める。城壁の高さは軽く50mは超えている。


両手に枷をつけた状態でここから落ちて生きて帰れる確率はほぼないだろう。


しかしここでザリアに神についてのことを話し事態が良くなるとも思えなかった。


意を決して行動に移ろうとした瞬間、俺の頭上に座っていた白くてもちもちしたあれが急に立ち上がりザリアの顔を目掛けて飛び出した。


当然そんな攻撃が当たる訳もなく、ザリアは首を少し横に傾けてあれを回避する。


その一瞬、ザリアが俺から目線を外した一瞬を俺は見逃さなかった。


落ちた後のことは落ちてる時に考えれば良い。


今は脱走が唯一の助かる手段だと自分に言い聞かせ、震える足を気合いで動かしながら城壁から外に飛び降りた。


さすがのザリアも予想外だったらしく、目を見開いているのが見えた。


ザリアの気を引いてくれた白くてもちもちしたあれも俺の飛び降りを確認してすぐに空中で進路を変えて俺の元へ戻ってきた。


そのもちもちと俺が下降を続けているところに、ザリアが何らかの魔術を放ってきた。


俺たちを抹殺しようとしているのか、情報を聞き出すため生かそうとしているのかは分からない。


どちらにせよ直撃すれば俺の飛び降りは失敗に終わる。


障壁から取り降りた時、明らかにもちもちは俺の意図を組んで動いていた。話せなくても意思疎通は可能だということがわかって良かった。


「おいもちもち。あれ何とかできるか?」


「んま!」


「よっしゃ。いっちょかませ!」


って、、、え?


今、もちもち喋ったくね?


その衝撃の事実を受け入れる前に、もちもちは小さな手のようなものを自分の体に想像し、そこから白いもちもちの塊をザリアが放った魔術に向けて発射した。


そんなことも出来るの?


やばい待って。


もちもちのあれ、とか言ってたけど実はめちゃめちゃ優秀なのか?


実は俺にもチートの最強能力を神から授かっていたのか!


そんな俺の考えは、もちもちの塊を容易く貫通し俺の元へ到達した魔術によって消滅した。


全然だめじゃん、、、


城壁から飛び降りる時、既に自分の死ぬ未来を見てはいたが、まさか更に死期が早まるなんて思ってなかった。


間近に迫っザリアの魔術が俺たちを救う類のものでは無いという事はその殺意の高そうな見た目で分かった。


ごめんな自称神のおじさん。


こっちに来たのは良いけどもう死にます。地球の救済は出来そうにないです。


でもあれですよ?あんなところに転移させたあなたも悪いですよ?


「もちもち、お前も悪かったな」


「んまんま」


そして、、、ごめんなユキ。


心の内で名前を呼んで、懐かしい響きを思い出しながら死を覚悟した。


その時、落ちる俺の前に迫るザリアの魔術が横から飛んできた何かに当たり爆散した。同時に俺の身体は地面に到達し強く叩きつけられる


、、、はずだった。


しかし何故か俺の体は柔らかくなった地面にくい込みトランポリンの様に上下に揺れた。


もちもちを離さないよう両手で抱え、上下運動を繰り返す地面が落ち着くまで耐え、視界が安定してから遥か上空を見ると、そこにはここにまで圧を伝えるほど感情を高ぶらせたザリアの姿が見えるとともに、見知らぬ女性が一人、宙に浮いていた。


ご愛読ありがとうございました!

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